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今季から阪神は、久慈照嘉内野守備コーチが「バント担当コーチ」も兼任することになりました。前回はこの阪神の狙いは何か?というテーマからスタートし、「そもそも良いバントとは何か」という観点の分析を行いました。今回は前回の分析結果をベースに、昨季の阪神のバント傾向を分析し、コーチを置く前の状況について整理していきます。

阪神はそもそも犠打が多いのか


「バント担当コーチ」を置く背景として、そもそも阪神はバントを好むチームだったのか、それともそれほど積極的ではなかったのか、最初はシンプルに、阪神の犠打の数をカウントしたいと思います。以下の表1に2019年と2020年の犠打数と1試合あたりの犠打数を示します。

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被犠打という欄は、守備中に処理した犠打数になります。前回、阪神の狙いは相手の犠打の阻止にあるかもしれないという“可能性”を指摘したので、少々語呂は悪いですが、今回は攻撃時の犠打に加えて、この守備時の被犠打も見ていくことにします。2019年と2020年は試合数が異なるので1試合あたりの本数で比べています。

この2シーズンの阪神は1試合あたりの犠打・被犠打ともに大きな変化はありません。ただし、犠打については横に添えたリーグの値と比較すると多く、特に2020年はセ・リーグで最も多かったようです。この2年の阪神は比較的犠打を好むチームといえそうです。




犠打の企図率を比較する


ただし、犠打の数が多い=犠打を好むとは言い切れない面もあります。そもそも出塁しなければ送ることもできないですし、前の打者の出塁が多く、次の打者の打力が低いと機会は必然的に多くなります。

こうした可能性も考え、次は出塁状況に対し犠打を試みた企図率を見ていきたいと思います。この企図率については、すでにアナリストの市川博久氏が2019年のデータを分析しています。今回はこのやり方を踏襲し、2020年のデータを見ていこうと思います。

まず確認するのは、野手と投手に分けた犠打の企図率です。2020年のデータを以下の表2に示します。

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状況は、アウトカウントと走者状況から犠打の多い4つを抽出しています。犠打のデータを見ると、野手では無死の状況で、リーグよりも犠打の企図率が高いことがわかります。投手では、走者が一塁にいる状況での企図率が高くなっています。被犠打では、野手の無死一塁と投手の無死二塁と無死一二塁の企図率が高いですが、投手の無死二塁は1件しかサンプルがないのでここでは参考記録と見ます。

続いて、野手を打撃成績で分類して犠打と被犠打の企図率を見ていきたいと思います。打撃成績にはwOBAを用いて、wOBAが低い打者(.310未満)、中程度の打者(.310から.350)、高い打者(.350以上)の3つのグループにわけました。2020年のデータを以下の表3-1と表3-2に示します。

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阪神は、犠打では無死一塁の状況ではwOBA低と中のグループの企図率が高く、無死一二塁ではwOBA中と高のグループの企図率が高いことがわかります。被犠打では、無死一塁と無死一二塁でwOBA低と中のグループの企図率が高くなっています。

無死一塁の状況では犠打も被犠打も同じように、wOBA低と中のグループの企図率が高いということは、阪神の試合では、阪神も相手もwOBAが.350以上の強打者でない限り送りたくなるような状況(例えば僅差の試合展開)になりやすいのかもしれません。

一方、無死一二塁で阪神のwOBA高グループの企図率が高いのは、犠打で走者を進めたいという阪神の傾向を反映しているといえます。

企図率の最後に、試合中のイニングの進行と、得点差による比較を見てみたいと思います。2020年のデータを以下の表4に示します。

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得点差はバントを試みたチームから見たものであるため、マイナスであればビハインドであることを示します。

