• 1.02 Column



さまざまな分析方法が開発され、最新の機材が導入された今日であっても、捕手のリードは検証の難しいテーマの代表です。今回は捕手がどのコースに構えたかのデータを使い、構えどおり投げることにどれほどの価値があるかを探っていきたいと思います。

捕手がどこに構えたかからリードに迫る


元ロッテで解説者の里崎智也氏は「捕手のリードの善し悪しは結果論でしかない」という旨の発言を繰り返し、話題を呼びました。結果論に惑わされないためには、1球の善し悪しではなく、多くのデータを集めてその結果を分析すべきです。そこで本稿では、2016年と2017年の2年分のNPBでの投球データを元に、マクロの視点から分析を行っていきます。

また、リードの評価が難しいもう1つの理由に、正確なリードの内容はバッテリーのサイン交換の中にあり、外からはそれを見ることができないため実体に近づけないというものがあります。これは測定できるものではないので、本稿では代替情報として捕手がどこに構えたかのデータを使います。例として、以下の図1にストレートを投球したときの捕手の構えの図を示します。


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この図は投手の側から見た図となっており、プロットが赤くなっている位置が、捕手が構えることが多いコースであることを示しています。この構えがそのまま捕手のリードであるというわけではありませんが、捕手の意思表示であることに違いはなく、本稿ではこの捕手の構えと投球結果の関係を見ていきたいと思います。


捕手の構えに悪手はあるか?


しかし改めて考えるに、捕手の構えに悪手は存在するのでしょうか?仮にそのようなコースがあったとしても、100年を超える野球の歴史と、選手個人がプロになる競争を勝ち上がる過程で、淘汰されてしまっている可能性は考えられないでしょうか。

この可能性を検証するために、図1で示した捕手の構えから、安打になったケースを抜き出したデータを以下の図2に示します。仮に悪手となる構えがあるのであれば、安打になりやすいポイントが確認できるはずです。


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それぞれ低め、ストライクゾーンの両端周辺で安打になっていることが多くなっていますが、これはここに構えた場合安打を浴びやすいのではなく、単純にこれらのコースに構えることが多いからです。図からは安打が頻発する場所は確認できません。これはストレートのデータですが、他の球種でも結果は同じような形で、安打となった構えは特に偏ることなく分布していました。この結果は、一般的には被安打のリスクが高くなるような構えは存在しないことを示しています。


捕手の構えからのズレは被安打リスクを高めるか


被安打リスクの高い構えが特に確認できないことはわかりました。では、どのような時にリスクが高まるのでしょうか。1つの可能性としては、捕手の要求に応えられない時、つまり投球が捕手の構えから外れてしまった場合が考えられます。

図1と図2は160×200の座標に記録された捕手の構えデータです。この座標を使って、捕手の構えと投球プロットのずれを計算することができます。このずれの距離と被安打リスクとの関係を求めてみたいと思います。

捕手の構えと投球プロットのずれは、以下の図3に示す「D」という単位で表しています。


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投球コースを5×5で25分割し、その1つ分の領域の対角線の長さを「2D」と定めました。そして、捕手の構えと投球プロットのずれが1D大きくなることで、被安打リスクがどのように変化するかを分析しました。結果を以下の表1に示します。


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表中のオッズ比は、捕手の構えと投球プロットのずれが1D大きくなることによる被安打リスクの変化を表します。例えば、表1の対左打者のストレートの場合オッズ比は0.95なので、投球プロットのずれが1D大きくなると被安打リスクは0.95倍になるということを意味します。 他の球種のオッズ比も1.00未満なので、この結果は捕手の構えから投球プロットのずれが大きくなるほど被安打リスクは低くなるということを示しています。

しかし、これは捕手の構えを避けて遠くに投げれば良いということを示しているわけではありません。捕手の構えから大きく離れるほど打者が振るはずのないボール球となってしまい、必然的に被安打リスクも下がるためです。


捕手の構えどおりに投げることの価値


それでは今度は、捕手の構え付近に投球した場合の被安打リスクを考えてみたいと思います。先ほどの図3で示したように、捕手の構えから半径1D内に投球した場合と、この範囲外への投球でデータを分類しました。この2つの分類で被安打リスクを比較したのが表2になります。


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こちらは、球種によって異なる結果となっています。左右投手共にストレートのオッズ比は1.00未満、つまりストレートを捕手の構え付近へ投げた場合は、範囲外と比較すると被安打リスクが低くなることを示しています。

一方、他の球種、特にチェンジアップとフォークの場合、オッズ比が2.00近くあり、捕手の構え付近へ投げた場合は、被安打リスクが高くなることを示しています。このチェンジアップとフォークの分析結果は、チェンジアップとフォークの構えを確認すると納得のいく結果かと思います。データを以下の図4、図5に示します。


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構えとして採用される場所の多くが、ストライクゾーン低めであることが確認できると思います。これはこのコースへ投げることを要求しているというよりは、このコースを目安にし、ストライクゾーンの下辺周辺、ボールになるような球を要求していると考えるのが自然かと思います。つまり、チェンジアップやフォークの場合、捕手の構え付近へのボールは、十分にボールが変化しなかったか、あるいはやや甘めに入ったケースが多く、そのため被安打リスクが高まったと考えられます。


まとめ


捕手の構えに明確に悪手といえる場所はなく、ストレートなど球種によっては捕手の構え付近へ投球することができれば、被安打リスクを低下させることができることがわかりました。

以上の分析結果は、あくまで多くの投球から導いた一般的な傾向です。例えば、特定の状況、走者がいる場合や打者のタイプによっては被安打リスクの高い「構えの悪手」が出てくる可能性はあります。そうした特殊な状況での傾向を理解するためにも、本稿の一般的な傾向の情報が役に立つことになると思います。


Student @Student_murmur
個人サイトにて分析・執筆活動を行うほか、DELTAが配信するメールマガジンで記事を執筆。 BABIP関連、また打球情報を用いた分析などを展開。2017年3月に[プロ野球でわかる!]はじめての統計学 を出版。


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