NPBの若手有望株“プロスペクト”をランキングする本企画。昨年10月以来4回目の更新となる。今回からは2017年ドラフト指名選手も対象となる。また前回まで40人までだったが、今回は50人にランキングを拡張した。現在12球団最高の若手有望株と評価されたのは誰だろうか。

対象となる選手


・2018年中で25歳以下
・投手は一軍通算100イニング未満かつ50試合登板未満
・野手は一軍通算300打席未満
・外国人枠の対象となる選手は除く
・新人選手は26歳以上でも対象



評価のプロセスについて


最初に、このリスト作成のプロセスを説明したい。まず、選考チーム(今回は私、山崎とDELTAのデータ入力に携わるビデオ班)が各々トップ60人の選手をランク付けしたリストを持ち寄り、それぞれのポイントを集計し仮のランキングを作成する。その後、お互いの間で大きく評価の食い違う選手について議論して最終的なリストが完成する、という手順だ。

ただし、双方ともにリストに載っている大半の選手を生で見たことがない。今回のランキングに入った中でも、お互いにリストを作成するまで動画ですらプレーをチェックしたことがないという選手もいたほどだ。無責任かと思われる読者もおられるかもしれないが、これはわずか数名で行っている作業だけにカバー漏れがあるのは致し方ない。また当サイトのプロスペクトランキング企画は今年で2年目。まだまだ手探りで行っている発展途上の段階で完璧とは程遠い。誰もようやくつかまり立ちを覚えたばかりの幼児が100メートル走でウサイン・ボルトに勝つことなど期待しないだろう。それでも、我々としてはできる限りの労力をつぎ込んだつもりだ。あなたのイチ推しの選手の順位が低い、あるいはランキング外なのはなぜだという疑問や異論があったら遠慮なくお寄せいただきたい。

また前回2017年秋のリストから選手の能力自体はそれほど大きく変わっていないと思われる。変わったのは我々の評価そのものだ。実際に私はこの春、イースタンの春季教育リーグを数試合観戦したが、そこで初めて見た中から新たにランクインさせた選手が数名いる。また、前回の選考チームに名を連ねていた高多薪吾氏が今回は参加していないことも、順位の変動に大きく影響している。

これらのことを念頭に置き、ランキングをご覧いただきたい。セールスポイントの欄は評価の高いツールを記した。その中でもオレンジの項目は特に高評価となっている。








センターラインを守りながら打撃能力にも秀でた選手が上位にランクイン


DELTA代表の岡田友輔氏が執筆しているように、捕手や遊撃といった守備重視のポジションを守りながら、攻撃面で大きなプラスを作れる選手は非常に貴重な存在だ。今回トップの評価を得た坂倉将吾(広島)はそんな違いを生み出す選手になり得る。並大抵の才能では高卒1年目にして二軍で規定打席に到達し、打率.298を記録することはできない。昨季本塁打は1本のみだったが、現状ラインドライブに特化しているように見えるスイングをもう少しアッパーカット気味にすれば打球がフェンスを越える頻度が上がるだろう。守備面でも評価が高く、現在のカープの王朝を5年、10年と伸ばす要因になりうる。

センターラインで攻撃力を発揮できる素材といえば3位の平沢大河(ロッテ)も当てはまる。プロ入り後、数字は伸びていないが、「昨季30外野フライ以上を放った選手でフライ平均滞空時間はロッテのウィリー・モー・ペーニャに次ぎNPB2位(ビデオ班)」と長打力のポテンシャルは高い。バットで両リーグトップクラスの遊撃手に成長する可能性は十分にある。

中堅のスーパースター候補であるオコエ瑠偉(楽天)も忘れてはならない。先日までオリオールズの国際スカウティング部門に在籍し、現在は2080 Baseballというウェブサイトでプロスカウティングディレクターを務めるアダム・マキンタフ氏はオコエについて「パワーとスピードを兼ね備えた、NPBで最も興味深いプロスペクトの1人。身体能力は鈴木誠也に匹敵。鈴木よりもMLBで中堅手としてフィットする。」とコメントするなど、MLBのスカウト経験者から見ても評価が高いようだ(※1)。私もトップクラスの伸びしろの持ち主と評価したが、打撃のポテンシャルに疑問を抱くビデオ班と評価が割れ、協議の末最終的には4位に落ち着いた。

同じく中堅手の愛斗(西武)は9位となった。確かに彼のバットスピードは日本人の中ではトップクラスであり、身体全体を使って激しくスイングするわりにはボールまで最短距離でバットが出ており、コンタクト能力も素晴らしい。しかしその反面、ストレートにはとにかく手を出していき、見逃すのはベンチからの指示があった場合かかなり大きく外れた場合のみ、というアプローチは理想的とは言いがたい。オフスピードピッチに簡単に惑わされる場面も見受けられる。かなり高確率で一軍にレギュラーとして定着できる素質はあるのだが、このようにまだまだ粗削りな部分もあるため、前回の1位からランクダウンとなった。また、守備開始時にポジションにつくのが遅いなど、試合に臨む姿勢にも疑問符がつく。




