野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、先日、データで選ぶ守備のベストナイン
“デルタ・フィールディング・アワード2024”を発表しました。ここでは投票を行ったアナリストが具体的にどのような手法で分析を行ったか、またその分析からの感想を紹介していきながら、具体的に分析データを見ていきます。今回は三塁手編です。受賞選手一覧は
こちらから。
対象三塁手に対する6人のアナリストの採点
三塁手部門では栗原陵矢(ソフトバンク)が2年連続の受賞者となりました。栗原はアナリスト6人全員から1位票を獲得。満票での選出です。栗原が高い評価を得たのは圧倒的な守備範囲。アナリスト宮下は栗原を選出した理由に「2位以下にトリプルスコアを付ける文字通り桁違いの守備範囲評価」を挙げ、賛辞を贈っています。
2位は坂本勇人(読売)。コンバート1年目ながら、アナリスト6人全員から2位票を獲得するなど高い評価を得ました。昨季まで務めていた遊撃では守備の衰えが指摘されていましたが、三塁コンバート後初のフルシーズンとなった今季はレベルの違いを見せました。アナリスト道作氏はこの成績向上について「より負担が小さい守備位置に回った際、以前からよく見られる現象」とコメントしています。
3位以降は福永裕基(中日)、中村奨吾(ロッテ)のコンバート組がランクイン。多くのコンバート組が苦労する中、この2選手はまずまずの評価を得ています。昨年本企画で11人中10位に終わった村上宗隆(ヤクルト)は5位まで順位をアップ。決して評価が高いわけではありませんが、打撃型の野手として最低限の守備力を保っているでしょうか。
6位以降は浅村栄斗(楽天)、郡司裕也(日本ハム)、宗佑磨(オリックス)と続きます。コンバート1年目の浅村、郡司はどちらも平均を下回る評価に。宗は2021-23年と3年連続でゴールデングラブ賞を獲得した守備評価の高い選手ですが、本企画ではここまで受賞に至っていません。
下位は小園海斗(広島)、佐藤輝明(阪神)、宮﨑敏郎(DeNA)の並びに。この3選手は8ポイントで並びましたが、より高順位での得票があった選手を上位としています。2017年の受賞者である宮﨑はすでに35歳。守備に過度な期待をするのは厳しい年齢と言えるでしょうか。昨年1位票も獲得して5位にランクインした佐藤は大きく順位を下げる結果に。阪神の野手は他ポジションでも守備成績が悪化しており、アナリスト道作氏は優勝を逃した要因にこの守備難を挙げています。23歳の小園はベテランの多いポジションでも強みを見出せず。コンバート1年目は厳しい結果となりました。また、アナリスト佐藤氏は下位に沈んだ選手の特徴に「速いゴロのアウト率の低さ」を挙げています。
アナリスト二階堂氏は「評価が上下で二極化しているポジション」とコメント。実際にアナリスト間で大きく評価が割れる選手は出ていません。守備力の優劣がかなりはっきりしたシーズンだったようです。
各アナリストの評価手法(三塁手編)
- 岡田:UZR(守備範囲+併殺完成+失策抑止)を改良。送球の安定性評価を行ったほか、守備範囲については、ゾーン、打球到達時間で細分化して分析
- 道作:過去3年間の守備成績から順位付け
- 佐藤:基本的にはUZRで評価。ただ値が近い選手はゴロのアウト割合を詳細に分析し順位を決定
- 市川:守備範囲、失策、併殺とUZRと同様の3項目を考慮。だが守備範囲についてはUZRとは異なる区分で評価。併殺についてもより詳細な区分を行ったうえで評価
- 宮下:守備範囲、併殺完成評価を機械学習によって算出
- 二階堂:球場による有利・不利を均すパークファクター補正を実施
UZRの評価
各アナリストの採点を見たところで、いま一度、UZR(Ultimate Zone Rating)で行ったベーシックな守備評価を確認しておきましょう。
UZRでも栗原がトップとなっています。1221.1イニングを守り、同ポジションの平均的な選手に比べ18.2点分の失点を防いだという評価です。2位は坂本。3位以降はUZRで大きなプラスを得た選手がおらず、栗原と坂本でほぼ寡占する結果に。また守備範囲評価RngRにおいてもこの2名のみがプラス評価となっています。
このように、UZRの評価で最も大きな差がつくのが守備範囲評価です。具体的にどういった打球を得意・不得意としているのか、各選手の処理状況を確認していきましょう。以降、選手ごとに表示される図はどのゾーンの打球処理を得意・不得意としていたかを表したものです。値は平均的な三塁手と比較してどれだけ失点を防いだかを示します。
栗原陵矢(ソフトバンク)
栗原の守備範囲評価は全体トップの12.5。トップは2年連続で、現在の三塁手の中では圧倒的な存在と言えるかもしれません。ゾーン別に見ても満遍なく失点を防いでおり、弱点となったゾーンはほとんど見当たりません。特に三塁線打球への強さは抜群です。またアナリスト市川氏は「ゾーン別の評価だけでなく、速い打球の処理においても他の三塁手に大きく差をつけた」とコメントしています。三塁線打球への強さはそのあたりも影響しているのかもしれません。
坂本勇人(読売)
