• 1.02 Column

変化球を打ち損じた打者が「途中まで速球と同じ軌道から変化した」とコメントするのを聞いたことはないだろうか。このようなコメントが出る背景を考えると、打者は速球、あるいは速球に近い軌道を狙ってスイングしている可能性が考えられる。しかし一口に速球といっても、その種類はさまざまだ。直前に見た速球、リーグ平均レベルの見慣れた速球などいろいろあるだろう。今回はトラッキングデータから算出した投球軌道とスイング傾向を分析し、打者がスイングしやすいボールの軌道を調査し、打者は本当に速球を狙っているのか、またその場合どういった速球を狙っているのかを検証する。打者がどのような軌道をイメージしているかを知ることはピッチトンネルの理解につながるはずだ。

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本分析で登場するピッチトンネルの用語については、上記図をもとにPart1 で解説を行っている。

狙い球の候補として挙げた4種類の速球


今回は検証対象の速球として、ストレート(4-seam)を採用する。ストレートは2019年のMLBで最も多く投じられた球種であり、打者が最も見慣れた速球であるためだ。今回は打者が意識する速球の候補として、以下4種類のストレートについてスイング傾向を検証する。


①打席内で直前に投じた速球
②その投手の平均的な速球
③MLBの平均的な速球
④Swing%が高い投球コースの速球

①は打席内で直前に見た速球軌道。ピッチトンネルは速球とのトンネリングに着目される場合が少なくないため、その前提となる軌道を検証する。これに加え、②その投手固有の速球軌道、③リーグで見慣れた速球軌道、④一般的に打者がよくスイングしているコースの速球軌道について検証を行う。対象の速球軌道に近い投球がスイングされていれば、打者がその種類の速球を狙ってスイングしていると類推できる。


①打席内で直前に投じた速球軌道

まず打席内で直前に投球された速球の軌道を対象とする。下記表1-1の順で投球した場合、2球目と3球目が評価対象となる。つまり、直前の投球が速球だった場合に限定したピッチトンネル評価である。

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この条件で抽出した投球について、


・ゾーン中心からの距離
・速球軌道との差(トンネル差異)

の2つによって、Swing%(スイング/投球数)がどれだけ変化するかをグラフで確認する。水平の実線はストライクゾーンの大まかな境界(水平線より上がボール球)、垂直の実線はトンネル差異の平均を表している。Swing%は赤いほど高く、青いほど低いことを示す。

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図1を見ると、Part2で示した傾向と同様にSwing%はゾーン中心からの距離に大きく依存している。直前の投球を速球に絞った場合でも大きな変化はない。ただしゾーン中心からの距離が同じであれば、トンネル差異が小さい=速球軌道に近いほどスイングされている。それでもトンネル差異との連動は限定的だ。これらから打者が速球のうち、①直前の速球軌道を狙っている様子はなさそうだが、ある程度意識している可能性があると推測できる。


②その投手の平均的な速球軌道

②ではその投手が1シーズンで投球した速球の、平均的な軌道を対象とする。ここでは①と比較するため、対戦打者の左右を分けて集計した。対戦打者の左右によって投球コースが異なる場合が多いためだ。さきほどと同じように比べたグラフが図2だ。

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図2を見ると、ゾーン中心に近いほどスイングされやすい傾向は①(図1)と同様だが、①以上に横軸の速球軌道とのトンネル差異によってSwing%に大きな差が生まれている。特にゾーン中心から40-60cmの投球コースでは速球軌道の差によってSwing%が約20%異なる(表3)。図2の色合いだけ見ても①より左右のグラデーションが濃く、打者が②投手の平均的な速球軌道をスイングするかどうかの判断材料としている可能性がうかがえる。


③MLBの平均的速球軌道

次はMLBの平均的な速球の軌道を対象とする。①、②と比較するため、打者の左右および投手の左右を分けて集計する。投手の左右が異なれば軌道はまったく別物になるためだ。ここで対象とする速球の軌道は、その投手のリリースポイントから、MLBの平均的な球速・変化量の速球を、平均的な投球コースへ投じた場合の軌道である。計算方法は以下の通りである。


