• 1.02 Column

Part1での分析で、ピッチトンネルをつくることができた投球は空振りを多く奪い、失点を減らしていることがわかった。こうして見るとやはりピッチトンネルは失点への影響力があるように見える。しかしPart2ではそこからさらに一段階踏み込んだ検証を行いたい。

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本分析で登場するピッチトンネルの用語については、上記図をもとにPart1 で解説を行っている。


Part1でのピッチトンネル評価手法は妥当か?


Part1でのピッチトンネルの評価では2点間の差異、つまり座標間の距離を使用し分析を行った。この手法は距離というシンプルな単位で表せるメリットを持つ一方、投球コース等の情報が失われるデメリットも併せ持つ。

例えば、これまでの結果からトンネル差異が小さい投球はスイングされやすいことがわかっている。しかしトンネル差異が同じであっても、2球連続でストライクゾーンの中心に投げた場合と、2球連続でストライクゾーンを大きく外れる球を投げた場合で同じ結果を得られるだろうか。単純なピッチトンネルの観点では両者を同じグループとして扱うが、直感的には同じ結果を想像しにくい。この疑問について深掘りするため、ここからはピッチトンネル評価に投球コースの情報を追加する。

まずは前提知識として、投球コース別のSwing%およびWhiff%を確認する(図1-1、1-2)。

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ストライクゾーンの枠内でスイングされやすく(図1-1)、枠外で空振りしやすい(図1-2)様子がわかる。インコースはバットに当たりやすいため、図1-2については完全に左右対称でない点に注意が必要だが、基本的にストライクゾーンから遠いほどバットに当たりにくい。驚きの少ない結果だがこの確認は重要な作業である。

この前提を踏まえたうえで、トンネル差異別の投球コース分布を確認する(図2-1)。各グループの投球は、おおむね対応した色の曲線内に収まっていると考えてもらえればよい。

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図2-1を見ると、トンネル差異が小さい赤や黄色の投球はストライクゾーン周辺に、緑や青で示した直前の投球軌道から外れる投球はストライクゾーンから外れやすいことがわかる。さきほどの図1-1で確認したストライクゾーンの投球をスイングされやすい事実とあわせると、トンネル差異が小さい投球はスイングされやすい投球コースに集まっていると考えられる。

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図2-2ではプレート差異別の投球コースを見ていこう。トンネル差異と同じように、赤や黄色の枠線が示すプレート差異が小さい投球ほど、ストライクゾーン周辺に集まっている。一方、直前投球におけるプレート上の位置から大きく離れた緑や青の投球は、そもそもストライクゾーンの枠から外れやすいようだ。先ほど図1-2で確認したストライクゾーンから外れる投球で空振りが生まれやすいという傾向とあわせて考えると、プレート差異が大きい投球はバットに当てにくいコースに集まっているようだ。

1.トンネル差異が小さい投球はスイングされやすいが、そもそもスイングされやすい投球コースに集まっている
2.プレート差異が大きい投球はバットに当てにくいが、そもそもバットに当てにくい投球コースに集まっている

つまりPart1において紹介したピッチトンネルの評価手法は、ピッチトンネル自体の効果を抽出できておらず、投球コースの影響を含んでいる可能性がある。より正確にピッチトンネルの効果を確認するためには、投球コースの影響も考慮する必要がありそうだ。


ピッチトンネルに投球コースの情報を追加する


もしピッチトンネルそれ自体に投球コースより大きな効果があるのであれば、Swing%やWhiff%は、投球コースよりもトンネル差異やプレート差異と強く連動するはずである。投球コースとピッチトンネルの影響度合いを確認するため、「ストライクゾーン中心からの距離」と、「トンネル差異およびプレート差異」を使ってスイング系の指標を比較した。図1-1、1-2でスイング傾向が大まかにゾーン中心からの距離と連動していたことから、「ゾーン中心からの距離」を投球コースの影響を測る指標として採用している。距離が長くなるほどボールゾーンに向かっていくと考えてもらえればよい。

