西武は連勝が13でストップしたが、好調は依然として続いており優勝争いにも加わりそうだ。森友哉の昇格でさらに勢いをつけることができるか。個人成績は陽岱鋼(読売)が絶好調。2週間で1.6ものWAR(weighted Runs Above Average)を積み上げた。前回は こちらから。(データはすべて8月13日時点)

セ・パ両リーグの順位おさらい


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広島は8月8日に優勝マジック「33」を点灯させましたが、その翌日から3連敗を喫するなどしてマジックは消滅。8月に入ってからの成績も5勝5敗2分とやや足踏み状態です。この間のチーム平均得点は3.75平均失点は4.75と、データ上でも下降線を辿っています。勝ち星が伸び悩んだことで2位阪神とのゲーム差も、現在は8.5まで縮まってきましたが、戦力上は先発投手の頭数以外に問題はなく、また故障者を大量に出している状況でもありませんので、スランプは一時的なものと考えた方が良さそうです。優勝ラインを80勝とするなら、広島は残り36試合のうち15勝すればこれに届きます。今はまだ、目先の勝利より選手のコンディションの維持の方が優先事項でしょう。

阪神は、6月18日以来の貯金10に到達し、首位広島とのゲーム差を徐々に詰めてきました。この間、7月27日に今季初めて一軍に昇格した岩田稔が救世主役を演じ、8月3日の広島戦、8月11日のDeNA戦でいずれも好投。先発の谷間を埋め、1勝1分と逆に前進するきっかけをチームに与えました。とはいえ、夏の高校野球開催時期は「死のロード」と呼ばれる長期遠征の最中でもあり、今週以降もビジターでの対戦が3カード続きます。DeNAは広島、阪神といった上位球団との対戦に負け越し、特に阪神とは本拠地横浜スタジアムで2勝8敗と非常に分の悪いカードとなっています。9月以降は両チームの対戦が8試合も残されており、順位争いがこのまま進めばCS興行権を懸けた死闘が何度も繰り広げられることにもなるでしょう。

読売も勝ったり負けたりを繰り返す一進一退の戦況。ケーシー・マギーを2番二塁で起用するようになってから打線は活発になり、この2週間でもチーム平均得点は5.58と好調でした。しかし、同期間内でリリーフに黒星がついたのは4試合と、接戦を落とすシーンが何度も見られました。中日は期間中6勝3敗2分と3つの勝ち越し。先発投手陣の出来は試合によってまちまちでしたが、打線が大量援護する試合が徐々に増加。日本ハムから加入した谷元圭介は、移籍後初登板の試合でこそ救援失敗したものの、その後は無難な投球を見せ、ブルペン全体の運用は余裕が見られるようになってきました。ヤクルトは、依然として厳しい試合が続き8月13日には借金が今季ワーストの32に。一方では、不本意なシーズンを送っていた山田哲人が8月に入り打率.444、OPS 1.201と打棒が復活。チームが好転するキッカケが掴めるかどうかは、彼のバットに懸かっているといえそうです。


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パ・リーグはソフトバンク、楽天、西武がそれぞれ貯金を増やし、ハイレベルな優勝争いを展開。7月21日の日本ハム戦から13連勝を記録した西武は、8月5日のソフトバンク戦で連勝がストップしたものの、そのゲームでも一時は6点差を追いつく粘り強さを見せました。チームはこの間、先発投手が責任イニングを投げ、打線からも十分な援護があったことで、ブルペンへの負担は分散し、連勝中のチームに散見される無理な運用がありませんでした。ソフトバンクと楽天の争いに喰い込むにはもう少し差を詰める必要もありますが、AクラスとBクラスの差が激しい今季のペナントレースでは、急激な戦力低下さえなければ今後も上位2球団を脅かしていく可能性は低くないでしょう。

ソフトバンクは8月に入ってから13日までの間で7勝4敗、後半戦で上積みした貯金数は西武と並ぶ10個を記録していますが、印象ではそれほど勢いを感じません。今月のチーム平均得点が4.42、平均失点が4.92と失点が上回っており、チーム打率も8月は.235とデータからも、戦力低下が懸念されます。8月1日のオリックス戦でサヨナラ弾を浴びたデニス・サファテが、ブルペンの登板過多を訴えるなど一部の力に頼る戦いが投打のバランスを微妙に崩している点をどのように修正していくかにも注目が集まります。楽天もこの2週間では6勝5敗。チーム平均得点3.82、平均失点4.64と苦しい戦いを続けながらも貯金を減らさずに済んでいるのは、ソフトバンクと似た傾向を感じます。

