セ・パともに優勝チームが決まったこの2週間。セ・リーグはCS争い、パ・リーグは2位争いに注目が集まっているが、すでに来季に向けての準備が始まっている下位球団の動きも見逃せない。前回は こちらから。(データはすべて9月24日時点)

セ・パ両リーグの順位おさらい


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広島が2年連続リーグ優勝を決定。地元マツダスタジアムでの胴上げはなりませんでしたが、18日に甲子園球場で行われた阪神戦を3-2で勝ち、球団としては1980年以来37年ぶりの連覇を達成しました。今季は、ディフェンディングチャンピオンとして心身ともにプレッシャーのかかるシーズンになるだろうという声もありましたが、開幕2試合目から引き分けを挟んで10連勝を記録してスタートダッシュに成功。7月1日には貯金20に到達しましたが、これは昨季の7月12日を上回るペースで、この時点で2位とは8.0ゲーム差をつけていました。後半戦に入ってややペースが落ちましたが、9月に入ると9連勝を記録。現在86勝で、残り4試合の結果によっては昨季の89勝を抜くことも可能です。今後はクライマックスシリーズ(CS)突破と、1984年以来33年ぶりの日本一を目指すことになります。。

CS出場権争いは混沌としてきました。阪神が8日からのDeNA3連戦をスイープしたときには2位確定かと思われましたが、その後は先週末まで2勝4敗1分とペースが後退。一方、DeNAは同じ期間で5勝3敗、、今週25日の阪神戦にも勝ち、阪神との差を3.5ゲームにまで縮めて来ました。読売は、13日の阪神戦に勝った時点で3位に浮上するも、その後8試合を3勝5敗と負け越し再び4位に転落。阪神は4番打者の選択に手こずり、得点力が次第に低下。DeNAは19日から4日間の空き日を有効に消化した様子で、投打ともに躍動感が蘇りました。読売は、短期間で4つのチームとビジター対戦を強いられた日程に泣かされた感もありましたが、今月に入ってから、本来のローテーション中6日を縮めた試合が12度もあり、苦しい運用が結果に表れたとも考えられます。ただ、ここまでのペナントレースも勢いを見せた途端に連敗を喫する光景が何度も見られただけに、シーズン最後まで何が起きるかわかりません。

来季への準備を進めている中日とヤクルトは好対照な結果となりました。期間中の直接対決は4試合ほどありましたが、全てビジターでの対戦だった中日が3勝1敗と勝ち越し、現在の順位を示す形となりました。5位が確定した中日は、森繁和監督の来季続投がほぼ決定的。ヤクルトは1970年に記録した球団ワーストの94敗まであと2敗。記録更新だけは何とか避けたいところでしょうが、先発投手陣に故障者が重なり苦しい事情に変わりはありません。少しでも来季に繋がる展望を見せて欲しいものです。


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パ・リーグも16日にソフトバンクのリーグ制覇が決定。今回は、2015年に自軍が更新した優勝決定日(9月17日)を再び更新し、2年前のチーム勝利数(90勝)もすでに超えています。圧倒的な差をつけての優勝だったたけに、シーズン最多勝利数(1995年南海の99勝)更新も期待されましたが、今週25日現在で残り6試合に対し91勝と、残念ながらこれには届きません。今季のソフトバンクは開幕15試合で7勝8敗と スタートダッシュに失敗し、6月までは楽天の後塵を拝す状態が続いていました。それが7月に入ると、楽天と抜きつ抜かれつの攻防となり、8月には13連勝を記録した西武も優勝争いに割って入って来ましたが、ソフトバンクは8月15日のオリックス戦から8連勝を記録。ここで楽天、西武ともにスイープしたことでチームに弾みがつきました。9月にも9連勝を記録し、13試合を残しての優勝は王者の貫禄というより他はありません。

