盗塁を仕掛けやすいとされる状況については、様々な見解が唱えられているが、実際にどのような場面でどの程度盗塁が試みられているのかを整理した記事は見当たらない。そこで、盗塁がどのような場面で試みられているかを、2015年から2022年までのNPBの記録から調べてみた。

ボールカウント、アウトカウントが企図率に与える影響

今回分析の対象とするのは、アウトカウントにかかわらず、走者が一塁のみにいる場合の盗塁とした。

まずは、ボールカウントごとに試みられている盗塁の数を比較してみる(表1)。

ボールカウント別に二盗企図数(二盗成功と二盗失敗の合計数)を集計していくと0ボール0ストライク時からの企図数が最も多いことが分かる。このような結果は、野球のセオリーからすると信じがたいものだろう。一般に盗塁はある程度カウントが進んでからなされることが多いとされており、初球から盗塁を試みることが多いというのは、意外な感がある。

このような結果となったのは、母数の差が影響している。0ボール0ストライクは基本的にすべての打席で存在する状況だが、その他のボールカウントはそこに至るまでのカウントで打席が終わらなかった場合にしか存在しない。当然、ボールとストライクの合計数が多いカウントほど母数は少なくなる。このため、単純な数の比較では、どのような場面で二盗が試みられやすいかを判断することはできない。

そこで、二盗企図の数を二盗が可能な機会の数で割った値を二盗企図率とし、この企図率の値を比較することで、二盗が試みられやすい場面を調べていく。なお、二盗が可能な機会とは、四死球もしくは二死からの三振を除いた投球または投球なしに二盗もしくは二盗失敗を記録した場合を指している。

それでは、ボールカウント別の二盗企図率を見ていく(表2)。

二盗企図率を比べていくと0ボール0ストライクは1.68%と3ボール0ストライクを除くと二盗企図率が最も低い。またそれ以外では0ボール1ストライクや0ボール2ストライクの二盗企図率が低く、1球もボールとなっていないカウントでは二盗が試みられづらいことがわかる。

また、フルカウントでの二盗企図率が7.04%と著しく高い。これは単独での盗塁ではなく、ヒットエンドランまたはランエンドヒット(以下、「ヒットエンドラン等」という)を仕掛けたものの、打者が三振した結果として、盗塁または盗塁死となったものが多数含まれていることがうかがわれる。このように推測できる理由については、後に二盗成功率等について言及する箇所で詳しく述べる。

続いて、アウトカウント別の二盗企図率を見ていく(表3)。

アウトカウント別に見ると無死では1.95%と1死や2死の場合と比べてかなり企図率が低くなっている。これは盗塁が失敗した場合のリスクが1死や2死に比べて無死の方が高いことからすると、合理的といえる。

さらに、ボールカウント、アウトカウント双方を考慮した企図率を見る(表4)。

全体的にはアウトカウントが増えるほど企図率が高くなる傾向が見られるが、特に0ボール2ストライクや1ボール2ストライクのようにストライクが先行しているカウントでの企図率の増加が大きい。

なお、2死3ボール2ストライクからの企図率が0.00%となっているが、これはこの状況では二盗成功または二盗失敗が記録されることが、牽制球に伴って二塁に向かうなどの投球に絡まない場合を除いてはあり得ない(打球が発生した場合はもちろん三振や四死球でも盗塁も盗塁死も記録され得ない)ことが原因となっている。2死の場合には、企図率が0.00%になっているのに対し、無死では9.61%、一死では11.27%もの企図率となっていることからすると、かなりの割合でエンドラン等が出されていることがうかがわれる。

イニング、点差、投手・打者の能力が企図率に与える影響

次に、カウント以外の要素が企図率に与える影響を見ていく。

まずはイニングと点差ごとの企図率を比較していく(表5)。一般的には僅差の終盤ほど盗塁が企図されるようなイメージがあるが、果たして実際の企図率はどのようになっているだろうか。

イニングで見ると、4~6回や7回以降よりも1~3回の二盗企図率が高くなっている。ただ、これは2点以上ビハインドの状況での企図率が序盤から終盤になるにつれて低下していくことの影響が大きく、その他の点差ではこうした傾向は見られない。当然ながら、2点以上ビハインドの状況で二盗を成功させたところで、同点または逆転となる2点以上得点できる確率はそれほど上がるわけではない。これに対して、失敗した場合の得点期待値の低下は大きく、特に終盤では残る攻撃の機会も少ないために、二盗を仕掛けるメリットをデメリットが上回る場面は序盤よりもずっと多い。このため、2点以上ビハインドの状況では、終盤になるほど企図率が下がるというのも十分に理解できることだ。他方で、それ以外の点差では企図率が大きく変化しないのはやや意外な感もある。以前行った分析でバント企図率は点差やイニングの影響を強く受けていたが、同じく走者を進塁させる手段であっても、盗塁はこれとは異なるようだ。

続いて、打者と投手の能力が企図率に与える影響を見ていく。今回は打者、投手いずれも wOBA(weighted On Base Average)で3グループに分けて、それぞれでの企図率を調べてみた。wOBAはOPSのような総合打撃指標と考えてもらえればよい。一般的には打者の打力が高い場合にはあまり盗塁を仕掛けさせない印象があるが、どのような結果となっているだろうか。

