佐藤輝明、
牧秀悟、
中野拓夢、
若林楽人。まだ開幕したばかりのプロ野球ですが、今季は例年になく新人打者の活躍が目立ちます。こうした新人の実力はどれほどのものなのでしょうか。今回はまず、一般的にプロ入りした打者たちがどういったアプローチを見せるのか、またそれがキャリアを経るにしたがってどのような変化を見せるのかを分析したうえで、今季の新人打者のアプローチがどれほどの成熟度にあるのか確認していきたいと思います。
なぜ打撃結果の成績ではなく、スイング傾向を見るのか
今季の新人打者は多くの打者が良いスタートを切っています。せっかく好成績を残しているのですから、打撃結果を集計した成績を見ていくほうが良いのではと思われるかもしれません。ただスイングに着目したのは理由があります。米データアナリストのBill Petti氏は、What Hitting Metrics Correlate Year-to-Year?[1]において、さまざまな打撃指標におけるシーズン間の相関関係を求めています。
この中でPetti氏は、数ある打撃指標の中でスイング率やコンタクト率の相関が最も高いことを指摘しました。これは、1-2年のスパンではスイング率やコンタクト率はあまり変化しない安定した指標であることを意味します。
一方でPetti氏は、キャリアの最初期と晩年ではスイング率やコンタクト率が変化する可能性が高いことも指摘しています。この理由を考えるに、プロの一軍環境への慣れの影響が大きいのではないかと考えられます。一軍での経験を積み上げていく過程で、スイングが修正されていくことがスイング率やコンタクト率の変化につながっているのではないでしょうか。
キャリアの蓄積はスイング傾向を変化させる?
このように考えたわけですが、これはあくまで仮説にすぎません。というわけで、プロの一軍での経験を積み上げていく過程で、スイング率やコンタクト率は変化するのかを確認したいと思います。
今回は選手のキャリアを一軍での打席数と考え、分析を行いました。例として、小林誠司(読売)のデータを以下の表1に示します。
シーズンごとの成績を累積していき、この累積値をもとにスイング率を求めています。ここでは例としてスイング率しか紹介していませんが、以降の分析ではストライクとボールに分けて、スイング率、コンタクト率、空振り率を計算しています。
それでは、2013年以降のドラフトで入団した野手の2014年以降の成績を、プロ入り後の累積打席数が100未満、100以上500未満、500以上1000未満、1000以上の4つのグループに分類し、それぞれでスイング傾向を比較したものを以下の表2に示します。
累積打席数が100未満の場合、打者の成績が0%や100%のような極端な値になりやすく、これがグループの平均を歪めてしまう場合があるので、平均値ではなく各グループの中央値を取っています。
スイング率から見ていきましょう。累積打席数が増えていっても、ストライクのスイング率には大きな変化がありませんが、ボールスイング率とスイング率全体(計)は、一軍での経験が多くなるほど低くなってきます。空振り率も同様の傾向といって良いでしょう。一方、コンタクト率は逆に一軍での経験が多くなるほど高くなる傾向にあります。
これらの結果を総合すると、一軍での経験が多くなるほど、ボール球には手を出しにくくなり、ボールコンタクトの能力は上がっています。経験を積み重ねて行くことで、技術・アプローチが洗練されていく過程と見ることができるでしょう。
ルーキー達のスイング・コンタクトはどうなっているのか?
