昨季のチャンピオン・広島が連覇を達成した2017年のセ・リーグ。クライマックスシリーズ出場権を懸けた争いも白熱し、結果は阪神とDeNAが2位、3位。読売は2006年以来のBクラスに終わった。今回は開幕から2週間ごとに続いてきた本企画の総括として、今季開幕からの流れをおさらいしながら各球団の戦いぶりを振り返る。

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1.リーグ総括


戦前の下馬評では、前年度優勝を果たした広島が優位としつつも、オフに大補強を敢行した読売を推す声もあり、DeNAはCS圏内が有望、阪神は評価が分かれ、中日とヤクルトは下位に予想する意見が多かったように思います。ペナントレースが開幕すると、読売が開幕4連勝でスタートダッシュに成功したものの、広島が開幕2戦目から10連勝を記録。4月末の時点では、広島が勝率.615でトップ、次いで阪神が.583、読売が.520という状況でした。

2位の阪神はゴールデンウィーク中に行われた直接対決で広島を3タテし首位浮上。その後もトップをキープしましたが、交流戦前最後の試合となった5月28日に再び首位が交代。リーグトップを奪い返した広島は、交流戦でも12勝6敗と大きく勝ち越し、連覇に向け着実に前進していくことになります。勝率5割ラインで2チームを追いかけていた読売は、球団ワーストとなる13連敗を記録し、順位も3位から5位に転落。前半戦終了時では首位広島と2位阪神の差は8.0ゲームと広がりましたが、3位DeNAは2位まで2.5ゲーム、5位中日は4位まで0.5ゲーム差と、クライマックスシリーズ(CS)出場権を含めた順位争いは、俄然面白くなってきました。

後半戦では、7月下旬に7連敗を記録した中日が後退し、広島もなかなか波に乗ることができないまま、少しずつ貯金を増やしてきたDeNAが8月22日から行われた広島との3連戦を全てサヨナラゲームで制し、ペナントレースに緊張感を与えました。しかし、自力に勝る広島は9月に入ってから9連勝をマーク。9月5日からの2位阪神との直接対決は、6.5ゲーム差まで接近した状態からのスタートでしたが、接戦を全て取り逆に勢いをつけました。優勝が秒読みとなった9月18日、広島は阪神を相手に3対2で勝ち2年連続でのリーグ制覇を達成。シーズン88勝は2016年の89勝にわずかに及ばなかったものの、勝率.633は球団新記録を更新。25年ぶりの優勝に沸いた昨季から1年を経て、今や実力だけでなく人気面でもリーグを牽引する広島にとって、次なる目標はCSを突破した上での日本一です。


2.戦力データ、個人成績から見た各球団のシーズン総括



広島東洋カープ

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リーグ連覇を支えたのは、何といっても野手クオリティの高さ。攻撃部門では、ありとあらゆる指標でトップに立ち、1試合平均5.15得点はリーグ2位のDeNAを1点近くも引き離す独走状態で、球団史上でも1978年の5.48得点に次ぐ歴代2位を記録しました。走塁指標のBsRでも、リーグ上位10人中広島の選手が7人ランクインするなど、パワーでもスピードでもリーグを圧倒し続けました。

一方、投手陣は平均失点及びFIP(Fielding Independent Pitching)がリーグ3位と、平均以上の力は持っていましたが、盤石の布陣というわけではありませんでした。こちらは、2015年オフに前田健太がMLB挑戦、2016年オフには黒田博樹が現役引退と、戦力低下が重なり、緒方孝市監督は若手を多く抜擢する起用法を決断。その結果、チーム投手陣のストレート(4シーム)平均球速は昨季から1.5km/hアップの144.7km/h。BB%(与四球割合)は7.7%から8.8%にやや悪化、フライ率(FB%)は3年続けて高くなってしまいましたが、球威で捻じ伏せた印象です。

