ドジャース・大谷翔平のように、MLBでは2番にチーム最高の打者が置かれることが珍しくない。いわゆる「2番打者最強打者説」だ。ただこのように「2番に強力な打者を配置できるのは、下位打線にも長打力のある選手が並ぶMLBならでは」、「NPBでは環境が異なるため当てはまらない」という声も根強い。実際にどうなのだろうか。今回はMLBにおける打順論がNPBでも当てはまるのか検証を行っていく。

セオリーの概要とその理由

そもそも2番に強力な打者を配置すべきとされる根拠はセイバーメトリクスの研究からである。著名なセイバーメトリシャンであるTom Tangoの分析からスタートし、徐々にMLBの現場でも採用されるようになっていく。現在のMLBでは2番に強打者を配置するのは当たり前の光景だ。

2番打者には強打者を… よく聞く説の根拠とは?

このセイバーメトリクス的な打順のセオリーは、概ね以下①~③のようなものだ

    ①チーム内で打力が1~3位の打者を1・2・4番に置く。このとき、1番は長打より出塁を重視した方が良く、4番は出塁より長打を重視した方が良い
    ②チーム内で打力が4・5位の打者を3・5番に置く
    ③残りの打者は6番から打力順に置く

このセオリーは以下A、Bの要素を考慮した分析から求められたものだ。

    その打順に
    A.どのような状況で打席が回ることが多いか
    B.どれほど打席が回ってきやすいか

従来の打順のセオリーから考えると、3番より2番を重視している点が驚きかもしれない。ただこれは「A.どのような状況で打席が回ることが多いか」を考慮しているためである。3番は初回に2死走者なしという期待値が最も小さい場面で回ってくる場合が多いため、重要性が低いと考えられるのだ。詳細な解説については、「2番打者には強打者を… よく聞く説の根拠とは?」を参照されたい(さらに詳細な解説を知りたい場合は参考文献を参照されたい。)。

しかし、このような説明に対しては次のような疑問がある人もいるだろう。MLBとNPBとでは平均的な打者の成績が異なるため打順ごとの重要性にも変化があるのではないか、あるいは打者の並び方を変えることで打順ごとの重要性にも変化が生まれるのではないかという疑問だ。

打順ごとの重要性と打席数に基づいて、打順を決めるべきという命題を受け入れたとしても、MLBとNPBの環境の違いや打者の並びによって、打順ごとの重要性に変化が生じてしまうなら、セオリーにも修正が必要というのはそのとおりだろう。

そこで、これらの疑問を解決すべく2019年から2023年までのNPBのデータを用いて、打順ごとにどのような状況で打席が回ってくることが多いかを調べてみた。

どのような状況で打席が回ってきているか

まずはAの各打順にどのような状況で打席が回っているかを見ていく。

状況には大きくアウトカウントと走者状況があるが、はじめに見ていくのがアウトカウントだ(表1)。

まずはっきりと目立つのが1番に無死で打席が回ることが多い点だ。1番の打席全体のうち無死で回ってくる割合は47.3%。ほかには35%に届く打順もない中、図抜けた割合を記録している。これは初回に必ず無死で回ってくることが多いためだ。また同じ理由から2番も2死の割合が小さくなっている。

反対に3番の割合は無死が最も小さく、2死が最も大きくなっている。3番の重要性が1・2番よりも低くなるのは、2死で打席が回ってくる割合が大きいことにあるが、NPBでも同様の傾向が見られる。また、5番以降は、無死、1死、2死の割合の違いが小さくなっていることも確認できる。

では、塁上の走者数についてはどうなっているか(表2)。

1番は走者なしで回ってくる割合が他の打順と比べて大きいことが分かる。これも初回は必ず走者なしで回ってくることが影響している。平均走者数で見ても、1番、2番の順に少ない。1番や2番は、無死や1死といったアウトカウントが少ない場面で回ってくることが多い一方で、塁に走者がいる状況で回ってくることが少ないことがわかる。長打は走者がいない状況よりも走者がいる状況で発生した方が得点につながる。そのためこれらの打順では長打よりも出塁を重視して打者を起用すべきというのは合理的で、NPBでも同様に扱ってよさそうだ。

4番は走者ありで打席が回る割合が半分を超えており、平均走者数を見てもすべての打順でトップとなっている。同様に5番も平均走者数が多く、こうした打順に打力の高い打者を置くべきという点についても、特にセオリーを修正する必要はないようにも思える。

また、6番以降は平均走者数が徐々に少なくなっていっており、重要性が少しずつ下がっていっていると考えられる。打席に立ったときのアウトカウント(表1)に大きな差異がない以上は、6番以降は単純に打力順に残りの打者を配置すべきという点はNPBでも当てはまりそうだ。