CS争いは西武と楽天に絞られ、興味はファーストステージの主催試合興行権をどちらが獲得するかです。25日現在では、西武が楽天を2.5ゲーム差離しての2位につけていますが、両球団の残り試合数は大きな差があり(西武6試合、楽天12試合)、どちらも自力で勝利を掴まない限り目標は果たせません。2位争いが最後までもつれた場合、10月5日で日程を終える予定の西武に対し、楽天は10日のロッテ戦が最終戦となります。雨天中止により、これ以上日程が遅れるとCSにも影響を与えかねないため、場合によっては1998年以来となるダブルヘッダーでの試合も考えられなくはありません。さらに、早い時点で順位が確定したとしてもCSまでの日程が残り10日間を切れば、例え消化試合でも主力選手を休ませることができなくなります。これについては今年1月、セ・リーグ理事会で「CS選手登録の特例」が話し合われ、順位確定後も自由に入れ替えが出来る案が検討されていましたが、パ・リーグにはその動きはありませんでした。ペナントレースの最後の最後まで順位争いを楽しみたい反面、プレーオフでの選手のコンディションを考えると順位確定が早まったほうがいいとも考えられます。

オリックス、日本ハム、ロッテの3球団は若手の起用率を高め、上位球団を相手に善戦しました。オリックスは、敵地で楽天に2連勝。21日の試合では、1点ビハインドの8回に吉田正尚の逆転3ランが飛び出すなど、ビジター12連戦という最中でも元気なところを見せています。日本ハムは、21日のソフトバンク戦で大谷翔平が今季最長の6回を投げ切り、また2年目の横尾俊建が豪快な本塁打を放って6-4で勝利。ロッテも敵地での西武3連戦に全勝。来季に向けて、投手陣に光明が差しこんで来ました。24日は、今季限りで現役を引退する井口資仁が最後のプレーを見せ、9回裏2点ビハインドの場面で同点2ラン。球場に集まったファンを始め、全国の野球ファンの目を釘付けにしました。


一・二軍デプスチャート


※9月26日に予告先発が発表されている投手は一軍のデプスチャートに置いています。
画像にマウスをのせる(スマートフォンの場合タップする)と一・二軍が切り替わります。

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三軍の日程を全て消化したソフトバンクは、ファーム公式戦の出場要員デプスが一気に増加。育成3年目の幸山一大や、同2年目の黒瀬健太らが合流し、来季への足がかりを掴もうとしています。そんな中、2年目の茶谷健太が日増しに存在感を高めています。高校時代は投手で、強肩を活かした守備は注目に値し、苦手とされていた打撃も徐々に板についてきました。ファームでの打席成績は良くはありませんが、実質1年目のシーズンにして打率.245は健闘しているといって良いでしょう。打順も下位から上位へと上がっていき、24日のウエスタン阪神戦ではついに3番に入りました。秋季リーグ以降、さらに成長するかどうか期待が集まります。


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西武は、手薄なファームから1人でも一軍戦力に回したいところ、24日のオリックス戦で3年目の高橋光成が130日ぶりに一軍登板。6回を投げ2失点で今季3勝目を挙げました。また、故障中だった大石達也が15日のイースタンDeNA戦で約2ヶ月ぶりの公式戦復帰。左肩違和感のため一軍登録を抹消されていた武隈祥太も、ファームでの調整1試合のみで23日には一軍復帰を果たしています。ただ、投手陣の不安を乗り切るには打線のサポートが絶対に必要。現在は代打に甘んじているエルネスト・メヒア、少しずつ調子を取り戻している中村剛也らの完全復活が望まれるところでしょう。


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楽天は、19日の日本ハム戦でプロ入り初の10勝を挙げた美馬学の存在が好材料ですが、このところ先発投手の完投能力に頼り過ぎている傾向があります。21日のオリックス戦では、110球を超えてもなお続投した岸孝之が逆転を許し、24日のソフトバンク戦は則本昂大が完投を記録したものの、終盤での失点が敗戦に繋がりました。そのため、守護神を務める松井裕樹は9月に入ってから4試合しか登板がなく、勝ちパターンでの継投策も形が見えなくなっています。2013年に日本一を勝ち取ったときも、シーズン終盤にブルペンが崩れ、ポストシーズンでは先発だった田中将大(現MLBヤンキース)をブルペンに回さざるをえない事態になったケースと酷似しており、これ以上不安を広げないためにもブルペンの見直しは絶対に必要です。


