野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、先日、データ視点の守備のベストナイン“DELTA FIELDING AWARDS 2022”を発表しました。ここでは投票を行ったアナリストが具体的にどのような手法で分析を行ったか、またその分析からの感想を紹介していきながら、具体的に分析データを見ていきます。今回は捕手編です。受賞選手一覧はこちらから。


対象捕手に対する9人のアナリストの採点

捕手部門は大城卓三(読売)が受賞者となりました。大城はアナリスト9人のうち6人が1位票を投じ、90点満点中82点を獲得しています。大城の受賞は昨季に続き2年連続。強打に注目が集まりがちな選手ですが、アナリストは守備についても高い評価を与え続けています。

大城以外の上位は梅野隆太郎(阪神)、木下拓哉(中日)、中村悠平(ヤクルト)と、4位までセ・リーグ勢が独占。この傾向も例年どおりです。オリックスの日本一に貢献した伏見寅威は5位、オリックスへの移籍が決まった森友哉は6位と、パ・リーグの中では上位と評価されました。また高卒新人・松川虎生(ロッテ)は7位と中位に。パ・リーグ内では3番目の評価を得ています。

評価が低迷しているのが甲斐拓也(ソフトバンク)、炭谷銀仁朗(楽天)といった、守備型と評される捕手。対象13人中それぞれ11位、12位に終わりました。一般的な視点とセイバーメトリクスの視点で、評価に大きなギャップが生まれているようです。後述しますが、2選手とも捕手が投球をストライクに見せる技術・フレーミングにおいて他選手に大きな差をつけられました。

2018年より本企画では、DELTA取得の投球データを使ったフレーミングもアナリストによっては評価の対象としています。DELTA取得の投球データは目視により入力されたものであり、機械的に取得したデータと比べた際には精度の部分で課題を抱えています。しかしこれまでのFIELDING AWARDS、またほかの研究においても一定の成果を得られているため、データ入力におけるルールの厳格化、分析時のデータの扱いにおいて注意を払うことを徹底したうえで、評価を解禁しています。

今回はアナリスト9名全員がフレーミングを評価対象としました。そして例年同様、今季もこのフレーミングが全体の評価に与える影響は絶大。このプレーの良し悪しで順位の大部分が決まっています。

    各アナリストの評価手法(捕手編)
  • 岡田:DELTAのベーシックな捕手評価(盗塁阻止+捕逸阻止+失策+併殺)にフレーミングを追加
  • 道作:ベーシックな捕手評価+フレーミング。過去3年間の守備成績から順位付け
  • Jon:ベーシックな捕手評価+フレーミング
  • 佐藤:フレーミング、盗塁阻止の2項目での順位から各選手のはたらきをポイント化。ポイントが並んだ場合、暴投・捕逸を加味して順位を決定
  • 市川:失策回避、盗塁阻止、併殺奪取、フレーミングの合計点。フレーミングは独自の基準を採用
  • 宮下:フレーミング、ブロッキング、盗塁阻止に加えて、盗塁抑止も加味した合計点。盗塁抑止・阻止については投手:捕手の責任をそれぞれ2:1、3:2と定義したうえで算出。フレーミングは昨季組み込んだ審判の影響を除外して算出
  • 竹下:ベーシックな捕手評価+フレーミング。フレーミングにはミット移動、打者左右、投球カウントによる補正あり
  • 二階堂:ベーシックな捕手評価+フレーミング
  • 大南:ベーシックな捕手評価+フレーミング。出場機会の多寡による有利・不利を均すため、出場機会換算した値で順位付け

アナリスト宮下はどう分析したか。フレーミングデータも公開!

ここからはアナリスト宮下博志の分析を例に、捕手の守備評価を具体的に見ていきます。宮下は捕手の守備を「①ブロッキング(暴投・捕逸阻止)」、「②盗塁抑止」、「③盗塁阻止」、「④フレーミング」の4項目で評価を行いました。盗塁阻止だけでなく、そもそも走者に走らせない貢献を可視化した②盗塁抑止についても評価項目に加えたのが特徴的です。これらの評価手法については昨年の本企画でも紹介しています[1]

表の値を見ると、一般的に捕手のスキルで重要とされる③盗塁阻止でつく差は、最大でも2点ほど。そもそも走者を走らせない②盗塁抑止を含めても同程度しか変わりません。①ブロッキングによる差も同様です。