最後に打席数についても確認しておく(表3)。

当然だが打席が下るほど打席数は減っていく。これは5年分のべ60チームの打席数の合計であるが、1チームに直すと1番と9番で年間120打席ほど、打順が1つ下がるごとに年間の打席数が15~16打席減る計算になる。打順を決める際にはこうした打席数の差も考慮する必要がある。

打席での各イベントの価値は打順によってどう変わるか

ここまで見てきたことからすると、打順ごとにどのような状況で打席が回ってくることが多いかについては、MLBとNPBで大きな差がないようにも思われる。ただこれだけでなくさらに詳細な検討を進めていく。

これまでに「長打は塁上に走者がいる状況の方が得点につながりやすい」、「2死で回ってくることが多い打順は重要性が低くなりやすい」と述べてはきたが、これらを定量化しなければ比較はできない。同じ四球でも打順ごとにどの程度価値に差があるのかを調べていく必要がある。

具体的には、状況(アウトカウント3種、走者状況8種で3×8=24に区分)によって各イベントの得点価値がどのように変わるかを調査。そのうえで打順ごとに打席が回ってきたときの状況の割合を調べ、これらを掛け合わせることで打席での各イベントの価値がどのように変化するかを調べていく。

まずは、状況によって各イベントの価値がどのように変わるかを調べた(表4)。

この表は打席結果(バントと敬遠を除く)を四球、死球、単打、二塁打、三塁打、本塁打、失策出塁、凡退に区分し、それぞれの得点価値(打席前後での得点期待値の差)を求めたものだ。例えば、同じ四球でも無死走者なしの状況では0.361点の価値があるのに対し、2死二塁では0.110点の価値しかない。走者なしでは四死球と単打の価値に差はほぼないが、走者三塁や二三塁では大きな差が出てくる。このように各打席結果の価値は状況によって変わってくる。

では、打順ごとに打席が回ってくるときの状況はどのように変わってくるか(表5)。

表が細かいため分かりにくいかもしれないが、1番は無死走者なしで打席が回ってきやすいこと、4番は走者ありで打席が回ってきやすいことがわかる。

そしてこれら2つの表をもとにして、打順ごとに各イベントの得点価値の平均を求めたものが次の表になる(表6)。

どのイベントについても得点価値は4・5番で高く、1番・2番・3番は低い。例えば本塁打の得点価値は、1番の場合は平均1.309点にとどまるが、4・5番では1.481点まで上がる。1・2番は塁上に走者がいないことが多く、3番は2死での打席が多いことがこうした結果につながっている。

打席数の多さを考慮するとどうなるか

ただ、この結果は、打席数の差異を考慮していない。1・2番は表6のように、出塁イベントの得点価値が小さい一方、そもそも回る打席が多いためイベントを発生させる機会自体が増える。打順の重要性について考えるにはこの点についても考慮する必要がある。既に述べたように打順が1つ下がるごとに打席数が15~16打席減ることになるため、打席数の差によって補正を施さなければならない。

ここでは5番を基準として1つ打順が上がるか下がるごとに2.5%(1番は+10%、9番は-10%)の補正を行った。ある程度現実的でキリが良い値で合わせると、5番の打席数を560打席のとき、1つ打順が上がるか下がるごとに14打席ずつ打席数を増やすか減らすかした(1番の打席数は616打席、9番の打席数は504打席)。

そのうえで、①平均的な打者②高打力の打者をそれぞれの打順に入れた場合、どれだけチームの得点を増減するかのシミュレーションを行っていく。①に比べ②の打者を入れることでより得点が増えている打順ほど、重要な打順ということになる。①、②の打者成績は表7-1の値を使った。②高打力打者はこの期間における3~5番打者の平均成績を使用している。

この2種類の打者を各打順に置いたときに見込まれる得点増減の差を調べてみた。例えば、1番であれば四球は0.310点、616打席で平均的な打者ならば49.4個、高打力打者なら58.5個となるため、これらに0.310点をかけた得点が四球による得点となる。このような計算を他のイベントについても行い、それらの合計の差を求めていく。他の打順についても、各イベントの得点価値と打席数を変えて計算を行った結果は表7-2のようになった。

まず①平均的な打者を配置すると全ての打順で得点がマイナスになるが、1番や2番では-0.5点以内に収まっている。これに対して、3番では-1.9点、4番では-2.2点と(1シーズンで考えるとほんのわずかとはいえ)比較的大きなマイナスになっている。1番や2番は走者がいる状況で回ってくることが少ないために打席数が多くともさほどマイナスが大きくならないのに対して、3番や4番ではチャンスで回ってくることが多い。打席数も比較的多いために、平均的な打者ではチャンスをつぶすことによるマイナスが多いことがその理由だろう。

