捕手が真ん中に構えることはどの程度のリスクがあるか

佐藤 文彦(Student)

2018.05.05



以前、『捕手の構えどおりに投げることは被安打リスクを下げるか』で、配球についての分析を行いました。今回はシリーズ2弾として「危険など真ん中に捕手がミットを構えること」がどれほどの影響を与えるかについて分析します。一般的に危険とされるこの位置にミットを構えることは、どの程度のリスクがあるのでしょうか。

捕手が真ん中に構える頻度


捕手が真ん中に構えるリスクを見る前に、そもそも捕手はどれくらいの頻度で真ん中にミットを構えるのかを確認しておきたいと思います。



本稿では投球位置を5×5の25に分けて、その中心のコースを真ん中と定義します(図1)。ど真ん中というよりは、真ん中周辺に構えた場合というのが正確かもしれません。2016年、2017年のNPBでこの赤い枠の中に捕手が構えた割合を球種別に求めました。データを以下の表1に示します。



全球種をあわせてみると、真ん中に構える割合は2%程度となっています。球種別にみると、左対左、右対右のチェンジアップ、左投手対右打者のカーブの割合が高くなっています。これらは落差のある球種ですので、ミットの位置に投げることを目標とするというよりは、あくまでも投手が投げる際の目安として真ん中に構えていると考えられます。

続いて、球種別ではなく、カウント別に真ん中に構える割合をまとめたものを以下の表2に示します。



真ん中に構える確率が最も高いのは、3ボール0ストライクの時です。これは予想できた結果ではないでしょうか。全体的に投手不利とされるカウントであるほど捕手が真ん中に構える確率は高くなっています。


真ん中に構えることの効果


それでは、ここから真ん中に構える効果を、被安打と与四球という2つのリスクから見てみたいと思います。真ん中のコースに構えたときと、それ以外のコースに構えたときの被安打率と与四球確率(3ボールの状況のみ)を以下の図2と図3に示します。





グラフは被安打と四球確率の差が統計的に有意であった場合は塗りつぶし、そうではなかった場合は白抜きにしています。図2、図3のグラフはすべて白抜きです。つまり見かけ上は真ん中とそれ以外のコースで差がありますが、これは誤差の範囲で、被安打率と与四球確率は同程度といえます。捕手の構えが真ん中であるかどうかで被安打と与四球の確率に大きな差が出てはいないということです。


真ん中に構えることの効果をカウント別に見る


次にカウント別に真ん中とそれ以外のコースの被安打率と与四球確率(3ボールの状況のみ)を比較しました。結果を以下の図4と図5に示します。





図中の棒を塗りつぶしている条件で、真ん中とそれ以外のコースの値に統計的に有意な差がありました。0ボール0ストライクと3ボール1ストライクの時は、真ん中に構えた場合被安打率が低く、カウント0ボール2ストライクの時は真ん中に構えた場合のほうが被安打率が高いという結果です。一般に2ストライクに追い込まれた打者は積極的にスイングしてくる傾向があるため、真ん中に構えてそこを目安に投球することはリスクが高くなるのでしょう。

続いて、3ボール時の四球確率については、3-0の状況で、真ん中に構えた場合のほうが与四球確率は低いという結果となっています。これについては、3-0のカウントまで来ている時点でコントロールに問題がある可能性が高く、次にボールを投げないためには真ん中に構えることが最も四球になりにくいためと考えられます。


まとめ


結果を全体的に見れば、真ん中に構えた場合と他のゾーンに構えた場合の、被安打や与四球のリスクはそれほど高くはないという結果といえます。他と大きな差がないというのであれば、真ん中への構えは捕手の選択肢の1つとして妥当なものだと言えると思います。ただし、0ボール2ストライクのように被安打リスクの高い状況もあることが確認できています。こうした状況で真ん中に構えるのは実態としてそれほど多くはないですが、悪手といえるのではないでしょうか。


Student @Student_murmur
個人サイトにて分析・執筆活動を行うほか、DELTAが配信するメールマガジンで記事を執筆。 BABIP関連、また打球情報を用いた分析などを展開。2017年3月に[プロ野球でわかる!]はじめての統計学 を出版。


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