ひと昔前と比べて、
UZR(Ultimate Zone Rating)など野手の守備を評価する指標を目にする機会は確実に増えている。ただUZRが評価するのはアウトをどれだけ増やし、失点を減らしたかという結果の部分で、その過程、内訳となる技術自体に焦点があたっているわけではない。同程度のアウトを獲得した選手でも、打球に追いつくことに強みがある選手、送球が優れている選手などさまざまなタイプが存在しているはずだ。今回はその中でも内野手の送球についての評価を考える。
ゴロアウト獲得までの流れ
内野手がゴロアウトを獲得するために必要な動作を考えてみよう。
まず、大前提として打球に追いつかなければゴロをアウトにできない。打球に追いつくことは、アウトを獲るためのスタートラインと言ったところだ。
捕球できた場合、打者走者が一塁に到達する前に、ボールを一塁に届けなければならない。捕球から一塁に届ける手段は多くの場合送球である。捕球から送球までに体勢を作らなければならない。短い距離の送球は手首や腕を使った送球、長い距離の送球は全身を使った遠投が一般的だ。
こうして送球されたボールが打者より先に一塁へ届いた時、打者走者をアウトにすることができる。言い換えれば、以下の条件を満たした場合に打者走者をアウトにすることができる。
捕球までの時間 + 送球動作の時間 + ボールを離してから一塁手が捕球するまでの時間 < 打者走者の一塁到達時間
捕球までの時間が短ければ送球に時間を取りやすく、逆に長ければ取りにくい。捕球位置が同じならば、アウトの割合は捕球までの時間が短いほど高く、長いほど低くなるはずだ。また、ボールを離してから一塁手が捕球するまでの時間を決定するのは送球速度と一塁までの距離である。捕球までの時間や送球速度が同じなら、一塁までの距離が短いほどアウトの割合は高く、距離が長いほどアウトの割合は低くなる。
以上より、送球の難易度は捕球までの時間と一塁までの距離に依存する事が予想される。今回は上記の考え方を基に、捕球までの時間および一塁までの距離をベースにした遊撃手の送球評価を行う。
全体の傾向
表1は2014-2017年のNPBについて、走者なしの状況でゴロが遊撃手に捕球されたときアウトになった割合である。縦軸は捕球位置から一塁までの距離、横軸は捕球までの時間となっている。
予想通り、一塁までの距離、捕球までの時間が長いほどアウト割合が低下している。特に、表1中の赤い線で囲んだ捕球まで2.4秒以内、一塁までの距離が40m以内の打球はおおむね90%以上アウトになっている。打者が一塁に到達するまで余裕があり、送球距離も短い場合は高い割合でアウトになっているようだ。こういった打球は確実に一塁へ送球することが必要となる。(正確性)
捕球までの時間に着目すると、2.4秒以上掛けて捕球した場合、アウト割合が低下している。これに加え送球距離が短い場合は、スナップスローなどの素早い送球動作が求められる打球だ。表1中の水色の枠線がそれにあたる。(俊敏性)
捕球位置から一塁までの距離に目を向けると、40m以上の送球が必要な打球はアウトになりにくいことがわかる。45m以上になると半分程度しかアウトにならない間一髪のプレーが増える。この打球は送球距離が長く、遠投能力が要求される。表1中、緑の枠線はこのプレーにあたる。(遠投力)
捕球に2.4秒以上(水色)でなおかつ一塁まで40m以上(緑)の打球はほとんどアウトにできない。追いつくだけでも珍しい光景で、アウトにできれば間違いなくファインプレーと呼ばれる打球だ。表1中の黄色の枠線がこれにあたる。(ファインプレー)
以上、捕球までの時間と一塁までの距離で4つに送球の種類を分けた。それぞれのアウト割合を表2に示す。
2017年の遊撃手は全体的に捕球後の処理が優秀だったようだ。特に長い距離の送球を多くアウトにしている。ファインプレーの項目も優秀だが、このゾーンは打球数が非常に少ないため参考程度に留めておく。
個人評価
以降は、各送球種別で平均的な遊撃手と比較してどれだけアウトを増やしたか確認していこう。増やしたアウトを評価する計算式を以下に示す。
増加アウト = アウト数 – 捕球数 × リーグ平均アウト割合
