鳴り物入りでDeNAに入団した
トレバー・バウアーだが、ここまでは3試合で防御率8.40と、まさかの結果に終わっている。こうした結果もあり、メディアやファンからは「バウアーの高めへストレートを集める配球がNPBでは通用しないのではないか」という指摘がなされている。近年MLBでは「フライボール革命」もあり、多くの打者がフライを狙うアッパースイングを採用している。ストレートを高めに集める投球戦略は、そうした打者の変化への対応策でもあったのだ。ただMLBに比べるとアッパースイングの打者が少ないNPBにおいて、はたしてこうした配球が有効なのだろうか。バウアーがこうした配球ゆえに失点を喫しているということはないだろうか。バウアーが打たれた原因をデータから探っていく。
高さだけでは説明できない
はじめに前提を確認しておきたい。バウアーからはここまでの登板について「不運」というコメントも聞かれている。実際、不運はデータ視点で見ても間違いない。奪三振割合25.4%、与四球割合2.8%はいずれもリーグ平均よりはるかに優れている。大量失点の原因はバットに当たった打球がことごとく安打になっているためだ。セイバーメトリクスの視点では、投手の能力に関係なくインプレー打球は7割ほどアウトになることが報告されているが、バウアーはここまで5割しかアウトになっていない。偶然性がかなりの悪い方向に傾いているようだ。
とはいえ安打になっているのはインプレー打球だけではない。被本塁打もすでに5本と、不運だけとも考えづらい打ち込まれようだ。また被打率は.388にまで達している。被打率は前述した偶然性の要素が大きいため、投手の能力そのものを表す数字ではない。しかしながらどこまでが偶然でどこまでが必然なのか、要因を深堀するヒントにはなる。
詳しく見ると、この被打率の高さは主にストレートによるところが大きい。ストレートの被打率は.444。Pitch Valueを確認すると、最も投球割合の高いストレートの数字が-3.6と非常に悪い。平均的な投手が同じだけ投げるのに比べて、バウアーのストレートは失点を3.6点増やしているということだ。
変化球ではスピンの効いたカットボールやスライダーは効果的だが、左打者へ投げることが多いスプリットやカーブで苦戦しているようだ。
さてバウアーの高めの速球である。まずバウアーは本当に高めにストレートを投げているのだろうか。図1を見ると、やはりバウアーのストレートは高めに集中している。NPBにおいても、MLB同様の戦略で投球しているのは間違いなさそうだ。
果たしてこの戦略はNPBにおいても有効なのだろうか。以下表3は投球コースの高さ別のストレート打率をNPBとMLBで比較したものだ[1]。球速はバウアーを想定し、150-155km/hに絞っている。NPBのほうが高めを得意にしている傾向は見られるだろうか。
表3を見てみると、MLBは高めが.246と、真ん中、低めに比べて最も打率が低くなっている。MLBの環境では、高めのストレートは合理的な配球と言えそうだ。一方NPBはと見てみると、こちらも高めの打率が.191と、真ん中、低めに比べても低い。高めのストレートを苦手にしているのはMLBだけでなく、NPBも同様のようだ。
高めのストレートはNPBでも一定の合理性が認められる。つまりバウアーのストレート被打率の高さは、投球コースの高さだけでは説明できないということだ。現時点では対戦打者が好調だった、対戦チームの戦略が成功したなど、投球コース以外の要因も大きかったと考えられる。
高めのストレートに強い打者・弱い打者
バウアーのストレートが打たれた理由を深堀するため、Statcastのデータから分析を行う。ここで注目したいのはどういった打者が高めのストレートに強いかである。フライボール革命への対抗策として投手が高めのストレートを増やしたのであれば、フライを打つことが多い打球角度の大きい打者は高めの速球を苦手としているのではないだろうか。そして打球角度を抑えた打者ほど、高めの速球を得意としているのではないだろうか。
表4-1、4-2は平均打球角度で打者をグループ分けした対ストレート成績だ。表4-1のxBAは打球速度、打球角度から推定した打率期待値、表4-2xwOBAは打球速度、打球角度から推定したwOBA期待値を表している。
xBA、xwOBAどちらも、全てのグループで高めが有効である点は共通している。ただ詳しく見ると傾向は異なる。平均打球角度が小さいグループは高めになってもそれほど成績が落ちないが、大きいグループは高めになると顕著に成績が下がる。つまり、打球に角度をつけないゴロヒッターは、フライボールヒッターに比べて高めの対応が得意ということだ。
似た傾向はNPBでも確認できる。NPBでは打球角度データを入手できないため、ゴロ率で代替しよう。ゴロ率が高い打者ほど打球角度の小さい打者と想定できる。対ストレートのゴロ率で打者をグループ化し、対ストレート(150-155km/h)の成績をまとめたものが表5-1、5-2だ。
ここでもやはりゴロ率が高い=打球角度が小さいグループに比べて、ゴロ率が低い=打球角度が大きいグループは高めのストレートへの対応が難しいようだ。ゴロ率20-30%の打球角度が大きいグループは低めのwOBA.310に対し、高めは.203とかなり低い数字になっている。
ただ打球角度が小さければ小さいほど高めのストレートに強くなるというわけでもなさそうだ。表5-1、5-2で高めと低めの成績を比較すると、唯一低めより高めで好成績を残しているのはゴロ率40-50%の打者グループ。より打球角度が低いと予想される50-60%のグループ以上に高めに適応している。高めのストレートに対しては、打球角度が小さければ小さいほど良いというわけはないようだ。投球に対する適切なスイング軌道の範囲が示唆されている。
まとめ
以上の傾向から、高めのストレートを狙う場合は打球角度を抑えるスイングが有効と考えられる。打者がスイング軌道を調整できれば、本来打ちにくい高めのストレートも攻略可能ということだ。特にバウアーのストレートは徹底して高めに集中しているため、チーム単位で戦略を徹底されてしまうと、いかにサイヤング賞投手といえども簡単には抑えられないだろう。
とはいえ、ここまでの乱調をすべて対戦チームの対策の成果とするのも無理がある。球速や奪三振、空振りの観点から見ても、バウアーの球威は申し分ない。にもかかわらずここまでストレートの被打率は.444。いくら打者が好調でも4割打者が誕生しないのと同様に、150km/h以上のストレートの被打率がこれほどの高水準で継続するのは非現実的だ。対戦チームの対策が実を結んだ部分もあるだろうが、やはり不運も重なったと考えるのが自然だ。これはバウアー自身が振り返っているとおりである。
また、打球角度を抑えたスイングは高めのストレート攻略を容易にする一方、低めへの対応が困難となるリスクを含んでいる。次回以降も対戦球団はバウアーの高めのストレートに狙いを定めるはずだ。となると投球のポイントとなるのは、日本球界では基本とされる「低めへの投球」なのかもしれない。ここまでは打ち込まれているバウアーだが、NPBの環境に適応した配球ができれば、真価が発揮される可能性は大いに残されている。