反対に②高打力打者を配置した場合は全ての打順で得点が大きなプラスとなっている。だが下位打線では大きなプラスとはならず、打席数がより多い1・2番でより大きなプラスとなっている。また、塁上に走者がいることの多い5番も大きなプラスとなっている。

これらの数値の差で比べると、4番がトップ、これに次ぐのが5番、2番、1番、3番となり、以下は6~9番までが打順どおりの並びになっている。

NPBでの環境を前提としても、1~5番までに打力上位5打者を配置し、6番以下は残った打者を打力順に並べることは適正といえそうだ。

他方で1~5番までの間での重要性は若干の差異があるようにも思える。この中での重要性は4番がやや高く、これに次ぐ重要性の打者は5番、2番、1番。3番の重要性はやや低い。

このような結果となった理由は定かではないが、前提となっている先行研究はMLBでもかなり得点が入りやすかった2002年と2003年の成績に基づいて検証を行っているため、塁上に走者がいる状況が全体的に多かったことが影響しているかもしれない。近年のNPBでは出塁率が低く、得点が入りづらい。こうした環境の差が微妙な差につながったのかもしれない。

ただし、3番の重要性が1番や2番より低いことや、1~5番に打力の高い打者を集中させるべきというセオリーの根幹部分はNPBの環境でも当てはまる。2番の重要性が6・7番以下になったり、3番の重要性が4番を超えたりするような大きな差異は生まれていない。打順の組み替えに伴う年間得点の変化が微々たるものに留まることを考えると、セイバーメトリクス的な打順のセオリーをNPBにそのまま持ち込んだところで大きな問題はなさそうだし、NPBの環境を前提とした今回の結果からも1番や2番を軽視すべきでないといえる。

打者のタイプを考慮するとどうなる?

ただ、同じ程度の打力の打者でも、打者のタイプによって違いが出るということは想像できないだろうか。例えば出塁に特化した打者の場合、通常よりも1番に配置するメリットは大きくなるはずである。打者のタイプを「出塁型」と「長打型」に分けてこれを検証しよう。

先ほどの打力の高い打者の例は、3~5番の平均を使ったため、やや長打力寄りの成績になっている。この成績をもとに、総合的な打力はほぼ同じ程度になるよう、四球の割合を増やし、二塁打と本塁打、凡退の割合を減らす調整を行った。その結果、四球を3%増やし、二塁打を1%、本塁打を0.4%、凡退を1.6%減らすとほぼ同じ程度の打力になることが分かったため、こちらについても平均的な打者を配置した場合との差を求めた。

ほぼ同じ程度の打力の選手を配置する場合でも、長打型の選手では4番、5番、2番、1番、3番の順で平均的打者との差が大きくなっているのに対して、出塁型の打者では1番、2番、4番、5番、3番の順で平均的打者との差が大きくなっている。

こうした結果からすると、同じく打力の高い打者であっても出塁率が高い打者は1番や2番に、長打力の高い打者は4番や5番に配置した方がわずかな差ではあるが、効果が上がると考えられる。

NPBにおいてどんなパターンで打順が組まれているのか

次に打順のパターンによって、各打順の重要性は変わるのかを調べていく。その前提として、まずはNPBではどのような打順が組まれているかを見ていく。ここでは総合的な打力を表すwOBAと出塁率、長打率を表すISOについて、各打順が9つの打順の中で何番目になっているのかを調べてみた。

まずはwOBAからだ(表9)。

4番が最もwOBAが高かったチームが60チーム中30チームでトップとなっている。やはりNPBではチーム最強打者は4番に置かれることが最も多いようだ。平均順位で見ても2.13位と最上位の数値となっている。

これに続いて平均順位が高いのは3番。3番がwOBAトップとなっているチームも17チームと4番に次いで多く、2位や3位の数もかなり多い。5番はwOBAトップこそ5チームだけだが、2~5位が多くなっており、4番と3番に次いで強打者が配置されやすいようだ。

平均順位を基準とすると4→3→5→1→2→6→7→8→9番の順になっている。1番はwOBA2位のチームも10チームとそれなりに多い一方で、6位以下のチームも23チームと少なくはない。強打者を配置しているチームもそれなりにある一方で打力の低い打者が配置されているチームも無視できない程度に存在している。2番も似通った傾向が見られ、チームごとのカラーが存在するようだ。

次に出塁率についても同様に見ていく(表10)。

出塁率でも基本的にはwOBAと傾向は似通っている。ただし、wOBAと比較すると、4番と3番との順位が逆転し、5番の順位がやや下がり、1番と2番の順位がやや上がっている。wOBAと比べるとより前の打順ほど出塁を重視している状況がうかがえる。

最後にISOについても見ていく(表11)。

wOBAや出塁率と比べると明らかに4番が他の打順に比べて高い順位となっており、最も長打力のある打者を4番に配置する傾向が見て取れる。また、1・2番の順位が下がり、6・7番を下回る結果となっている。

