野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、2020年の日本プロ野球での野手の守備における貢献をポジション別に評価し表彰する
“1.02 FIELDING AWARDS 2020”を発表します。これはデータを用いて各ポジションで優れた守備を見せた選手――いうならば「データ視点の守備のベストナイン」を選出するものです。
対象二塁手に対する9人のアナリストの採点
二塁手部門は外崎修汰(西武)が受賞者となりました。しかしどのような分析を行いこうした評価に至ったかはアナリストごとに異なります。二塁手をどのように分析したか、道作氏の分析を参考として掲載します。2020年二塁手UZRはこちらから。
二塁手参考分析:道作
評価にあたって
今回の守備評価にあたっては、すべてのポジションについて過去3年間の守備成績に「今年度3」「前年2」「前々年1」の荷重をかけて順位づけした。打撃指標に比べ守備指標は数値の偏りが大きく出やすいため、より確かな結果を求めるには多くのサンプルがほしいところであり、複数のシーズンにわたって良好なスタッツを残してきた選手を現時点での名手と考えたためである。
ランキングについては表1の通りとなった。3年通算の順位と今年1年間の順位があまり変わらないシーズンとなっている。当然のことながら新旧交代時期ではこのような結果は見られない。今年は出場メンバーが固定化される方向にあって、個々の能力の格付けが安定化したシーズンに当たったと言えるのかもしれない。NO.1となったのは西武の外崎修汰。二塁手としてのフル出場はまだ2シーズン目だが、今年度の指標が非常に大きく、また前年の数字も良好なものであったため2位を少し離した1位と評価した。2位の吉川尚輝(読売)、3位の菊池涼介(広島)の並びも、2020年のUZRの並びと同じである。
二塁は近年、遊撃に比べて大きな値をマークすることが難しくなってきたポジションでもある。遊撃は身体能力の高さや送球能力の高さが守備力に直結することとなる。しかし二塁手の送球能力については差をつけられる場面は限られてくる。そこで、守備能力の要素として判断力に注目してみた。例えば、無死または1死で走者ありの場合、刺した塁により同じアウトでも価値は大きく異なってくる。併殺を考慮しないとしても、無死一塁であれば誰しもまずは二封を望むし、三塁走者があれば本塁で刺したいはずである。できるだけ先の塁でアウトを奪いたいのは人情でもあるし、うまくいけば得点期待値上のビッグプレーともなる。そうしたプレーを重ねる上で、判断力は少なからず影響しているはずである。
表2-1 二塁手がアウトを奪った際の塁状況別の得点期待値変化(無死)
プレー |
一塁 |
一二塁 |
一三塁 |
二塁 |
二三塁 |
三塁 |
満塁 |
一塁アウト |
0.142 |
−0.089 |
−0.269 |
0.214 |
−0.040 |
0.294 |
−0.340 |
一塁アウト(三塁くぎ付け) |
|
|
0.380 |
|
0.400 |
0.410 |
|
二塁アウト |
0.315 |
0.356 |
0.442 |
|
|
|
0.105 |
三塁アウト |
|
0.532 |
|
0.696 |
0.462 |
|
0.281 |
本塁アウト |
|
|
1.001 |
|
0.845 |
0.892 |
0.578 |
二塁一塁併殺 |
0.711 |
1.116 |
0.838 |
|
|
|
0.865 |
本封一塁併殺 |
|
|
|
|
|
|
1.533 |
野選など出塁 |
-0.658 |
-0.749 |
-0.531 |
-0.746 |
-0.980 |
-0.423 |
1.000 |
表2-2 二塁手がアウトを奪った際の塁状況別の得点期待値変化(1死)
プレー |
一塁 |
一二塁 |
一三塁 |
二塁 |
二三塁 |
三塁 |
満塁 |
一塁アウト |
0.201 |
0.252 |
−0.182 |
0.316 |
0.263 |
−0.122 |
−0.045 |
一塁アウト(三塁くぎ付け) |