守りに関しても優勢を保ち、守備位置別でのUZR(Ultimate Zone Rating)で1位になるようなポジションはありませんでしたが、チーム全体での合計値はリーグトップ。特に外野手(右翼)の肩、三塁の守備範囲、併殺完成の面で秀でており、これらが若い投手陣を支えました。


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個人成績に目を向けると、リーグ最多安打を記録した丸佳浩が安打数、本塁打、打点などで自己最多記録を更新。MVPに推す声も出ています。レギュラー2年目で4番を任されるようになった鈴木誠也は、実質2年目のジンクスに陥ることもなく8月まではリーグ打点トップを走っていましたが、8月23日のDeNA戦で右足を骨折。今季中の復帰は絶望となってしまいましたが、来季以降も他球団の投手陣を震え上がらせるに違いないでしょう。最も印象的だったのは、優勝翌年度にもかかわらず大胆な世代交代に着手したことです。開幕4番を務めた新井貴浩に代わってサビエル・バティスタら若手の起用比率を高め、昨季まで正捕手を務めた石原慶幸から今季は會澤翼がレギュラーに定着。「勝って育てる」を見事に実行しました。

投手陣では、度重なる体調不良と故障によりクリス・ジョンソンのイニング数が前年から大きく減少。先発陣を支えたのは、2年目の岡田明丈、シーズン途中から先発に転向した薮田和樹、そして年間を通じて安定した働きを見せた野村祐輔でした。なかでも薮田は、先発転向後から6連勝を飾り、終わってみれば15勝3敗で勝率1位のタイトルが確定。救援陣は、開幕間もなくしてクローザーが中崎翔太から今村猛に交代。9月に入り、再び中崎が守護神に返り咲いています。粒ぞろいのブルペンではあるものの、左腕不足の編成とデプスをやや欠いていたため、疲れが出た頃に救援失敗を繰り返す光景も見られました。ポストシーズンが始まるまで、どこまでコンディションを戻しているかも注目されるでしょう。

ファームは26年ぶりにウエスタン・リーグの優勝を達成。二軍の攻撃陣もリーグを席巻し、ウエスタンの本塁打王に輝いたバティスタのほか、同首位打者獲得のアレハンドロ・メヒア、プロ1年目にして打率リーグ2位喰い込んだ坂倉将吾ら、次代のレギュラー候補が着実に育っています。坂倉は10月7日に行われたファーム日本選手権で勝ち越し3ランも放ち、球団史上初のファーム日本一に大きく貢献。今後が非常に楽しみな選手の1人です。



阪神タイガース

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就任2年目の金本知憲監督がどんな野球を見せるのかに注目が集まっていた阪神は、若手を積極的に起用する野球から、結果を求める野球への色合いを強め、2014年以来3年ぶりのリーグ2位を確保。攻撃面を支えたのは粘り強さで、出塁率こそ広島に次いでリーグ2位でしたが、四球数は堂々のトップ。本塁打数も、2010年以来7年ぶりに100本の大台を超えました。一発の出にくい本拠地甲子園球場、外国人選手の本塁打がわずか7本しかなかった中での100本超えは、打線の成長を明確に示す数字でもあります。

投手陣を支えたのはブルペン。今季50試合以上登板した投手が6人というプロ野球新記録をつくり、延長戦の成績は8勝2敗と絶大なる信頼を得ていました。先発陣も含めてチームK%(奪三振割合)はリーグトップの22.5%で、50試合以上に登板したブルペンのうち最もK%の低かった桑原謙太朗でさえ24.1%と、非常に力のある投手が揃っていたことになります。

阪神はUZRがリーグワーストと打球が前に飛べば失点のリスクが大きい守備陣でしたが、奪三振の多い投手陣が打球を前に飛ばさせないことでリスクをいくらか解消していたともいえそうです。阪神投手陣は、今季リーグ平均と比較して153個も多い三振を奪っています。僅差の展開で、ゲーム終盤になるとイニング1個以上の三振を取る投手が出てくるのですから、守りのリスクを減らしたのは紛れもなくブルペンのおかげだったといえるでしょう。