オリックスは、3位西武とのゲーム差が14.0にも広がり、CS進出の可能性はかなり厳しくなってきましたが、8月以降は打撃好調。5日の日本ハム戦からT-岡田を1番に置く新打順を組んでからは5勝3敗と白星が先行しています。日本ハムは8月に入ってから1勝しかしていませんでしたが、14日のソフトバンク戦では久々に投打が噛み合い連敗を6でストップ。選手の育成を兼ねたラインアップで戦えるようであれば来季への希望となります。ロッテは8月14日に伊東勤監督が今季限りでの辞任を表明。ペナントレースを40試合以上残しての発表は異例でしたが、チームを立て直すには一日でも早く動き出すことが有利となるだけに、今後は球団の動きと同時に選手起用の面でも注目が集まるでしょう。


一・二軍デプスチャート



画像にマウスをのせる(スマートフォンの場合タップする)と一・二軍が切り替わります。

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優勝争いのためにも戦力補充が必要なソフトバンクですが、一軍ではあいかわらず育成を兼ねた起用法を取っている点が例年とは大きな違いです。後半戦から昇格させた真砂勇介、塚田正義らは今も一軍に残り、松本裕樹は先発と救援の両方で起用。チームが勝っている間は極力若手を起用したい考えを持っているようにも見えますが、優勝争いが佳境に入ってくれば長谷川勇也、吉村裕基、攝津正らベテランたちの出番がやってきそうです。また、8月12日には左肘の故障に苦しんでいた和田毅がおよそ3ヶ月ぶりにファーム公式戦で実戦登板。この日は37球でマウンドを降りましたが、変化球を使っての投球は一軍復帰を想定したものと見て良いでしょう。早ければ8月後半にも復帰を果たすともいわれています。


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楽天は7月30日から一軍に復帰していた茂木栄五郎が、8月11日のオリックス戦から遊撃の守備に就くようになり、同時にルイス・クルーズがファームに降格。8月4日にはオコエ瑠偉が今季初昇格を果たし、13日までの間に打率.333OPS .815と結果を残しています。投手陣では安樂智大がローテーション入りし、8月に登板した2試合でいずれもクオリティ・スタートを記録し、今後さらなる活躍が期待されます。また、腰痛のため戦列を離れていた藤田一也が8月9日のファーム公式戦から実戦に復帰、左足を負傷していたカルロス・ペゲーロも12日の同公式戦(雨天ノーゲーム)で指名打者として出場し、今週にも一軍合流が予想されています。


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西武は、8月8日のオリックス戦で今季5敗目を喫した十亀剣が腰の張りにより一軍登録を抹消。貴重な先発陣の一角を失いましたが、8月15日から始まる楽天3連戦の初戦にはブライアン・ウルフを起用。3週続けて対戦するソフトバンク、楽天の上位球団を相手に準エース格を立て、優勝争いに割って入ろうとしています。ファームでは、左肘骨折により今季公式戦での出場がなかった森友哉が、8月8日のイースタン日本ハム戦から実戦に復帰。初スタメンとなった翌日の同カードで本塁打を放ち一軍復帰をアピール。その願いは早くも叶い、15日の楽天戦から一軍合流となりました。


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オリックスでは、1年目の山本由伸が大きな注目を集めてきました。都城高からドラフト4位指名で入団した18歳は、5月9日のファーム公式戦初登板以来快投を続け、現在まで33.1回を投げ自責点1の防御率0.27、奪った三振28個に対し与四球はわずかに2個と抜群の成績を収めています。8月も2度先発し、いずれも無失点の好投。制球力が非常に優れているため、イニングあたりの平均投球数も12.4(9回完投ペースでも112球)と驚異的な数字を残しており、高卒ルーキーとしては異例の活躍を見せています。現状では、今季中に一軍ローテーション入りする可能性は限りなく低いですが、経験を積ませる上でも谷間での先発起用を検討されるかもしれません。球団としては、金子千尋に続くエース候補として大切に育てたいと考えているでしょう。


