新型コロナウィルス(COVID-19)は依然として世界中で猛威を振るっている。首都圏では緊急事態宣言が再延長され、我々の生活も我慢を強いられていたが、3月21日に解除が決定となった。そんななか、NPBは3月26日の開幕に向けて
感染対策ガイドラインを発表。感染対策を行いながら有観客で開幕することが決定している。感染防止のために、ファンはどのような点に気をつければ良いのだろうか。
昨季も球場での感染症対策について注意を喚起した、医師でDELTAアナリストの水島仁氏が、諸外国リーグの現状も提示しながら解説する。
“夏のスポーツ”野球でも油断は禁物
例年、夏場になるとインフルエンザの感染者が減る傾向にあることから「ウィルスは夏の暑さに弱い」と言われることが多い。しかしこれは誤解だ。新型コロナウィルスに関しては諸説あるが、一般的にウィルスは飛沫に含まれた水分に包まれていることが多く、冬場の乾燥した時季はその水分が少なくなり軽くなりやすい。その結果、ウィルスが長時間空中を浮遊し、人間が吸い込むことが多くなり、感染が成立すると考えられている。
また、乾燥や寒冷に伴い、人間のバリア機能(異物排除機能)である皮膚にヒビ割れが起きたり、粘膜の線毛運動が停滞化することで異物を排除しづらくなり感染が成立しやすくなる。つまりウィルスが猛威を振るうというよりも冬の寒さと乾燥により人間がウィルスにかかりやすくなっているわけだ。野球は基本的に夏のスポーツである。気象状況的に感染を起こしづらい時季であるため、「夏場は大丈夫」という認識を持ってしまいがちだが、引き続き夏場も感染対策は必須である。
スタジアムでは、基本的には昨季と同様で、日常的に行なっている標準感染対策を心がける必要がある。残念ながら、もはや死語となりつつある「三密」だが、この三密の回避とマスク着用、手指衛生の徹底が肝要である。
4月1日に開幕戦を控えているMLBでも三密の回避は徹底されている。各地域の感染の程度によってばらつきはあるが、すでに有観客であることを発表している球団のほとんどが球場の収容人数に20-30%の制限を設けているようだ。最多でもコロラド・ロッキーズの42.6%(観客数21363人)。しかし、3月10日にテキサス・レンジャーズが満員で開催することを発表した。
2021年各国リーグのオープン戦、公式戦の観客数の状況
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MLB |
NPB |
KBO (韓国) |
CPBL (台湾) |
オープン戦 開幕日 |
2月28日 |
3月2日 |
3月20日 |
2月26日 |
オープン戦 観客制限 |
球団により 異なる |
地域によって 異なる |
無観客 |
上限50% |
レギュラーシーズン 開幕日 |
4月1日 |
3月26日 |
4月3日 |
3月13日 |
レギュラーシーズン 観客制限 |
球団により 異なる |
10000人 |
不明 |
上限78% |
*韓国ではプレシーズンの試合を示範競技というが、便宜的にオープン戦としている
NPBは首都圏の緊急事態宣言解除を受けて、現状では収容人数半分以下で上限10000人となったが、首都圏の感染者数も漸増していることも踏まえるとまだまだ議論が必要だろう。
応援以外でも球場内外のファントークについても注意が必要
アメリカでは「ワクチン・パスポート」と言い、ワクチン接種した人にのみイベント参加可能にするという案もあったようだが、現状ワクチン未接種の方でもスタジアムに入場することが可能となっている。入場に先駆けての事前PCR検査や入場時の検温も行わないが、十分に距離をとった座席配置としているようだ。しかしニューヨークを本拠地とするメッツとヤンキースは3月19日に、入場72時間前までのPCRもしくは抗原検査の陰性証明もしくはワクチン接種証明の提出を義務付けることを発表。入場ゲートでの体温測定やマスク着用の義務化など警戒態勢でファンの入場を許可する方針としたかたちだ。
アメリカ国立アレルギー感染症研究所(NIAID)の所長で昨シーズン医療従事者を代表して始球式を行ったアンソニー・ファウチ博士は「人口の75-80%がワクチン接種を完了すれば感染の拡大が予防できる」とも述べており、引き続きワクチン接種と通常の感染対策を心がけていく必要がある。日本では医療従事者からワクチン接種が始まっている(筆者は22日に第1回目接種済み)が、感染対策としてはアメリカと同様の点に注意を払うべきだろう。
応援に関しては、フラッグを振ることは感染リスクを高めるものではないとしてガイドラインでは解禁となった。選手特有のパフォーマンス(腕を振り上げる応援の「熱男」や「どすこい」)も感染リスクを高める行為ではないと考えられるが、マスクをせずに大声で叫ぶことは控えていただきたい。また、口で膨らませるジェット風船は飛沫を飛散させるリスクを伴うため当分は解禁にはならないだろう。
他にも、スタジアム行き帰りの公共交通機関の利用時、球場内外でのマスクを外した状態でのファントークなど飛沫を飛ばしうる行為については十分に注意してほしい。アメリカ疾病対策予防センターCDC(Centers for Disease Control and Prevention)は2月にいかにきちんとマスクをフィットして着用しているかが重要と発表。不織布マスクを着用しても、顔の横や鼻のそばの隙間をなるべく埋めたり、不織布マスクの上から布マスクやゴムバンドを着用することでフィットを高めることも推奨されている。観戦時は普段の生活よりも一段と高い感染対策を心がけたいところだ。もちろん今後の感染の状況によっては、ファンの入場可否の基準も変わってくるだろう。常に最新のニュースを入手するようにしたい。
選手たちは週1回のPCR検査を受け、外食の自粛など常に体調管理・感染対策を行なっているという。大観衆の前でハードなプレーを披露したく戦っている選手たちの想いに応えるためにも、ファン一同も感染対策を十分に行いながら、選手・ファンが足並みを揃えてシーズンが盛り上がることを期待している。
(※)情報はすべて3月22日現在のものである
水島 仁
精神科専門医、認定内科医。首都圏の民間病院の急性期病棟に勤務する傍らセイバーメトリクスを活用した分析に取り組む。 メジャーリーグのほか、マイナーリーグや海外のリーグにも精通。アメリカ野球学会(SABR)会員。