野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、2024年の日本プロ野球での野手の守備による貢献をポジション別に評価し表彰する“デルタ・フィールディング・アワード2024”を発表します。これはデータを用いて各ポジションで優れた守備を見せた選手――いうならば「データ視点での守備のベストナイン」を選出するものです。

“デルタ・フィールディング・アワード”について

“デルタ・フィールディング・アワード”は、米国のデータ分析会社Sports Info Solutionsが実施しているデータを用いた選手の守備評価表彰“THE FIELDING BIBLE AWARDS”に倣ったものです。

“THE FIELDING BIBLE AWARDS”は2006年から行われており、この流れを受け米国ではデータ視点で守備を評価する流れが非常に強くなっています。MLBでは近年、ゴールドグラブ賞の選定にデータを考慮するという方針転換が行われました。データの視点で守備を評価することのプライオリティが高くなっていることは確かなようです。

DELTAでは、日本においてもこうしたデータ分析を通じた守備の評価を定着させるため、2016年よりこうした表彰を行っており、今年が9回目となります。今回は6人のアナリストが参加し、2024年シーズンにおける野手の守備について、それぞれの手法で分析・評価・採点を行いました。

セイバーメトリクスの守備指標というと、UZR(Ultimate Zone Rating)が一般的にも知られるようになってきています。こうした指標がある以上、それぞれのアナリストがまた別に分析をやり直し、投票を行う必要はないのではないかと思われるかもしれません。しかし、UZRは守備による貢献を評価するベーシックな手法の1つに過ぎません。グラウンドでは数多くの出来事が発生しますが、それをどのように拾い上げて守備の評価に用いるか、その手法はいくらでもあります。“デルタ・フィールディング・アワード”では、より多角的な視点による分析を評価に反映させるため、こうした手法をとっています。

過去のフィールディング・アワードの結果はこちらから
2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年

評価の対象選手

2024年に各ポジションで500イニング以上を守った選手

選出方式

6人のアナリストがそれぞれの評価に基づき、対象選手に1位=10ポイント、2位=9ポイント……10位=1ポイント、11位以下は0ポイントといったかたちで採点し、合計ポイントがポジション内で最も高かった選手を選出。ポイントが並んだ場合、上位票が多かった選手を上位とする。

参加アナリスト

・岡田 友輔(@Deltagraphs
・道作
・佐藤 文彦(@Student_murmur
・市川 博久(@89yodan
・宮下 博志(@saber_metmh
・二階堂 智志(@PennantSpirits

“デルタ・フィールディング・アワード2024”受賞選手

それでは受賞者を発表していきます。

捕手:中村悠平(ヤクルト)

捕手部門では中村悠平(ヤクルト)が受賞。アナリスト6人中3人の1位票を獲得しました。長年正捕手を務めさらに守備評価も高い中村ですが、意外にも本企画での受賞は初となります。

捕手については、本企画の2018年よりDELTA取得の投球データを使ったフレーミング(ストライクコールを呼び込む捕球)も評価対象としています[1]。ただ今回1位の中村がこの分野で圧倒的だったというわけではありません。同じフレーミングでもアナリストによって評価が分かれたようです。アナリスト宮下博志が採用した機械学習を活用したフレーミング評価では、甲斐拓也(ソフトバンク)がトップに。過去にはフレーミングが大きな弱点となり、本企画でも下位に沈むことが多かった捕手ですが、課題に取り組み昨季に続き着実にレベルを上げてきているようです。詳しいフレーミングの傾向については後日別記事で紹介いたします。

またアナリスト道作氏、市川博久氏からも、かつてに比べてフレーミングで捕手間の差がつきづらくなっていることが指摘されています。これはフレーミングの概念が選手の間で完全に定着し、多くの捕手がそれを意識してプレーしていることの表れかもしれません。MLBと同様の流れをNPBもなぞっているように見えます。

過去の受賞者(捕手)
2016年 若月健矢(オリックス)
2018年 小林誠司(読売)
2019年 梅野隆太郎(阪神)
2020年 木下拓哉(中日)
2021年 大城卓三(読売)
2022年 大城卓三(読売)
2023年 坂本誠志郎(阪神)
2024年 中村悠平(ヤクルト)

一塁:山川穂高(ソフトバンク)

一塁は山川穂高(ソフトバンク)が満票を獲得。本企画で初の受賞となりました。移籍1年目の今季は持ち味の打撃だけでなく、守備面でも能力を発揮していたようです。

ただ満場一致での選出とはなりましたが、アナリスト市川氏からは「例年と比べても選手間同士の大きな差は見られなかった」との意見も挙がっています。2位以降は鈴木大地(楽天)タイラー・オースティン(DeNA)と続きました。

