• 1.02 Column


野球中継で「立ち上がりはどんな投手でも苦手なものだ」という解説を聞いたことがあるのではないだろうか。これは、初回は投手がまだ試合に慣れていないがゆえに、本来の能力を発揮できないというニュアンスで使われることが多いように感じる。しかし初回は必ず1番から始まる好打順だ。上位打線の良い打者と対戦する機会が多いがために、打ち込まれているに過ぎないという可能性もある。今回は対戦する打者のレベルを考慮し補正をかけた場合、本当に立ち上がりに打たれやすい傾向があるのかを調べた。


初回はやはり最も打たれているイニング


まず基本的な情報として、本当に初回に投手が打ち込まれているかをNPB全体のデータで確認しておきたい。表1はイニング別の平均wOBA(weighted On Base Average)である。wOBAとはOPS(出塁率+長打率)と同じような1打席あたりの得点への貢献度を示す総合打撃指標だ。四球、単打、二塁打などの打席結果ごとの得点価値に応じた重みづけを行っているため、OPSより適切に打者の得点への影響力を測ることができる。


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これを見ると、2015年から2018年までいずれの年度でも、初回のwOBAは他のイニングに比べて明らかに高い。全イニングの平均と比べてもその差は顕著で、やはり初回はよく打たれる傾向があるようだ。

他方で2回はどの年度でも値が低くなっており、初回とは対照的である。仮に投手の立ち上がりは打たれやすい傾向があるのであれば、序盤である2回もそれなりに値が高くなっていてもおかしくないように思うが、そのような傾向は見られない。

なお、今回の検証の本筋からは外れるが、9回のwOBAが他のイニングと比較して極めて低いことについてもここで述べておきたい。このような結果が生じた要因は、大概の場合チームで最も、あるいはその次に優秀な救援投手である抑え投手が9回に登板しているためだと考えられる。ただし、このように考えても、同じように優秀な救援投手が投げると思われる8回と比べても明らかにwOBAが低いのは不自然なように感じる。

こうした不自然さは野球のルール構造による部分が大きい。たいていのチームはビハインドの場面で相対的に劣る投手を投げさせる。ただ9回は勝っている後攻チームの攻撃がない。つまり、負けているチームの劣った投手が登板する機会がなくなる。9回のwOBAがあからさまに低くなっているのは、おおよそこのような構造が原因になっていると考えられる。


初回は上位打線との対戦が多い


話を本筋に戻そう。ここからは打順の問題も考えていく。初回は必ず1番から打順が始まるため、優秀な打者と対戦することが多い。さきほど初回のwOBAが高く、2回が低かったのは打順の巡りも関係していると思われる。では実際にイニング別にどの打順の打者が打席に入ることが多いか、その割合を調べたものが表2だ。


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赤くなっているほど多く打順が回っていると考えてもらえればよい。初回は1番から3番が約7割の打席を占めている一方、6番以降にはほとんど回っていない。これに対して、2回は5番から8番までの打席が多い一方、1番から3番にはほとんど回ってきていない。

こうした事実を見ると、初回にwOBAが高く、2回に低くなっているのはやはり対戦する打者の能力が大きく関わっているように思われる。

また、値はイニングを追うごとに11.1%前後(9分の1)に収束していく。6回まではわずかながら打順に偏りが見られるが、それ以降はそうしたものも見られない。試合終盤になってくると、どの打順に打席がまわるかはほぼランダムといっていいだろう。


対戦する打者の能力を考慮すると、むしろ初回は打たれていない


もし立ち上がりに打たれやすいという説が正しいのであれば、初回に打席に立つ打者は本来の能力以上に良い成績を残しているはずである。これを検証するために、まず各イニングで打席に立った打者が本来もっている能力・レベルの平均を調べてみたい。

打者レベル平均は、まずイニング別にどの打者が何打席立っているかを算出し、それぞれの打者のシーズンwOBAを打席数に基づいて加重平均することで求めた。例えば3回に.350の打者が200打席、.300の打者が300打席に立っていたとするなら、

(.350×200+.300×300)/500=.320

で、3回の打者レベル平均wOBAは.320になる、といった具合だ。これをまとめたものが表3である。


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この表3の値で実際のイニング別wOBA(表1)を割ったものが表4である。値が100%より大きければ打者のレベルから想定される以上に、打者が多く打っている、つまり投手が苦しんでいると考えられる。