一方で④フレーミングは、出場機会に差があるものの最大で20点近い差が生まれています。表を見ればわかるとおり、フレーミングの良し悪しによってほぼ順位が決まりました。捕手の守備においてフレーミングが持つ影響力は圧倒的です。

次にそれぞれの捕手のデータを個別に見ていきましょう。以降はフレーミング得点のほかに、CSAA(Called Strike Above Average)というアナリスト宮下独自の指標を使います。これは平均的な捕手に比べフレーミングで増減させたストライク数を示しています。これを得点の単位に換算したものがフレーミング欄で表示している得点です。

大城卓三(読売)

前述したように大城はあらゆる項目で好成績を残しました。ブロッキング、フレーミングの値は12球団トップ。特にフレーミング10.5点が傑出しています。

ストライク獲得状況をビジュアル化した以下の図で大城の得意・不得意コースを見ていきましょう。赤くなるほどストライク増加、青くなるほど減少を示しています。

これを見ると、大城は低め、特に右打者のアウトコース低めでは抜群のフレーミングを見せています。これは昨季も同様の傾向でした。またゾーン内で確実にストライクをとれている点も見逃せないポイントです。大きな強みもありますが、全体的にどのコースでもストライクをとれたことが、12球団トップの値につながっています。

大城についてはアナリスト竹下弘道氏からも、「データで検出できる範囲では明らかに当代随一の名手」と絶賛の声が挙がっています。打撃力も捕手の中ではリーグトップクラスであるため、出場機会が増加すれば凄まじい影響力を発揮しそうです。ここまでシーズン350打席に1度も到達したことがないのは、ややもったいない起用と言えるかもしれません。

梅野隆太郎(阪神)

2019年受賞の梅野は今季は2位。トップには届きませんでしたが毎年コンスタントに上位に入ってきています。梅野もフレーミングだけでなく、全項目で平均を上回る成果を残しました。アナリスト市川博久氏の分析では梅野のフレーミング得点は10点を超えていたとのことです。

ビジュアルデータで見ると、梅野のフレーミングには両コーナーに強いというはっきりした傾向があります。特に左右両打者のアウトコースで多くのストライクを獲得できているようです。右打者のアウトコースは梅野が明確な差をつけられるコース。このコースへの強さは昨季から一貫しています。

木下拓哉(中日)

2020年に圧倒的なフレーミング値をマークしトップとなった木下。今季も2020年ほどは傑出していませんが、それでも上位に位置しつづけています。今季は盗塁阻止・抑止でやや平均を下回りましたが、フレーミングで取り返し、大幅なプラス値を記録しました。

木下は低めで多くのストライクを獲得しています。これは2020年2021年とまったく同じ傾向。低めをすくい上げるフレーミングは木下のストロングポイントです。特に右打者の外角低めは木下の得意コースとなっています。一方で昨季に続き課題となっているのが、右打者のインコース、左打者のアウトコースにあたる三塁側。この課題を解決できれば最上位も狙えそうです。

中村悠平(ヤクルト)

中村は合計4.4点で全体4位。他選手に比べ守備イニングが少ない中で健闘しています。中村はフレーミングで3.4点とやや平均を上回りました。

中村の強みとなっていたのは右打者のアウトコース。このコースではかなり多くのストライクを獲得しました。一方インコースはやや苦手で、特に左打者のインコースでは多くのストライクを失ったようです。これは昨季と同様の傾向でした。またインコースに限らず、左打者に対しては全体的にストライクを奪えていません。コースや打者の左右によって、傾向に大きな変化が出ています。

伏見寅威(オリックス)

オリックスの優勝に貢献した伏見は5位ながらパ・リーグではトップ。アナリスト宮下の分析では、フレーミングで3.3点と平均を上回る結果を残しました。

ビジュアルで見ると、低めは左右の打者ともに赤くなっており、多くストライクを獲得できています。木下と似た傾向です。一方、高めについてはストライクを取り逃す傾向がやや強いようです。高低のフレーミングに得手・不得手が明確に出たシーズンでした。

會澤翼(広島)