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オリックスのファームは、他球団に先駆け24日を持って全日程を終了。今季は50勝53敗9分と負け越したものの、2014年以降では最も高い勝率でした。原動力となったのは、このレビューで何度も紹介している2年目の吉田凌や、1年目から早くも一軍に抜擢された山本由伸、一軍でプロ初本塁打を記録した杉本裕太郎、3年目の今季に初めてフルシーズンを乗り切った宗佑磨ら若手の躍進がチームを盛り立てました。個人成績が伸びたことでチーム成績が向上、首脳陣から見て「使ってあげたい選手」から「使ってみたい選手」が増えたのは球団にとっても喜ばしいことでしょう。ここからさらにステップし、来季は一軍で何人の若手が活躍できるか、今から楽しみです。


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依然としてファームのデプス難を解消できていない日本ハムですが、幸いにも故障者を出さず、腰痛のため長期離脱していた近藤健介が、13日に久々に実戦復帰を果たしました。打撃そのものは本調子から遠いようですが、まずは一安心といったところでしょう。来月1日より戦力外通告が解禁となりますが、若い選手の多いチームだけに、残り少なくなったファーム公式戦では生き残りを懸けた戦いが見られそうです。


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ロッテは、来季監督に今季限りで引退する井口資仁を起用する方針で、もしこれが決定すればチームを大きく改革することも想像できなくはありません。そのため、選手たちは一軍も二軍も公式戦最後まで息を抜くことは許されず、チームには張り詰めた空気が漂っているかもしれません。先の西武3連戦では二木康太、酒井知史、佐々木千隼の若手3投手がいずれも勝ち星を挙げましたが、今週以降の試合でもどこまで結果を残せるかに注目が集まります。


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広島はリーグ優勝が決定した翌日から、一軍選手6人の登録を抹消し、若手に経験を積ませる機会を設けました。今季プロ1年目の坂倉将吾は、ウエスタン打撃成績2位の実績を引っ提げ23日にはプロ初打席に立ち、左飛に終わるも非凡なスイングスピードを披露。来日2年目のアレハンドロ・メヒアは2度目の一軍昇格となりましたが、守備の面でまだまだ不安があり、打撃でも自身のタイミングが掴めていないようです。それでもウエスタンでほぼ首位打者確定の打率.331を残し、打撃に関してはファームをいつ卒業しても良い選手には違いありません。今回の一軍昇格は、どちらの選手にとっても貴重な体験となるでしょう。


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阪神は、金本知憲監督期待の大山悠輔が4番の重責に応えられず、23日にはジェイソン・ロジャースを緊急昇格。そのロジャースは、神宮球場でのヤクルト戦でこそ3安打1本塁打と活躍しましたが、地元甲子園球場に戻ってのDeNA戦は不発と打線が安定しません。ベテランの福留孝介も含め、コンディションによって選手を入れ替えてきた策も、歯車が一つ狂えば全体が止まってしまいます。


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DeNAは18日のヤクルト戦の後に4日間試合がなく、その後3連勝。打線、投手ともに調子は良いようです。3位確保並びに2位進出への鍵は、今週27日から始まる予定の阪神3連戦。本拠地横浜スタジアムでの対戦は、今季2勝7敗と苦手としていますが8月13日以降は本拠地での対戦はなく、現在のコンディションを考えると苦手意識を持つ必要までは無いでしょう。現在の一軍デプスは投手に重きが置かれており、3連戦中に躊躇なく入れ替えることも想定されます。


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読売の今季残り試合は5試合。27日の中日戦にマイルズ・マイコラスが中4日で先発するようなら、菅野智之、田口麗斗、畠世周の4人でローテーションを回ることが可能です。先週のうちに3位確保が果たせなかっただけに、残り試合を全力で戦い、結果を待つ形となりそうですが、若手の起用が積極的に進められなかったのは今季の大きな課題です。ファームでは今月、各野手が打撃好調でしたが、一軍が一歩も譲れない展開の中で育成を兼ねた起用は非常に難しく、年々チーム力の低下とともにチャンスがなくなっています。


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中日は、森野将彦が24日に現役最後の打席に立ち、彼の21年間のプロ野球人生の幕が閉じました。一方では、岩瀬仁紀、荒木雅博らに来季コーチ就任の要請があり、山井大介も現役続行の見通し。23日には浅尾拓也が今季初の一軍昇格を果たし、来季生き残りに懸けています。30歳台中盤から後半以上のベテラン達の大多数が残留ということは、今オフも昨季のように戦力外通告・放出を控えるか、あるいは20歳台の選手を中心に大量整理が行われる可能性があります。10月26日に行われるドラフト会議に向けて、球団がどのような方針を立てているかによっても変わりますが、伸びしろのある選手を放出しないよう、ファームを含めて緻密な選手評価に迫られるかもしれません。