昨年受賞者の大山悠輔(阪神)は大きく順位を下げ6位。他ポジションを見ても、昨季日本一となった阪神勢の順位が伸び悩んでいます。道作氏からは「この守備力悪化こそが優勝を逃した大きな原因」とのコメントもありました。

過去の受賞者(一塁)
2016年 中田翔(日本ハム)
2017年 ホセ・ロペス(DeNA)
2018年 井上晴哉(ロッテ)
2019年 内川聖一(ソフトバンク)
2020年 ダヤン・ビシエド(中日)
2021年 中村晃(ソフトバンク)
2022年 ネフタリ・ソト(DeNA)
2023年 大山悠輔(阪神)
2024年 山川穂高(一塁)

二塁:吉川尚輝(読売)

二塁は読売の吉川尚輝がトップとなりました。アナリスト6人中3人から1位票を獲得し、2年連続となる受賞です。

ただ2位に14ポイントもの大差をつけた昨年とは異なり、今年は僅差でのトップ。小深田大翔(楽天)もアナリスト2名から1位票を獲得しており、吉川とはわずか1ポイント差の2位でした。

またアナリスト二階堂智志は球場ごとの守りやすさに着目。球場ごとの守備成績の出やすさを補正した評価を行い、結果外崎修太(西武)に1位票を投じています。

ほかにはゴールデン・グラブ賞の常連・菊池涼介(広島)は11人中6位の評価にとどまりました。

過去の受賞者(二塁)
2016年 菊池涼介(広島)
2017年 菊池涼介(広島)
2018年 菊池涼介(広島)
2019年 阿部寿樹(中日)
2020年 外崎修汰(西武)
2021年 外崎修汰(西武)
2022年 外崎修汰(西武)
2023年 吉川尚輝(読売)
2024年 吉川尚輝(読売)

三塁:栗原陵矢(ソフトバンク)

三塁はソフトバンクの栗原陵矢が満票を獲得し2年連続の受賞。捕手から外野、外野から三塁とコンバートされてきただけに、それほど守備のイメージはないかもしれません。しかしデータ面から見るとその三塁守備は現日本球界において圧倒的なようです。

栗原について多くのアナリストから特に評価が高かったのが「守備範囲の広さ」。三塁線、三遊間ともに処理能力は図抜けており、これが断トツの得票につながったようです。この守備範囲についての詳細な分析は後日別記事で紹介します。

また6人のアナリスト全員が坂本勇人(読売)を2位に選出しています。坂本は昨季門脇誠の台頭にあわせて三塁にコンバート。昨季の三塁守備はデータから見てもそれほど優れたものではありませんでしたが、今季はあらためてその能力の高さを見せつける結果となりました。さすが元遊撃の名手です。

過去の受賞者(三塁)
2016年 松田宣浩(ソフトバンク)
2017年 宮﨑敏郎(DeNA)
2018年 松田宣浩(ソフトバンク)
2019年 大山悠輔(阪神)
2020年 岡本和真(読売)
2021年 茂木栄五郎(楽天)
2022年 安田尚憲(ロッテ)
2023年 栗原陵矢(ソフトバンク)
2024年 栗原陵矢(ソフトバンク)

遊撃:矢野雅哉(広島)

遊撃は矢野雅哉(広島)が初受賞となりました。アナリスト6名中5名から1位票を集め、ほぼ満票となる59ポイントを獲得しています。矢野といえば三遊間深くの打球に追いつきノーバウンド送球で一塁アウトにする派手なプレーが印象に残っている人が多いのではないでしょうか。こうした圧倒的な守備範囲はデータ面から見ても高く評価されているようです。

また昨年受賞者の長岡秀樹(ヤクルト)はまさかの11人中10位。長岡は昨年、本企画で2017年以降6年連続トップの源田壮亮(西武)の連続受賞をストップしてみせましたが、今季はなんと下から数えたほうが早い結果となりました。この原因については後日別記事で公開いたします。

名手・源田は2位。31歳を迎えてなおトップクラスの守備力を維持しているのは流石の一言です。とはいえ一時期の圧倒的な存在感は失いつつあるようで、すでに源田を下位にランキングするアナリストも見られました。遊撃は着実に「ポスト・源田時代」へ移行しているように見えます。

過去の受賞者(遊撃)
2016年 安達了一(オリックス)
2017年 源田壮亮(西武)
2018年 源田壮亮(西武)
2019年 源田壮亮(西武)
2020年 源田壮亮(西武)
2021年 源田壮亮(西武)
2022年 源田壮亮(西武)
2023年 長岡秀樹(ヤクルト)
2024年 矢野雅哉(広島)

