野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、先日、データで選ぶ守備のベストナイン“デルタ・フィールディング・アワード2024”を発表しました。ここでは投票を行ったアナリストが具体的にどのような手法で分析を行ったか、またその分析からの感想を紹介していきながら、具体的に分析データを見ていきます。今回は左翼手編です。受賞選手一覧はこちらから。

対象左翼手に対する6人のアナリストの採点

左翼手部門では近藤健介(ソフトバンク)が受賞者となりました。近藤はアナリスト6人全員から1位票を集め、60点満点での受賞です。近藤の受賞はこれで2年連続。打撃でのはたらきが目立ちがちですが、比較的打撃型の選手が多い左翼手の中では抜きん出た守備力となっているようです。

実際に下位グループにはドミンゴ・サンタナ(ヤクルト)前川右京(阪神)佐野恵太(DeNA)といった打撃型の選手が並んでいます。道作氏は左翼のこの状況を「負傷者や守備が得意でない選手の避難所のように扱われている」と評しています。打撃だけでなく、守備でもバリューを出せる選手とそうでない選手の間で大きく差が出る結果となりました。

トップの近藤と下位グループで大きく評価が分かれる中、2位となったのは今季ブレイクを果たした水谷瞬(日本ハム)。2位票を水谷に投じた市川博久氏は「水谷の守備範囲自体は平均的。ただ、左翼というポジション自体平均以下の守備力の選手が多い」とコメント。レギュラークラスより、出場機会の少ない守備固めの選手のほうが優れた守備力を発揮している傾向が強いようです。

アナリスト宮下博志は機械学習を用いて独自の守備評価を算出。この手法ではほかのアナリストに比べ佐野の評価が高まったようで、宮下は2位票を投じています。

    各アナリストの評価手法(左翼手編)
  • 岡田:ベーシックなUZR(守備範囲+進塁抑止+失策回避)をやや改良。守備範囲については、ゾーン、打球の滞空時間で細分化して分析
  • 道作:過去3年間の守備成績から順位付け
  • 佐藤:飛球の落下地点と滞空時間からアウト期待値を算出。これを12球団本拠地ごとに集計し守備範囲評価とした(地方球場などは対象外)。またタッチアップの評価も補助的に活用している
  • 市川:UZRと同様の守備範囲、進塁抑止、失策回避の3項目を考慮。だが守備範囲についてはUZRとは異なる評価法を採用。定位置付近からの距離と滞空時間で区分し分析
  • 宮下:守備範囲、進塁抑止評価を機械学習によって算出
  • 二階堂:球場による有利・不利を均すパークファクター補正を実施

UZRの評価

各アナリストの採点を見たところで、いま一度、UZR(Ultimate Zone Rating)で行ったベーシックな守備評価を確認しておきましょう。

UZRの値でトップとなったのはやはり近藤。2位の水谷に大差をつけ、2年連続のトップとなりました。近藤は733.1イニングを守り、同ポジションの平均的な選手に比べ17.5点分の失点を防いだという評価です。UZRワーストのサンタナは、守備範囲評価RngRで-11.7と大きなマイナスを食らいました。トップの近藤とは守備範囲評価だけで実に20.9点分の差がついています。

近藤とサンタナの例のように、最も大きな差がつくのが守備範囲評価です。具体的にどういった打球を得意・不得意としているのか、各選手の処理状況を確認していきましょう。

表内の距離、ゾーンは打球がフィールドのどういった位置に飛んだかを表しています。図1の黄色いエリアが対象のゾーンです。対応させて見てください。黒い円のマークが定位置の目安。値は平均的な左翼手に比べどれだけ失点を防いだかです。

近藤健介(ソフトバンク)

昨季トップの守備範囲評価を記録した近藤。今季も安定して広い範囲で高い処理能力を見せ、守備範囲評価は対象左翼手で断トツの9.2を記録しています。特に差をつけたのは定位置前方にあたる距離4、5、6。このエリアの打球処理で平均的な左翼手に比べ6.9点多くチームの失点を防いだようです。またゾーンHやIの左中間エリアでも失点を多く防いでいます。近藤は昨季も左中間の打球で大きくプラスを記録しているため、はっきり得意としている可能性が高そうです。

水谷瞬(日本ハム)

水谷の守備範囲評価は1.9。ゾーン別の守備範囲を見ると、はっきりとした傾向が出ているわけではありません。定位置後方ではマイナスを記録したものの、フェンス際にあたる距離8全体では対象6名のうち唯一のプラス。広範囲にわたって安定した守備を見せましたが、ライン際の距離7ゾーンCでは-3.0点と大きく失点を増やしてしまいました。

佐野恵太(DeNA)

例年ワーストクラスのUZRを記録している佐野。今季は対象選手内3位となる-4.3を記録しましたが、守備範囲評価-7.9とやはり低迷しています。昨季は定位置周辺の打球で平均以上の処理能力を見せましたが、今季は左中間の打球を多く処理しています。一方で大きなマイナスとなったのは左翼線の打球。もしかするとポジショニングを左中間寄りにするなどの調整を行ったのかもしれません。

西川龍馬(オリックス)

西川の守備範囲評価は-4.4。過去数年は左翼線寄りにあたるゾーンC〜Eを得意としていましたが、今季はその範囲でマイナスを記録してしまいました。例年苦手としていた左中間の打球処理も改善されず。定位置周辺では平均以上の処理能力を見せたものの、他のエリアにおけるマイナスが響く結果となりました。移籍1年目の今季は打撃の不調が目立ちましたが、守備面でも苦戦していたようです。

前川右京(阪神)

前川の守備範囲評価は-4.9。ゾーンごとに得意・不得意がはっきりしています。定位置周辺は不得意としている一方、左中間寄り、左翼線寄りのゾーンDではプラスを記録しました。ただ、もっとも左翼線に近いゾーンCでは大きなマイナスに。もしかしたら本拠地・甲子園球場の浜風も影響しているのかもしれません。

ドミンゴ・サンタナ(ヤクルト)

今季右翼から左翼にコンバートされたサンタナ。右翼では平均をやや下回る程度の守備範囲でしたが、左翼では多くの失点を喫してしまいました。守備範囲評価ではワーストとなる-11.7。左翼線方面のエリアではかろうじて平均程度の処理能力を見せたものの、定位置付近のエリアでは大きくマイナス。今季は打撃でチームをけん引しましたが、対照的に守備では足を引っ張る結果となりました。

来季の展望

道作氏のコメントにあるように、現状左翼は負傷者や守備が得意でない打撃型の選手が多く務めるポジション。それによって上位と下位がはっきりと分かれる結果になっています。このあたりの起用法に変化がなければ、2年連続で受賞している近藤が来季も最有力に挙がるのではないでしょうか。左翼手にも守備力を求めるような起用や、他ポジションからのコンバートがあれば、ランキングに大きな変動があるかもしれません。


データ視点で選ぶ守備のベストナイン “デルタ・フィールディング・アワード2024”受賞選手発表
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