野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、先日、データで選ぶ守備のベストナイン
“デルタ・フィールディング・アワード2024”を発表しました。ここでは投票を行ったアナリストが具体的にどのような手法で分析を行ったか、またその分析からの感想を紹介していきながら、具体的に分析データを見ていきます。今回は中堅手編です。受賞選手一覧は
こちらから。
対象中堅手に対する6人のアナリストの採点
中堅手部門は周東佑京(ソフトバンク)がトップとなりました。アナリスト6人中4人が1位票を投じ、60ポイント中57ポイントを獲得。昨季までは複数のポジションを兼任していた周東ですが、今季から中堅に専念。多くのアナリストが俊足を活かした広い守備範囲を高く評価しています。
2位となったのは松本剛(日本ハム)。1位票を2票獲得し、周東にわずか1ポイント差まで迫りました。今回ほぼすべての1、2位票を周東と松本が独占する結果に。名手が揃ったポジションですが、今季の中堅ではこの2名の守備が傑出していたようです。
そんな中、アナリスト佐藤氏は「難易度の高い打球を期待値より処理しており、穴も見当たらない」として、2位票を桑原将志(DeNA)に投じています。桑原は2018年に中堅として本賞を受賞。既に31歳と中堅手としてはベテランの域に差し掛かっていますが、まだまだ一定以上の守備能力を維持しているようです。
3位は岡林勇希(中日)。周東、松本ら上位2名とは依然大きく差が開いていますが、昨年は8名中5位だったことを考えると評価を上げたと言えるでしょうか。とはいえ岡林はかつて右翼で圧倒的な守備力を誇った選手。その岡林が中堅ではまずまずの評価に落ち着いていることは、右翼と中堅における守備のレベルの違いを感じさせます。
昨年満票で受賞した近本光司(阪神)はまさかの7位に低迷。昨季は全体トップの守備範囲評価でしたが、今季は一転、平均を下回る評価に。この結果には一部のアナリストから驚きの声が上がっていました。また、同じく昨年2位だった秋山翔吾(広島)も今年は8位と大きく順位を落としています。守備の名手として知られる秋山ですが、ここまで本企画では受賞に至っていません。
各アナリストの評価手法(中堅手編)
- 岡田:ベーシックなUZR(守備範囲+進塁抑止+失策回避)をやや改良。守備範囲については、ゾーン、打球の滞空時間で細分化して分析
- 道作:過去3年間の守備成績から順位付け
- 佐藤:飛球の落下地点と滞空時間からアウト期待値を算出。これを12球団本拠地ごとに集計し守備範囲評価とした(地方球場などは対象外)。またタッチアップの評価も補助的に活用している
- 市川:UZRと同様の守備範囲、進塁抑止、失策回避の3項目を考慮。だが守備範囲についてはUZRとは異なる評価法を採用。定位置付近からの距離と滞空時間で区分し分析
- 宮下:守備範囲、進塁抑止評価を機械学習によって算出
- 二階堂:球場による有利・不利を均すパークファクター補正を実施
UZRの評価
各アナリストの採点を見たところで、いま一度、UZR(Ultimate Zone Rating)で行ったベーシックな守備評価を確認しておきましょう。
UZRでも周東がトップとなっています。周東が守った956.1イニングを平均的な中堅手が守った場合に比べ、12.8点分の失点を防いだと推定されています。2位の松本は11.9点分の失点を防ぎました。守備範囲貢献RngRで他の選手に大きく差をつけた周東、松本のUZRが傑出しているようです。
この最も大きな差がついている守備範囲評価について、具体的にどういった打球を得意・不得意としているのか、各選手の処理状況を確認していきましょう。
以下表内の距離、ゾーンは打球がフィールドのどういった位置に飛んだかを表しています。図1の黄色いエリアが対象のゾーンです。対応させて見てください。黒い円のマークが定位置の目安。値は平均的な中堅手に比べどれだけ失点を防いだかです。
周東佑京(ソフトバンク)
周東の守備範囲評価は10.7。中堅に専念したのは今季からということを考えると驚異的な成績です。その俊足は守備範囲の広さにも繋がっており、特に左中間のエリアで多くの失点を防ぎました。また市川氏は滞空時間が短い打球に対する周東の処理能力の高さを指摘。今季度々見せたライナー性打球へのダイビングキャッチは、データ上でも好守備として可視化されているようです。
松本剛(日本ハム)
UZRでは周東に次ぐ2位となった松本ですが、守備範囲評価では周東を上回る13.0を記録しました。特にフェンス付近の打球で強みを見せており、距離8全体では全選手中トップの4.4を記録。広範囲にわたって失点を防いでおり、苦手とするエリアはほとんど見当たりません。
岡林勇希(中日)
かつて右翼で圧倒的な守備貢献を記録した岡林。競争の激しい中堅ではそこまで傑出していませんが、守備範囲評価では平均以上の成績を記録するなど対応力の高さを見せています。定位置から前方にあたる距離5、6エリアで広く失点を防ぎました。昨季苦手としていた右中間の打球は今季もやや弱点となっていたようです。
西川の守備範囲評価は0.6と平均クラス。定位置周辺から右中間寄りにおいて、比較的強みを見せているでしょうか。その一方、定位置から離れた左中間寄りのゾーンJ、Kやフェンス際距離8では失点を増やしています。
髙部の守備範囲評価は3.3。はっきりとした傾向は表れていませんが、定位置から離れた左中間方面の距離H〜Kのエリアにおいて多くの失点を防いでいます。このあたりは持ち味の俊足が活かされているでしょうか。一方で定位置から後方の打球では大きなマイナスを生んでしまいました。
秋山翔吾(広島)
秋山の守備範囲評価は平均を下回る-4.3。昨季は平均クラスの評価でしたが、年齢による衰えが影響しているでしょうか。エリア別に見てみると、右中間方向のゾーンPだけでなんと-7.8点分も失点を増やしています。他のエリアではむしろ平均以上に失点を防いでいますが、特定のエリアのマイナスが大きく響いてしまいました。
桑原将志(DeNA)
桑原は定位置から左中間寄りのゾーンJ、Kで多くの失点を防ぎました。一方で、定位置から右中間にかけてはほぼすべてのエリアでマイナスとなっています。もしかしたらポジショニングを左翼寄りにするなどの調整を行っているのかもしれません。
近本光司(阪神)
昨季守備範囲評価でトップの成績を記録した近本。今季はなんと-1.7まで成績を落としてしまいました。エリアごとの評価を見ると、右中間寄りの打球で多くの失点を喫してしまっているようです。また、昨季得意としていたフェンス際の距離8の打球においても今季はマイナス。近本も30歳であるため、守備の衰えが隠せなくなってきたのかもしれません。
守備範囲が広い印象のある辰己ですが、守備範囲評価は-9.4。データで見ると意外に振るっていません。具体的に見ると、定位置から前方にかけては平均クラスの処理能力を見せる一方、定位置後方で多くの失点を喫してしまっています。距離7、8の守備範囲評価では-12.2と大きなマイナス。辰己は例年定位置後方の打球を苦手としており、今季も同様の傾向にあったようです。
来季の展望
今季は周東、松本がほぼすべての1・2位票を独占するかたちとなりました。特に守備範囲評価においてこの2名が傑出しており、来季も有力候補に挙がるでしょう。ただこのうち松本は現在すでに31歳。中堅手とはやや高齢で、そろそろ衰えがきてもおかしくありません。今季は接戦となりましたが、今後は周東の独壇場になっていく可能性も十分ありそうです。