人気高校野球漫画で、学生帽を被り、葉っぱをくわえてプレーする破天荒のキャラクターがいる。プレーぶりも豪快で、ど真ん中のボールを大の苦手とし、悪球を絶好球とする。

アダム・ジョーンズは悪球打ち打者の代表


9月10日にオリックスの新外国人選手のアダム・ジョーンズが今季61本目の安打を記録し、日米通算2000本安打を達成した。外野手としてゴールドグラブ賞5回、オールスター選出5回、シルバー・スラッガー賞1回、アメリカ代表としてWBC優勝など輝かしい実績を誇るジョーンズだが、実は打撃スタイルは冒頭に登場した漫画のような特徴をもっている。

「ブンブン振り回す強打者」——日本に来る外国人選手で結果的に期待はずれの成績に終わってしまった打者の場合、「大型扇風機」と揶揄されることが多い。そして、今季NPBに来日した新外国人打者もストライクゾーン外のボールでも積極的に振っていく「大型扇風機」のような打者も多い。彼らはMLBのスタイルのまま日本で活躍できているのか。過去の来日外国人選手とも比較してみたい(1point02のデータが揃っている2014年以降NPBでプレーした外国人選手に限る)。

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表1がその一覧だ。一般的にボール球をスイングする割合は日米ともに30%のようだ。そんな中でもジョーンズはMLB通算のボール球スイング率が41.5%と、悪球打ちのバッターであった。2001年から2019年のMLB打者の中で、ボール球スイング率の高さは10位に入るほどである。



そして彼は悪球打ちの中でも、ある投球コースへの傾向に大きな特徴を抱えている。図1を1番左から見てほしい。2016-19年までの4シーズン、ジョーンズに投じられた計8223球のうち、実に26.6%にあたる2106球をアウトローのボールゾーンに投じられている。そしてジョーンズはその2106球のうち911球(43.3%)をスイングし、そのうち443球を空振りしている(スイングのうち48.6%)。

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それだけでなく、スイングしたうちバレル[1]だったのは4年間でわずか1本のみ。つまり当たっても強い打球は飛ばず、投手へのダメージも最小限に止まっていた。ジョーンズはこのコースを大きな弱点としており、そしてその弱点を突く投球を相手バッテリーから受けているようだ。

同様のことは同じく悪球打ちの新外国人選手のアルシデス・エスコバー(ヤクルト)にも言える。彼もまた右打ちでストライクゾーン外のアウトローを弱点としている。この2人、どちらもアウトローが苦手ということは共通しているものの、ジョーンズはアウトローも積極的に振っていくのに対して、エスコバーの場合、手は出しにくい傾向がある。ただともに手を出すといい結果につながらないようだ。




日本でもアウトローを攻められるジョーンズ


今季の開幕前、ジョーンズはアメリカのPodcast「The Heckle Deez Podcast」に出演し、「今はストライクゾーンの見極めをしている」と述べていた。そんなジョーンズの適応は果たして成功し、打撃スタイルを改善できただろうか。

以下の図2-1は日米通算2000本安打を達成した9月10日までのジョーンズのコース別の投球割合のデータだ。10日時点でジョーンズに対しては、1006球が投じられているが、そのうちさきほど弱点と紹介したアウトローには、全投球の13.6%となる137球が投じられている。これはほかのコースに比べても明らかに高い割合だ。おそらくMLBにおけるジョーンズのデータを参考にしていると考えられる。

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こうした投球に対し、ジョーンズの対応はどうなっているだろうか。図2-2を見てほしい。NPBでのジョーンズは打席から最も離れたアウトローのボール球へのスイング率が21.2%にとどまっている。高さ/コースがストライクゾーンに近づくとMLB同様にスイング率が高くなっているが、それでもここまでは極端なボール球には手を出さずに済んでいるように見える。

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ただ、こうしたアウトローの投球に手を出した場合の結果のコンタクト率の悪さは変わっていない。図2-3はジョーンズのコンタクト率をコース別に表したものだ。最も遠いアウトローのボール球は、スイングしたうち27.6%しかコンタクトできていない。コンタクトについては問題が依然として残っているが、Podcastで語っていた見極めについては、もしかするとうまくいっているのかもしれない。



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ジョーンズは2年契約(3年目は球団にオプション権あり)であるため、来季も日本でプレーすることになる。9月は失速気味だが、NPBの投手にも慣れてきた8月には月間OPS .914も記録していた。シーズン後半戦、そして来季に向けて活躍が楽しみな存在である。

[1]バレルとは打球速度と打ち上げ角度(打球角度)の組み合わせで、このゾーンに入った打球は打率.500、長打率1.500を超えると言う。最低でも99MPH以上の打球速度が必要とされ、このときの打ち上げ角度(打球角度)は25-31°だが、116MPHを超えると打ち上げ角度は8-50°にも広がる。

水島 仁
精神科専門医、認定内科医、日本スポーツ協会認定スポーツドクター。 首都圏の病院の急性期病棟に勤務する傍らセイバーメトリクスを活用した分析に取り組む。 メジャーリーグのほか、マイナーリーグや海外のリーグにも精通。アメリカ野球学会(SABR)会員。
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