2023年8月3日の日本プロ野球選手会(以下、「選手会」という。)と日本野球機構(以下、「機構」という。)との間での事務折衝において、選手会は、中10日以上の間隔で登板する投手を登板日のみ出場選手登録し、翌日に登録抹消するいわゆる「投げ抹消」について、登録日数を加算する措置を提案した。機構あるいは各球団の対応はまだ明らかになっていないが、内容次第では近いうちにルールが変更となる可能性もあるだろう。選手と球団、双方の立場から投げ抹消について考えてみたい。

そもそも投げ抹消とはどのような起用法で何を意図しているのか

まず、投げ抹消がどのような起用法であるか確認しておく。

現在のNPBでは、先発投手の起用法は、先発登板日から中6日を空けて次の先発登板をし、先発ローテーションを6人の投手で回す起用が一般的だ。これは、毎週月曜日に試合を行わず、3連戦を2カードで1週間に6試合を行う日程が基本となっていることが主たる要因だ。月曜日が祝日となったり、中止となった試合が予備日に行われたりするなど、不規則な日程とならない限りは、毎回登板間隔を一定とするためには先発投手を中6日以外の間隔で起用することは難しい(例えば、中5日や中7日で起用していくと、登板する曜日が1日ずつずれていってしまうため、どこかで登板間隔を変える必要が出てくる。)。

そして、中6日でローテーションを回していく場合、6人の先発投手は別の投手と入れ替えを行わない限りは、出場選手登録を抹消されることはない。出場選手登録を抹消された場合、その日を含む10日間は、再度出場選手登録をすることができず、先発登板日から中6日で試合に出場することができないためだ【日本プロフェッショナル野球協約(以下、「野球協約」という。)85条】。このため、中9日以下の登板間隔で先発投手を起用する場合には、実際に試合に出場しなくても、ベンチに入ってすらおらず出場が不可能だったとしても、出場選手登録を抹消されることがない。

これに対して、中10日以上の登板間隔で先発投手を起用する場合には、先発登板当日に出場選手登録を行い、先発登板翌日に出場選手登録抹消、次回先発登板日に再び出場選手登録をすることが可能だ。もちろん、中10日以上の登板間隔で先発投手として起用するとしても、いちいち出場選手登録を抹消しないことも可能だ。しかし、出場選手登録を抹消しない球団は稀だ。なぜならば、出場選手登録数は29人以下(2018年以前は28人以下。なお、2020年以降は31人以下とする特例が継続している。)と決められており【野球協約81条2項】、中10日以上の登板間隔で起用される先発投手を先発登板翌日に抹消すれば、その日から次回登板の前日までの間、別の野手や救援投手を1人余分に出場選手登録し、ベンチ入りさせることができるためだ。多くの球団は、このメリットを享受するために、次回先発登板日が10日以上後となる先発投手の出場選手登録を登板翌日に抹消している。

先発投手のうち、何人かに対して、中10日以上の登板間隔で起用する意図は、球団によっても、また起用される先発投手によってもまちまちだろう(若く期待度の高い先発投手の故障リスクを下げつつ、短期的な勝利と中長期的な選手育成との両立を図ることがその意図の一例だろうが、必ずしも若い投手でなくとも、中10日以上の登板間隔で先発起用する例も見られるため、その意図を断定することはできない。)。しかし、そのような場合に、先発登板翌日から次回先発登板日まで出場選手登録を抹消するのは、出場選手登録枠を有効に活用する意図があることが明確だ(なお、後述するように、出場選手登録を抹消するとFA権取得の要件となる出場選手登録日数が加算されないことになるため、邪推すれば球団がFA権の取得を遅らせることを意図して、投げ抹消をしているとも考えられる。もっとも、私はその可能性は低く、FA権の取得が遅れることとなるのは、あくまで副次的な効果に過ぎないと考える。)。

長年NPBの試合を観戦しているファンからすれば、次回登板日が10日以上になる場合に、先発登板翌日に出場選手登録を抹消することは、当然のことのように思うかもしれない。しかし、中10日以上の登板間隔で先発起用する場合でも、登板翌日に出場選手登録を抹消する必要があるわけではない。投げ抹消には、出場選手登録枠を有効活用する球団側の意図があるといえる。

選手側から見た投げ抹消のデメリット

さて、それではこのような投げ抹消がされた場合、選手側から見るとどのようなデメリットがあるか。

中10日以上の登板間隔となると、疲労の蓄積を防ぐ、若い投手にとっては試合出場と育成の両立を図るといったメリットがある一方で、必然的に出場機会が限られることとなるというデメリットがある。ただ、これらはよくよく考えると投げ抹消のデメリットというよりは、中10日以上の登板間隔で先発するという起用のデメリットというのが正確であり、投げ抹消のデメリットとして扱うことは問題がある。

