プロ野球において基本的に、失点抑止に対して最も影響が大きい守備の要素は守備範囲である。失策しないことや、併殺を多くとる能力も求められるが、守備範囲はそれら以上に決定的な差を作り出す。チームの失点を減らすためには、より多くの打球に追いつきアウトを増やす事が重要になる。しかし、守備範囲とは実に曖昧な表現である。例えば、UZR(Ultimate Zone Rating)における守備範囲評価 ( RngR ) は捕球や送球を個別に評価する指標ではない。守備範囲というと、捕球までの過程を評価しているように見えるが、これには送球への評価も含まれている。前回、『内野手が「送球」でどれだけアウトを増やしたかを評価する』で送球を対象に評価を試みたが、本稿では内野手の守備範囲を捕球と送球に分け、評価する。

内野手のゴロ処理を分類


内野手のゴロ処理は捕球、送球のプロセスを経て大きく3つの結果に分類できる。



実質的には外野ゴロのほぼ100%が出塁であるため、今回は外野ゴロアウトを除いて考える。まず内野ゴロアウト、内野ゴロ出塁、外野ゴロ出塁の3つの処理結果で、内野手にどういったプレーが起こるかを確認しておこう。


内野ゴロアウト

内野ゴロアウトは内野手が捕球してアウトにしたゴロである。捕球に成功し、かつ送球でアウトを増やしているため、捕球評価、送球評価の両面でプラスとなる。


内野ゴロ出塁

内野ゴロ出塁、つまり内野安打または失策出塁である。ゴロの捕球には成功しているため、捕球評価はマイナスにはならないが、アウトを増やしていないため送球評価がマイナスとなる。本来は内野安打、失策出塁には捕球失敗も含まれているはずだが、捕球と送球、どちらの失敗により出塁したのかは切り分けが難しいため、ここでは内野安打、失策出塁は捕球に成功し、送球に失敗したものとして扱う。「捕球に成功したゴロで出塁を許した」というよりは「捕球可能だったゴロで出塁を許した」といったほうが正確かもしれない。


外野ゴロ出塁

外野ゴロ出塁は内野手が捕球できなかったゴロである。「捕球できなかった」には追いつくことができなかったゴロも含む。稀に外野ゴロアウトも発生するが、内野手が捕球に失敗したゴロはほぼ確実に出塁につながっている。この処理では送球が発生しないため、外野ゴロ出塁は捕球評価のみマイナスとなる。

3つのプレーを捕球、送球の成功、失敗で分けると表1のようになる。



具体的な評価方法


それぞれのプレーでの捕球、送球の成否を確認できた。次に処理結果別の評価方法を説明する。今回例とするのは、下図、オレンジのゾーンを通過した、あるいはそのゾーンで捕球されたゴロだ。ハングタイム(打球発生から捕球までの時間、あるいは該当ゾーン通過までの時間)は1.5-2.0秒を対象とする。





外野ゴロ出塁の評価

このゴロを平均的な三塁手は14.9%、平均的な遊撃手は29.7%の確率でアウトにしている。外野ゴロ出塁の場合、両ポジションは捕球の失敗によって、各ポジションで平均的に見込めるアウトを増やせなかったと評価できるため、捕球評価がマイナスとなる。


三塁手の捕球評価=0-0.149=-0.149
遊撃手の捕球評価=0-0.297=-0.297

内野ゴロ出塁の評価

三塁手がこの打球を捕球し、出塁を許してしまった場合を考える。この時、送球の失敗によって平均的な三塁手が獲得する14.9%のアウトだけでなく、平均的な遊撃手が獲得する可能性のあった29.7%のアウトを失う事になる。三塁手が捕球した時点で遊撃手はアウト獲得の機会を失うため、アウト獲得失敗の責任は遊撃手の分まで三塁手が負う。この責任を便宜的に「横取り」と呼んで評価する。


三塁手の送球評価=0-0.149=-0.149
三塁手の横取り評価=0-0.297=-0.297

内野ゴロアウトの評価

三塁手がこの打球を捕球し、アウトを獲得した場合を考える。内野ゴロアウトは外野ゴロ出塁、内野ゴロ出塁を防いだことを意味する。

外野ゴロ出塁は捕球評価の対象となるため、防いだ32.2%の外野ゴロ出塁を三塁手の評価として加える。


三塁手の捕球評価=0.322

残りの内野ゴロ出塁のうち、1.5%は三塁手の内野ゴロ出塁、21.7%は遊撃手の内野ゴロ出塁で構成されている。前者は三塁手の送球、後者は横取りとして評価する。


三塁手の送球評価=0.015
三塁手の横取り評価=0.217

このように、内野手のゴロ処理は3つの評価項目に分類できる。UZRの守備範囲評価 ( RngR ) とおおむね同じ算出方法だが、この評価ではアウトを獲得できなかった場合だけでなく、獲得した場合も隣接ポジションとの責任分担を考慮している点、捕球と送球を個別に評価している点でUZRと性質が異なる。どの処理に強みがあるのか、より明確にする評価方法だ。