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図3-1はゾーン中心からの距離とトンネル差異でSwing%がどう変わるかを示している。これを見ると、ゾーン中心からの距離を示す縦軸でグラデーションが生まれており、ゾーンの中心に近いほどスイングされやすい傾向が判る。一方、トンネル差異を示す横軸では大きな変化は生まれていない。若干ながらトンネル差異が小さいほどスイングされやすい傾向を確認できるが、ゾーン中心からの距離に比べるとかなり影響は小さい。

同様に、直前投球のゾーン中心からの距離とトンネル差異についてSwing%を確認する(図3-2)。縦軸が下に向かうほど、直前の投球でゾーン中心に投げられたと捉えてほしい。

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直前にストライクゾーン中心付近へ投じた場合、トンネル差異が小さい=その軌道に近い投球がスイングされている。一方、直前にストライクゾーンの枠外へ投じた場合、近い軌道の投球はスイングされず、少し離れた軌道の投球がスイングされている。この結果から、打者が直前の投球軌道を参考にストライクゾーンを認識している可能性がうかがえる。

また一般的に、ストライクゾーンから極端に外れる投球は多くない。大部分はストライクゾーン周辺への投球である。これを踏まえると、トンネル差異が小さい=直前の投球軌道に重なる投球は、ストライクゾーン周辺の投球軌道に重なりやすいはずだ。トンネル差異とSwing%の連動については、このような背景も考えられる。

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図3-3はゾーン中心からの距離を縦軸に、プレート差異を横軸におきWhiff%を比較したものだ。こちらも縦軸でグラデーションが生まれている。横軸が示すプレート差異には大きな影響がなく、空振りと強く連動しているのはゾーン中心からの距離である。


ゾーン中心からの距離別に見たスイング傾向の変化


ここまではゾーン中心からの距離とトンネル差異・プレート差異の関係を別々に見てきた。ここからはゾーン中心からの距離別に、トンネル差異・プレート差異の組み合わせでスイング傾向がどのように変わるかを確認する。比較するゾーン中心からの距離は、以下表1の3パターンを対象とする。

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それぞれ、ストライクゾーン枠内の投球(コース1)、ストライクゾーン枠周辺の投球(コース2)、ほぼストライクゾーン枠外の投球(コース3)と捉えて問題ない。


・Swing%(スイング/投球数)
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図4-1~4-3を見ると、ゾーン中心からの距離が離れていくほどグラフは青が多くなっている。当然ではあるが、ゾーンの中心に近い投球ほどスイングされやすい。ゾーン中心からの距離が同程度ならトンネル差異が小さいほどSwing%は高いが、投球コースの影響を覆すほどの差は生まれていない。打者のスイング判断においてトンネリングの効果は限定的と言えそうだ。

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ただし、ストライクゾーン内外で傾向は若干異なる。ストライクゾーン内よりも、ストライクゾーン外の方がトンネル差異とSwing%の連動幅が大きい。


・Whiff%(空振り/スイング)
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スイングしたバットにボールが当たるか否かについても、投球コースの影響が非常に大きい。ゾーンの中心から遠くなるほど空振りしやすく、図1-2で示した傾向を再確認する結果となった。もちろん球速や変化量によって若干傾向は異なるものの、リーグ全体の傾向としてWhiff%は投球コースの影響が非常に大きく、明確なピッチトンネルの効果は観測できなかった。

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・SwStr% (空振り/投球数)
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表4を見ると、ストライクゾーン内の投球では、トンネル差異やプレート差異にかかわらず11%前後の空振り割合を記録している。ゾーン内の投球はSwing%で差が出にくくWhiff%も低い傾向が影響している。一方、ストライクゾーン枠外の投球はトンネル差異、プレート差異によってSwStr%が異なる値を記録している。トンネル差異でSwing%に差が出やすく、枠外であるためWhiff%が高い傾向によるものだ。ストライクゾーン枠周辺(20-40cm)から枠外(40-60cm)にかけては、投球コースを区別しない場合と近い結果が表れた。