|
|
0.428 |
|
0.873 |
0.761 |
|
二塁アウト |
0.279 |
0.407 |
−0.104 |
|
|
|
0.110 |
三塁アウト |
|
0.536 |
|
0.452 |
0.341 |
|
0.239 |
本塁アウト |
|
|
0.712 |
|
1.028 |
0.625 |
0.819 |
二塁一塁併殺 |
0.498 |
0.939 |
1.115 |
|
|
|
1.642 |
本封一塁併殺 |
|
|
|
|
|
|
1.642 |
野選など出塁 |
−0.441 |
−0.703 |
−0.824 |
−0.444 |
−0.555 |
−0.518 |
1.000 |
ただし、遠くの塁に刺そうとする傾向の強い攻撃的な二塁手は野選や悪送球の危機にも多く直面する。また、失敗時には非常に大きな痛手を被ることになる。価値の大きなアウトを狙うのならば相手にも大きな利得のチャンスがあることは覚悟しなくてはならず、トレードオフの関係にならざるを得ない。他に、直前まで良い選択だったはずのプレーが、ひとつ状況が進んだだけで悪い選択になることもある。無死一三塁からの二封0.442→1死一三塁からの二封−0.104などである。
こうした数字を見ていると、二塁手が常に難しい選択に迫られていることが想像させられ、興味深い。攻撃側の視点で見ても、本塁での走塁死というものは例外なく守備側にビッグプレーを食らっているということが理解できる。自軍選手が本塁に突入している場面は、一見して得点の大チャンスとだけ見えるかもしれないが、ゲーム的な視点からは大きな期待値を失うピンチでもある。
対象二塁手の守備についての検討
判断力の高さがうかがえた山田哲人の二塁守備
今回は走者ありで二塁手が最初に補球したゴロについて、プレー開始前の状況と終了後の状況の得点期待値の増減について検討してみた。対象は無死または1死で、走者が一塁・一二塁・一三塁・三塁・二三塁・満塁の状況である。失敗をせずにより価値の大きなアウトを取り続けた場合に良好な成績となる。無死二三塁などは発生頻度が極端に少なく、8人の二塁手のうち半数がこのシチュエーションで二塁ゴロに立ち会っていないことや、走者二塁からの二塁ゴロなど全員が全打球で同じ選択(一塁送球)をしていたことなど、新たな発見もあった。なお、守備範囲いっぱいの打球に追いつき、一塁でギリギリのアウトを奪った好プレーなどはこの評価ではプラスに働かないこととなるが、そちらはUZRのゾーン系項目で既に評価が与えられているため補正等は行っていない。
なお、この表においては標準的な結果がゼロで、プラスの数字は平均的な二塁手より多く相手の得点期待値を削っている。逆にマイナスの数値は標準的な二塁手に届かなかった数値となる。
表3 走者を置いた際の二塁守備での得点期待値変化(2020年)
順位 |
二塁手 |
球団 |
一塁 |
一二塁 |
一三塁 |
二三塁 |
三塁 |
満塁 |
合計 |
1 |
山田 哲人 |
S |
1.572 |
0.027 |
−1.014 |
−0.248 |
−0.344 |
1.331 |
3.297 |
2 |
中村 奨吾 |
M |
0.211 |
0.132 |
1.596 |
0.410 |
0.807 |
−0.026 |
3.131 |
3 |
吉川 尚輝 |
G |
0.589 |
0.661 |
0.077 |
0.136 |
−0.011 |
1.050 |
2.503 |
4 |
菊池 涼介 |
C |
1.988 |
−1.098 |
-0.200 |
0.665 |
−0.505 |
0.848 |
1.699 |
5 |
外崎 修汰 |
L |
1.076 |
0.874 |
−2.139 |
−0.511 |
0.606 |
0.949 |
0.855 |
6 |
阿部 寿樹 |
D |
−0.091 |
−0.884 |
0.800 |
−0.889 |
−0.687 |
2.504 |
0.752 |
7 |
浅村 栄斗 |
E |
0.050 |
−1.482 |