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今季からチームに加入した糸井嘉男は、故障により29試合を欠場しましたが、ゲームに出場する間は例年と変わらぬ成績を残し、後半戦では打率.331と2位確保の原動力となりました。鳥谷敬と上本博紀は昨季の不振から復活、40歳になった福留孝介も休養さえ入れれば中軸を任せられることを証明し、7年目の中谷将大は初の規定打席到達とともにチーム生え抜き選手では09年の鳥谷以来の20本塁打をマーク。また、後半戦から大和が遊撃手として定着、人材薄だった中堅でも俊介が収まり、ベテランと若手、中堅が上手く噛み合った1年でした。

投手で躍進したのは秋山拓巳と桑原。秋山はプロ1年目に4勝を挙げながらその後伸び悩み、昨季までは先発ローテーション入りどころか一軍定着も厳しい存在でした。それが、今季初登板となった4月5日のヤクルト戦で好投すると、以降はローテを外れることなくランディ・メッセンジャーとともに先発陣の柱に。秋山が残した与四球率0.90という数字は、規定投球回に達した現役投手では成瀬善久(ヤクルト)がロッテ時代に記録した0.85に次ぐもので、歴代でも10位に相当するようです。桑原は2015年にオリックスから移籍し、昨季は一軍登板がなかったことから戦力外になってもおかしくない存在といわれていました。ところが、今春のオープン戦で結果を残し、シーズンでも中継ぎの柱として活躍。金本監督になってから、埋もれた才能が発掘されたケースは非常に多く、指揮官の目利きは確実にチームの武器となっています。

ファームの方は、今季ウエスタン・リーグの最下位に転落したのと同様に、若手が芽を出す機会はそれほど多くありませんでした。しかし、プロ1年目の才木浩人は将来のエース候補ともいわれ、10月5日の中日戦で早くも一軍デビューを飾りました。先発タイプながら150km/h超える速球は非常に魅力的です。



横浜DeNAベイスターズ

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アレックス・ラミレス監督2年目のDeNAは、昨季に続き2年連続CS進出を決め、若々しくも上位を狙うチームとしての戦いぶりが板についてきました。戦力的には打高投低で、攻撃陣は打者有利な本拠地を味方につけた格好です。打線の特色は長打力と積極性で、リーグ2位の本塁打数はマツダスタジアムを除いた敵地でも満遍なく記録されており、2ケタ本塁打を記録した選手も5人と、どこからでも一発が飛び出す破壊力がありました。積極性は粗さと背中合わせであるため、出塁率はリーグ4位と苦戦したものの、好球必打のスタイルが長打力を呼び込んだメリットも忘れてはならないでしょう。

投手成績はリーグ平均以下の数字が並んでいますが、狭い球場で苦戦するのはある意味仕方のないこと。それでも、チーム防御率3.82に対し地元横浜スタジアムでの防御率も3.81と同等のレベルを保ち、チームに貢献を果たしています。先発投手の平均イニング数が昨季の6.22から今季は5.79と減少し、これを埋めるためにブルペン陣が活躍。60試合以上登板5人という記録は、今季の阪神に次ぐ球界2番目の事例となりましたが、ブルペンに待機する投手の人数を増やし負担を軽減。継投策に関しても、阪神より柔軟性があったことは確かです。

ここ数年間で最も改善されたのは守備かもしれません。リーグでは広島に次ぐチームUZR 22.8を記録。2015年は大幅なマイナスを記録していましたが、ここ2年間でリーグ有数のディフェンス陣となりました。守備での貢献が高かったポジションは一塁、三塁そして中堅と右翼。いずれも攻撃力の高いポジションでもあり、攻守両面で強みと弱みがハッキリしている点は、オフのテーマを明確に示唆するものにもなっています。