今回はUZRの算出に使用するゾーン区分と、0.5秒単位で分割したハングタイムから打球のアウト割合を算出し、内野手がゴロ処理で増やしたアウト数を評価する。評価対象は各ポジションを650イニング以上守った野手とする。

なお、ここでは走者の有無を区別していない。先日行った『内野手が「送球」でどれだけアウトを増やしたかを評価する』では走者なしの状況を対象としたが、今回の送球評価はそれとは若干異なっている点に留意されたい。


2017年ポジション別評価


一塁手

・捕球評価

全体的に差は小さいが、ホセ・ロペスが大きなプラスを記録している。


・横取り評価

一塁手は捕球後の処理では差が付いていない。処理可能な打球が少ない事も要因だが、二塁手がアウトにできる打球を一塁手が処理する機会は少ないようだ。


・送球評価

一塁手の送球評価には、送球だけでなく自身で一塁ベースを踏む機会も含まれる。こちらも選手によってほとんど差は出ていない。


二塁手

・捕球評価

捕球評価では鈴木大地が最も多くアウトを増やしていた。5年連続ゴールデングラブ賞の菊池涼介は2014年以降、年々捕球評価が低下しており、2017年に初めてマイナスを記録した。これについては後述する。


・横取り評価

全体的にマイナスとなっているが、選手間の差は小さい項目となっている。


・送球評価

送球評価は一塁手よりも若干差が大きい。この項目では菊池、山田哲人が先行しているが、捕球評価のマイナスを埋めることはできなかった。捕球評価で平均的だった上本博紀だが、送球評価では下位に沈んだ。


三塁手

・捕球評価

捕球評価では安部友裕、ブランドン・レアード、宮﨑敏郎がリードしていた。2017年は年齢層が高かったが、その中でも30代半ばの選手が捕球評価で後れを取っている様子が見える。


・横取り評価

全体的にプラスを記録している。三遊間のどちらでもアウトにできる打球については、三塁手は巧く処理していたようだ。


・送球評価

三塁手と言えば送球能力が試される印象があったが、意外にも送球評価では捕球評価ほどの差が出ていない。ここでも安部、宮崎が上位に名を連ねている。


遊撃手

・捕球評価

捕球評価では源田壮亮が文字通り桁違いのプラスを記録している。源田の守備範囲は一線を画した捕球までの能力に支えられているようだ。安達了一は少ない守備イニングにもかかわらず多くの打球に追いつきアウトにしていた。フル出場できるコンディションなら源田に匹敵する数字だ。全体的に、遊撃手の捕球評価は差が出やすい項目となっている。


・横取り評価

多くの選手が若干のマイナスを記録した。三塁手が捕球できなかった打球を遊撃手が捕球しても、アウトにするのは難しいのかもしれない。この項目はほとんど差が出ていない。


・送球評価

この項目も源田、安達がトップを走っているが、他の選手との差は捕球評価ほど大きくない。坂本勇人、今宮健太、中島卓也は2人に見劣りしない送球評価を見せている。大引啓次は捕球評価で大きなマイナスを作ったが、捕球後の処理は平均的だった。


各ポジションどの項目で差がつきやすいか


ポジション別に数字のバラつきを表す標準偏差を確認しよう(表8)。数字が大きいほど差がつきやすい項目といえる。今回の集計対象は2014-2017年のNPBで650イニング以上守った野手である。



一塁手

一塁手は全項目で標準偏差が小さく、守備範囲で差が出にくいポジションとなっている(表8)。打球の少なさも要因で、多くのゴロを処理できる選手を一塁に置くメリットは小さい。

一塁手の標準偏差を確認する上で、かつて阪神に在籍していたマウロ・ゴメス ( 2014 - 2016 )が大きな存在感を放っていた。ゴメスが2014年に記録した捕球評価-20.4は、一塁手全体の分散に影響を及ぼした(表9)。捕球評価でゴメスの次にマイナスが大きかった2016年の阿部慎之助は-7.8で、トリプルスコアに近い差を付けている。最高値を記録した2016年のロペスが+11.9に留まっている事を鑑みても、2014年のゴメスが記録した値は全体の傾向よりも、かなり大きい数字だった。なお、ゴメスの捕球評価は年々改善し、在籍最終年となった2016年はプラスに転じている。



二塁手

高い守備力が求められる印象のある二塁手だが、捕球では差が出にくい結果となっている(表8)。近年の二塁手の守備範囲が拮抗しているのか、原理的に差を付けにくいポジションなのかどちらなのだろうか。

