読売はオールスター前からケーシー・マギーを二塁に置き、好調が続いている。守備の要である二塁をマギーに任せることは攻撃面ではプラスだが、守備面ではマイナスもあるはずだ。この作戦はどれほどの成果を挙げているのだろうか。
「マギー・シフト」で初回から得点は大幅増
7月12日より読売は2番・二塁にケーシー・マギーを据える布陣になりました。今回はこれを「マギー・シフト」と呼ぶことにします。二塁には守備力に長けた選手を配置するのがセオリーですが、マギーはそのような選手ではありません。チームとしても、守備には目をつぶりつつ、打撃による貢献を期待するという思いきった策に出たといえるのではないでしょうか。
まずマギー・シフトを採用して、チームとしての成績がどう変わったのかを見ていきます。以下の表1に7月31日までの読売の勝敗と平均得点・失点を示します。
開幕から交流戦前、交流戦、交流戦からマギー・シフト採用前、マギー・シフト採用以降の4つの時期に分類してそれぞれの勝率と平均得点・失点を求めています。4つの時期を比較すると、マギー・シフト採用以降の勝率と平均得点が最も高くなっています。
マギー・シフトにより心配された失点抑止面も劇的な悪化は見られません。もう少し詳しく見るために、6月以降の得点・失点と勝率の推移を以下の図1に示します。
得点と失点は前後2試合を含む5試合の平均値で示しており、左の軸を参照しています。勝率は試合ごとに算出し、右の軸を参照しています。
6月上旬の勝率の底がちょうど大型連敗のころで、そこから徐々に勝率は上昇してきています。マギー・シフト採用以降は得点が失点を上回っていますが、徐々に失点も高くなってきているのが確認できます。
次に、マギー・シフトを採用した試合での得点や失点の入り方、展開を見るために、2017年の読売の試合の各イニングにおける平均累積得点・失点を4つの期間で比較したものを以下の図2に示します。
グラフは1~9回までに累積してカウントしているので基本的には右上がりの図になります。図を見てわかるのは、マギー・シフト採用以降は1回から得点力が高いことがわかります。これが全てマギー選手のバットから生まれたわけではありませんが、上位に強打者を並べた結果がこの初回から得点が高くなるという結果となったといえます。
右側の失点のグラフを見てみると、マギー・シフト時は序盤の失点こそ少ないものの、試合中盤から終盤にかけて失点が増えています。
ところで、野球というのは運が大きく絡む競技で、連打で塁を埋めはしたけれど、あと1本が出ずに無得点で終わる場合もあれば、非常に効率よく得点ができる場合もあります。試合の展開をより正確に描写するためには得点・失点にはつながらなかったものの、どれだけ期待値を上げることができたかという視点も必要です。
今回はこれを見るために、勝利確率(特定の点差・イニング・アウトカウント・走者状況から平均的にチームに見込まれる勝率)を使います。各イニングを攻撃時と守備時に分け、攻撃時は勝利確率が最大化した時点の値を、守備時は勝利確率が最低となって時点の値を記録し、平均にしました。これによって得点には至らなかったチャンスとピンチも対象とすることができます。
マギー・シフト時の勝利確率が全体的に高いことを確認できますが、5回、6回の攻撃をピークに緩やかに低下しています。これは、この辺りで試合をひっくり返されるケースが多いためと考えられ、図2で示した中盤での失点の増加もこれを裏付けていると考えられます。確かにマギー選手のUZR(Ultimate Zone Rating)はマイナスで、7月中にエラーを2回していますが、それだけでここまで影響があるとは考えにくく、どちらかというとリリーフ投手の質の問題のほうが大きいと考えます。
攻守の貢献を得点化すると劇的な改善は見られない
チーム全体のパフォーマンスの変化がわかったところで、マギー・シフトが具体的にどの程度の成果を挙げているかに踏み込んでいきたいと思います。まず、マギーと他球団の二塁手ではどの程度打力に差があるか見てみます。
主に菊池涼介が守る広島の二塁がセ・リーグでは最も高くなっていますが、マギーはそれ以上の打力を見せています。さらに読売の二塁はリーグで最も打力を欠いており、ここにマギーを置くことは劇的な攻撃力の改善をもたらしそうです。読売の主要二塁手の打撃成績も確認しておきましょう。