-0.481 |
0.694 |
−0.253 |
−1.182 |
−2.653 |
8 |
渡邉 諒 |
F |
−0.228 |
0.118 |
−0.219 |
−0.440 |
0.630 |
−4.521 |
−4.661 |
結果、500イニング以上に出場した二塁手8人中6人は3.297から0.752までの狭いレンジに集中している。これは当該の状況に立ち会う頻度など環境依存の要素が強い指標であるため誤差は免れないものの、日常的に出場している二塁手は全体的に一定以上の的確な判断を下せていた可能性が高いと言えるだろう。この視点で最も大きな期待値を相手から奪ったのはヤクルトの山田哲人であった。山田は走者一塁の状況で誰よりも多く二塁でアウトを獲得したほか、表4にもある通り最も多くのリスクを取りながら野選等の破綻を回避したことが良い結果へとつながった。守備範囲を示すレンジ評価はわずかにマイナスを記録したが、山田の守備の特性は、判断力の高さに求められるのかもしれない。
続いて良好な数値を示したのがロッテの中村奨吾と読売の吉川尚輝である。中村は満塁以外のすべての状況で、吉川は三塁以外のすべての状況でプラスの数値を記録。判断と送球により安定的に相手の期待値を削ったという意味で、この両者は山田以上の結果を残したと言えるだろう。
中村・吉川と菊池については当該指標がプラスであるほか、UZRのレンジ部門もプラスを計上している。並の選手では処理しきれない打球を処理したプレーが相応に含まれているはずで、無理な体勢からのプレーも比例して増えているはずだが、それでもなお可能な限り先の塁で刺していたことを示している。例えば菊池など、無失策記録でその守備力は極めて高い世評を得ているところだが、失策記録と総合評価は背反するケースがままある。レンジ評価ではトップレベルとはならなかった菊池だが、この評価では経験値の高さを見せたようである。
リスクをとり、先の塁に投げてアウトにしようとしていた選手を探る
規定守備イニングに達した8人は山田から中村まで先の塁に投げる確率が1割ほどの差がある。打球の散らばり方もあるので、このサンプル数で額面通りに受け取ることはできないが、それぞれの選手が残したリスクテイクの割合が、シーズンのスパンを超えて継続されるような場合は当該二塁手の志向として認めることができるだろう。
表4 無死・1死で一塁に走者を置いたとき、一塁以外への送球(リスクテイク)率(2020年)
順位 |
選手 |
球団 |
イニング |
当該局面での二塁ゴロ数 |
一塁へ |
一塁以外の塁へ |
リスクテイク率 |
1000イニングあたり遭遇数 |
野選または失策 |
1 |
山田 哲人 |
S |
725 |
50 |
11 |
39 |
0.780 |
69.0 |
0 |
2 |
浅村 栄斗 |
E |
753 1/3 |
27 |
6 |
21 |
0.778 |
35.8 |
1 |
3 |
阿部 寿樹 |
D |
962 |
46 |
11 |
35 |
0.761 |
47.8 |
3 |
3 |
吉川尚輝 |
G |
747 |
46 |
11 |
35 |
0.761 |
61.6 |
0 |
5 |
渡邉 諒 |
F |
952 1/3 |
50 |
13 |
37 |
0.740 |
52.5 |
1 |
6 |
外崎 修汰 |
L |
913 |
48 |
13 |
35 |
0.729 |
52.6 |
3 |
7 |
菊池 涼介 |
C |
873 |
54 |
15 |
39 |
0.722 |
61.9 |
1 |
8 |
中村 奨吾 |
M |
1036 |
57 |
18 |
39 |
0.684 |
55.0 |
1 |
- |
全体 |
- |
12682 |
713 |
183 |
530 |
0.743 |
56.2 |
27 |
なお、規定に達した8人の合計とそれ以外のすべての二塁手の合計でリスクテイク(一塁以外への送球)の割合は変わらない。でありながら、この8人のイニングあたり野選・失策はそれ以外の二塁手の半分に留まっている。今のところ生存競争は正しく作用しているように見える。
