• 1.02 Column



現在2位と好調な西武。野手陣の活躍に注目が集まりがちだが、投手陣の活躍も見逃せない。昨季リーグで最も多かったBB%(与四球割合)を大幅に減らしリーグ最少に抑えているのだ。西武の投手陣に何が起こったのだろうか。

土肥コーチが指示した「アバウトなストライクゾーン」


3年連続でBクラスと低迷していた西武ですが、今季は後半戦好調で現在リーグ2位につけています。好調の要因として秋山翔吾、浅村栄斗ら昨季までの主力や、山川穂高、源田壮亮ら若手など、野手が注目されがちですが、投手陣の活躍も見逃せません。西武のここ数年のK%(奪三振割合)とBB%の変化を表したものが表1になります。


pict

昨季は9.5%と両リーグで最も高い割合で四球を与えていた投手陣が、今季は7.3%とパ・リーグで最も四球を抑えています。西武の投手陣に何が起こったのでしょうか。この現象と関係がありそうなのが土肥義弘投手コーチの存在。土肥投手コーチは昨秋のキャンプから四球を減らすため、投手陣に「ストライクゾーンを甘めに設定して投げさせた」というのです。


四球が激減 西武投手陣を変えた“ストライクゾーン改革”(日刊ゲンダイ)
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/211719

投球時の狙いを甘くすることで、成績が良くなるというのは逆説的ではありますが、今回は、この劇的な与四球減の背景にある投球内容の変化を見ていきたいと思います。


主要先発投手が昨季から大幅に四球を減らす。ストライク率も上昇


チーム全体のBB%の低下は確認できましたが、個人レベルではどうなっているのでしょうか。西武の主な先発・救援投手を対象に、2016年と2017年のBB%を比較したものを以下の図1に示します。


pict

この図は右に行くほど2016年のBB%が高く、上に行くほど2017年のBB%が高いことを示します。図中の斜線より上にあれば2016年よりもBB%が上昇、下にあれば低下したことを示します。

先発・救援ともに2016年からBB%を低下させた投手が多くなっています。また、今季投球回の多い菊池雄星、野上亮磨、十亀剣、多和田真三郎ら先発陣のBB%が下がっていることがチームレベルでの与四球の減少に結びついているようです。それでは、これらの投手のストライクとボールの割合がどうなっているかを2016年と2017年で比較したものを以下の表2に示します。


pict

ほとんどの投手でボールの割合が低下し、その分ストライクの割合が増えています。また、多和田、野田昇吾、高橋光成の3投手を除いてF-Strike%(初球ストライク率)も高くなっています。BB%の低下の背景には、全体的にボールが減り、初球からストライクを取っていくスタイルへの変化があることがわかります。

今回はこの中から先発と救援からそれぞれ1人ずつ、菊池と武隈祥太をピックアップしたいと思います。


3ボールになる機会自体を減らしていた菊池と武隈


まずは菊池、武隈の打席結果発生時のカウントについて、2016年と2017年を比較してみたいと思います。四球が減ったということは、そもそも3ボールになるケース自体が減少したのか、それとも3ボールになるケースにそれほど変化はないものの、その状況で四球を出さずに切り抜けることができたのかを確認するためです。分析の結果を以下の図2に示します。


pict

2人とも図中赤色の「3ボールで決着のついた打席」の割合自体が減っていることを確認できます。この3ボールの減少分が、菊池の場合は0ボールと1ボールでの決着の増加、武隈では0ボールでの決着の増加へとつながっています。四球のリスクがある3ボールとなる状況自体がそもそも減っているというのが、この結果から見えてくる2017年の特徴といえます。

ただそれでも3ボールになるケースが0になったわけではありません。3ボール時の投球コースとその結果をまとめました。まずは菊池のデータを以下の図3に示します。


pict

2016年は高めに抜けるボールが多く、その球が多く四球になっていることが確認できます。また右打者の膝下のあたり、低めボールゾーンに外れる球も2017年は少なくなっています。


pict
武隈は救援投手なので、先発の菊池と比較するとデータは少なくなりますが、それでも違いを確認することはできます。2016年に見られたストライクゾーンの真ん中から高めへの投球が減少し、2017年は低めへの投球が中心となっていることを確認できます。またインコースやアウトコースに外れての四球が減少しています。

3ボールという与四球リスクの高い状況においても、菊池、武隈は、2016年よりも投球の的が絞れているように見えます。

既存戦力の内容を改善。「アバウトなストライクゾーン」は有効になりうる


西武投手陣の与四球減少の裏には特に先発陣のストライク率の上昇があり、分析した菊池や武隈は3ボールの機会自体を減らし、また3ボールからの投球でもまとまりを見せていることが確認できました。

こうした四球の減少が土肥コーチのアドバイスに基づくものなのであれば、大きな手柄です。大幅な戦力の入れ替えではなく、既存の戦力の投球内容を改善させたということになります。これは容易なことではありません。

もし制球を安定させる方法として狙いを甘くするのが有効であれば、ある種の皮肉ともいえます。こうした指導が四球の減少を生んだのであれば指導法の選択肢に加えて良いのではないでしょうか。「日本は緻密な野球が売りで~」とはよく聞きますが、精度の高いプレーのためには細かい指示が必ずしも必要というわけではないのかもしれません。


Student @Student_murmur
個人サイトにて分析・執筆活動を行うほか、DELTAが配信するメールマガジンで記事を執筆。 BABIP関連、また打球情報を用いた分析などを展開。2017年3月に[プロ野球でわかる!]はじめての統計学 を出版。

関連記事
復調・巨人、投打でランクイン。陽岱鋼が両リーグトップ、新人・畠はMVP級の奪三振力【データで選出8月月間MVP】
1.02レビュー[NPBの2週間を振り返る012](8.28-9.10,2017)
プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1
シンカーの割合が激増 オリックス・松葉のスタイルチェンジに迫る
中日・田島尻下がりの6月 原因は決め球となる変化球の甘さ
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocketに追加
  • LINEにおくる

  • ピックアップ

  • アーカイブ

執筆者から探す

月別に探す

もっと見る
©2015-2018 Copyrights Allright Reserved DELTA, Inc.