台湾、韓国での有観客試合までのステップを日本と比較


世界中で新型コロナウィルス(COVID-19)が猛威を振るっている。スポーツ界にもその影響があり、東京オリンピックは延期、各種プロスポーツも延期・中断を余儀なくされているものも多い。野球では他国に先駆け、台湾CPBLが4月12日に、韓国KBOも5月5日に開幕を迎えた。そしてNPBも6月19日についに開幕。MLBも7月1日に夏季キャンプが始まり、7月23日に開幕を目指している。

ただ日本では5月25日の全国における緊急事態宣言解除を受け、段階的に自粛生活やリモートワークも終了。その影響もあってか、同日1日21人まで減っていた新規感染者数も徐々に増えてきており、7月4日は274人になった。

先に開幕を迎えた台湾では、有観客試合までにどのようなステップを踏んだのだろうか。ステップアップの様子をイラストに示した。台湾CPBLは4月12日に無観客で開幕。直前1週間の新規感染者が11人であった5月8日に最大1000人の有観客試合がはじまり、6月7日には最大約40%(約4800-8000人)にまで制限を緩和している。この6月7日における直前1週間の新規感染者はわずか1人であった。

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感染の抑え込みに成功している台湾ですら、このような慎重なペースであったし、感染が再興しつつある韓国は開幕2ヶ月経過しようとしているがいまだに無観客である。また日本が台湾や韓国と大きく異なるのは、球団の本拠地の約半分がドーム球場である点だ。台湾にはドーム球場はなく、韓国には高尺スカイドーム(収容人数17000人)があるのみである。風のとおりが良くない球場が多く、さらには感染者数が増加傾向にある日本でのこのペースアップはやや性急な印象を受ける。


観客である私たちが気をつけるべきポイント


そんな中で観客である私たちはどのような点に気をつけるべきだろうか。まず、やはり意識して欲しいのは3密の回避とマスク着用、手指衛生の徹底だろう。Lancetという著名な医学学術雑誌に本年6月に掲載された論文では、1メートル以上の距離を取ることでウィルス(この論文ではCOVID-19, SARS, MERSを含めたものであるが)の伝染は1メートル以下と比べると有意に低下するとされている。また、距離が離れるほど、ウィルスからの防衛力は上がるとされている。そして、マスク着用や眼を保護することの有用性についても提唱されている。(Chu DK, et al. Lancet, 2020.)

球場内ではフードメニューも販売されるようだが飲食にも注意したい。アメリカ疾病対策予防センターCDC(Centers for Disease Control and Prevention)によれば、食物を介してのウィルス感染の可能性は低いと考えられている。しかし飲食をする際にマスクを外すことで、咳、唾液、鼻汁といった体液が飛び散り、体液に含まれているウィルスを至近距離で浴びる可能性は増す。また、素手で食べることで食器や包装紙に付着したウィルスが体内に入ってしまうこともリスクとして考えられている。食べる前の20秒以上の石鹸を用いた手洗いやアルコール消毒も重要だろう。球場に配備されるであろう衛生グッズは積極的に使用すべきだ。

また試合中は見る側もヒートアップし、普段なら気をつけることができていることがどうしてもおろそかになってしまう。普段の日常生活以上に注意が必要だろう。得点が入った際にほかの観戦客とハイタッチをするなど、これまでであればよく見られたコミュニケーションもこの状況では控えたい。選手同士も直接接触せずに、エアハイタッチやフットタッチなどのコミュニケーションをとる工夫を行っている。私たちファン同士もそうしたかたちを模倣するのがよいかもしれない。

換気の有用性についてもCDC や厚生労働省が発表しているガイドラインにも記されている。夜の街が危険と言われているのは、まさにここに集約されているだろう。野球観戦そのものというよりも、球場内の喫煙所や、観戦後の高揚感からファンが集合して酒を飲みながらその試合についての激論を交わす、もしかするとこちらの方が危険なのかもしれない。野球観戦を楽しんだら余韻に浸らずまっすぐ家に帰る。議論は家に帰ってオンラインで交わすかたちにしたほうがいいかもしれない。もちろん行き帰りの公共交通機関は密になりやすいため注意すべきだ。

また、致死率の高い重症化のリスク因子の高い者は65歳以上、基礎疾患のある者(心臓血管病、糖尿病、慢性呼吸器疾患、高血圧、糖尿病など)とされている。(Zhou F, et al. Lancet, 2020., Ruan Q, et al. Intensive Care Med, 2020.)先日MLBファンの平均年齢が57歳と話題になったが、NPB もファンの年齢層は高めなようだ。年齢が高めのファンはより一層十分な注意が必要なのかもしれない。

ここまでのことから球場観戦に出かける際、気をつけるべきポイントをまとめた。

1.3密の回避とマスク着用、手指衛生の徹底
2.飲食の際には特に気をつける
3.興奮してしまいがちな試合中はより一層注意する
4.試合中よりも試合後のリスクが大きい可能性が考えられる

DeNAのスペンサー・パットンが緊急事態宣言中の4月18日に多くの人々がラーメン屋に行列をなしている姿を見て、「今シーズン野球を見たければなるべく家にいてくれ」とツイートしたことが話題になった。最近では若年者に感染が拡がっているようだ。ひとりひとりが「すでに感染しているかもしれない」という意識を持ち、球場内、そして球場外でも細心の注意を心がけ、今シーズンのプロ野球を楽しんでいただければと願っている。

(※)千葉ロッテはCOVID-19の感染マナーについて公式ウェブサイトで発表している(https://www.marines.co.jp/stadium/measures/index.html)。また、サッカーのJリーグは超厳戒態勢と称し、独自の応援マナーも発表している。


水島 仁
精神科専門医、認定内科医。首都圏の民間病院の急性期病棟に勤務する傍らセイバーメトリクスを活用した分析に取り組む。 メジャーリーグのほか、マイナーリーグや海外のリーグにも精通。アメリカ野球学会(SABR)会員。



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