二塁手で気になる推移を見せている選手が広島の菊池だ。2014-2016年は良好な守備範囲を見せていたが、2017年に-7.4と大きなマイナス評価になってしまった(表10)。推移を見ると年々捕球評価が低下しており、送球評価が上昇傾向を見せている。多くの打球に追いついてアウトを増やすスタイルから、追いついた打球を確実にアウトにするスタイルに変化しているようだ。2017年は膝のコンディション不良を報じられていたが、今季どのような守備を見せるのかに注目したい。



三塁手

三塁手は一塁手、二塁手よりも捕球で差が出やすい傾向がある(表8)。一方で、鋭い送球が華とされる三塁手の送球は意外にも差を付けにくい。三塁手は処理するゴロの少なさだけでなく、速いゴロの多さから捕球後は送球に掛けられる時間が長い(表11)。差が出やすいギリギリの送球はそれほど多くないのかもしれない



遊撃手

守備範囲で最も差が出やすいのが遊撃手だ。特に捕球評価は大きな差を付けられる項目で、捕球範囲が広い遊撃手の価値を示している(表8)。送球でも差を付けやすく、高い総合力が要求されるポジションだ。守備範囲の観点で、遊撃手の守備は間違いなく内野守備の要となっている。

全体的な傾向として、遊撃手は三塁手が捕球できなかったゴロを捕球してもアウトにできていなかった(表12)。一方、二塁手が捕球できなかったゴロを捕球した場合は若干アウトを増やしている。三塁側のゴロを捕球してもアウトにできないのなら、遊撃手は少しだけ二塁ベース寄りに守っても良いのかもしれない。



相関係数


各項目の年度間の相関係数を表にまとめる(表13)。対象は2年連続同じポジションで650イニング以上守備に就いた選手で、絶対値が1に近いほど安定しやすい評価となる。ポジションによってはサンプルが非常に少ないため、現時点では参考程度に留めたい。



2014年から2017年にかけて、特に遊撃手の守備範囲評価が安定していたようだ。二塁手以外のポジションで捕球評価は安定しており、送球評価はどのポジションも安定している。横取り評価についてはどのポジションも不安定だが、遊撃手が横取りで大きくマイナスになっているなど各ポジション間でプラスマイナスの偏りがあるため、内野手全体で見ると安定しているように見える。しかしこれは一種のバイアスであり、実際には安定していない評価項目だ。






個別評価


分析する中で目についた4人の選手をピックアップし、評価した。


大和

サンプルの少なさは否めないが、2017年の大和は二塁、遊撃のどちらを守っても捕球、送球で大きなプラスを作り、優れた守備範囲を見せていた。

2018年はDeNAに移籍し遊撃手としての起用が続いている。今年31歳となる年齢が若干不安だが、シーズンを通して遊撃を守った場合どのような数字を残すのか、非常に楽しみな選手だ。


ケーシー・マギー

ケーシー・マギーの二塁起用は2017年のNPBで大きなインパクトを残した出来事の1つだ。三塁守備でプラスを作れなかったマギーがセンターラインを守るのは厳しいと考えられていたが、シーズン後半は二塁を無難に守り通した。

二塁を守った際は三塁よりも全体的にマイナスが減少している。送球評価はマイナスが増加したが、守備イニングを考慮しても二塁・マギーの方が守備範囲のマイナスは小さかった。

2017年に限って言えば二塁・マギーは奇策ではなく、守備面だけをとっても合理的なコンバートだったと言える。打撃にも大きな影響は出ておらず、「守備の負担」という曖昧な表現にも一石を投じるコンバートだった。


鈴木大地

2017年、遊撃から二塁へのコンバートで捕球評価を大幅に改善させた。送球評価は2年連続でマイナスだが、二塁で出場した2017年はやや改善している。全体的に守備範囲が改善しており、この観点ではコンバートの成功例として挙げて良いだろう。

2018年は三塁手へのコンバートとなるが、守備範囲にどのような変化が現れるか推移に注目したい。


鳥谷敬

鳥谷敬は遊撃から三塁へのコンバートによって守備範囲評価のマイナスを-24.0から-15.3に減らしている。三塁では遊撃より捕球評価のマイナス幅が抑えられていたようだ。

2018年は二塁手へのコンバートとなるが、近年の二塁手は三塁手より捕球で差が出にくいポジションだ。2018年も同様の傾向が見える場合、守備範囲が改善される可能性も考えられる。ただチーム全体で考えた場合、阪神は上本の起用法を慎重に考慮しなければならない。


ポジション別守備範囲優秀者 ( 650イニング以上 )


最後に各ポジションで優秀な守備範囲を記録した選手を紹介し、今回の分析を終えたい。






宮下 博志@saber_metmh
学生時代に数理物理を専攻。野球の数理的分析に没頭する。 近年は物理的なトラッキングデータの分析にも着手。

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