例えば、一塁までの距離39m地点で2.5秒かけて捕球したゴロをアウトにした場合、リーグ平均アウト率は54%である。上記の計算式に従うと、
アウト数1 - 捕球数1 × リーグ平均アウト割合 54% = 1 – 1 × 0.54 = 0.46
となり、0.46個のアウトを増やしたと評価される。アウトにできなかった場合はアウト数0のため、 0 - 1 × 0.54 = -0.54個のアウトを増やした、つまり0.54個のアウトを減らしたと評価される。この計算をすべての区分について行ったものを最終的に増やしたアウトとする。
なお、この分類はサンプル数が少ない点に注意されたい。算出される数字は能力評価ではなく、あくまでも送球で増やしたアウト数の評価である。
各送球種別について、2017年に遊撃手として1000イニング以上守備に就いた6人の選手をサンプルに評価を行う。表3が選手ごとの各送球種別アウト割合だ。なお今回比較対象に用いるアウト割合は2017年NPBの平均とする。
①源田壮亮(西武)
源田は正確性、遠投力で大幅にアウトを増やしている(表4)。特に遠投力のプラスは他の選手を大きく引き離しており、トータルで増やしたアウトも群を抜いていた。
遠投力の内訳(表5)を見ると、一塁までの距離が40-45mの間では圧倒的なアウト率を誇っているが、45m-50mの打球は平均的な処理に落ち着いている。遠すぎる打球は追いついてもアウトにできなかったようだ。
なお、2017年に一塁まで45m以上の距離で遊撃手が捕球した打球は59球である。そのうち約15%の9球が源田の捕球だ。アウトの割合は高くなかったが、平均的な遊撃手の倍近い打球に追いつく守備範囲の広さを見せていた。
②京田陽太(中日)
京田は全体的に平均以上の送球を見せている(表6)。正確性の数値が高く、比較的距離の短い送球でアウトを稼いでいたようだ。ただ長い遠投も苦にしておらず、2017年の京田は送球処理の優等生だ。
到達時間が非常に短い打球の送球をやや苦手としていたが、平均との差は小さい(表7)。ウィークポイントが少ない守備を見せていたといえる。
③今宮健太(ソフトバンク)
今宮は正確性でアウトを増やしていた(表8)。華麗な守備がピックアップされる選手だが、2017年は堅実なプレーでアウトを重ねていた。捕球まで時間のかかる打球でアウトを増やせなかったが、例年は多くアウトにしている打球だ(表9)。2018年に俊敏性で例年通りのアウトを獲得できれば源田以上に送球によるアウトを増やせるかもしれない。
④坂本勇人(読売)
昨季の坂本は今宮と同様に正確な送球でアウトを増やしていた(表10)。遠投もややプラスで特にマイナス項目はないが、突出した項目もない。各項目の推移を確認すると(表11)、昨季は俊敏性でのアウトが大きく減少している一方、遠投でのアウトを増やしていた。守備の強みに変化が現れているのかもしれない。
⑤田中広輔(広島)
2017年の田中広輔は遠投で他の遊撃手から後れを取っていた(表12)。2014年以降のトータルでも遠投でマイナスを作っているため、遠投が得意ではないようだ。一方で正確性については例年よりアウトが増えている(表13)。堅実なプレーの精度が向上しているようだ。
⑥倉本寿彦(DeNA)
2017年の倉本は俊敏性の項目で大きなマイナスを作っている(表14)。2015年以降の通算成績を見ても傾向は変わらず、一貫して捕球まで時間が掛かるゴロの処理を苦手としているようだ(表15)。正確性や遠投については通算で平均以上のアウト割合となっているが、昨季は正確性でマイナスを作っている。正確性については例年より精彩を欠いていたようだ。
総じて俊敏な動作には改善の余地が見えるものの、送球の強さは一定水準に達している様子だ。
まとめ
最後に、各選手が送球で増やしたアウト数を一覧にまとめよう(表16)。
2017年内の比較では正確性、遠投で源田が群を抜いている。俊敏性の項目は差が出にくく、遊撃手は40m以上の遠投で差を付けやすいポジションになっているようだ。
宮下 博志@saber_metmh
学生時代に数理物理を専攻。野球の数理的分析に没頭する。 近年は物理的なトラッキングデータの分析にも着手。