野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、2020年の日本プロ野球での野手の守備における貢献をポジション別に評価し表彰する“1.02 FIELDING AWARDS 2020”を発表します。これはデータを用いて各ポジションで優れた守備を見せた選手――いうならば「データ視点の守備のベストナイン」を選出するものです。
“1.02 FIELDING AWARDS”について
“1.02 FIELDING AWARDS”は、米国のデータ分析会社Sports Info Solutionsが実施しているデータを用いた選手の守備評価表彰“THE FIELDING BIBLE AWARDS”に倣ったものです。
“THE FIELDING BIBLE AWARDS”は2006年から行われており、米国ではデータ視点で守備を評価する流れが非常に強くなっています。MLBでは近年、ゴールドグラブ賞の選定にデータを考慮するという方針転換が行われており、さらに60試合の短縮シーズンとなった今季は、投票ではなく統計データを用いた守備指標のみでゴールドグラブの受賞選手が決められたと伝えられています。この選出手法に是非はあるかとは思いますが、データの視点で守備を評価することのプライオリティが高くなっていることは確かなようです。
DELTAでは、日本においてもこうしたデータ分析を通じた守備の評価を定着させるため、2016年よりこうした表彰を行っており、今年が5回目となります。今回は9人のアナリスト(DELTA社より2名と協力アナリスト7名)が参加し、2020年シーズンにおける野手の守備について、個々の手法で分析・評価・採点を行いました。
セイバーメトリクスの守備指標というと、UZR(Ultimate Zone Rating)などが知られるようになってきていますが、こうした指標がある以上、それぞれのアナリストがまた別に分析をやり直し、投票を行う必要はないのではないかと思われるかもしれません。しかし、UZRは守備による貢献を評価するベーシックな手法の1つに過ぎません。グラウンドでは数多くの出来事が発生しますが、それをどのように拾い上げて守備の評価に用いるか、その手法はいくらでもあります。“1.02 FIELDING AWARDS”では、より多角的な視点による分析を評価に反映させるため、このような手法をとっています。
評価の対象選手
シーズン500イニング以上を守った選手。
選出方式
9人のアナリストがそれぞれの評価に基づき、対象選手に1位=10ポイント、2位=9ポイント……10位=1ポイント、11位以下は0ポイントといった形で採点し、合計ポイントがポジション内で最も高かった選手を選出。
“1.02 FIELDING AWARDS 2020”受賞選手
捕手の1位は木下拓哉選手となりました。木下選手は今季初めてシーズン500イニング以上をクリアし評価の対象となった選手ですが、アナリスト9名のうち8名から1位票を獲得し88点を獲得しています。
捕手については、2018年よりDELTA取得の投球データを使ったフレーミング(捕手がより多くのストライクを奪うための捕球)も一部アナリストは評価の対象としています[1]。木下選手はこのフレーミング評価で他の追随を許さぬ圧倒的な成績を残しました。捕手にはほかにも、盗塁阻止などさまざまな能力が求められますが、ほかの要素では覆しきれないほどの圧倒的な大差をつけたことが、木下選手がトップの評価となった最大の理由となったようです。中日投手陣躍進の裏に、木下選手のフレーミングがあると評価するアナリストもいました。
甲斐拓也選手(ソフトバンク)はほかの項目では好成績を残しましたが、フレーミングがマイナス評価で4位に。ほかには大城卓三選手(読売)や梅野隆太郎選手(阪神)など、セ・リーグの捕手の健闘が目立つというコメントもありました。
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一塁手も木下選手と同じく中日所属のダヤン・ビシエド選手がトップになりました。ただ大差をつけて1位となった木下選手とは異なり、こちらは2位の村上宗隆選手(ヤクルト)とわずか4ポイント差の接戦でした。1位票が3選手に割れたのはこの一塁手だけ。村上選手のほかに中島宏之選手(読売)も高評価を得ました。
ビシエド選手はUZRの要素の1つである打球処理評価(RngR)において、対象一塁手トップの4.1を記録。守備範囲の広さだけでなく、失策抑止を通じた貢献を表す指標ErrRでも一塁手トップと、打球を堅実に範囲広く守ることで評価を高めていたようです。
一塁手特有のプレーであるワンバウンド送球を処理するプレーを評価に組み込むほか、打者の左右別の打球傾向の違いに注目し、分析を行ったアナリストもいます。
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二塁はほぼ満点の89点を獲得した外崎修汰選手を選出しました。外崎選手は打球処理貢献に優れていたほか、二塁手に重要な併殺を完成させることによる貢献(DPR)の点でも高い評価を得ています。守備面でのオールラウンドなはたらきが評価され、飛び抜けたポイントを獲得しました。
外崎選手以外で唯一1位票を獲得したのは、吉川尚輝選手(読売)。今季、シーズン無失策記録を達成した