1.投手、打者の左右でグループ化し、各グループの平均的なストレートの軌道データを計算する。
2.ホームプレート方向の球速と縦横の変化量を固定し、その投手のリリースポイントから平均的な投球コースへ投球された速球の軌道を再計算する。


さきほどと同じように、今回は③MLBの平均的な速球軌道を比べたものが図3だ。

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②とかなり近い傾向が出ているが、表3のようにトンネル差異が平均未満か以上かで比べると、②以上にSwing%に大きな差が出ている。ゾーン中心からの距離が0-20cmで速球軌道との差が大きい投球(69.9%)と、ゾーン中心からの距離20-40cmで速球軌道との差が小さい投球(70.5%)が同等のSwing%を記録している。後者はストライクゾーン枠周辺の投球だが、打者はストライクゾーンの投球と同様にスイングしているようだ。また、ゾーン中心から40-60cmの完全なボールゾーンであっても、速球軌道との差が小さい投球(平均未満)は50.0%スイングさせている。リーグの平均的な速球軌道との重なりはボール球を振らせる鍵となりそうだ。

平均的な速球との比較は『デルタ・ベースボールリポート3』に寄稿した記事でも採用している。記事内では縦の実線線より左側を、便宜的にプレストライクゾーン(Pre-Strike zone:事前ストライクゾーン)、あるいはプレゾーンと呼んでいる。詳細は『デルタ・ベースボール・リポート3』に記載している。


④Swing%が高い投球コースの速球

ストレートが最もスイングされやすい投球コースは真ん中高めである。スイングされやすいということは、打者が狙っている可能性が高いということだ。ここではMLBの平均的な球速・変化量の速球が、真ん中高めに投じられた場合の軌道を想定する。計算方法は以下の通りである。


1.投手、打者の左右でグループ化し、各グループの平均的なストレートの軌道データを計算する。
2.ホームプレート方向の球速と縦横の変化量を固定し、その投手のリリースポイントから真ん中高め(水平0cm/高さ85cm)へ投球した場合の軌道を再計算する。


さきほどと同じように、今回は④Swing%が高い投球コース(真ん中高め)の速球軌道を比べたものが図4だ。

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②、③と同様の傾向が出ているが、その中でも④は最も極端な傾向が出ている。表4を見ると、トンネル差異が平均未満か、以上かで生まれるSwing%の差はそれぞれ最も大きくなっている。スイングされやすい軌道を選んでいるため、ある意味では当然の結果と言える。

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ここまでの結果をまとめた表5を見ると、投球コースの影響を考慮した場合、①直前に投じた速球軌道はSwing%に大きな差が出ていない。一方、②その投手の平均的な速球軌道、③MLBの平均的な速球軌道、④MLBの平均的な真ん中高めへの速球軌道は、その軌道との差次第でSwing%に開きがでた。特に④Swing%が高い投球コース(真ん中高め)の速球はSwing%の差が大きく、特にゾーン中心から20-40cm離れた位置ではSwing%が30%以上も異なった。


Part3のまとめ


この結果からわかるのは、ピッチトンネルで比較対象となる①直前に投じた速球の軌道はスイングにそれほど強い影響を及ぼさず、リーグの平均的な速球軌道、あるいは高めの速球軌道が打者の狙い球となっている可能性である。

Part4では、この打者が認識する速球軌道についてより深く考察を行っていく。

Part1
Part2

参考文献
[1]今回使用したデータはすべてMLB Advanced Mediaが運営するBaseball Savantから取得している。
https://baseballsavant.mlb.com
(最終閲覧日2020年7月12日)

八代 久通@saber_metmh
学生時代に数理物理を専攻。野球の数理的分析に没頭する。 近年は物理的なトラッキングデータの分析にも着手。
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