野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、先日、データ視点の守備のベストナイン
“DELTA FIELDING AWARDS 2022”を発表しました。ここでは投票を行ったアナリストが具体的にどのような手法で分析を行ったか、またその分析からの感想を紹介していきながら、具体的に分析データを見ていきます。今回は三塁手編です。受賞選手一覧は
こちらから。
対象三塁手に対する9人のアナリストの採点
三塁手部門は安田尚憲(ロッテ)が受賞者となりました。アナリスト9人のうち5人が1位票を投じ、90点満点中86点を獲得しています。安田は2020年が9人中7位、2021年が11人中9位と、昨季まではアナリストの評価も高くなかった選手です。そんな安田が今季は一気に順位を上げてきました。アナリスト岡田友輔からは、明確な守備力向上が指摘されています。
2位は昨季の受賞者・茂木栄五郎(楽天)。1位票を2票獲得するなど、安田と接戦を展開。5ポイント差で及びませんでしたが、今季も好守備を見せました。
一方、昨季から2年連続でゴールデン・グラブ賞を獲得した宗佑磨(オリックス)は今季7位と低迷。2年連続で好成績を残した茂木と対照的な結果となっています。データ分析視点で見ると、まだ若いにもかかわらず守備指標が悪化させる選手は、故障やコンディション不良を抱えていたケースが多いです。今季の宗もそうした状況にあったのかもしれません。
今季、打撃面でNPBの話題をさらった村上宗隆(ヤクルト)は3位。アナリスト宮下博志は1位票を投じていました。宮下の分析では、村上は特に送球で12球団トップと優れた成績を残していたようです。アナリスト道作氏も将来的なMLB挑戦に向け、今季の守備力向上をポジティブに捉えています。
今季、三塁に本格挑戦した坂倉将吾(広島)は9人中8位の評価。ただアナリスト竹下弘道氏は球場の有利・不利を均すパークファクター補正を守備指標に施し、三塁手を評価。その結果、不利なマツダスタジアムで多くの守備を行った坂倉の守備はそれほど悪くなかったと結論づけています。
各アナリストの評価手法(三塁手編)
- 岡田:UZR(守備範囲+併殺完成+失策抑止)を改良。送球の安定性評価を行ったほか、守備範囲については、ゾーン、打球到達時間で細分化して分析
- 道作:過去3年間の守備成績から順位付け
- Jon:UZRを独自で補正。打球の強さにマイナーチェンジを行うなど改良
- 佐藤:基本的にはUZRで評価。ただ値が近い選手はゴロのアウト割合を詳細に分析し順位を決定
- 市川:守備範囲、失策、併殺とUZRと同様の3項目を考慮。だが守備範囲についてはUZRとは異なる区分で評価。併殺についてもより詳細な区分を行ったうえで評価
- 宮下:守備範囲は捕球、送球に分けて評価。これに加え、米国のトラッキング分析をフィードバック。打球が野手に到達するまでの時間データを利用し、ポジショニング評価を行った
- 竹下:UZRを独自で補正。球場による有利・不利を均すパークファクター補正も実施
- 二階堂:球場による有利・不利を均すパークファクター補正を実施
- 大南:出場機会の多寡による有利・不利を均すため、出場機会換算UZRで順位付け。ただ換算は一般的に使われるイニングではなく、飛んできた打球数で行った
UZRの評価
各アナリストの採点を見たところで、いま一度、UZR(Ultimate Zone Rating)で行ったベーシックな守備評価を確認しておきましょう。
これを見るとトップの安田も値は7.1。他ポジションに比べると値は小さく、全体のレベルが拮抗していた様子がわかります。またUZRの評価では村上が茂木を上回る評価となりました。
この中でも、最も大きな差がついている守備範囲評価RngR(range runs)について、具体的にどういった打球で評価を高めているのかを確認していきましょう。
以下表内のアルファベットは打球がフィールドのどういった位置に飛んだものかを表しています。図1の黄色いエリアが対象のゾーンです。対応させて見てください。値は平均的な三塁手に比べどれだけ失点を防いだか。右端の「RngR守備範囲」欄が合計値です。
これを見ると、各三塁手がどういったゾーンの打球に対し強みを発揮していたかがわかってきます。守備範囲RngRにおいて安田を上回っていた村上は、三塁線、そして三遊間と左右両方で強みを発揮しています。特に、三遊間Fのゾーンではかなり他選手に多く差をつけていたようです。
安田は三塁線の打球は特別強くありませんが、三遊間で満遍なく好成績を記録。ちなみに安田は2020年の本企画において、三塁線の打球に強い一方、三遊間の打球となるとアウト割合が大きく下がる旨を指摘されていました。今季はより三遊間寄りに守るポジショニングをとり、それが好結果を生んだのかもしれません。
茂木、野村祐希(日本ハム)、糸原健斗(阪神)は三塁寄りで好成績。
宗は三塁線の数字が-4.8と、最大のマイナスを記録してしまっています。この範囲の打球が原因となり、今季の守備成績が振るわなかったようです。岡本和真(読売)も同様の傾向にありました。
宮﨑敏郎(DeNA)は三塁線、三遊間どちらにも大きな損失を作っており、守備範囲に大きな問題を抱えている様子がわかります。2017年には本企画でもトップとなりましたが、年齢を重ねたせいかかなり守備力を落としているようです。一塁へのコンバートも検討しはじめたいところです。
来季以降の展望
来季以降はどうなるでしょうか。三塁は他ポジションに比べ、絶対的な存在がいるわけではありません。茂木や宗もコンディションの問題を抱えているようです。また今回の対象者以外には、今季三塁を316イニングを守り、UZR3.9を記録した石川昂弥(中日)、2021年に三塁で好成績を残した栗原陵矢(ソフトバンク)あたりも上位争いに食い込むかもしれません。かつての茂木や宗のように、遊撃からの転向組が現れれば、瞬く間に情勢は変わるでしょう。いずれにせよ、本命は不在。シーズンが始まってみなければ誰が受賞となるかは読めそうもありません。
- 過去の受賞者(三塁)
- 2016年 松田宣浩(ソフトバンク)
2017年 宮﨑敏郎(DeNA)
2018年 松田宣浩(ソフトバンク)
2019年 大山悠輔(阪神)
2020年 岡本和真(読売)
2021年 茂木栄五郎(楽天)
データ視点で選ぶ守備のベストナイン “DELTA FIELDING AWARDS 2022”受賞選手発表