菊池涼介選手(広島)は3位と、波乱の展開となりました。菊池選手は失策の少なさという要素(ErrR)では高評価を得ましたが、より差がつきやすい打球処理の面では外崎選手や吉川選手に及ばなかったようです。打球処理をさらに捕球と送球に分けて評価を行ったアナリストからは、菊池選手は送球に秀でているものの捕球の面ではマイナスになったという評価もありました。
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三塁は満点で岡本和真選手がトップとなりました。岡本選手は昨季まで2年連続で一塁手で下位評価を受けていましたが、三塁コンバート初年度で素晴らしい守備貢献を見せています。三塁は一塁よりも守備力の高い選手が多いポジションであり、より競争力が高いポジションへのコンバートでこれほど評価が好転するのは異例のことといえます。
2位は岡本選手には大差をつけられたものの、全アナリストから2、3位票を獲得した
高橋周平選手(中日)。高橋選手は昨季に続き2年連続の2位評価となりました。これまでの三塁手の受賞者である松田宣浩選手(ソフトバンク)、宮﨑敏郎選手(DeNA)、大山悠輔選手(阪神)はいずれも中位以下に沈む結果に終わっています。
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ルーキーイヤーから3年連続満点で受賞中の源田壮亮選手が2020年もトップ評価となりました。今季は満場一致とはいきませんでしたが、88ポイントとほぼ満点に近いポイントを獲得しています。二塁手で選出の外崎選手とのコンビで併殺を奪うプレーが非常に優れていたようです。ただ例年に比べると打球処理の面では本調子ではなかったという声もありました。
2位以下は
坂本勇人選手(読売)と京田陽太選手(中日)が僅差となっています。昨季の坂本選手の評価は11選手中6位とやや順位を落としましたが、今季は1位票も獲得するなど高い守備力を見せていたようです。
今回は、UZRに球場ごとの打球処理のしやすさで補正をかけ分析・評価を行ったアナリストもいました。ただ今季の遊撃手に関しては順位が大きく変動するほどの差は生まれていなかったようです。
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左翼手:青木宣親(ヤクルト)
左翼手は、今季中堅から本格的にコンバートされた青木宣親選手を選出しました。青木選手は広い守備範囲に加え、送球や走者を自重させることで進塁を食い止める走塁抑止貢献(ARM)でも素晴らしい数値を記録していました。青木選手の38歳という年齢を考えると、驚きを与える結果だったと言えます。
青木選手以外では、島内宏明選手(楽天)が1位票を1票獲得。それ以外のアナリストからもすべて2位票を獲得し、2位につけました。左翼のポジションは例年、守備面でパ・リーグ選手がセ・リーグ選手を圧倒する傾向が続いていました。これについては、指名打者制のないセ・リーグ球団は守備に目をつぶり左翼に打力重視の選手を配置することが多いためではないかという指摘がなされていました。ですが、今季はこれが逆転し、セ・リーグの左翼手のほうがより好成績を残しているという声もありました。
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中堅手は、アナリスト全員から1位票を獲得した近本光司選手を選出しました。UZRでも突出した値を残していた近本選手ですが、異なる要素も用いたアナリストの分析を通じても、打球処理能力は圧倒的だったと評価されました。
ほかのポジションとは異なり、中堅手の2位以下は僅差でした。大島洋平選手(中日)は3位票から8位票まですべて獲得するなど評価が分かれました。昨季、左翼手で満点受賞だった金子侑司選手(西武)も、競争の激しい中堅手の中では傑出した成績を残せていません。
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右翼手:大田泰示(日本ハム)
右翼手は大田泰示選手が初の選出となりました。こちらもアナリスト全員から1位票を集めました。大田選手は打球処理評価に加え、左翼の青木選手と同じく進塁抑止貢献(ARM)でも高評価を得ています。ただ、1位に選出したアナリスト間でも意見が割れる部分も見られ、大田選手が圧倒的だったという見解もあれば、捕球(打球処理)に関しては松原聖弥選手(読売)が上回っており、僅差であったという見解もありました。
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なお、選出に参加したアナリストが、どのような手法で評価を行ったか、各ポジションにおける採点・順位については、「参考分析」として、後日1.02(https://1point02.jp/)にて公開いたします。
[1]DELTA取得の投球データは目視により入力されたものであり、機械的に取得したデータと比べた際には精度の部分で課題を抱えています。そんな中でも、データ入力におけるルールの厳格化、分析時のデータの扱いにおいて注意を払うことを徹底したうえで、フレーミング評価を解禁しています。
2016年、2017年、2018年の1.02 FIELDING AWARDS受賞選手をチェック