少々奇妙なスタッツを残したのが楽天の浅村栄斗である。対象の状況で補球したゴロの総数が、他の規定守備イニング到達者が全員40~50台のところ、1人だけ27に留まっている。捕球の実数もイニングあたりも最も多い選手の半分程度といったところである。
楽天のWHIP(Walks plus Hits per Inning Pitched)を見ても走者は普通に出している。浅村個人のUZRを見てもほぼ標準と変わらず、打球に触れる頻度が特定の条件下でそこまで下がる理由は見当たらない。他に、1死一塁から許した内野安打がNPB全体で4本しか記録されていないのにもかかわらず、浅村の守備時に3本も記録されているのも解せない。確かにサンプル数が小さいことから数字の偏りの可能性もあるが、前述の少なすぎる接機数と合わせて考えるとき、浅村個人としてではなく楽天がチーム全体の守備の問題として取り組むべき課題があるようだ。
また楽天の守備時、一塁か一二塁に走者を置いて二塁ベースより右へのゴロが発生した時、安打になる確率は0.315であった。楽天以外のチームは同じ状況の時、これを0.229にとどめており、その差は8分6厘の大差となっている。フェア打球について、確かに打球の散らばりを投手がコントロールすることはできないし、安打になるか否かは運の影響を免れ得ない。
しかしこの状況で楽天は他球団よりもはるかに大きな、埋め合わせることがかなり困難な被害を被っている。何か新しいシステムを試行している途中経過なのか、内情は現時点では不明である。しかし、最終的にこの状況を解消できなければ優勝を争うことは難しいものと考える。楽天は他にも相手方の右方向への全ゴロ打球中25.4%が犠打であり、楽天以外の球団守備時の18.7%に比べて明らかに毛色の違う傾向を示すなど、面白いスタッツを残している。これは単に偶然かもしれないが、もしかすると相手方を犠打へ誘導するような試みをどこかでしているかもしれず、球団としてはまだ若いこともあって斬新な手法を試行していても不思議はない。
二塁守備の進化が、セオリーを無効化させた可能性
最後に、無死または1死で一塁または一二塁に走者をおいた場合の、二塁手がゴロを処理した際の結果をまとめたのが表5である。
表5 「無死/1死」「走者一塁/一二塁」時に二塁ゴロを処理した際の進塁率(2020)
走者 |
併殺率 |
一封率 |
二封率 |
進塁率 (内野安打・野選・失策含む) |
一塁 |
46.3% |
23.2% |
24.9% |
28.6% |
一二塁 |
56.5% |
10.7% |
27.5% |
16.0% |
ここでの進塁は、「塁上の走者が全て先の塁に進んだケース」として集計した。走者の後ろへのゴロを狙うプランは、昔よく推奨されていたように思うが、フォースアウトが可能な局面ではかなり悲惨な結果をもたらしているようだ。特に一二塁のケースでは二塁手が打球を捕球した場合、内野安打・野選・失策及び進塁打の合計が16%に留まる。これに対して併殺率は56%にも及んでいる。
過去に言われた言説が錯覚を含むものである可能性は否定できないが、過去のセオリーの有効性を覆すほど二塁手の能力が向上したと見なすこともできる。参加者の能力向上により、以前は有効だったセオリーの有効性が失われることは、スポーツの世界においてそう珍しいことではない。
2020年受賞者一覧
過去のFIELDING AWARDS二塁手分析はこちら
2019年(阿部寿樹)
https://1point02.jp/op/gnav/column/bs/column.aspx?cid=53585
2018年(菊池涼介)
https://1point02.jp/op/gnav/column/bs/column.aspx?cid=53466
2017年(菊池涼介)
https://1point02.jp/op/gnav/column/bs/column.aspx?cid=53337
2016年(菊池涼介)
https://1point02.jp/op/gnav/sp201701/sp1701_07.html