會澤はいずれの項目もほぼ平均レベルで、中位の評価となりました。

會澤は低めを苦手とする傾向が出ています。これは2020年と同様だったため、會澤固有の特徴である可能性がありそうです。また左右で比べると、対左打者で多くのストライクを獲得。また両サイドのボールゾーンではストライクを増やしていたようです。

嶺井博希(DeNA)

DeNAでキャリア最高の出場機会を得た嶺井。アナリスト宮下の分析では守備面の働きは平均レベルだったようです。

コース別のフレーミングは、ゾーン内高めで多くストライクを獲得。一方、左右打者ともにアウトコースではストライクを失うことも多かったようです。

森友哉(西武)

打撃では球界ナンバーワン捕手の森。守備面では評価が振るっていませんが、セイバーメトリクスの視点で見た場合、今季の評価は-2.3点。実は守備が大きな弱点となっているわけではありません。特に盗塁抑止・阻止においては高い成果を見せているようです。一方フレーミングは-2.8と平均をやや下回る結果となりました。

フレーミングでは昨季に続き、低めでストライクを奪えていませんでした。低めは全体的に青くなっており、かなりストライクを失っていたようです。一方でインコース、特に左打者のインコースでは多くのストライクを獲得。これについても昨季とまったく同じ傾向が出ています。オリックスは低めのフレーミングを改善できれば、森の価値をさらに高めることができそうです。

松川虎生(ロッテ)

今季大きな注目を集めた高卒新人・松川。守備力の高さが注目されましたが、アナリスト宮下の分析では、4項目ともにやや平均を下回る結果となりました。ただ高卒新人であることを考えると、大きなマイナスを作っていないだけさすがと言えるかもしれません。

フレーミングは傾向がはっきりしています。ストライクを減らしているのは左右どちらに対してもアウトコース。特に左打者のアウトコースではストライクをかなり減らしていたようです。この課題が解決されれば守備面で上位に入ることが期待できるかもしれません。

甲斐拓也(ソフトバンク)

6年連続でゴールデン・グラブ賞を獲得した甲斐。しかしアナリスト宮下の総合評価は-4.1点。平均的な捕手に比べ4.1点分、失点を増やしてしまったという評価です。アナリスト全体の評価でも13人中11位と下位に沈んでいます。

まず盗塁関連から見ていきましょう。甲斐といえばその強肩を生かした盗塁阻止能力が大きな長所ですが、盗塁阻止の項目では0.0点。平均レベルの評価しか得られていません。

ただ甲斐の場合、その強肩ゆえに走られること自体が少ないため、そもそも阻止の機会が少なくなります。アナリスト宮下はその「走らせない貢献」も②盗塁抑止として評価に組み込みました。甲斐はこの抑止部門で1.2点とやはり12球団トップの評価を得ています。またブロッキングでも1.3点と大城に次ぐ12球団2位の成績を残しました。

にもかかわらずなぜ下位に低迷したのか。最大の問題がフレーミングです。アナリスト宮下による甲斐のフレーミング評価は-6.7点。2019年からの推移を見ても、-8.4点、-13.2点、-6.1点、そして今季が-6.7点と、毎年大きなマイナスを記録しつづけています。これにより守備全体の評価は-4.1点と低迷。フレーミングが足を引っ張り、守備全体がマイナス評価となる傾向は、他のアナリストの間でも同様だったようです。

甲斐のフレーミングにはどういった課題があるのでしょうか。弱点となったのは明確に低めです。ストライクゾーンの下限周辺は満遍なく青色が広がっており、かなり多くのストライクを逃している様子がわかります。そしてこの低めへの弱さは今季に限ったものではなく、毎年一貫して継続しています。明確な課題であるため、解決にあたりたいところです。

一方で改善が見られたコースもあります。昨季の甲斐は低めだけでなく、高めでもストライクをとれていませんでした。しかし今季は高めの成績が改善。平均レベルにはストライクを獲得することに成功しています。また三塁側のコースでも昨季から改善を見せました。技術的な変化があったのかはわかりませんが、進歩を感じさせるデータです。

佐藤都志也(ロッテ)

今季ロッテで松川と併用された佐藤。ただ守備面では-7.2点と、他球団の捕手に比べ大きく失点を増やしてしまいました。しかも佐藤の出場はシーズン半分弱。常時出場となるとさらにマイナスが膨らみそうです。やはり課題はフレーミングで、-6.9点の損失を記録しています。

