日本シリーズが終わり、各球団は来季に向けて補強を具体的に検討している最中だろう。数ある補強チャンネルの中でも今年はFA市場に注目だ。権利行使可能な選手の陣容が例年以上に豪華であるためである。先日は、それら選手たちにどの程度の価値があるのかを客観的に測る
“FA選手ランキング”を作成した。FA市場における選手の価値についてはこちらを参考にしてほしい。
ただこれはあくまでフラットな視点での評価。当然ながら球団によって状況は異なる。本企画では各球団の状況を踏まえた上で、どの選手の獲得に動くべきか検討を行っていく。そしてその検討も2パターンを用意した。1つは無制限に資金があることを前提とした「理想的なシナリオ」、もう1つは各球団の予算を踏まえた「現実的なシナリオ」である。今回は阪神編をお送りする。
- 【このFA選手を狙え!】他球団編はこちらから
- ヤクルト、DeNA、阪神、読売、広島、中日
オリックス、ソフトバンク、西武、楽天、ロッテ、日本ハム
野手のニーズを確認
まず総合指標WAR(Wins Above Replacement)をポジション別に見ることで、野手の現状戦力を確認しよう。WARは2.0がリーグ平均という目安で見てほしい。0.0がリプレイスメント・レベル(代替可能選手)だ。
弱点となっていたのは捕手、一塁、二塁、三塁、左翼。ただ阪神の場合、この表だけで弱点がわかるほど単純な状況ではない。これはシーズン中に数多くポジションの入れ替えが行われた結果の数値で、さらにここから来季はすでに岡田彰布新監督から大規模なコンバートが予見されている。大山悠輔は一塁に、佐藤輝明は三塁に固定される見込みだ。これらから考えると弱点と認識すべきは、捕手、二塁、そして両翼といったところだろうか。
最大の課題となっているのは二塁だ。昨季阪神の二塁手が記録したWAR-1.8はセ・リーグの野手ポジション全体でワースト。極めて大きな弱点になっている。平均レベルの選手を配置するだけで劇的な戦力アップが見込めそうだ。平均以上の選手ならチーム力は格段に上がる。
次の課題は外野手だ。前述した状況から、両翼とも弱点となっている。若手が大きく成長するようなことがあっても2ポジション同時に埋まるとは考えづらい。獲得が効果的になる見込みは高い。また外野手補強のために、一塁や三塁を補強するプランもあっていいはずだ。佐藤や大山は外野も守ることができる。有力な一・三塁手を獲得し、佐藤や大山を外野に回すことで、間接的に外野を補強する手もあってよい。
最後に捕手だ。阪神の捕手が弱点という認識がある人は少ないかもしれない。ただここ数年は梅野隆太郎が打撃でかなり苦しんでおり、その損失により捕手のWARは1.1と低迷している。二塁、外野ほど優先度は高くないが、上積みの余地はあるポジションではある。
野手まとめ:補強ポイント二塁、外野。外野を補強する意味で一塁、三塁も。やや優先度が下がり捕手
阪神は現在の日本球界で最高の投手陣を持っているチームだ。投手WARの値は30.8で12球団トップ。セ・リーグ2位の中日が21.9であるため、投手力だけでセ・リーグ他球団に10勝近い差を生んでいる。WARは先発、救援ともに断トツで、現状は付け入る隙がない。
2022年セ・リーグ投手WAR
球団 |
先発 |
救援 |
投手全体 |
阪神 |
21.7 |
9.0 |
30.8 |
中日 |
16.1 |
5.8 |
21.9 |
DeNA |
15.8 |
5.1 |
20.9 |
読売 |
16.3 |
4.0 |
20.3 |
ヤクルト |
12.2 |
7.6 |
19.7 |
広島 |
13.1 |
4.5 |
17.7 |
具体的に来季の予測をベースにした以下の表で、先発の陣容を確認しておこう。先発補強を行えば、6番手の出番を減らすことができる。FA選手を除いた中で6番手に位置するのが、予測WAR1.0の藤浪晋太郎。ただこの藤浪はポスティングでのMLB挑戦が濃厚だ。そうなると6番手はWAR1.0が予測されている森木大智にまで引き下がることになる。こうして見ると意外に先発の層は厚くない。
ただこれは阪神がすでに外国人選手の退団を発表したことも関係している。今季一定の活躍を見せたジョー・ガンケルやアーロン・ウィルカーソン、ラウル・アルカンタラは予測に含まれていない。逆に言うとこの投手陣にさらに外国人投手を加えることができるのだ。こうして考えると、やはりFAでどうしても補強したいポイントとまでは言えないように思える。西勇輝が残留するならなおさらだ。
救援は盤石の布陣だ。こちらは先発以上に豊富である。岩貞祐太が退団となったとしても、強固な陣容は維持できるだろう。投手陣全体は大きな補強ポイントではないが、補強するとしたら先発だろう。
投手まとめ:優先度は低いが、あえて行うなら先発
ここまでチームのニーズを確認してきたが、それに当てはまる選手が市場にいるかどうかはまた別だ。今オフ市場に出る可能性がある中で、阪神のニーズに応えられる選手はいるだろうか。まずは予算を気にせず考えてみよう。
FA権を行使する可能性がある中から、優先したいのは二塁手の中村奨吾(ロッテ)だ。前述したとおり阪神は二塁手が致命的な弱点となっている。その穴を埋められる人材をFAで補強したい。浅村栄斗(楽天)もFA市場に出る可能性があったがすでに残留が決定。有力な候補は中村のみとなっている。
また外野についても狙いたい。やはり一番のターゲットは近藤健介(日本ハム)になるだろう。両翼で他球団に圧倒的な違いを生み出すことが期待できる。外野は二塁ほどの弱点ではないが、近藤の実力を考えると、中村獲得以上の上積みをもたらすのではないだろうか。優先度は近藤を最も高くしておこう。また近藤の獲得がならなかった場合も、西川遥輝(楽天)のような次のオプションも視野に入れておきたい。
2022年オフにおける阪神のFA補強(理想)
- 1.近藤健介
- 2.中村奨吾
- 3.(近藤の獲得に失敗するなら)西川遥輝
現実的なシナリオ
ただこれまで述べたのはあくまでも理想的なシナリオ。予算の都合から全選手の獲得は難しい。今オフの阪神にはどれほど予算の余裕があるだろうか。DELTA独自の年俸予測システムから、阪神の2023年総年俸がどれほどになるかを推定してみよう。
これで見ると阪神の総年俸予測は24.1億円。過去9年で最も総年俸が大きかった2018年の37.0億円と比べると、12.9億円と非常に大きな空きがある。ただこれは今オフ、高額年俸の外国人選手がすでに多数退団しているためだ。もちろんここから新外国人選手の獲得費用を捻出するため、予算全てが使えるわけではない。ただ外国人選手の獲得費用をFA選手に回すことも検討して良いのではないだろうか。
このように多くの予算があるため、理想の候補にアプローチすることも可能だ。二塁手、外野手の両方を狙う予算も十分残されているのではないだろうか。もし1人ずつ獲得できるなら、一気に優勝候補の最右翼に躍り出るだろう。すでに岡田新監督はFA選手獲得に動かないことを明言しているが、チーム予算、また市場に出ている選手から考えて、積極的に動いて良いタイミングに思える。
2022年オフにおける阪神の現実的なFA補強
- 1.近藤健介
- 2.中村奨吾
- 【このFA選手を狙え!】他球団編はこちらから
- ヤクルト、DeNA、阪神、読売、広島、中日
オリックス、ソフトバンク、西武、楽天、ロッテ、日本ハム