• 1.02 Column


今年もドラフト会議が間近に迫ってきた。スポーツ紙やインターネット上では各球団スカウトのドラフト候補に対する評価も多く見られる。今回はこの評価をどのように解釈すればよいのかに焦点を当てたい。


選手がどういったキャリアを送るかのシナリオ


大船渡高校の佐々木朗希は間違いなくNPB全体でナンバーワンの先発投手になれる実力の持ち主だ。私が現地で見たのは、U18ワールドカップ、大学代表との壮行試合の計2イニングだけだが、それでもその果てしない才能は明らかだった。「大谷翔平級」という巷の評価にも頷ける。

しかしこの「大谷級」という言葉を額面通りに受け取っていいのだろうか。答えはイエスでもあり、ノーでもある。

以前のプロジェクションシステムについての記事内で、私は起こりえる結果には幅があることに触れた。これはアルゴリズムを用いたプロジェクションだけではなく、従来のスカウティングにも当てはまる。

当然のことながら、プロスペクトの成長の結果は所属球団の育成能力や、選手本人がキャリアを通して健康で過ごせるかどうかに左右されるからだ。こういったファクターをもとに、スカウトは各プロスペクトの成長曲線の下限、現実的なシナリオ、上限を予測する。これらは英語ではそれぞれfloor、likely outcome、ceilingまたはOFP(overall future potential)と表現される。フォーマルなスカウティングリポートではOFPを用いる場合がほとんどだ。パーセンタイル値(※1)でいえば、下限はだいたい25、現実的なシナリオは50、そしてOFPは75になる。

複数の元MLB球団スカウトの話によれば、近年はスカウティングリポートを作成する際に、各プロスペクトがどの程度の確率でどのように成長するかの記載が求められるそうだ。もちろん、この作業はプロジェクションシステムのように機械的に行うのではなく、スカウトが実際に選手を視察した感想や、可能であればトラッキングシステムのデータなどを考慮して恣意的に行われる。


(※1)統計用語の一つ。パーセントが率や割合をあらわすのに対し、パーセンタイルは「データを大きさ順に並べて100個に区切り、小さいほうからどの位置にあるか」をみたもの。例えば子ども50人を背の高い順に並べた場合、10パーセンタイルにあたるのは5番目に背の低い子ども、50パーセンタイルにあたるのは25番目に背の低い子どもと考えられる。

「大学生野手A」と「高校生投手B」のシナリオを比較


架空のドラフト1巡目候補である「大学生野手A」の例をみてみよう(図1)。Aは完成度が高く、派手さはないものの、即戦力で一軍平均レベルかそれ以上のレギュラーになる見込みが高い。この評価を具体的な数値で表したのが以下のグラフだ。オールスターの常連(20-80スケールで70)以上の選手に成長する確率はわずか4%だが、50から60のどこかに収まる可能性は61%と非常に高い。彼の現実的な下限は45、すなわち平均以下のレギュラーもしくは上位チームの控え(45)、現実的なシナリオは平均的なレギュラー(50)、そしてOFPは平均以上のレギュラー(55)となる。

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こちらは最速154km/hの速球を誇り、変化球のキレも十分なものの、全体的に粗削りな「高校生投手B」(図2)。ドラフト候補の中では最もリスクの高い高校生投手とあって、一軍に定着できずに終わる可能性(40以下)が40%以上、また怪我のリスクもありリプレイスメント・レベルに届かない可能性(20)も6%ある。その反面、伸びしろも大きいのでオールスター常連以上になる可能性(70以上)は9%と、先ほどの野手Aの2倍以上ある。それでもやはりリスクが高いので、下限はリプレイスメント・レベル、OFPも平均的な先発投手か優れたリリーバー程度に落ち着いてしまう。

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ただ、独自のプログラムを導入し、高校生投手の育成に定評があるΣ球団のスカウトが投手Bのリポートを作成した場合、その点を考慮して他球団より高めの評価をするかもしれない(図3)。するとこのΣ球団のリポートではBのOFPは55と先ほどの野手Aと同じになる。まったく異なる形のグラフであるにもかかわらずだ。この2つの55 OFPのグラフは全く違う意味合いを帯びている。別の言葉に置き換えるなら、これらのグラフは「完成度の高いプロスぺクト」や「粗削りなプロスペクト」といったフレーズを具現化したものと言っていいだろう。

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佐々木朗希は現実的に「大谷級」か?


冒頭で挙げた佐々木の「大谷級」という評価に戻ると、これはOFP、すなわち75パーセンタイルのシナリオを指している。現実的に考えれば、このレベルの投手でもNPB歴代最高クラスのエースというよりは、並みのローテーションでは1番手だが、球史に残るエースと呼ぶには物足りないと捉えるのが妥当だ。そもそも、高校3年時の大谷本人ですら、現在のレベルに達することが約束されていたわけではない。起こりえる最悪の結果として、フルタイムのフレンチ・ホルンの奏者としてのキャリアを選択するためにプロ入り前に野球を断念していた可能性もありえた(※2)。

実際にここまで成長したのは、報道されているように本人の野球に対するストイックな姿勢が影響しているのはいうまでもない。MLBにおいて投打両面においてハイレベルなパフォーマンスを発揮できることを証明した今、大谷は75どころか90パーセンタイルのシナリオを現実にしたといっても大袈裟ではない。

高校時代に大谷と肩を並べる程の才能との評価を得ていた藤浪晋太郎(阪神)は、3年目の2015年にエース級の活躍をした後は伸び悩んでおり、今季はほぼ二軍暮らしに終わった。佐々木がこのようなキャリアを送る可能性も十分考えられる。もちろん、私としては順調に成長し、いずれは日本を代表するエースになってほしいが。

昨年のドラフトの目玉・根尾昂(中日)についても、全盛期の松井稼頭央と比較する声があった。もちろん、根尾のベストケースシナリオがオールスターの常連で、球界を代表するレベルの遊撃手であることは間違いない。しかし、もう少し現実的な視点で見れば、平均以上のレギュラー程度で落ち着く可能性のほうがはるかに高い。

このように、予測システムが弾き出す数字と同様に、ドラフト候補の評価も絶対的ではない。起こりえるシナリオはいくつかあり、紙面上を飾るのはそのうちベストに近いものに過ぎない。大事なのは、それらの評価が本当に何を意味しているかを考えることだ。


(※2)架空投手シド・フィンチのエピソード。『スポーツ・イラストレイテッド』誌がエイプリル・フールに絡め発表した創作に登場する。フィンチは最速168mph(270km/h)の速球を持ちながら、プロ入り前に野球の道を選ぶかフルタイムのフレンチ・ホルン奏者になるかで思い悩んでいた。

山崎 和音@Kazuto_Yamazaki
バイリンガルに活動するライター。1.02以外にもBeyond the Box ScoreBaseball Prospectusといったウェブサイトに寄稿。BP Anuall 2018では日本野球に関するチャプターを執筆。セイバーメトリクス的視点からだけではなく、従来のスカウティングを駆使した分析もする。趣味のギターの腕前はリプレイスメント・レベル。

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