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ソフトバンクは16日に、前ヤクルトのウラディミール・バレンティンの獲得を発表した。バレンティンは今オフ、結果的には行使しなかったもののFA権を取得していた。外国人選手がFA権を行使したケースは少ないため、起こった場合にどのような措置がとられるのかさまざまな憶測が飛び交った。FA制度と外国人選手との関係については整理されていないようだ。今回は日本プロフェッショナル野球協約やフリーエージェント規約を読み、外国人選手の関わるFA制度の疑問について整理をしてみた。

外国人選手はFAとなる資格を得ることができるか


フリーエージェント(以下、「FA」という。)とは、日本プロフェッショナル野球協約(以下、「協約」という。)68条2項の定めにかかわらず、所属球団以外の球団と契約交渉を行い、契約を締結できることをいう【フリーエージェント規約(以下、「FA規約」という。)1条】。FAには契約先がNPB所属球団に限られる国内FAと契約先に制限のない海外FAとがある【FA規約1条】。

FAとなる資格(以下、「FA資格」という。)についてはFA規約2条1項以下に定められているが、出場選手登録が一定の日数を超えたシーズンの数による規定があるのみで、外国人選手についてFA資格の取得を制限する規定は存在しない。また、協約82条⑷号は外国人選手もFA資格を取得することが可能なことを前提とした規定となっている。これらのことからも、外国人選手であってもFA資格を取得することはできる。


外国人選手がFA資格を取得した場合の効果


では、外国人選手がFA資格を取得した場合にはどのような効果があるのであろうか。FA規約はFA権の行使についても、外国人選手とそれ以外の選手との区別をしていないため、FA資格を取得すれば、外国人選手以外の選手と同様にFA権を行使できるようになる。

外国人選手の場合はFA資格取得によるそれ以外の効果もある。協約82条の2ただし書きで規定されているように、外国人選手は同時に4名まで出場選手登録できない(野手または投手を同時に4名登録することはできない。)が、国内FA資格を取得すれば(※1)、この規定の適用に限っては外国人選手ではない選手として扱われる【協約82条⑷号】。このため、国内FA資格を取得した外国人選手は、外国人選手の出場選手登録の制限にかかわらず、出場選手登録をすることができることになる。

よく「外国人選手はFA資格を取得すれば、日本人選手扱いとなる。」などと言われることがあるが、これは厳密には違う。そもそも、協約には「日本人選手」などというものは定められておらず、「外国人選手」が定められているだけである(したがって、「外国人選手」、「外国人選手でない選手」と言うのが表現としては正確である。)。

また、協約や他の規約類が関連するあらゆる場面において外国人選手でない選手として扱われるわけではない。協約82条柱書きには「なお、⑷号(FA資格を取得した外国人選手)に規定する者については、この章(協約11章 選手数の制限)の規定の適用に関する場合に限り、外国人選手でないものとみなす。」と記載されており、協約の他の章や他の規約の規定の適用に関しては外国人選手として扱われることが定められている(※2)。


外国人選手がFA権を行使して移籍した場合に補償は発生するか


外国人選手でない選手がFA権を行使して移籍した場合には、FA選手と契約した球団(以下、「獲得球団」という。)から、FA選手が在籍していた球団(以下、「旧球団」という。)に対する補償が行われる場合がある【FA規約10条1項】。FA宣言をした選手の当該年度の参稼報酬(年俸)の額が旧球団で上位1位から3位までの場合をAランク、上位4位から10位までの場合をBランク、上位11位以下の場合をCランクとして、その選手がAランクまたはBランクのときは補償が発生する【FA規約10条2項1号、同2号、同3号、同3項、同4項】。

では、外国人選手がFA権を行使して移籍した場合にも補償が発生する場合があるのであろうか。結論から言えば、外国人選手がFA権を行使して移籍した場合に、補償が発生することはないと考えられる。その理由はFA選手のランクの決め方にある。

FA規約10条2項柱書きは、「FA補償は、FA宣言選手の当該年度の参稼報酬の額に基づく旧球団における以下のランク付け(外国人選手を除く。なお、野球協約82条⑷号に規定する者は、本規約においては「外国人選手」と見做す。)に従い行う。」としている。この規定を文言通りに解釈すれば、外国人選手はFA資格を取得したとしてもランク付けがされないということになる。

例えば、参稼報酬が3億円の甲選手、2億5000万円の乙選手、2億円の丙選手、1億5000万円の丁選手(いずれも外国人選手ではない)と参稼報酬が2億2000万円でFA資格を取得した外国人選手のα選手、参稼報酬が5億円でFA資格を取得していない外国人選手のβ選手が同じ球団に所属していた場合、外国人選手であるα選手とβ選手を除いてランク付けが行われることになるため、参稼報酬が3億円の甲選手、2億5000万円の乙選手、2億円の丙選手がAランク、1億5000万円の丁選手がBランクとなる。α選手はFA資格を取得しているため外国人選手でないと思われるかもしれないが、「なお、野球協約82条⑷号に規定する者は、本規約においては「外国人選手」と見做す。」と規定されているため、FA規約については依然として外国人選手として扱われる(※3)。したがって、α選手もβ選手もランクが付かないことになる。