こうした性質を持つスイングとコンタクトですが、2021年の新人打者達はどのような成績となっているのでしょうか。すでにNPBである程度経験を積んだ打者のような成績を最初から残すことができているからこそ、結果を残すことができているのでしょうか。
これを確認するために、2020年のドラフトで入団した野手のスイング傾向を以下の表3に示します。
ルーキーが多く活躍しているといっても、それなりの出場機会を得ているのは、佐藤、中野、牧、若林の4人です。この4人のデータを見ると、佐藤を除く3人はコンタクト率が高く空振り率が低いという、表2で示すところの1000打席以上の経験のある打者に近い傾向が見て取れます。彼らが出場機会を掴みつつあるのは、このルーキーらしからぬスイング・コンタクト傾向も後押ししていると考えられます。ただ、中野がボールスイング率、牧はスイング率全体が高めという特徴はあるようです。
一方、佐藤はほかの3人とは異なりスイング率と空振り率が高く、コンタクト率が低いという、表2の累積100打席未満の打者、つまり経験の少ない打者と同じような傾向を見せています。かなり積極的にスイングしており、ほかの3人のルーキーらしからぬデータとは対照的です。
4人のルーキーの投球プロット
続いて、4人の打者の球種別の投球プロットを確認し、スイング率とコンタクト率からは見えない特徴を確認したいと思います。
佐藤輝明(阪神)
最初に確認するのは佐藤の対左投手のデータです。以下の図1-1に結果を示します。この図は投手視点からの投球コースをプロットしたものです。佐藤は左打者なので、図の左側に立っている形になります。
球種の種類が多いので、2つの図に分けて示しています。左の図は速球系(ストレート、カットボール、シュート)の3球種のプロットで、右の図が曲がる・落ちる系の変化球(カーブ、シンカー、スライダー、チェンジアップ、フォーク)の図になります。それぞれの図で球種ごとに色分けしており、プロットの形で塗りつぶした■はスイング・コンタクト、□は空振り、○は見逃しを表しています。
佐藤の対左投手の図を見ると、ストライクゾーン外のボールにそれほど手を出していないことが確認できます。ボールスイング率の高い打者ではありますが、対左投手ではそれほどボール球に手を出してないようです。
続いて、対右投手のデータを以下の図1-2に示します。
こちらは左の図での速球系へのスイングが特徴的で、ボールゾーンへの投球にもかなり手を出し、そしてコンタクトしていることを確認できます。特にインコースで■が多くなっていることが見て取れます。
中野拓夢(阪神)
次に、中野について、同様のデータを以下の図2-1と図2-2に示します。中野も左打者なので、先述の佐藤と図の見方は同じです。
佐藤と比較すると打席数が少ないので、プロット自体も少なくなっています。そして、佐藤ほど積極的にスイングしているわけではないのですが、図2-1の右側の図で、ストライクゾーンの右側、中野から見てアウトコースのゾーン外でのコンタクトと空振りが目立ちます。また、右投手との対戦を示した図2-2でも、スイングがアウトコース寄りであることを確認できます。アウトコースボール球のコンタクトも多く、表3でボールスイング率が高かったのはこの辺りの結果が反映されていると考えられます。
牧秀悟(DeNA)
続いて牧について、同様のデータを以下の図3-1と図3-2に示します。牧は右打者なので、これまでの2人とは図の見方が逆になります。
牧については、ストレートについてはインコースのボール球を多少コンタクトはしているものの、ボール球に手を出しているケースは少ないように思います。
変化球に対しては、図3-2の左の図のカットボール、右の図のスライダーで低めのボール球になった際の空振りが目立ちます。一方、逆にストライクゾーンの下限以上のボールではほとんど空振りが見られません。
若林楽人(西武)
最後に、若林について、同様のデータを以下の図4-1と図4-2に示します。若林も右打者なので、牧と同じ図の見方となります。
若林はこの4人の中では打席数が少なく、図4-1の対左投手の結果から何かを判断するにはプロット数がそもそも足りていません。図4-2の対右投手では、ストレートに対しては、ボール球に手を出すケースは少ないといえます。変化球に対しては、図の左下、アウトコースのボール球のシンカーやカーブに手を出しているケースが確認できます。
まとめ
以上、新人から4人をピックアップしてスイング・コンタクト傾向を確認しました。佐藤を除く3人は、NPBの一軍で経験を積んだ打者に近いスイング・コンタクト傾向となっていました。このデータから、彼らはすでにプロのボールにある程度対応できていること考えられます。現在出場機会を得ている一因となっているのではないでしょうか。
一方、佐藤はほかの3人とは異なり、累積打席数が100打席未満の経験の少ない打者と同じようなスイング・コンタクト傾向となっています。このデータだけ見れば、プロのボールに対応できていないように見えますが、ご存じのように打者として一定の結果は残しています。
こうした特徴から佐藤は例外的な打者といえそうです。今後は経験を積み上げていく中で角が取れて他の3人と似たような成績になっていくのでしょうか。それともこのまま特殊な傾向を維持していくのか、どのような経緯をたどっていくのか興味深いです。
気の早いファンは、新人王や最終的に何本HRを打つか気にしているかもしれませんが、これに加えてスイング・コンタクト傾向にも注目しておくとシーズンをより楽しめるかと思います。
最後に、今回はルーキー4人を中心にデータを見てきましたが、このスイングとコンタクトの傾向、「一軍のボールに対応できているのか」という判断に使うことができるかもしれません。二軍での成績との対応とあわせて、今後検証してみたいと思います。
●執筆者から探す