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これを見ると、年度ごとに多少の差はあるものの、初回から2回までは、100%を切っていることが多い。対戦する打者のレベルを考慮すると、むしろ立ち上がりは打たれにくいようである。立ち上がりは誰しも不安で安定しないというのは、少なくとも全体的な傾向を見る限りは誤りだといえる。

これに対して、3回から5回は対戦する打者のレベルからすると打たれやすい傾向があるようだ。一般的に投手の疲労が気にされ、交代が考慮されるのは試合中盤以降だが、それよりも早い段階、打者との対戦が2回り目に入る頃には、すでに打たれやすい傾向が出始めている。

6回以降は疲労の恐れがない救援投手が登板していることが多いため、あるいは6回以降も投げられる能力の高い先発が投げている割合が増えるために、再び打たれにくい傾向となっている。この傾向は特に9回で顕著である。9回のwOBAは打者の能力からすると1割近く低い値だ。


具体的な投球データからも傾向を分析


初回は打たれにくい傾向があるというのは、少々意外な感があった。ではなぜこのような傾向が生まれるのか、より具体的な投球データから調べてみたい。

イニングを追うごとに投手の疲労から平均球速が低下する傾向があることはよく知られている。これが試合中盤に打たれやすくなる要因になっていると推測し、イニングごとのストレートの平均球速(計測できなかったものを除く)を比較してみた(表5)。


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どの年度でも平均球速は試合序盤から中盤にかけて低下し、6回あたりからは平均球速が反対に上昇を見せている。この傾向はさきほどのイニング別の打たれやすさ(表4)と対応しているようだ。先発投手の疲労に伴う球速の低下が上記のような傾向の一因になっている可能性は高い。

また、立ち上がりは投球のコントロールが難しいということもよく聞くところである。ここではイニングごとに逆球となる投球の割合を調べてみた。逆球とはストライクゾーンを水平方向に3分割し、ストライクゾーンのインコースまたはそれよりも内側のボールゾーンに捕手が構えた際、実際の投球がストライクゾーンのアウトコースまたはそれよりも外側になされた場合、またはその逆の場合を逆球とした。


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この結果(表6)からも初回に特に逆球が多くなる傾向は見られない。コントロールに苦しみ逆球が増えているために立ち上がりの成績が悪化するという傾向は、マクロな視点からはないといえる。


オープナーの有効性についての示唆


近年、従来の救援投手を先発させ、早い段階で降板し、元々は先発であった投手に継投する「オープナー」と呼ばれる起用法が増えている。ここでの検証結果は、オープナー戦術の有効性についても示唆を与える。

オープナーの有効性を支える根拠としては、いわゆる周回効果(打者との対戦が1回り目よりも2回り目、2回り目より3回り目と増えるごとに、打たれやすくなる効果)が挙げられる。この周回効果が生じる要因の1つは、投手の疲労による球速をはじめとするボールの質の低下(表5)で説明ができると思われる。

裏を返せば、先発投手が力の配分を変えることで、イニングの経過に伴うボールの質の低下を抑えることができれば、こうした周回効果を小さくすることも可能になると思われる。もっとも、それは試合の中で最も強力な打者と対戦することになる初回で打ち込まれるリスクを上昇させる行為であるので、結果として力の配分を変えることが有効な手段といえるかは明らかではない。

また、オープナーを起用することで、最も強力な上位打線に疲労の考慮が必要ない優秀な救援投手を当てることができるというメリットもある。表2でわかったように、試合の終盤は対戦する打順に偏りが見られない。


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1イニング1投手で勝ちパターンを構成する従来の起用法では、優秀な救援を登板させたが、劣った救援でも十分抑えられる下位打線に当たってしまうケースもそれなりの確率で起こってしまう。最も強力な打者に優秀な投手を確実に当てられることも、オープナーのメリットといえるだろう。ただし接戦で優秀な投手をつぎこむというメリットを捨てることになることも同時に考慮する必要はある。


参考文献
Tom Tango,Mitchel Lichtman&Andrew Dolphin.(2006).The Book: Playing The Percentages In Baseball:TMA Press

市川 博久(いちかわ・ひろひさ)/弁護士 @89yodan
学生時代、知人が書いていた野球の戦術に関する学術論文を読み、分析に興味を持つ。 その後『マネー・ボール』やDELTAアナリストらが執筆したリポートを参考に自らも様々な考察を開始。『デルタ・ベースボール・リポート2』にも寄稿。

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