投げ抹消のデメリットといえるのは、出場選手登録日数(以下、「登録日数」という。)が先発登板日数に比して大幅に少なくなるということだ。登録日数は、FA権の取得、出場選手追加参稼報酬の2点に関わってくるものであり、投げ抹消がなされると、選手にとってこの2点で不利益が生じる。順に説明していく。

NPBの球団に所属する選手は、球団との契約において、自由な移籍が制限されている。契約期間は毎年2月1日から11月30日とされているが【統一契約書3条】、球団が希望する場合には選手が当該球団の契約更新を望まず、他球団との契約、交渉を希望したとしても、これらを禁止している【野球協約68条1項、2項】。しかし、FA権を行使すれば、他球団との契約、交渉が可能となり、制限付きながら選手の移籍の自由が回復されることとなる【フリーエージェント規約(以下、「FA規約」という。)1条、4条】。

このように、FA権は野球協約、統一契約書により制限されている選手の権利が一定の制限は残るものの回復されるという非常に重要な権利であるが、FA権の取得には一定の登録日数が要件となっている。先発登板日の翌日に出場選手登録を抹消されてしまうと、1回の先発登板に対して、登録日数は1日だけとなる。仮に全ての先発登板について、登板翌日に出場選手登録を抹消されると、年間で10回先発登板したとしても、登録日数はわずか10日にしかならない。中6日のローテーションどおりに10週間、10回の先発登板をしたものの、その後は出場選手登録を抹消され、以後は出場選手登録されなかった場合、登録日数は64日になる。同じ10回の先発登板でも、登録日数は6倍以上の差が生じてしまい、球団への貢献に比べて、著しく少ない登録日数となってしまう。

また、登録日数は、追加参稼報酬の額にもかかわってくる。統一契約書で定められた参稼報酬(年俸)の額が1600万円(税抜き額。以下同じ。)を下回る選手は、登録日数1日につき参稼報酬の額と1600万円との差額の150分の1が追加参稼報酬として支払われる【野球協約89条の2第1項】。例えば、年俸700万円の選手が、10日間出場選手登録された場合、(1600万円-700万円)÷150×10=60万円となり、60万円が追加参稼報酬として支払われ、実際の年俸額は760万円となる。これに対して、登録日数が64日の場合は、(1600万円-700万円)÷150×64=384万円となり、384万円が追加参稼報酬として支払われ、実際の年俸額は1084万円となる。追加参稼報酬に関するデメリットは、選手の年俸額によっては、さほど重要ではないが、条件次第では、同じ先発登板数でも投げ抹消の場合とそうでない場合とで、年俸額に数百万円もの差が生まれることもある。

このように、先発登板回数に対して著しく登録日数が少なくなることは、選手にとっては大きなデメリットとなる。

考えられる解決策

このような問題に対する解決策としては、現在、選手会が提案しているように、投げ抹消をされた場合には、登録日数6日を追加するという方法が考えられる。

現在のNPBでの一般的な起用法からすると、先発した投手は基本的に中6日空けて次の先発登板をすることとなる。この6日間は、例外的な場合を除けば、登板をすることはない。出場選手登録されていても、出場選手登録人数の上限はベンチ入り人数の上限よりも少ないため、ベンチ入りすらしない日もある(いわゆる「上がり」の日。)。このように、先発ローテーション投手は、ルール上不可能であるため出場することが絶対にないか、あるいはルール上は可能であっても出場することがほとんどない日であっても、出場選手登録を抹消されない限りは、6日間が登録日数に追加される。これは野手や救援投手とは異なる特別な取り扱いといえる。そして、このような先発投手の特別扱いは、球団も認めている面がある。

NPBには、

先発ローテーション投手と球団が判断した投手については、開幕日から7日以内に出場選手登録された場合は、開幕日から登録されたものとみなす。
先発ローテーション投手と球団が判断した投手が、オールスターゲーム第1戦予定日の7日前以降に登録抹消され、かつオールスターゲーム最終戦後7日以内に再登録された場合は、抹消された日から再登録前日まで登録日数に算入する。

との特例措置が存在する(この特例は協約等には記載されておらず、NPBホームページに記載されている。)。こうした特例措置の存在からも、少なくとも先発投手のうちローテーション投手については、野手や救援投手とは異なる扱いをすることが相当だと球団も考えているといえるだろう。同じ1試合の出場であっても、先発投手の1試合と野手、救援投手の1試合とでは、負担の大きさ、球団への貢献の大きさが大きく異なってくるということからすれば、先発投手に対するこのような特別扱いは相当と考えられる。