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一軍が半ば育成の場と化している日本ハムですが、開幕から一軍で起用し続けていた石井一成を8月7日付でファームに降格。一軍では打率.169と苦戦していただけに、リラックスできる環境で自信をつけさせようとする狙いも見えてきます。その石井一と一軍の座を争っている太田賢吾は、8月14日のソフトバンク戦で決勝打となるタイムリー三塁打を放ち、プロ入り初のお立ち台も経験。チームでは二遊間、特に遊撃を守れる選手の層がやや薄いだけに、本人以上に球団関係者が喜びそうな活躍でした。


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ロッテは8月に入ってから野手陣を大幅に入れ替え、選手たちの競争心を刺激する策を打ってきました。成果が見られたのは根元俊一(8月打率.347)と荻野貴司(同.317)といった昇格組に限らず、チーム全体でも8月は打率.269と好調。日本ハム同様、来季を見据えた戦いが逆にペナントレースの刺激剤になることも有り得ない話ではありません。辞任を表明した伊東監督がシーズン終了まで指揮を執る間、選手たちの競争を観察するのもファンの楽しみになってくるでしょう。


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広島は6人目の先発が手薄な状況。8月4日のDeNA戦は、高橋樹也がプロ初先発を果たしたものの4回8失点で翌日には一軍登録を抹消。8月11日の巨人戦では福井優也を起用しましたが、こちらも5回途中6失点と結果を残せませんでした。ファームで待機する面々は育成途上にあり、野手と違いデプス構築が完全には果たせていません。こうしたところに前田健太(現ドジャース)、黒田博樹(昨季限りで引退)、クリス・ジョンソンが抜けた穴があり、夏場に来てチームで数少ない弱点が見えてきました。しかし、どの球団も先発6人全てが完璧ではないため、与えられた戦力でやり繰りするのが現実。緒方孝市監督の采配が試される時期です。


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阪神はここに来て先発陣解体の危機に面しています。8月5日のヤクルト戦で、先発した秋山拓巳が右太ももの張りを感じ3回途中で降板、翌日には一軍登録を抹消。さらに、8月10日の巨人戦でランディ・メッセンジャーが打球を右足に受け、「右足腓骨骨折」により今季中の復帰が危ぶまれる状況に。これにより、開幕から先発ローテーションに入っていた投手は能見篤史一人という緊急事態が発生。ペナント争いを考えると、残り試合は大変厳しい戦いを迫られそうです。幸い秋山は今週中にも復帰が予想され、またファームからは小野泰己、藤浪晋太郎らを補充して乗り切る構えのようですが、結果はともかくここでどんな戦いを見せるかによって来季以降の展望も見えて来そうです。


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DeNAは8月13日の阪神戦で左肩の不安を抱えていた濵口遥大が1ヶ月ぶりに復帰。6回を投げ8奪三振1失点とほぼ満点の出来で復活をアピールしました。1年目のルーキーながらエース級の働きをする濵口が戻ってきたことで、先発ローテーションの不安はかなり解消され、その分ブルペンの負担も軽くなりそうです。野手陣は変動が少なく、スタメン組の健康状態が大きな鍵。中堅を守りフルイニング出場を続けながらも尻上がりに成績を伸ばし、7月の月間MVPに選出された桑原将志、13日の阪神戦で今季自身初の1試合2本塁打を記録した筒香嘉智ら、中心選手のバットと守備にチームの命運が託されることになるでしょう。


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読売も故障者組が徐々に戻ってきました。8月11日に一軍登録された山口鉄也は、12日の広島戦で約3ヶ月ぶりの登板を果たし1イニングを三者凡退に抑える好投。ファーム降格中は2ヶ月以上も実戦マウンドから遠ざかっていましたが、これが良い休養になったかのか否か今度のマウンドで結果を示したいところ。右肩コンディション不良の名目で今季公式戦登板のなかった澤村拓一も、8月6日のイースタン楽天戦で初マウンド。こちらは一軍昇格予定が立っていませんが、自信を取り戻せばその日も近いでしょう。現在は打線が好調なだけに、投手陣の整備が上位進出への大きなポイントです。