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5年目の宮﨑敏郎が自身初の規定打席に到達したと同時に首位打者を獲得。ホセ・ロペスは打点王に輝くなど、昨季二冠の筒香嘉智に続き個人タイトルを獲得。ラミレス監督考案の打順は、3番に筒香を置き6番には捕手、投手を8番に入れ遊撃手の倉本寿彦を9番固定するダブルクリーンアップ構想で、その結果捕手の戸柱恭孝が52打点を挙げるなど一定の効果はあったようです。一方で、代打成績は昨季の打率.248から今季は.156へと急降下。守備固めに入った後に追いつかれてしまうと、なかなか得点を挙げられない場面があるなど、レギュラーと控えで力の差が大きかったのは来季以降への課題でしょう。

投手陣はほぼ毎年新戦力が台頭し、今季は濵口遥大とジョー・ウィーランドがチームの中心的存在に。入団当初は制球難を不安視された濵口でしたが、開幕直後から高い奪三振割合をキープして、終わってみれば新人唯一の10勝をマーク。速球とチェンジアップのコンビネーションは素晴らしく、調子の良い日は手のつけられない投球を披露しました。ウィーランドはQS率 82%の安定感に加えて打撃でもチームに貢献しました。投手ではリーグトップの3本塁打を記録。10月1日の広島戦ではCS進出を大きく後押しする3ランで大きなインパクトを与えました。

イースタン・リーグ最下位となったファームは、入団間もない若手を中心とした起用で、勝敗を問題視する必要はありませんが、一軍への戦力供給という点ではやや物足りなさがありました。シーズン閉幕近くになって一軍昇格を果たした細川成也は、2リーグ制以降の高卒新人では初となるデビューから2試合連続本塁打を記録。来季は三振の数を減らし、中軸を打てるような成長に期待が集まるでしょう。



読売ジャイアンツ

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攻撃力低下は年々深刻になり、wRC+(weighted Runs Created plus)はここ3年間で最も低い91と課題を克服することはできませんでした。走塁事情も同じで、BsR -18.5は両リーグでもワーストを記録しましたが、チーム56盗塁は極端に少ないわけではありません。塁上に走者を置いた場面での状況判断や、次の塁を狙う機動力自体にプラス要素を持つ選手が少なく、いわば「走らない選手」のマイナス分が響いた形です。

反対に、投手陣はチーム平均失点リーグトップで、チーム防御率3.31も阪神に次ぐ2位と存在感を発揮。菅野智之を筆頭に、マイルズ・マイコラス、田口麗斗、畠世周の4人が先発した試合は勝率.609と大きく勝ち越しましたが、それ以外の投手が先発した試合は勝率.358まで低下。救援陣でも、来日1年目でクローザーを務めたアルキメデス・カミネロとスコット・マシソン、西村健太朗以外に40試合以上登板した投手はおらず、レベルの差の激しい陣容だったことは否定できません。

守備はやや改善を果たし、UZR -12.9を記録した昨季から今季はプラスを計上。坂本勇人が守った遊撃手と、小林誠司がマスクを被った捕手ではリーグ内でも優勢を保ち、特に盗塁阻止率でリーグトップを記録した小林の強肩は、他球団の機動力を封じるのに大きな貢献を果たしました。


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昨季首位打者に輝いた坂本は、7月末の時点で打率.333と2年連続のタイトルも射程圏内でしたが、8月以降はスランプに喘ぎ打率3割からも陥落。今春には侍ジャパンの一員としてWBCに参加したこともあり、疲労の蓄積もあったのではないかと思われます。年間を通して安定した働きをしたのはケーシー・マギー。リーグ新記録となる48二塁打をマークしたほか、後半戦から二塁にコンバートされた後も打棒が衰えることはありませんでした。故障のため出遅れた陽岱鋼もまずまずの活躍。しかし、阿部慎之助や長野久義といったベテランに好不調の波が激しく、また休養を入れるだけのデプスも不足していたため、攻撃面でのパフォーマンスに安定性を欠いていたことは否めませんでした。