そして、1試合の出場による負担の大きさ、球団への貢献の大きさが大きく異なってくるという点では、中6日で起用されるか、中10日で起用されるかによって変わるものではない。投げ抹消の場合にも、登板日に加えて6日分の登録日数を認めるということは、現在のNPBでの一般的な起用法を前提とすれば、投げ抹消されない先発投手との関係で公平といえる。

特例措置の導入が対象投手への過剰な優遇、球団の不当な不利益となるか

このような特例措置の導入に対しては、反対意見もあると思われるため、対象となる投手への過剰な優遇となるか、また球団の不当な不利益となるかについても検討してみる。

投げ抹消の場合に、登板日に加えて6日分の登録日数を認めるということが過剰な優遇となるか。中6日でのローテーションを回せない以上は、抹消されない先発ローテーション投手と同様には扱うべきでないという意見もある。

しかし、投げ抹消されない先発投手と異なり、出場することがない日の全てが登録日数に加えられるわけではない。10日以上の登板間隔があっても、そのうち登録日数に追加されるのは6日間だけだ。投げ抹消されながらも10回の先発登板をした投手が、この特例によって70日の登録日数になるのに対して、ローテーションの3、4番手の投手が途中で出場選手登録抹消がありつつも20回の先発登板をした場合には140日程度の登録日数となるだろう。ローテーションをある程度守った投手との差はそれなりに開くことになり、過剰な優遇措置とはいえないだろう。

また、シーズン開始時は先発ローテーションの1人として出場選手登録を抹消されることなく10回の先発登板をしたものの、徐々に打ち込まれる試合が増え、10回目の先発登板を最後に出場選手登録を抹消された場合、登録日数は開幕日から10回目の先発登板日までの日数である64日から70日程度となる(「先発ローテーション投手と球団が判断した投手については、開幕日から7日以内に出場選手登録された場合は、開幕日から登録されたものとみなす。」との特例による。)。10回の先発登板をしながら、先発ローテーションを守れていないという点では、投げ抹消で10回の先発登板をした選手と同じであり、こうした投手と同様の取り扱いをすることが過剰な優遇措置ともいえないだろう。反対に、現行の規定どおり、同じ10回の先発登板でもかたや10日、かたや70日の登録日数ではあまりにも公平性を欠く。

以上のように、投げ抹消の場合に、6日間を登録日数に加えるという措置を取っても、過剰な優遇とはいえない。

では、こうした措置を取ることが球団にとって不当な不利益となるだろうか。

投げ抹消の場合に、6日間を登録日数に加えることになると、球団としては実際には出場選手登録をしていないのに余分に登録日数が増えているとも思われる。しかし、投げ抹消は必ずしも選手のために行われているわけではない。既に述べたように、中10日以上の登板間隔だろうが、その選手の出場選手登録を抹消しないことは可能だ。それにもかかわらず、出場選手登録を抹消するのは、抹消した選手の代わりに別の選手を出場選手登録するためだ。このため、投げ抹消をする場合には、球団としても投げ抹消をする投手の登板日を除いて、1人分余分に起用可能な選手を増やすことができる(なお、2020年以降の特例継続中は、出場選手登録人数上限が31人なのに対して、ベンチ入り人数の上限は26人であるため、登板している先発投手を除くローテーション投手はベンチ外となる。このため、特例が継続している間に限れば、球団にメリットはない。)。球団としてもメリットがある以上、それに伴う負担があったとしても、不当な不利益とはいえない。

NPBの場合には、MLBの球団が選手をマイナーに降格させる場合と異なり、かなり自由に選手を二軍以下に降格することが可能であるため、FAとなるまでの期間を操作することが比較的容易だ。この点からも、この程度の制約を科すことは不当とまではいえないだろう。

まとめ

この原稿を作成している間に、選手会と機構との事務折衝が進捗し、来季から先発特例の導入が見込まれる状況となった。球団側にとっても、現行の規定の不当性は理解できたということだろうし、FA権取得までの期間を遅らせることを意図して、投げ抹消をしていたわけではないということだろう。

このようなかたちで、不当な制約が撤廃されることは望ましいことだ。

市川 博久/弁護士 @89yodan
DELTAデータアナリストを務める弁護士。学生時代、知人が書いていた野球の戦術に関する学術論文を読み、分析に興味を持つ。 その後『マネー・ボール』やDELTAアナリストらが執筆したリポートを参考に自らも様々な考察を開始。『デルタ・ベースボール・リポート3』などリポートシリーズにも寄稿。動画配信サービスDAZNの「野球ラボ」への出演やパシフィックリーグマーケティング株式会社主催の「パ・リーグ×パーソル ベースボール データハッカソン」などへのゲスト出演歴も。球界の法制度に対しても数多くのコラムで意見を発信している。
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