佐藤については不得意なコースに特徴があるわけではなく、全体的にストライクを失っていました。他の捕手と異なるのはゾーンの中央付近でも多くのストライクを失っていること。捕球全般のレベルアップが必要になるかもしれません。

炭谷銀仁朗(楽天)

長年守備面が高く評価され続けているベテラン捕手・炭谷。しかし宮下はじめアナリストの評価は振るっていません。盗塁抑止・阻止では一定の成果を見せたものの、フレーミングで-7.9点と大幅なマイナスを食らいました。結果、平均的な捕手に比べ8.2点失点を増やしてしまったという評価に終わっています。アナリスト全員の投票でも13人中12位に低迷しました。

炭谷も甲斐同様、低めが全体的に青く、かなり多くのストライクを失っている様子がわかります。また低めほどではありませんが、両サイドでもストライクを失っていました。

本企画ではセ・リーグ勢がフレーミングで上位に来る傾向が毎年続いています。ただアナリストの二階堂智志氏は、炭谷に関しては今季に限らず、読売所属時代からフレーミングが振るっていなかった点を指摘しています。シンプルにフレーミングに優れた捕手がセ・リーグに集中している可能性は十分ありそうです。

宇佐見真吾(日本ハム)

今季日本ハムで約半分のイニングを守った宇佐見。ブロッキングや盗塁抑止・阻止に目立った弱点はありませんが、フレーミングは-8.3点。シーズンフルイニングの目安は1200イニング。宇佐見は600イニング弱にもかかわらず、かなりのペースで失点を増やしてしまったことがわかります。

具体的なコースを見ると、宇佐見もやはり全体的にストライクを失うことが多かったようです。中でも低め、また左右の打者それぞれのアウトコースでも青色が濃くなっていました。課題は大きそうです。

  • 小林誠司(読売)、若月健矢(オリックス)、坂倉将吾(広島)、太田光(楽天)、内山壮真(ヤクルト)、柘植世那(西武)など、今回対象外となった注目捕手についても、後日フレーミングデータを有料会員専用で公開予定です。お楽しみにお待ち下さい。有料会員の登録はこちらから

捕手守備の現在。これから

今回も順位の決定にはフレーミングが絶大な影響力を持ちました。ただこうした状況がいつまでも続くわけではありません。

近年のMLBではストライク獲得のノウハウが共有されたことにより、全体的なフレーミングレベルの底上げが起こっています。これにより捕手間の差が縮まり、フレーミングの影響力は低下してきているのです。またトラッキングデータによるフィードバックにより、審判のジャッジ精度も向上。フレーミングはそもそもジャッジミスを前提とした技術であるため、この精度向上も影響力低下に拍車をかけています。MLBでも年々フレーミングの影響力は小さくなってきているのです。

また今後は影響力が小さくなるどころか、技術が無用化される可能性もあります。現在MLBは、ストライク・ボールを機械的にジャッジする方向へ動きを強めています。ジャッジに人間が介在しなくなる日も現実的になってきました。審判のジャッジミスがなければ、そもそもフレーミングという概念自体が必要なくなります。こうなると、捕手の守備評価において現在の形勢は一気に変わってくるでしょう。フレーミングを苦手としていた捕手は相対的に有利に、得意としていた捕手は不利に変化します。捕手の守備は現在、こうした脆い状況に置かれているのです。

ただ日本球界においては、少なくとも数年は大きくシステムが変わることはなさそうです。現在課題を抱える捕手は課題解決のためアジャストが必要になるでしょう。

また今オフは3人の捕手がFA権を行使し、大きな戦力移動が起こっています。移籍する捕手が新チームにどのような影響を与えるかは来季注目したいところです。


  • [1]アナリスト宮下の分析手法は基本的に昨年と同様だが、フレーミング評価において審判の影響を加味しなかった点のみ異なる
過去の受賞者(捕手)
2016年 若月健矢(オリックス)
2018年 小林誠司(読売)
2019年 梅野隆太郎(阪神)
2020年 木下拓哉(中日)
2021年 大城卓三(読売)

データ視点で選ぶ守備のベストナイン “DELTA FIELDING AWARDS 2022”受賞選手発表

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocketに追加

  • 関連記事

  • DELTA編集部の関連記事

  • アーカイブ

執筆者から探す

月別に探す

もっと見る