菅野は3度目の防御率タイトルに加え初の最多勝も獲得。規定投球回到達者の中でイニング平均15球未満だったのは両リーグを通じても菅野だけでした。マイコラスは2度にわたる中4日起用に耐え、来日以来最多の188イニングを記録。最多奪三振のタイトルも獲得しました。田口も自己最多の勝ち星とイニング数を更新、新人の畠は7月からチームに合流したにもかかわらず6勝を挙げました。

ファームは、イースタン・リーグで3年連続優勝を果たしたものの、ベテラン中堅選手のリハビリないしは待機場所としての色合いが濃く、育成に力を入れることがなかなかできません。しかし、今季途中から一軍に昇格して打力をアピールした宇佐見真吾、1年目からファームのローテーションに定着した大江竜聖のように、少ないチャンスを確実に生かす選手も出てきています。三軍も徐々に機能し始めています。



中日ドラゴンズ

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チーム再建のため、我慢を強いる戦いを覚悟すべきシーズンでしたが、時には我慢の限界を超え、不満を感じたファンも少なくなかったのではないかと思います。打撃指標はほとんどの分野でリーグ下位となり、中でも出塁率は3年連続してダウンの傾向。安打はそこそこ出ているのに対し、得点に結びつかなかったのは四球での出塁を欠いたからでした。故障者にも泣き、平田良介やダヤン・ビシエド、大島洋平ら中軸を打つ選手が続々と抜けてしまったのは、チームにとって最も大きな誤算だったでしょう。

投手成績も低迷期に入り、チーム防御率が4点台となったのは2005年以来12年ぶりのこと。2015年からK%が18.0%→17.9%→17.3%と2年連続して低下しているのは、4シームの平均球速がここ数年下位をさまよっていることも無関係ではないでしょう。その4シームは、両リーグを通じての投球比率(51.3%)が最も高く、反対にカットボールが確認できたのは途中加入した谷元圭介を除くと又吉克樹のみ。投手個人のポテンシャル以外にも、技術指導的な課題も抱えていそうです。

守備は毎年安定しており、内野は二塁を除きUZRプラスを計上。新人王候補にも上っている京田陽太の加入は大きな上積みになりました。顔ぶれが激しく変わった三塁も健闘。森繁和監督の起用も守りを意識したオーダーが多く感じられますが、得点力を上げるには1日も早く若手を育てる必要があります。


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京田は持ち前の機動力を生かした打撃で、5月に入ってから安打を量産。5月10日以降は1度もスタメンを外れることなく、不動のリードオフマンとしてチームを牽引しました。鳴り物入りで加入したアレックス・ゲレーロも、日本の野球に慣れ始めた5月以降に本塁打を荒稼ぎし、来日1年目にして本塁打王のタイトルを獲得。昨季ブレイクのきっかけを掴んだ福田永将は、故障で出遅れたものの交流戦後にスタメン定着。規定打席不足ながらの18本塁打は、開幕からフル出場していれば30本近く打ったことになります。なお、ゲレーロは球団との残留交渉が進んでおらず、来季は他球団でプレーする可能性が高そうです。

前半戦での投手陣の柱はラウル・バルデス。週に2度先発することも珍しくなく、先発のコマ不足の中、孤軍奮闘の働きを見せオールスターゲームにも選出されました。そうした無理が祟ってか、後半戦に入ると精彩を欠き、今季限りでの退団も決まったようです。42歳の岩瀬仁紀は、昨季は一軍での登板がなく引退も視野に入っていましたが、開幕から好投を続け8月10日の読売戦でプロ野球新記録となる通算950試合登板を達成。来季も現役続行を宣言し、前人未到の1000試合登板を目指します。若手では、2年目の小笠原慎之介がローテーションに定着。8月下旬から投球が安定しだし、6試合連続QSをマークしてシーズンをフィニッシュしたのは大きな収穫でした。