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8月に入ってから上昇気流に乗った感のある中日でしたが、13日のヤクルト戦で右手に死球を受けたダヤン・ビシエドが「右腕尺骨骨折」の診断により今季中の復帰がほぼ絶望とのニュースが。今月に入り打率.358と好調だった長距離砲の一角を失い、チームはまたしても立て直しを迫られています。報道によれば、ビシエドの代役として一塁に福田永将を起用、加えてファームから高橋周平の昇格が示唆されていますが、今季6年目の高橋にとって今回の昇格は極めて重要な機会といえ、プロ野球人生を左右するシーズンとなるかもしれません。今季ファームでは打率.248、OPS.671と決して良いわけではない高橋ですが、今季5本塁打中2本を8月に記録。周囲の期待以上に自身が奮起しなければならないときです。


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ヤクルトは来季を見据え、後半戦から山崎晃太朗、奥村展征といった若手を率先して起用。どちらも50打席を超えるまでは打率3割以上をマークしていましたが、その後はやや失速気味。長打でアピールするタイプではないだけに、一打席ごとの結果が評価を上げたりも下げたりもします。また、守備でも山崎(中堅)がUZR(Ultimate Zone Rating)-3.0、奥村(遊撃)はUZR-1.1と苦戦中で、なおさらバットで結果を残す必要があります。一方、ファームでは岩橋慶侍が先発起用5試合全てクオリティ・スタートを記録中。ブルペンとの兼務が続いていた今季でしたが、ここに来て一軍先発ローテーション入りの期待も膨らんできたことは確かです。


2週間の個人成績ランキング


OffenceはwRAA(weighted Runs Above Average)+走塁評価、DefenseはUZR+守備位置補正

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8月打撃好調の陽岱鋼(読売)が出塁率、Offence、野手WARの3部門でトップ。今月だけでも3安打以上を記録した試合が4試合もあり、単なるリードオフマン以上の働きを見せています。福田永将(中日)は8月だけで4本塁打を記録していますが、前半戦では83打席で1本塁打だったのが後半戦では97打席で早くも8本塁打と量産体制に。福留孝介(阪神)は休養を交えながらの起用が成功しているのか、OffenceとDefense両面で好成績。シーズン途中に一度左翼にコンバートされましたが、球宴以降はほぼ右翼一本で守備に就き、年間UZRも+2.7にまでに回復。守り慣れた位置で打棒も復活した模様です。


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パ・リーグ野手も好値を叩き出す選手が続出。角中勝也(ロッテ)、吉田正尚(オリックス)、山川穂高(西武)らは、期間中いずれも打率4割以上を記録。山川は8月第一週だけで14打点を荒稼ぎし、チームの13連勝に大きく貢献しました。守備では、安達了一(オリックス)が年間UZR+9.2にまで改善、中村奨吾(ロッテ)も三塁の守備で例年通りの良い動きを見せています。


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セ・リーグ投手の個人成績ではデービッド・ブキャナン(ヤクルト)、田口麗斗(読売)、薮田和樹(広島)らが完投、完封勝利を飾り、ブルペン運用に苦しむチームを助けました。5月末から先発に転向した薮田は、そこからの9試合で8勝を稼ぎ、リーグでは菅野智之(読売)に次ぐ11勝をマーク。残り登板数は5~6試合が予想され、通常なら15勝到達は厳しい状況ともいえますが、打線の援護が期待できる広島にあってはその限りではなさそうです。


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パ・リーグ投手部門は、二木康太と酒居知史(ロッテ)が健闘。二木は8月6日の楽天戦で1失点完投勝利。酒居も8月4日の楽天戦でプロ初先発のマウンドに立ち、先発ローテーション入りを果たしています。登板数最多のサファテ(ソフトバンク)は現在38セーブで、年間セーブ記録(2005年に中日・岩瀬仁紀、2007年に阪神・藤川球児が記録した46セーブ)の更新に期待が懸かります。現在のペースなら年間51セーブも記録可能な状況にありますが、チームが残り37試合のうち何勝できるかでしょう。セーブの機会がどの程度あるかも読めません。また、サファテは昨季も8月13日までに35セーブを稼いでいたものの、その後の38試合では7セーブしか上積みがなく、最終的には43セーブで記録更新はなりませんでした。今季は条件的に上回っているものの、チームの勝敗ともども動向が気になります。



高多 薪吾 @hausmlb
個人サイトにて独自で考案したスタッツなどを紹介するほか、DELTAが配信するメールマガジンで記事を執筆。 投手の運用に関する考察を積極的に行っている。ファンタジーベースボールフリーク。
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