2021年5月23日、清田育宏がロッテから契約を解除された。この処分に対して、清田は特に争う姿勢は見せていない。このため、契約解除が相当な処分であったのか、それとも重すぎるあるいは軽すぎる処分であったのかは、今後争われることはないと思われる。無期限謹慎処分の解除直後に不要不急の外出を行ったことから、処分は妥当という意見もあるが、野球協約違反や何らかの犯罪に及んだわけでもないのに、契約解除という処分は行き過ぎという意見もある。そこで、過去の処分例と比較して、その処分の相当性を検討してみた。

契約解除の根拠


まずは清田を契約解除とした理由を確認しておく。ロッテマリーンズ公式HPによれば、「無期限謹慎処分の解除直後に再び球団ルールに反する行動を行っていたこと等が判明しました。清田選手の度重なる不適切な行動及びチームに対する背信行為に鑑み、当球団としてはこれ以上清田選手との選手契約を維持することはできないと判断しました。 つきましては、本日5月23日(日)付で清田選手との選手契約を解除しましたので、ご報告します。」「当球団としては、再びこのような事態を招いてしまったことを非常に重く受け止め、改めて球団ルールの周知徹底を行うと共に、選手教育に尽力して参ります。」としている[1]

契約解除の根拠については、具体的に書かれていないが、「球団ルール」に反する行動を行っていたことが契約解除の根拠であるように読める。球団による契約解除の発端は、清田に対する週刊誌の報道であるが、あくまで処分の理由は球団ルールの違反であり、違反の理由については特に言及していない。

また、NPB公式HPの公示によれば、清田は5月28日付で自由契約となっており、(球団による契約解除)と記載がある。選手が自由契約選手として公示される理由はいくつか存在する。過去の例からすると、この「(球団による契約解除)」と公示されるのは、統一契約書26条に基づく解除を指していると考えられる。複数のスポーツ紙の報道によれば、清田の自由契約の公示理由は「統一契約書第26条⑴、⑵」によるとされていることからも、清田の契約解除の根拠は統一契約書26条で間違いないと思われる。

では、統一契約書26条はどのような条項となっているのか見ていく。


第26条(球団による契約解除)

球団は次の場合所属するコミッショナーの承認を得て、本契約を解除することができる。

⑴ 選手が本契約の契約条項、日本プロフェッショナル野球協約、これに附随する諸規程、球団および球団の所属する連盟の諸規則に違反し、または違反したと見做された場合。
⑵ 選手が球団の一員たるに充分な技術能力の発揮を故意に怠った場合。

統一契約書26条は、選手が本契約(統一契約)の条項や日本プロフェッショナル野球協約(以下、「野球協約」という。)等の規程、球団、連盟の規則に違反した場合や選手が球団の一員たるに十分な技術能力の発揮を故意に怠った場合には球団がコミッショナーの承認を得て契約を解除できるとしている。清田については、「球団ルール」に反したことを処分理由としているが、これは26条⑴号の「球団の」「諸規則に違反し、」に対応していると考えられる。

これに対して、球団発表からはどういった点が、26条⑵号に該当するのか明らかではない。もともと26条⑵号は規程自体が曖昧であり、どのような場合に該当するのかが明確でない。典型的には敗退行為(野球協約177条1項⑴号)が該当するのであろうが、規程の文言からするとそれだけに留まらないようにも読める。いずれにしろ、この規程が適用される範囲を拡大することは、選手にとって不測の不利益を及ぼしかねない上に、問題となるような事例は26条⑴号でもほとんどカバーできるであろうから、この規程を適用して契約を解除できるのは、正当な理由なく練習・試合に参加しないことが続くなど、26条⑴号の場合と同程度に球団の不利益が大きい場合に限ると考えるのが相当であろう。

清田の場合について考えると、不要不急の外出を行ったことで、直ちに選手が技術能力の発揮を故意に怠ったといえるかは疑問であり、これが26条⑴号に該当するかはともかくとして、あえて26条⑵号を処分理由にあげる必要はなかったと考える。以下に述べる過去の例でも、26条⑵号を根拠としている可能性がある事案は極めて限定されており、この件について、26条⑵号を適用したことは相当でないと考える。