坂本の守備範囲評価は5.5。35歳と高齢で過ごしたシーズンながらさすがの守備力を見せました。ゾーン別に見ると、最も三塁線寄りのゾーンCで平均的な三塁手に比べ3.5点分失点の失点抑止。定位置周辺含め、三塁線寄りの打球を得意としている様子がわかります。一方で栗原に差をつけられたのは三遊間の守備範囲。ここは平均レベルの処理成績にとどまりました。このあたりは年齢の問題が出ているところかもしれません。ただベテランとしては十分すぎる好成績。さすがは元遊撃の名手です。
福永裕基(中日)
福永の守備範囲評価は-0.3と平均クラス。もともとは二遊間も守れる選手ですが、三塁のレベルでも違いを見せるまでには至っていません。ゾーン別に見ると、定位置から三塁線の打球では多くの失点を防いでいる一方、三遊間のゾーンでは失点を増やす結果に。とはいえ他選手に比べると極端な強み・弱みがなく、ゾーン別に見ても平均的な結果に落ち着いています。
中村奨吾(ロッテ)
中村の守備範囲評価は-1.3。今季は2017年以来7年ぶりに三塁を務めましたが、まずまずの評価というところでしょうか。定位置から三遊間寄りのゾーンに強みを見せている一方、定位置から三塁線の打球ではマイナスとなっています。そもそものポジショニングがやや三遊間寄りにあるのかもしれません。
村上宗隆(ヤクルト)
村上の守備範囲評価は-2.7。昨季の守備範囲評価-5.2から改善が見られました。強みとなったのは三遊間。ゾーンFをはじめに、遊撃手の守備範囲に入る打球も先にカットして処理できている様子が伺えます。一方、かなり苦手としているのが定位置から三塁線のゾーン。三塁線に弱いのは昨季も同様です。こちらもポジショニングがそもそも三遊間寄りである可能性がありそうです。
浅村栄斗(楽天)
浅村の守備範囲評価は-8.2。二塁からのコンバート1年目は平均を大きく下回る評価となりました。ゾーン別で見ても軒並みマイナスを記録しており、特に三遊間の打球で多くの失点を喫しています。すでに33歳でこれから劇的な改善を望むのは難しく、かつてブレイク時に守った一塁への再コンバートを検討して良いかもしれません。
宗佑磨(オリックス)
宗の守備範囲評価は-6.4。2021年以降守備範囲評価は10.7→-2.2→-3.6と下降線を辿っていましたが、今季はさらに低い結果に終わってしまいました。
ゾーン別に見ると、定位置のゾーンDでは平均以上の処理能力を見せているものの、三塁線、三遊間の打球でどちらも失点を増やす結果に。メジャーリーガーばりのアクロバティックな守備の印象が強い選手ですが、意外にも守備範囲の狭さを示唆するデータが出ています。特に三塁線への弱さは守備指標が低迷する2022年以降、一貫した傾向が続いています。
郡司裕也(日本ハム)
郡司の守備範囲評価は-5.3。捕手から三塁へのコンバートでは栗原という成功例がいますが、郡司のコンバート1年目は平均を下回る評価に終わりました。致命的な弱点となるゾーンこそありませんが、どのゾーンでも平均をやや下回る結果となっています。ただそもそも三塁守備で素晴らしい成果を残すと想定されていたわけでもなく、破綻のない成果を見せたという意味でポジティブに捉えるべきでしょうか。
宮﨑敏郎(DeNA)
宮﨑の守備範囲評価は-10.0。本企画を受賞した2017年の翌年以降守備成績が急落しており、今季も平均を大きく下回る成績となっています。昨季は定位置の打球に強みを見せていましたが、今季はそのゾーンDで-1.9と平均以下の結果に。他のゾーンにおいてもマイナスとなっており、特に三遊間の打球で失点を増やしています。
他のポジションへのコンバートも検討したいところですが、脚力の問題から外野はさらに難しく、一塁にはすでにタイラー・オースティンが定着しています。チーム事情を踏まえると来季も守備での損失を我慢しながら三塁で起用するかたちになるでしょうか。
佐藤輝明(阪神)
佐藤の守備範囲評価は-5.7。昨季は平均クラスの守備範囲評価を記録しましたが、今季は一転大きく平均を下回る結果に終わりました。定位置の打球では上位クラスの処理能力を見せている一方、昨季得意としていた三遊間寄りのゾーンF、Gで多くの失点を増やしています。他球団の三塁手と比較してもまだまだ若いため、来季以降の復調を期待したいところです。
小園海斗(広島)
小園の守備範囲評価は全体ワーストの-12.2。元々遊撃において評価の分かれる選手でしたが、三塁へのコンバート1年目は苦しいシーズンとなりました。ゾーン別に見ると三遊間の打球が明確に弱点となっており、ゾーンEで-4.7点、ゾーンF点で-7.2点とチームの失点を大きく増やしてしまいました。遊撃では一定の成果を残していた選手だけに、これほどの損失を記録するのはかなり衝撃的です。根本的な運動能力に問題があるとは考えづらく、もしかすると三塁特有の動きに適応できていないのかもしれません。
来季の展望
2年連続受賞となった栗原が来年も最有力候補。2位の坂本にすら大きく差がつけており、フルシーズン守ることさえできれば安定した守備貢献が見込めるのではないでしょうか。
今季のコンバート組はふるいませんでしたが、現状断トツの評価を得ている栗原も元々はコンバートで開花した選手。若くして守備でバリューを稼げる野手が三塁にコンバートされるようなことがあれば「栗原一強」の構図にも変化があるかもしれません。
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