表6を見るとなんと、実際には打者のwOBAが高く(打力が高い)、投手の被wOBAが高い(失点しやすい)ほど企図率が高い傾向が見られることが分かった。これらはいずれも盗塁させずにヒッティングをさせても良い結果が期待できる状況であるため、企図率が高いのは意外な感がある。 バントの場合では、打者の能力が低いほど、投手の能力が高いほどバント企図率が高い傾向にあったが、 盗塁の場合は、ヒッティングに期待できないから盗塁をさせる可能性が高まるということはないようだ。このように打者のwOBAが高いほど企図率が高くなっているのは、優秀な打者が打席に立つ場合に、一塁に盗塁成功率の高い走者がいることが多いということが考えられるが、この点については、二盗成功率について言及する箇所で詳しく述べる。

さらに、打者と投手の左右別の二盗企図率を見ていく(表7)。左投手の場合は、右投手の場合と比べると盗塁のスタートが切りづらいといわれるが、実際に左投手の方が企図率は下がるのだろうか。また、打者の左右が企図率に影響を与えることがあるのだろうか。

左投手と右投手の比較では、左投手の方で企図率が低くなっている。やはり左投手の場合は盗塁をすることが難しいためか、企図率が下がるようだ。また、左打者と右打者の比較では、左打者が打席に立っている場合の方が企図率が高い。

アウトカウントやボールカウントと比べると大きな違いとはなっていないが、その他の状況によっても企図率が変化していることがわかった。

二盗成功率が企図率に与える影響

最後に二盗成功率と二盗企図率の関係を整理しておく。一般的に考えれば、二盗成功率が高い走者では二盗企図率が高いことが予想される。また、捕手の盗塁阻止率や投手ごとの盗塁阻止率も二盗を企図するかの判断材料になっていることが予想される。

これらの成功率に関わるような要素がどれだけ考慮されているかを調べていく。

まずは、一塁走者の二盗成功率(走者が一塁のみにいる場合での盗塁成功率を指す。以下、成功率に関連する指標はいずれも同様)と二盗企図率との関係を調べていく。なお、一度も二盗企図がない一塁走者は除いている(捕手や投手の場合も同様)。

表8を見ると、一塁走者の二盗成功率が55%未満の場合、企図率が最も低い。また意外なことに、成功率77%以上と55%以上77%未満を比べると、77%以上の方が企図率が低くなっている。少々意外だが、77%という成功率は 得点期待値 ベースで見た一般的な盗塁成功率の損益分岐点をかなり超える高い数値だ。闇雲に二盗を仕掛けるのではなく、ある程度高い成功率が見込まれる状況のみにしぼって二盗を仕掛けなければ、高い成功率を維持することは難しいと言うことかもしれない。

続いて、捕手の許盗塁率別の二盗企図率を見ていく(表9)。

捕手別に見ると、さきほどの一塁走者の成功率(表8)と比べて分かりやすい傾向が見られる。単純に二盗が成功しやすい捕手ほど二盗を仕掛けられやすい。ただし、一塁走者の成功率別企図率(表8)と比べると、捕手の能力による影響は少し小さい。捕手の能力も企図率に影響はあるものの、走者の能力ほどは大きくないようだ。

さらに、投手の許盗塁率別の二盗企図率を見ていく(表10)。

投手の場合も二盗の成功しやすさで企図率が変わる傾向は見られるが、わずかながら許盗率が77%以上の方が、55%以上77%未満よりも企図率が低くなっている。どちらかというと、二盗が成功しづらい投手の場合には二盗企図が減り、許盗率が中程度か高いかはあまり影響がないといえそうだ。捕手の場合ほどはっきりとした傾向が見られなかった理由としては、捕手と比べても投手の人数が多く、今回対象とした投手の中にはほとんど登板機会がない投手もいるなど、捕手と比べてどの程度二盗がしやすいか情報が整理されていないことが考えられる。

以上のように、二盗の成功率に関係する要素は、カウントや状況等よりもより企図率に与える影響が大きいといえる。当然と言えば当然の結果だが、一塁走者の能力が与える影響が最も大きいようだ。バントの場合は、点差やイニングなどの状況が大きく企図率に影響を与える傾向があったが、盗塁はどちらかといえば、選手の能力によるところが大きいという違いがあるようだ。

今回は、あまり触れられることがなかった二盗企図率を調べたが、次回はさまざまな要素が盗塁成功率にどのような影響を与えるかを調べていく。


市川 博久/弁護士 @89yodan
DELTAデータアナリストを務める弁護士。学生時代、知人が書いていた野球の戦術に関する学術論文を読み、分析に興味を持つ。 その後『マネー・ボール』やDELTAアナリストらが執筆したリポートを参考に自らも様々な考察を開始。『デルタ・ベースボール・リポート3』などリポートシリーズにも寄稿。動画配信サービスDAZNの「野球ラボ」への出演やパシフィックリーグマーケティング株式会社主催の「パ・リーグ×パーソル ベースボール データハッカソン」などへのゲスト出演歴も。球界の法制度に対しても数多くのコラムで意見を発信している。

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