統一契約書26条による契約解除と27条による契約解除の違い


続いて、統一契約書26条によって契約が解除となった過去の事例と比較していく。だがその前に統一契約書26条による契約解除が、他の契約解除とどのように異なるかを確認しておく。

プロ野球選手の契約期間は、毎年2月1日から11月30日までであるが、野球協約や統一契約書によれば、球団は一定の手続きのもと自由に(一方的に)契約を解除することが認められている。統一契約書27条は「球団が参稼期間中、球団の都合、または選手の傷病のため本契約を解除しようとするときは、日本プロフェッショナル野球協約に規定されたウエイバーの手続きを採った後でなければ解約することはできない。」としているが、裏を返せばウエイバーの手続きを採れば、いつでも契約を解除できることになる。

ウエイバーの手続きは、球団がコミッショナーにウエイバーの公示を請求し、コミッショナーから全球団にウエイバーが公示され、他の球団の中に契約の譲渡(トレード)を希望する球団があった場合には、その球団(トレードを希望する球団が複数あった場合、移籍元の球団と同一リーグの球団が優先、同一リーグの球団が複数あった場合は勝率の低い球団が優先(野球協約119条)。)に移籍することとなる。この場合にも年俸は維持される(統一契約書22条)。

仮にウエイバー公示に対してトレードを希望する球団がなかった場合には、契約は解除され選手は自由契約となるが、この場合にもそのシーズンの年俸は契約の残り期間の分も含めて、全額が支払われることになる(統一契約書28条ただし書き)。

いずれの場合も、選手は新たな球団と契約できるか、契約できないとしてもそのシーズンの年俸は保障される。球団は球団の都合で、一方的に、いつでも契約を解除できるが、その場合には選手の権利が保障されるようになっている。

これに対して、26条による解除の場合には、こうしたウエイバーの手続きを経る必要がない。そして、契約の残り期間の年俸も支払われない(統一契約書28条本文)。このため、契約が解除される点は同じでも選手の不利益の程度は大きく異なる。


過去に同種または類似の処分を受けた事例との比較


NPBの公式ホームページでは2003年度からの公示が掲載されているが、過去に統一契約書26条によって契約が解除となった選手及び出場停止や制限選手等のそれよりも軽微な処分を受けた選手は次のようになっている。


公示については、その処分理由の具体的な内容までは記載がないが、球団発表等から明らかになっている処分理由に基づいて、次の4種類に分類した。アンチ・ドーピング規程違反、犯罪、帰国後に来日しないなどした外国人選手、その他の諸規則違反である。

アンチ・ドーピング規程違反について契約解除となったのは、禁止薬物が検出されて6か月以上の出場停止が科された例に限られている(番号1,2,15)。譴責(けんせき)や比較的短期間の出場停止のような軽度な処分の場合は、契約解除となってはいない。また、6か月以上の出場停止が科されたにもかかわらず、シーズン中には契約解除が行われなかった例も複数存在する。ドーピングは、競技の公正を害する行為であり、発覚した場合には出場停止等の処分が科されることから、球団にとっても選手が稼働できなくなるという大きな不利益が生じる。しかし、全ての例で統一契約書26条による契約解除とはなっていない。

犯罪についても、比較的軽微な事案であって、相手方との間で示談が成立しているケースでは、契約解除には至っていない(番号11)。契約解除となっている例は、行為自体は比較的軽微であるものの同種の違法行為が反復してなされているケース(番号10)、選手としての地位を利用してなされた犯罪で、球団や球団に所属する選手が被害者であるケース(番号12)、行為自体が比較的重大な犯罪であるケース(番号7)、犯罪であると同時にドーピングでもあるケース(番号17)など、犯罪行為の中でも悪質性が高い、球団との信頼関係を破壊するケースに限定されている。

