6月25日読売戦でサヨナラ負けを喫した中日・田島。特に東京ドームでの試合は昨季から5試合の登板で4試合のサヨナラ負けと相性の悪さが目立っている。ただこの時期に田島が打たれたのは相性の問題だけではなかったようだ。
6月下旬に大幅な奪三振減、与四球増
今回分析に選んだのは中日の田島慎二です。6月の田島は15度救援登板し、3敗を喫しました。なかでも6月25日、昨季から5度登板して4度目のサヨナラ負けとなった東京ドームでの乱調は異変を印象づけるものでした。
まず、田島の6月のパフォーマンスを概観するため、投手の責任が大きいとされる奪三振、与四球がどの程度あったかを見ていきたいと思います。図1は6月に入ってからの直近5試合ごとのK%(奪三振/打者)とBB%(与四球/打者)の変化です。
この図から見えてくることは、6月上旬には高い値を保っていたK%が、6月下旬に大幅に低下していることです。23日から29日の5試合は計4イニングを投げ1つも三振を奪うことができませんでした。またそれに伴い与四球も増えています。短期間の結果とはいえ、何かしらの変調があったと見るべきです。
次に、開幕~6月中旬(6.20日まで)と6月下旬(6月21日から30日まで)で球種割合に変化がないか見てみたいと思います。
6月中旬までは45.5%と半数以下だったストレートの割合が、6月下旬には63.2%と大幅に増加しています。これは図1で示した奪三振の変化と関係するものでしょうか。以下の表1に示す2016年と2017年に三振を奪った球種を見ると、田島が奪った三振のほとんどは変化球によるものであることがわかります。
したがって、ストレートの割合が高くなった6月下旬に三振が奪えなくなるというのも自然な結果です。それではなぜこのような投球内容の変化が起こったのでしょうか。スライダーとシンカーの空振り率(空振り/投球)に注目したところ、以下の結果が得られました。
スライダーの空振り率は大きく変わりませんが、シンカーは6月下旬に1つも空振りがとれていません。したがって、6月下旬にストレートの割合が増えたのはストレートの調子が良いからではなく、変化球で空振りがとれなくなったためではないかという推測が立ちます。
6月下旬は自らの「空振りゾーン」に投げられず
そこで、空振りの減少したシンカーがどういったコースに投げられ、どういったコースで空振りになっていたかを見ていきたいと思います。シンカーは田島の左打者に対する決め球で、今季(6月終了まで)左打者から奪った空振り33回のうち18回はシンカーでのものです。図3に左打者に対するシンカーのプロットを示します。
2017開幕~6.20までのプロットを見るとオレンジで囲んだ低めボールゾーンに多く投球し、またそのゾーンで空振りを多く奪っているようです。6月下旬のプロットは投球が少ないのですが、オレンジで囲んだゾーンのやや高め、ストライクゾーンの下辺周辺にボールが集まっています。低めではありますが田島のシンカーで空振りを奪いやすいゾーンはさらに低めにあるようです。非常に細かいレベルの制球ですが、空振りを奪えなかった要因の1つといえるでしょう。
次に空振り率には大きな変化がなかったスライダーに関してもプロットを見ておきましょう。田島のスライダーは右打者に対する決め球で、今季(6月終了まで)右打者から奪った28回の空振りのうち18回はスライダーでのものです。図4に右打者に対するスライダーのプロットを示します。
2017開幕~6.20まではオレンジで囲んで外角低めボールゾーンに投球が集中しています。全90のうち60、66.7%がこのオレンジのゾーンに集中しているようです。また空振りを多く奪っているのもやはりこのゾーンです。
6月下旬のプロットを見ると空振り自体が1つしかありません。表2では空振り率の変化が小さかったスライダーですが、6月下旬は左打者に対する空振り率が高く、決め球になるべき右打者相手には空振りがとれていなかったようです。オレンジのゾーンへの投球は9球中3球と少なく、ストライクゾーンの下辺以下への投球は1球も見られませんでした。空振り率こそ変化の小さかったスライダーですが、制球できていない様子はシンカー以上に明確に見られます。
変化球に頼れずストレートで押さざるをえなかった可能性
6月下旬、奪三振の減少の背景にスライダーとシンカーの制球の乱れを確認することができました。2球種ともに大幅な乱れとはいえませんが、自らの持っている空振りをとりやすいゾーンに投球することができていなかったようです。変化球に頼ることができない以上ストレートで押していかざるをえず、結果として三振を奪うことができなくなった可能性をこれらは示しています。
こうした変化球の制球難が生じた原因が、ちょっとしたフォームの乱れにあるのか、それとも疲労やもっと重篤な故障によるものなのかは、残念ながら今あるデータからではわかりません。しかし大雑把ではない、細かい投球コースの分析を進めることで、投手の現状をいち早く正確に捉えることができれば、早期の対処も可能となりリリーフ投手のコンディション管理に役立てることができるのではないでしょうか。