これらの結果からすると、NPBでは長打力のある打者を4番中心に3・5番に配置し、それ以外の打者で出塁率の高い打者を1番や2番に配置している傾向が見られる。

実際にチーム内wOBAトップ5の打順組み合わせは次の通りとなった(表12)

最も多かったのは1~5番までにwOBA上位5位までの打者を集めるパターンで11チーム。これに次ぐのが1番と3~6番まで、または2~6番までに上位5位までの打者を配置するパターンでそれぞれ8チームとなっている。

さらに、チーム内でwOBAがトップ3に入る打順の組み合わせでは次のようになった(表13)


3~5番までのいわゆるクリーンナップにトップ3の打者を集めるパターンが最多の14チーム。これに次ぐのが3・4・6番の9チーム。2~4番の7チームとなっている。

これらの結果からすると、1~5番までに平均以上に打てる打者を配置するケースが多いものの、トップ3の打者に限定した結果からすると、1番や2番はいわゆるクリーンナップと比較すると軽視されていることが多いようだ。


打者の配置の仕方によって各打順の重要性はどのように変わるか

以上の結果を踏まえて打者の配置が各打順の重要性に与える影響を調べていく。これまで調べたようなNPBでの状況を踏まえて、2019~23年までの12球団のべ60チームを以下のグループに分けて調べてみた。

    ・ 【1~5型】1~5番にwOBA上位5打者を配置したグループ(11チーム)
    ・ 【1・3~6型】1番と3~6番にwOBA上位5打者を配置したグループ(8チーム)
    ・ 【2~6型】2~6番にwOBA上位5打者を配置したグループ(8チーム)
    ・ 【上記以外の型】それ以外のグループ(33チーム)

チーム内で優秀な打者を配置する場所の違いによって、各打順の重要性は変わることがあるだろうか(表14~17)。

いずれの結果を見ても、大きな変化は見られないが、これらに打席数の補正を加えた後に、平均的な打者と高打力打者を配置した場合での差を求めるとどのようになっているかを見ていく(表18~21)。

以上の4つの表の一番右側の値のみを並べた表も示す(表22)。

6番以降は1~5番と比べると重要性が低く、また打順が下がるにつれて徐々に重要性が下がっていることはどのグループでも同じだ。また、いずれのグループでも4番の重要性が最も高い。1・2・3・5番の重要性の順番はそれぞれのグループで若干の差異があるが、この中では3番の重要性が比較的低いことが多いようだ。

こうした結果からすると、現実的にNPBの監督が頻繁に組むような打順の中では、打順の組み方が違ったとしても、打順ごとの重要性の差が大きく変わることはないようだ。


まとめ

以上の結果からすると、1・2・4番に強打者を置き、3・5番にこれに続く打者を置くべきというセイバーメトリクス的な打順のセオリーは、近年のNPBにおいても概ね当てはまるといえる。

今回の結果で最も衝撃があったのは、3番の重要性がそこまで高くないことだろう。NPBでは4番に次いで強力な打者が置かれることが多い打順だが、多くのケースでチーム5位の打者を置くべきという結果になった。この結果は、MLBにおける先行研究の結果ともやや異なっている。この結果は、1・2番にそこまで打力の高い打者を配置しない傾向に起因する可能性はあるが、いずれにせよ3番の重要性が1・2番よりも低いことに変わりはない。

昨今、旧来の4番最強打者論とセイバーメトリクス的な2番最強打者論を対比する見解も見られるが、真に対立が生じるのはそこではない。セイバーメトリクス的な打順論においても、4番に最強打者を配置することにさしたる問題はない。4番の次に打てる打者を3番や5番に配置して、それ以下の打者(酷いときには7番や8番に置くべき打者を)を1番や2番に配置するか、4番の次に打てる打者を1番や2番に配置するかという点こそが争点なのだ。


参考文献
Tom Tango;Mitchel Lichtman;Andrew Dolphin.The Book:Playing the Percentages in Baseball,Potomac Books Inc,2007

市川 博久/弁護士 @89yodan
DELTAデータアナリストを務める弁護士。学生時代、知人が書いていた野球の戦術に関する学術論文を読み、分析に興味を持つ。 その後『マネー・ボール』やDELTAアナリストらが執筆したリポートを参考に自らも様々な考察を開始。『デルタ・ベースボール・リポート7』などリポートシリーズにも寄稿。動画配信サービスDAZNの「野球ラボ」への出演やパシフィックリーグマーケティング株式会社主催の「パ・リーグ×パーソル ベースボール データハッカソン」などへのゲスト出演歴も。球界の法制度に対しても数多くのコラムで意見を発信している。

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