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ヤクルトはシーズンを通して投手運用に苦心しました。9月に入ってから星知弥、小川泰弘に右肘の疲労骨折が見つかり、どちらも今季終了とあって、残り試合は若手を含めた来季へのテストが中心となりそう。今週30日には、プロ1年目の寺島成輝の先発も予想されています。ファームも残り試合わずかとなりましたが、多くの投手が一軍で起用されることが予想されているため、最後の最後まで投手不足が続いてしまいました。来季監督には、小川淳司シニアディレクターの再登板が有力視され、チームOBの宮本慎也氏の入閣も期待されています。チームが一番苦しいときに、再建を任されるのは厳しい仕事となるでしょうが、それを行うのもOBの役割だと考えれば適切な人選のように思われます。


2週間の個人成績ランキング


OffenceはwRAA(weighted Runs Above Average)+走塁評価、DefenseはUZR(Ultimate Zone Rating)+守備位置補正

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セ・リーグ野手の出塁率、Offence、WAR(Wins Above Replacement)の3部門で上本博紀(阪神)がトップ。9月全体でも打率.490、出塁率.569は驚異的で、故障の影響が少なくなったせいか守備でも良い動きを見せています。前回レビュー時にて野手WARトップだった松山竜平(広島)とともに月間MVPの有力な候補でしょう。長打率トップのホセ・ロペス(DeNA)は、来日5年目にして自身初の100打点を突破。今季は調子の波が小さく、4番打者として申し分ない働きをしています。Defenseでは陽岱鋼(巨人)がリーグ最多のポイントを稼ぎ、年間UZRも+9.9と大幅なマイナスを記録した昨季からV字回復を果たしています。


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パ・リーグ野手は、9月13日のソフトバンク戦で3打席連続アーチを放ったクリス・マレーロ(オリックス)が軒並み上位にランクイン。野手WARでは加藤翔平と荻野貴司(ロッテ)が上位に進出。どちらも9月は4割近いアベレージを残し、チームの得点源としての役割を果たしました。Defenseでは若手が並ぶ中、藤田一也(楽天)の存在が光ります。9月以降にスタメン機会の増えた藤田は、本職の2塁ではなく茂木栄五郎の代役として遊撃の守備に就くことが多く、そこで高ポイントを獲得しています。今季は自身の怪我もありましたが、外国人野手3人体制の影響を受け一時はポジションを失いかけましたが、チームにとってまだまだ必要な存在でしょう。


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セ・リーグ投手WARトップの菅野智之(読売)は、自身初の15勝を挙げるとともに投球回数もキャリアハイに到達するのは時間の問題。20日の阪神戦では、今季4度目の完封勝利も飾り、オフには沢村賞の有力候補にも間違いなく上るでしょう。チームの投手陣に故障者が相次ぐ中、原樹理(ヤクルト)は孤軍奮闘の活躍といったところで、今季は4シームの平均球速が3.3km/hも向上(144.2km/h)。自身の武器でもある2シームに磨きをかければ、西本聖(元読売)のようなインサイドとアウトサイドを使い分ける優秀なグラウンドボーラーになれる可能性も秘めています。


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パ・リーグ投手では、菊池雄星(西武)が14日の楽天戦で15勝に到達。トップに1勝差に迫っている勝ち星次第では、投手三冠(防御率、最多勝利、最多奪三振)も夢ではなくなってきました。また、菊池には沢村賞の期待も懸かっており、ここでは菅野との一騎打ちが予想されます。防御率では菅野、奪三振では菊池が有利となっていますが、完投及び完封数はどちらも同じで、今の時点では全くの互角といって良さそうです。佐々木千隼(ロッテ)は数字の面でも信頼を回復し、来季は先発ローテーションの一角として働いてくれそうな期待を感じさせています。


次回レビューはシーズン最終号として、公式戦全試合日程消化後に更新する予定です。

高多 薪吾 @hausmlb
個人サイトにて独自で考案したスタッツなどを紹介するほか、DELTAが配信するメールマガジンで記事を執筆。 投手の運用に関する考察を積極的に行っている。ファンタジーベースボールフリーク。

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