なお、NPBの公示のページからは確認できなかったが、2003年から2021年までになされたNPBまたは球団からの犯罪に起因する処分としては、野球賭博に関連して無期限失格となった例もある。これらは試合が公正に行われているとの信頼を害する行為であり、そのためか処分も他の犯罪と比較しても極めて重くなっている。プロ野球選手が球団と契約している間に、犯罪に及んだとしても厳重注意や謹慎等を除いては処分されなかった例も存在している。犯罪についても、全ての例で統一契約書26条による契約解除とはなっていない。

帰国後に来日しないなど稼働自体が困難になった例(番号3-6,8,9,16)については、そもそも出場しない以上は契約の目的を達成できない以上、解除となるのもやむを得ないといえる(仮に統一契約書26条⑵号で契約解除することが許容されるとすれば、こうした例に限られるべきであろう。)。このケースでは、一旦は制限選手とした場合と契約解除とした場合に分かれるが、球団側で契約を維持する意向があるか否かによって判断が分かれているようであり、双方で悪質性の違いは見られない。このケースも、単に練習に取り組む態度が不真面目であるとか、球団や球団の監督やコーチ、他の選手に対して不満を漏らしたといった程度では、契約解除となっていないことは注意すべきである。



その他諸規則違反については、処分されること自体がそれほど大きくなく、処分の内容についてもそれほど重くない。清田の件を除いては、いずれも出場停止に留まっている。統一契約書17条は「選手は(中略)日本プロフェッショナル野球協約、これに附随する諸規程ならびに球団の諸規則を遵守し、かつ個人行動とフェアプレイとスポーツマンシップとにおいて日本国民の模範たるべく努力することを誓約する。」としており、出場停止については規則違反のみならず「不品行」でも科すことができる(野球協約60条⑴号)が、ありとあらゆる規則違反や不品行までが処分されているわけではなく、処分の内容も比較的軽微である。

以上、過去同種または類似の処分となった事例を検討してみると、形式的に統一契約書26条⑴号に該当するような事案であっても、規則等の違反の程度が重大な事案等に限定して契約解除をしており、そうでない場合については、出場停止等の野球協約に定められた他の比較的軽微な処分をしていることがわかる。統一契約書26条による契約解除がなされたのは、外国人選手が来日しなかったなどの例を除くと、アンチ・ドーピング規程違反(番号1,2,15)、犯罪でも比較的悪質性が高いまたは球団との信頼関係が損なわれた例(番号7,10,12,17)のみである。

これに対して、今回の清田の処分について検討する。清田の違反は、過去に統一契約書26条による契約解除となった例と比較するとかなり軽微といえる。球団(ロッテ)の諸規則自体が明らかにされていないものの、仮に違反があったにしても、アンチ・ドーピング規程違反のような重大な違反とはいえないし、犯罪のような悪質性の高い事案でもない。度重なる違反があったという点を考慮しても、違反自体の悪質性がそれほど高くない以上は、過去の事例と同程度に悪質な事案とは考えがたい。

出場停止のような軽い処分や契約解除をするにしてもウエイバーの手続きを経た上での契約解除ならばともかく、今回の清田に対する処分は重いと考える。


参考文献等
「日本プロフェッショナル野球協約2019」
http://jpbpa.net/up_pdf/1620708811-769307.pdf
「統一契約書様式」
http://jpbpa.net/up_pdf/1620708754-568754.pdf
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“清田選手 契約解除について”千葉ロッテマリーンズ.
2021-5-23.(
https://www.marines.co.jp/news/detail/00006645.html

市川 博久/弁護士 @89yodan
DELTAデータアナリストを務める弁護士。学生時代、知人が書いていた野球の戦術に関する学術論文を読み、分析に興味を持つ。 その後『マネー・ボール』やDELTAアナリストらが執筆したリポートを参考に自らも様々な考察を開始。『デルタ・ベースボール・リポート3』などリポートシリーズにも寄稿。動画配信サービスDAZNの「野球ラボ」への出演やパシフィックリーグマーケティング株式会社主催の「パ・リーグ×パーソル ベースボール データハッカソン」などへのゲスト出演歴も。球界の法制度に対しても数多くのコラムで意見を発信している。

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