新人最高位は清宮幸太郎 高い打撃ポテンシャルの一方、守備評価が低迷


2017年ドラフト組で最上位だったのはやはり清宮幸太郎(日本ハム)。12位という順位は読者の皆様の眼には低く映るかもしれないが、これには理由がある。1.02のリーダーボードは2014年までさかのぼって数字を見ることができるのだが、その期間中に主に一塁手としてプレーし、年間野手WAR(Wins Above Replacement)トップ10入りした選手は1人もいない。昨季ほとんどが指名打者としての出場で、しかもシーズンの半分以下の出場ながら両リーグ11位の4.3WARを記録した近藤健介(日本ハム)という例もあるが、これは完全なアウトライヤー(外れ値)。ここ10年間で最も成功した高校生の一・三塁手といえば筒香嘉智(DeNA)だが、彼のWARは過去4年間、2016年を除けばいずれも年間3.0~4.0の間にとどまっている。清宮が筒香のように左翼の守備を破綻しないレベルでこなせるかも疑問だ。「OPS1.000クラスの打者に成長する(ビデオ班)」としても、ディフェンス面でのマイナスが大きく、トップ10入りは見送りとなった。

守備面でのマイナスが大きいと言えば24位の岡本和真(読売)も当てはまる。秘められたパワーには目を見張るものがあるが、チェンジアップやフォークなどオフスピードピッチにバットが簡単に空を切る場面も見受けられる。私が似たような選手と位置付けている中田翔(日本ハム)がレギュラー定着後、2013年を除けばwRC+(weighted Runs Created plus)120台、ここ数年はリーグ平均並みかそれ以下にとどまっていることを考えると、リーグ全体の戦力図を1人で変えるようなインパクトを残す選手になるとは想像しがたい。

西武の今井達也はオフ中の喫煙騒動に加え、普段から素行が悪いとの情報が公に出たことによって評価が急落。若手選手の素行は今後の成長に大きく影響してくるだけに致し方ない。 今井に代わって評価が急上昇しているのが同じ西武の右腕でドラフト3位の伊藤翔。速球が150近くに達する上にどの球種も質、コマンド共に2月に19歳になったばかりの投手としてはかなり優れている。二軍戦を生観戦した私、オープン戦をチェックしたビデオ班ともに推した投手の1人だ。今回は40位にとどまったが、さらに順位が上でもおかしくはない。

ランキングの1番下の2人、種市篤暉(ロッテ)と網谷圭将(DeNA)はいずれも教育リーグで私の眼にとまった選手。種市はプロ1年目の昨季、二軍で1試合のみの登板にとどまったが、ストレートでコンスタントにストライクを取り、フォークも空振りを奪えるポテンシャルを秘める。スライダーと細かい制球を磨けばローテーション投手になる可能性は十分だ。

網谷は同じくDeNAから23位にランクインした細川成也に勝るとも劣らないパワーの持ち主。教育リーグの西武戦では三塁へのファウルフライで滞空時間7.08秒を計測した。同試合ではレフトへの本塁打も放っている。将来この網谷と細川がベイスターズ打線の中核を担う可能性もある。




数年後にランキングを振り返ることに意味がある


冒頭にも書いたが、このプロスペクトランキング企画自体が、ここに載っている選手たちと同様かあるいはそれ以上に育成の真っただ中にある。このリストも、開幕1か月もすれば滑稽に見えてくるはずだ。実際に1年前のリストからは、源田壮亮の名前が完全に外れていた。

プロスペクトランキングの真の目的は、3年後、5年後、10年後に振り返り、なぜこの選手がここまで高評価だったのか、あるいはあの選手がランク外だったのかを振り返り、反省し、失敗から学ぶことにある。なので、できればこの記事へのリンクをブックマークし、2028年頃にiGlassesのバーチャル映像で読み返していただけたら幸いだ。


※1 ただし、同氏は打席でのアプローチがより成熟していることを理由に「総合評価では鈴木のほうが上だと思う。どちらもかなり優れた選手だけど。」ともコメントしている

山崎 和音@Kazuto_Yamazaki
バイリンガルに活動するライター。1.02以外にもBeyond the Box ScoreBaseball Prospectusといったウェブサイトに寄稿。BP Anuall 2018では日本野球に関するチャプターを執筆。セイバーメトリクス的視点からだけではなく、従来のスカウティングを駆使した分析もする。趣味のギターの腕前はリプレイスメント・レベル。


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