左翼:近藤健介(ソフトバンク)

左翼は近藤健介(ソフトバンク)が満票を獲得。左翼手として2年連続の受賞です。UZRの評価でも2位以下に大差をつけましたが、アナリストの投票でも同様の結果となりました。2位以降は水谷瞬(日本ハム)西川龍馬(オリックス)と続きます。

左翼の分析結果は上位と下位の差が非常に大きい、他ポジションに比べるといびつなかたちとなっているようです。こうした極端な結果となった要因としてアナリスト道作氏からは「負傷者や守備が得意でない選手の避難所のように扱われている」点が指摘されています。

下位グループにはドミンゴ・サンタナ(ヤクルト)前川右京(阪神)佐野恵太(DeNA)といった打撃型の選手が並んでおり、打撃だけでなく守備も優秀な近藤の総合力が一層際立つかたちになりました。

過去の受賞者(左翼)
2016年 西川遥輝(日本ハム)
2017年 中村晃(ソフトバンク)
2018年 島内宏明(楽天)
2019年 金子侑司(西武)
2020年 青木宣親(ヤクルト)
2021年 荻野貴司(ロッテ)
2022年 西川遥輝(楽天)
2023年 近藤健介(ソフトバンク)
2024年 近藤健介(ソフトバンク)

中堅:周東佑京(ソフトバンク)

中堅は周東佑京(ソフトバンク)がトップとなりました。アナリスト6人中4人が1位票を投じ、60ポイント中57ポイントを獲得しています。周東は昨季まで複数のポジションを兼任していましたが、今季は中堅に専念。俊足を活かした広い守備範囲で、多くの長打を防ぎました。データでもその守備範囲の広さは高く評価されています。

その周東とほぼ同等の評価を獲得したのが日本ハムの松本剛。1位票を2票獲得するなど、周東にわずか1ポイント差まで迫りました。また昨年満票で受賞した近本光司(阪神)はまさかの7位に低迷。昨季は圧倒的な守備力を誇っただけに、今季の結果には一部のアナリストから驚きの声が上がっていました。

周東を含め、今回の企画ではソフトバンク勢から4名が選出されています。今季のソフトバンクは1試合平均わずか2.73失点。これは投手陣の功績と考えられがちですが、データ面から見ると、野手陣のディフェンス力による寄与も大きかったようです。

過去の受賞者(中堅)
2016年 丸佳浩(広島)
2017年 丸佳浩(広島)
2018年 桑原将志(DeNA)
2019年 神里和毅(DeNA)
2020年 近本光司(阪神)
2021年 辰己涼介(楽天)
2022年 塩見泰隆(ヤクルト)
2023年 近本光司(阪神)
2024年 周東佑京(ソフトバンク)

右翼:万波中正(日本ハム)

右翼は万波中正(日本ハム)が2年連続の受賞。昨年の選出では満票にあと1票足りませんでしたが、今年はすべての1位票を集めました。

万波の守備といえばやはり多くの人がその強肩を思い浮かべるでしょう。データでもやはりそこは高く評価されています。補殺により走者をアウトにすることはもちろん、その強肩に走者が怯えることで進塁を自重することもデータで可視化され、高い評価を得ているようです。

ただそれだけではなく守備範囲についても、各アナリストからは高い評価を得ています。万波の守備というとどうしても肩ばかりに目がいきがちですが、単純に打球をアウトにする能力でも現在の右翼手では頭一つ抜けているようです。

2位以降は丸佳浩(読売)野間峻祥(広島)。30歳オーバーの中堅~ベテラン組が健闘を見せました。

過去の受賞者(右翼)
2016年 鈴木誠也(広島)
2017年 上林誠知(ソフトバンク)
2018年 上林誠知(ソフトバンク)
2019年 平田良介(中日)
2020年 大田泰示(日本ハム)
2021年 岡島豪郎(楽天)
2022年 岡林勇希(中日)
2023年 万波中正(日本ハム)
2024年 万波中正(日本ハム)

なお、アナリストの採点、各ポジションについての批評は、後日別記事で公開いたします。どうぞ楽しみにお待ちください。

過去のフィールディング・アワードの結果はこちらから
2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年

  • [1]DELTA取得の投球データは目視により入力されたものであり、機械的に取得したデータと比べた際には精度の部分で課題を抱えています。そんな中でも、データ入力におけるルールの厳格化、分析時のデータの扱いにおいて注意を払うことを徹底したうえで、フレーミング評価を解禁しています。
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