野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、先日、データで選ぶ守備のベストナイン“DELTA FIELDING AWARDS 2023”
“DELTA FIELDING AWARDS 2023”を発表しました。ここでは投票を行ったアナリストが具体的にどのような手法で分析を行ったか、またその分析からの感想を紹介していきながら、具体的に分析データを見ていきます。今回は右翼手編です。受賞選手一覧は
こちらから。
対象右翼手に対する7人のアナリストの採点
右翼手部門では万波中正(日本ハム)が受賞者となりました。万波はアナリスト7人のうち6人が1位票を投じ、70点満点中68点を獲得しています。昨季時点で同部門2位と高評価を得ていましたが、今季は昨季受賞の岡林勇希(中日)が中堅にコンバートされたことで1位に繰り上がるような格好になりました。
2位はオリックスの新人・茶野篤政。70点満点中63点となりました。全アナリストから3位票以上を獲得。万波が唯一逃した1位票もこの茶野が獲得しました。茶野を1位に推したアナリスト市川博久氏は「ほぼ全ての方向の打球処理で大きなプラスを作っており、特に後方の処理率は際立って高かった」と評価しています。
この2名に次ぐ得票を得たのが野間峻祥(広島)、丸佳浩(読売)。アナリスト市川氏は野間について「守備範囲は平均的な中堅手に比べ10点以上のプラスを作っており、後方の打球に満遍なく強かった」と評価しています。丸については長年守った中堅から久々に右翼に移ったシーズン。アナリスト宮下博志は「守備範囲、進塁抑止ともに一定以上の評価ができ、中堅ブリンソンの出来もあわせてコンバートは成功」と丸のコンバートを評価しています。
下位には柳田悠岐(ソフトバンク)、細川成也(中日)、ドミンゴ・サンタナ(ヤクルト)と打撃型の選手が並びました。アナリスト道作氏は細川について「ファーム時代も守備面でマイナスになることが多かったため、改善はかなり大変かもしれない」と評しています。守備面の損失を高い打撃面での貢献で補っていくキャリアになるのかもしれません。
各アナリストの評価手法(右翼手編)
- 岡田:ベーシックなUZR(守備範囲+進塁抑止+失策抑止)をやや改良。守備範囲については、ゾーン、打球の滞空時間で細分化して分析
- 道作:過去3年間の守備成績から順位付け
- 佐藤:基本的にはUZRで評価。ただ値が近い選手は打球処理を細かく分析。タッチアップの評価も補助的に活用した
- 市川:UZRと同様の守備範囲、進塁抑止、失策抑止の3項目を考慮。だが守備範囲についてはUZRとは異なる評価法を採用。定位置からの距離と滞空時間で区分し分析
- 宮下:守備範囲、進塁抑止による評価
- 竹下:UZRを独自で補正。球場による有利・不利を均すパークファクター補正も実施
- 二階堂:球場による有利・不利を均すパークファクター補正を実施
UZRの評価
各アナリストの採点を見たところで、いま一度、UZR(Ultimate Zone Rating)で行ったベーシックな守備評価を確認しておきましょう。
UZRを見てもトップは万波だったようです。万波のUZRは13.6。平均的な右翼手が守っていた場合に比べ996.1イニングで13.6点チームの失点を防いだと推定されています。
今季大きな話題になった強肩は守備指標にも反映されており、進塁抑止評価ARMはトップの5.9点。走者を刺す、あるいは進塁を躊躇させることでチームの失点を減らしていたようです。
とはいえそんな強肩をもつ万波でさえやはり進塁抑止以上に大きな差をつけたのは守備範囲評価。この最も大きな差がついている守備範囲評価RngRについて、具体的にどういった打球で評価を高めているのかを確認していきましょう。
以下表内の距離、ゾーンは打球がフィールドのどういった位置に飛んだかを表しています。図1の黄色いエリアが対象のゾーンです。対応させて見てください。値は平均的な右翼手に比べどれだけ失点を防いだかです。
万波中正(日本ハム)
万波は全般的に多くのエリアで失点を防いでいます。特に定位置から前方の打球、また右中間の打球で他の右翼手との違いを作っていたようです。唯一弱点となったのは定位置からポール際方向の打球処理。このあたりの改善が見られればより優れた右翼手となります。
茶野篤政(オリックス)
茶野も万波同様、全般的に失点を防いでいます。特段大きな特徴はありませんが、定位置周辺の打球の処理には特に長けているように見えます。
丸佳浩(読売)
丸も特段大きな強み、弱みがあるわけではありません。すでに34歳と年齢を重ねている選手ですが、右翼手としては十分な守備力を維持できているように見えます。
森下翔太(阪神)
打撃の評価が高い森下ですが守備も悪くありません。UZRの守備範囲評価は5.1と平均を上回る値を記録しました。詳しく見ると定位置から後方、特にフェンス際距離8の打球で好結果を残しているようです。
野間峻祥(広島)
野間の守備範囲評価は3.9点。ほぼ平均レベルの数字です。詳しく見ると前方に強い傾向が見られています。その他には定位置後方の打球でやや失点を増やしてしまっているようです。
小郷裕哉(楽天)
レギュラー定着1年目の小郷。856.2イニングを守りUZRは-2.7。守備範囲評価は-7.2と大きな損失を記録しました。詳しく見ると右中間の打球をかなりアウトにできていない様子が見えてきます。一方で後方の打球に対しては優れた処理能力を見せました。
柳田悠岐(ソフトバンク)
柳田は全体的に失点を防げていないエリアが広がっています。特に定位置から後方の打球で多く失点を喫してしまったようです。かつては中堅手として活躍した選手ですが、現在は右翼手としても平均レベルに届かない守備力に落ち込んでいます。さすがに加齢の影響がありそうです。
ドミンゴ・サンタナ(ヤクルト)
サンタナはUZRが-8.1。しかし守備範囲評価だけ見ると-1.9点とそれほど悪い結果ではありませんでした。詳しく見ると右中間深くの打球で数多く失点を防いでいたようです。一方で右翼線寄りの打球では失点を増加させてしまいました。
細川成也(中日)
細川の守備範囲評価は-9.1点。UZRの評価では右翼手部門ワーストとなっています。具体的に見ると定位置から右翼線方向の打球を全体的に処理できていないようです。定位置から右中間よりについては強みとなるエリアもありますが、右翼線寄りの損失をカバーできるほどではありませんでした。
来季の展望
今季受賞となった万波は現在23歳。昨季から安定して高い守備能力を見せており、来季以降も右翼手部門の最有力候補であることに違いはないでしょう。守備範囲だけでなく強肩を生かした進塁抑止能力も昨季から変わらず高得点を記録しています。昨季の岡林ほどに抜けた存在ではありませんが、しばらくの間は有力候補であり続けるのではないでしょうか。
データ視点で選ぶ守備のベストナイン “DELTA FIELDING AWARDS 2023”受賞選手発表