犠打を見ると、阪神は1点のビハインドであればイニングを問わず犠打の企図率が高いという傾向を見ることができます。

一方で、被犠打については1点ビハインド、つまり阪神が1点リードしている状況での相手の犠打の企図率は、7回以降リーグと比較すると低いのが特徴です。

これまでのデータを総合すると、阪神は犠打に積極的なチームといって良いと思います。




阪神のバント結果を具体的に検証する


ここからは、前回分析した、バントしてから捕球するまでの経過時間とグラウンド上での位置情報のデータを見ていきたいと思います。ただし、状況を細かく分類していくとサンプル不足になるので、ここでは2019年と2020年のデータを合わせたうえで、状況を絞ってデータを見ていきたいと思います。

まずは、以下の表5に阪神の2019年と2020年のバントの結果を状況別に示します。

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これを見ると、大半が走者一塁からと、走者二塁からのバント(二塁・一二塁)に当てはまるため、この2つの状況におけるバントの経過時間とグラウンド上の位置と結果の比較を行いました。

まずは、以下に2019-20年阪神の走者一塁の状況におけるデータを示します。バントシフトのあり・なしで2パターンを用意しました。

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続いて、走者二塁からのバントデータを示します。

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次に、阪神の被犠打のデータも同様に見ていきます。走者一塁からのバントデータを下図に示します。

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続いて、走者二塁からのバントデータも示します。

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犠打と被犠打ともに、どちらの状況でもバントの成否を分けるのは1.80秒を超えるかどうかが大きく、1.80秒未満であればバントの失敗が増え、それ以上の秒数となると犠打となるケースがほとんどです。

さらにこのデータを経過時間ごとに表にまとめたのが表6-1、表6-2です。これで阪神のバントにどういった経過時間のものが多いのか、リーグ平均と比較して見ていきたいと思います。犠打の場合は、経過時間の短いバントが少なく、経過時間の長いバントが多いほど良いバントができていたといえます。被犠打の場合は、これが逆です。

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阪神のデータをリーグと比較すると、犠打では2020年は走者一塁の状況で、経過時間の短いバントが少なく、経過時間の長いバントが多いことがわかります。一方、走者二塁の状況では、2.30秒以上のバントが少ないのですが、その分2.10~2.30秒のバントが多く、バント失敗になりやすい経過時間の短いバントが多いわけではないことがわかります。

被犠打では、2020年の阪神はバント失敗となる確率の高い、経過時間が1.80秒未満のバントが少ないことがわかります。阪神の守備時には犠打が決まりやすい経過時間のバントが多かったようです。




まとめ


以上、阪神のバント傾向を見てきました。まず阪神はバントに対して積極的なチームであることがわかりました。

そこからさらにバントの質の側面である経過時間に着目した場合、バントが失敗する確率の高い経過時間の短いバントは特に走者一塁の状況では少なく、問題のあるデータが見られるわけではありませんでした。率直な感想をいわせてもらえれば、すでに良い結果が出ており、目立った粗がないため、ここから改善を積み上げるのは難しいのではないかと思います。積み上げの余地がないわけではありませんが、ここから大きく改善する伸びしろがあるという状態ではなさそうです。

一方で、阪神守備時の被犠打については、走者一塁、走者二塁の状況ともにアウトを取る確率が高い経過時間の短いバントが少ないという特徴があります。ここは改善点といえますが、バントで1アウト献上してくれるのであれば、無理に打球を追わないという方針であった可能性も考えられます。真意は不明ですが、2021年の阪神でこのデータがどのように変化するのか、それとも変わらないままなのかというのは、注目しても良いポイントだと思います。

というわけで、「バント担当コーチ」を置くまでの阪神の現状を整理しました。今シーズンの阪神を見ていく上での一つの視点となれば幸いです。


佐藤 文彦(Student) @Student_murmur
個人サイトにて分析・執筆活動を行うほか、DELTAが配信するメールマガジンで記事を執筆。 BABIP関連、また打球情報を用いた分析などを展開。2017年3月に[プロ野球でわかる!]はじめての統計学 を出版。

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