wOBA(weighted On-Base Average)を見ると、今季二塁を多く守っている中井大介や山本泰寛に比べマギーの打力は圧倒的です。wRAA(weighted Runs Above Average)はリーグ平均に比べ、得点換算した打撃貢献をどれだけ積み上げたかを示しています。これを年間600打席に換算すると、中井に代わりシーズンを通してマギーを二塁手として起用した場合、50点以上の攻撃力の改善が望めると試算できます。
ただこの時セットで考えなければならないのは、マギーが不在となった三塁が空席となることです。現状、三塁は村田修一が多く出場しています。攻撃の面で見ると、中井や山本の代わりにマギーが入るというよりは、その分の打席が村田に与えられると考えたほうがいいでしょう。村田は今季リーグ平均レベルの打力を見せているので、大きなマイナスをつくっている中井や山本と比較すると攻撃力の改善が期待できます。
次に守備面を見ていきます。表4に読売の主要二塁・三塁手が今季残しているUZRを示します。
マギーは本職の三塁でも、フルシーズン目安の1200イニングあたりUZR-12.9と守備面で大きなマイナスとなっていました。二塁でもすでにUZRはマイナスとなっています。まだ短いイニングなので今後の起用でこのペースで数値が推移するとは断言できませんが、数値を1200イニングに換算したUZR 1200では二塁手のほうがより数値が悪くなっており、予想どおりの結果です。また三塁・村田の数値はマギーが守る三塁以上に数値が悪く、マギー・シフトでの守備面でのマイナスは甚大なものになりそうです。
攻撃面では大きなプラス、守備面では大きなマイナスとなるマギー・シフトですが、総合的に見るとどの程度の影響があるのでしょうか。攻守の貢献をフルシーズンの目安に換算したものを二塁・三塁の組み合わせごとに示したのが表5となります。
総合的な評価では二塁・中井、三塁・マギーの組み合わせが最も効果的という結果になりました。マギー・シフトは守備面でのマイナスがあまりにも大きすぎるようです。ただあまりにも少ないイニングをフルシーズンに換算しているため、機会を伸ばしたときにこういった数値のとおりになることはありません。ただ少なくとも総合的に見るとマギー・シフトがチームに劇的な改善をもたらしているとは言えなさそうです。
もう1つ見てもらいたいのがゴロの守備機会のデータです。以下の図4はフィールドを角度、または距離で区切ったものです。
この図に今季ゴロが飛んだ位置をプロットし、読売の守備時に赤く囲んだに到達したゴロについてどのゾーン(C~X)に飛んだか、その割合を示したものが図5になります。
マギー・シフト採用時(7/12~)の赤い折れ線を見ると、一・二塁間、二塁手の定位置周辺(Q、R、S)へのゴロが多いことが確認できます。偶然という可能性もありますが、守備力の低いマギーを狙い打ちされている可能性も十分にありえるのではないでしょうか。相手もプロですから、守備にあらのある選手がいればそこを突いてくるのは当然です。マギーを二塁に据えるということは、優れた打撃に対して守備面ではこのようなリスクを抱えるということになります。
他選手の好調な時期が重なったこともあるが、一定の評価は与えられる
以上、マギー・シフトによりどの程度の効果があったのかを見てきました。攻守貢献を得点化したもので見ると劇的な効果をあげているわけではありませんが、チームが機能したということはこの作戦は今の所上手くいっており、結論としてはこのシフトを続けていくほうが良いと考えます。
ただチームの勝敗や試合展開の変化に関しては、マギー・シフトによるものだけとはいえないでしょう。得点増には陽岱鋼や長野久義、村田が調子を上げてきたことも影響しています。ただ、このシフトの長所は、強打者の数が多いので、毎試合結果を出さなくても誰かが打てば良い状態をつくれることにあると思います。これは各打者の負担を軽減するもので、好循環を生み出しているのではないかと考えられます。
しかし阿部慎之助、村田、マギーの3選手の誰か1人にトラブルが生じた時点でこのシフトを継続することはできなくなるでしょう。そのような事態に陥った時に、以前のように二塁手には守備的な選手を起用するのか、それとも新たな強打者を一塁・三塁に起用するのか、こうした点にも注目しておきたいと思います。
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