ファームでは、4年目の阿知羅拓馬がウエスタン・リーグの防御率タイトルを獲得。投手不足の影響から先発に回り、リーグ2位の111 1/3回を投げチームを助けました。今季で6年目を迎えた高橋周平は、打撃面で大きな成長は見られなかったものの、8月以降に昇格した一軍では守備でチームに貢献。三塁はもとより一塁にも挑戦し、起用の幅が広がることによって出場機会が与えられ、伸び悩みが解消されるきっかけを掴むかもしれません。



東京ヤクルトスワローズ

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極端な得点力不足に陥り、打撃のチームとされていた昨季から信じられないほどの凋落。ただし、wRC+はリーグ優勝した2015年も含めて100を超えたことがないため、正確にはマイナス分が拡大したという方が正しいかもしれません。主だった原因は、昨季まで2年連続トリプルスリーを記録していた山田哲人の不振と見られていますが、故障者が多かったこともあり控えレベルの選手の出場機会が多く、彼らの攻撃力の低さも得点力不足を助長させたものと思われます。

平均失点の方は、昨季の4.85から改善を果たしましたが、それでもリーグ最下位。先発投手陣の平均イニング数が5.54から5.80、QS回数も59から70へと増えていますので、弱点を埋めることにはある程度成功しました。しかし、質は改善したものの、投手の数の供給自体は追いつかず、故障者がさらなる故障を生む悪循環も生まれました。真中満監督は今季限りで退任し、来季から小川淳司シニアディレクターが再登板する形となりました。球団は健康な選手を揃えることもペナントレースを戦い抜く重要な要素だということを強く実感しているようです。

守備の面でも苦戦しましたが、得点力不足を補うため打力優先で野手を起用したことと、来季への準備として一軍経験の少ない若手を率先して起用したことにも影響を受けている点がありました。中日にも同じことがいえますが、チーム再建には思い切った改革が必要で、マイナス部分が大きければ大きいほど着手しやすいものだと考えれば、不振脱却の糸口は見つかりやすいものです。


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攻撃陣で期待通りの働きをしたのは坂口智隆と中村悠平。坂口は2年連続でチーム最多安打をマークし、雄平が故障で離脱した後を受け一時的に右翼にコンバート。不慣れなポジションでは苦戦したものの、中堅に入ったときのUZRはしっかりプラスを記録しています。中村は昨季の不振から脱却。自己最多に並ぶ102安打を放ち、守りでも投手陣を支えました。深刻なスランプと見られている山田ですが、WAR(Wins Above Replacement) 3.9はリーグ野手10位に相当し、決してマイナスになるような働きはしていません。過去3年間における山田に対する依存度がどれだけ大きかったか、今季の戦いぶりが象徴していました。

先発の柱として活躍したデービッド・ブキャナンは、6勝13敗と大きく負け越しましたが、QSをマークしながら敗戦投手になった試合が7度もあり、援護点さえ十分あれば勝敗が逆転していた可能性もありました。開幕時点でブルペン要員だった原樹理と新人の星知弥は、4月後半からローテーションに入りまずまずの成績。ブルペンでは、WBCに参加した秋吉亮の離脱が痛かったものの、先発からリリーフに転向した近藤一樹が54試合に登板。故障もなくシーズンを乗り切り、来季もブルペン陣の一角として期待できそうです。

ファームは、山崎晃太朗や奥村展征といった若手を一軍に供給。2年目の廣岡大志がイースタン・リーグで最多安打を記録、盗塁数も飛躍的に伸び来季の一軍定着を目指します。全体的には、故障者の影響を受け競争原理が思うように働かなかったのが反省材料で、球団はすでに11人の選手を戦力外とし、ドラフトや外部からの補強によりチーム活性化を図ることになるでしょう。



高多 薪吾 @hausmlb
個人サイトにて独自で考案したスタッツなどを紹介するほか、DELTAが配信するメールマガジンで記事を執筆。 投手の運用に関する考察を積極的に行っている。ファンタジーベースボールフリーク。

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