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・RUN Value/100 (100球あたりの得点価値)
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最終的な得失点へのインパクトを測るRun Value/100は投球コースによって異なる傾向を見せている。このRun Valueは青くなるほど値が低い=失点につながりにくい=良い投球と考えてほしい。ゾーン枠内への投球(図7-1)の場合、トンネル差異によって一貫した傾向は見られない。つまりピッチトンネルの影響をほとんど確認できない。基本的に投手優位のマイナス値を記録しており、ストライクゾーンへ投球する重要性が示されている。ただし、プレート差異が小さい=直前の投球がゾーン枠内付近だった場合はニュートラルな結果となっている。ストライクを増やす事は重要だが、ストライクゾーンへの連投は必ずしも投手優位とは限らないようだ。

ストライクゾーン枠周辺への投球(図7-2)においても、ピッチトンネルによる傾向はほとんど見られなかった。ほぼすべての領域でRun Valueがマイナス値かつ、マイナス幅はゾーン枠内への投球よりも大きい。ストライクゾーン枠周辺は非常に投手優位の投球コースであるようだ。中でもプレート差異が0-25cmの投球はRun Valueがやや低いことには注目だ。明確なストライクゾーン枠内と異なり、際どいコースへ連続で投球しても投手優位は変わらないことを示している。

ストライクゾーン枠外への投球(図7-3)は、ほぼすべての領域でRun Valueがプラスで、非常に打者優位の投球コースである。ただし、トンネル差異が小さいほどプラス幅が小さく、極端な投手不利でなくなっている。ストライクゾーン付近の投球と異なりピッチトンネルで差がつきやすい投球コースであるようだ。ボールゾーンではトンネル差異とSwing%の連動が大きいことから、トンネリングされた投球は比較的ボールカウントが増えにくく、空振りも発生しやすい。ボールゾーンへの投球を利用する場合、カウント等の条件次第でトンネリングが一定の効果を発揮する可能性がある。

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投球コースの影響を除いた場合のピッチトンネルの効果は……


上記の結果を踏まえると、スイング傾向やRun Valueについてはピッチトンネルよりも投球コースの影響が大きい。つまり、これまで確認してきたピッチトンネルによるスイングへの影響は、投球コース(と連動する指標)の影響によるものである可能性が高いということだ。

あらためてここまででピッチトンネルについて言えることをまとめると、

1.投球軌道の差異は投球コースと連動しやすく、ピッチトンネルの見かけ上の効果は投球コースの影響を含んでいる。
2.投球コースの影響を除いた場合、ピッチトンネルの効果は限定的である。


ただし、今回の分析は球種や球速、変化量といった要素を考慮していない。あくまでリーグ全体の投球を平均化した傾向に過ぎない点に留意したい。

また、投球コースの影響については注意が必要である。ピッチトンネルの評価は、投球がホームプレートに到達する前に打者がスイングを判断する前提に基づいている。つまり、トンネルポイント通過後であるホームプレート上の投球コースは、スイングを判断する決定的な材料となりえないのだ。にもかかわらずスイング割合を見ると、なぜか(見かけ上)投球コースの影響が強くなる。この疑問に対して、Part3では打者が狙いを定める軌道に着目してスイング傾向を分析する。


Part3へ続く。

Part1

参考文献
[1]今回使用したデータはすべてMLB Advanced Mediaが運営するBaseball Savantから取得している。
https://baseballsavant.mlb.com
(最終閲覧日2020年7月12日)

八代 久通@saber_metmh
学生時代に数理物理を専攻。野球の数理的分析に没頭する。 近年は物理的なトラッキングデータの分析にも着手。
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