日本シリーズが終わり、各球団は来季に向けて補強を具体的に検討している最中だろう。数ある補強チャンネルの中でも今年はFA市場に注目が集まる。権利行使可能な選手の陣容が例年以上に豪華であるためだ。先日は、それら選手たちにどの程度の価値があるのかを客観的に測る
“FA選手ランキング”を作成した。
ただこれはあくまでフラットな視点での評価。当然ながら球団によって状況は異なる。本企画では各球団が置かれている状況を踏まえて、どの選手の獲得に動くべきか検討を行っていく。そしてその検討も2パターンを用意した。1つは無制限に資金があることを前提とした「理想的なシナリオ」、もう1つは各球団の予算を踏まえた「現実的なシナリオ」である。今回はヤクルト編をお送りする。
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オリックス、ソフトバンク、西武、楽天、ロッテ、日本ハム
野手のニーズを確認
まず総合指標WAR(Wins Above Replacement)をポジション別に見ることで、野手の現状戦力を確認しよう。WARは2.0がリーグ平均という目安で見てほしい。0.0がリプレイスメント・レベル(代替可能選手)だ。
野手で弱点となっているのは一塁、そして左翼だ。一塁は日本シリーズでも大活躍を見せたホセ・オスナが守るポジションである。意外に感じるかもしれないが、レギュラーシーズンだけを見ると、オスナはそれほど優れた成績を残していない。
得点の入りやすい神宮球場を本拠地にしている一塁手にしては打力が十分でなく、また守備指標UZR(Ultimate Zone Rating)で見た場合、一塁守備も優れていないようだ。好選手を獲得できた場合、上積みの余地があるポジションと言える。
また左翼は一塁以上に大きな弱点となっている。今季は青木宣親や山崎晃大朗が中心に起用されたが、チームの左翼全体で守備指標UZRの評価は-12.3。打撃もOPS.692と優れているわけでもないため、総合評価WARが落ち込んだ。問題の深刻さは一塁以上と言っていいだろう。若手の並木秀尊や濱田太貴に期待する手もあるが、来季以降の戦いをより盤石なものとするためには、補強で弱点をより小さくする選択肢もあるだろう。
野手まとめ:最大の弱点は左翼。次いで一塁
今季リーグ優勝を果たしたヤクルトだが、投手陣は特別優れていたわけではない。投手WAR19.7はリーグ5位。特に先発のWARは12.2と、リーグワーストの値であった。
2022年セ・リーグ投手WAR
球団 |
先発 |
救援 |
投手全体 |
阪神 |
21.7 |
9.0 |
30.8 |
中日 |
16.1 |
5.8 |
21.9 |
DeNA |
15.8 |
5.1 |
20.9 |
読売 |
16.3 |
4.0 |
20.3 |
ヤクルト |
12.2 |
7.6 |
19.7 |
広島 |
13.1 |
4.5 |
17.7 |
具体的に来季の予測をベースにした以下の表で、先発の陣容を確認しよう。こうして見ると、特別悪いローテーションには見えない。ただWAR3.1が予測される1番手の奥川恭伸は、トミー・ジョン手術も検討されるほど状態が芳しくないようだ。もしコンディションが上向かないなら、他球団に差をつけられる投手は少なくなる。
また高津臣吾監督は救援に重きを置く運用を続けており、5番手先発として予想されている田口麗斗も救援での起用が濃厚で、投手全体の負荷を下げる運用をしている高津監督にとって、先発投手の枚数が増えるのは歓迎だろう。
一方、救援はどうだろうか。ヤクルトの救援WAR7.6はリーグ2位。リーグワーストの値を記録した先発とは対照的に、充実の様相を見せている。ただ救援の投球回は12球団トップの514イニング。先発が長いイニングを投げられなかった影響が救援の負担となっていたようだ。救援を休ませるためにも先発補強を重視したい。
投手まとめ:重視すべきは救援ではなく先発
ここまでチームのニーズを確認してきたが、それに当てはまる選手が市場にいるかどうかはまた別だ。今オフ市場に出る可能性がある選手で、ヤクルトのニーズに応えられる選手はいるだろうか。まずは予算を気にせず考えてみよう。
大きな上積みをもたらしそうなのが、近藤健介(日本ハム)だ。前述したとおり、ヤクルトは左翼がチーム最大の弱点となっている。平均レベルの選手を獲得できるだけで、チーム力は劇的に変わる。そして当然近藤は平均どころではない選手である。補強効果は凄まじいレベルのものとなるだろう。また近藤との契約が難しい場合、同じ外野手の西川遥輝(楽天)獲得にも積極的に動きたい。
近藤の次に優先的に動きたいのは先発の補強だ。ただ今オフは市場に出る先発投手が非常に少ない。FAランキング8位の西勇輝(阪神)も既に残留濃厚となっているようだ。先発でランキング最上位に来ているのは、4位の千賀滉大(ソフトバンク)だが、MLBへの移籍を熱望しているということもあり、獲得は現実的ではないだろうか。ただここは理想を語る場であるため、リストに加えておこう。
また補償不要なCランクの可能性がある岩貞祐太(阪神)についても、積極的に獲得を狙いたい。現在は救援での起用が多いが、先発稼働も期待できる投手だ。
2022年オフにおけるDeNAのFA補強(理想)
- 1.近藤健介
- 2.千賀滉大
- 3.(近藤が獲得できなかった場合)西川遥輝
- 4.(千賀が獲得できなかった場合)岩貞祐太
現実的なシナリオ
ただこれまで述べたのはあくまでも理想的なシナリオ。予算の都合から全選手の獲得は難しい。今オフのヤクルトにはどれほど予算の余裕があるだろうか。DELTA独自の年俸予測システムから、ヤクルトの2023年総年俸がどれほどになるかを推定してみよう。
これで見るとヤクルトの総年俸予想は33.4億円。過去9年で最も総年俸が大きかった今季の34.7億円に近いレベルにまで、年俸が膨らんでしまっている。予算アップがない限り、目玉選手の補強は難しいだろうか。
この予算で、さきほど理想として挙げた中から獲得可能なのは、西川、あるいは岩貞だろう。既にチームは岩貞獲得を検討しているとの報道が出ているが、これは補強ポイントを的確に踏まえた妥当な判断と言える。ただここではより大きな問題になっている左翼に当てはまる西川を現実的な補強として挙げておこう。
2022年オフにおけるヤクルトの現実的なFA補強
- 1.西川遥輝
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