そして、FA規約10条3項(一度目のFA権行使による移籍の際の補償について定めた規定)は「当該FA宣言選手(前項の定めによるAランク又はBランクに属する者に限る。)が最初にFAの権利を行使する場合は、獲得球団は、旧球団に対し、旧球団の選択によるところに従い、下記⑴又は⑵のいずれかの補償をする。」と定めており、同4項(二度目以降のFA権行使による移籍の際の補償について定めた規定)も「当該FA宣言選手(第2項の定めによるAランク又はBランクに属する者に限る。)が第5条の定めによるFAの権利を行使する場合は、獲得球団は、旧球団に対し、旧球団の選択によるところに従い、下記⑴又は⑵のいずれかの補償をする。」としている。

この規定からすれば、FA宣言選手がAランクまたはBランクだった場合に限って補償をする必要があり、Cランクまたはランクが付かない場合には補償をする必要がないと考えられる。これが例えば、FA宣言選手がCランクに属する場合には補償は不要であるといった規定の仕方であれば、ランクが付かない選手がFA権を行使して移籍した場合にも補償が発生すると読めるであろうが、AランクまたはBランクに属する場合に限って補償をする必要があると定めている以上は、ランクが付かない選手の場合にも補償が発生しないとしか読めないであろう。

したがって、外国人選手がFA権を行使して移籍した場合に、補償が発生することはないと考えられる。


FA資格を取得した外国人選手はFA権行使による移籍の際の補償で移籍することがあり得るか


FA資格を取得した外国人選手は、所属している球団が他球団からAランクまたはBランクのFA宣言選手と契約した場合に、補償によって移籍することはあり得るのであろうか。これも結論から言えば、ないと考えられる。

FA権を行使した移籍に伴って補償が発生し、旧球団が選手による補償(人的補償)を求めた場合、獲得球団の支配下選手のうち外国人選手及び獲得球団が任意に定めた28名を除いた選手から、旧球団が1名を選んで獲得することができる【FA規約10条3項⑴号ア、同4項⑴号ア】とされており、旧球団が獲得の対象とすることができる選手から外国人選手が除かれていることからも明らかである。FA資格を取得した外国人選手であっても、出場選手登録の制限以外に関しては、依然として外国人選手として扱われることはこれまで述べてきたことと同様である。

したがって、外国人選手がFAに伴う補償によって移籍することはない。


外国人選手がFA権を行使して移籍した場合に補償が発生しないことは妥当か


FA制度と外国人選手との関係の整理は以上のとおりであるが、最後に外国人選手がFA権を行使して移籍した場合に補償が発生しないことについての私見を述べておく。

協約やFA規約を文字通りに解釈すれば、外国人選手がFA権を行使して移籍した場合には補償が発生しないと言わざるを得ないが、このような結論は妥当であろうか。私は妥当だと考える。

一つ目の理由は、外国人選手はFA資格を取得していてもいなくても、ランク付けから除外されているためである。

例えば、外国人選手を含んだ場合には参稼報酬が上位11位、外国人選手を除いた場合には参稼報酬が上位10位の選手がFA権を行使して移籍した場合を考える。この選手が移籍した場合、ランク付けは外国人選手を除いて考えるから、Bランクとなり補償が必要となる。その上で、参稼報酬が上位10位以内の外国人選手がFA権を行使して移籍する場合にも補償が必要とするのは平仄が合わない。

もし仮に外国人選手であっても参稼報酬が上位10位以内であれば、補償を必要とするのであれば、外国人選手も含めた参稼報酬の額でランク付けを行うべきであろう。さもなくば、参稼報酬の上位10位以内に外国人選手がいる球団は、AランクまたはBランクの選手数が11人以上になるのに対し、参稼報酬の上位10位以内に外国人選手がいない球団は、AランクまたはBランクの選手数が10人のままで不公平が生じることになる。

現行のFA規約のようにランク付けの際には、外国人選手を除外して考えておきながら、いざ外国人選手がFA権を行使して移籍する段になると、補償が必要とするのはあまりにも都合が良すぎる。

二つ目の理由は、外国人選手の場合には、FA権を行使せずとも事実上他球団への移籍が可能なことである。

外国人選手以外の選手の場合は、FA権を行使しなければ、所属する球団の意思に反して、自らの意思で他球団に移籍することはできない。しかし、外国人選手の場合には、複数年契約等の場合を除けば、契約期間満了とともに自由契約となり、他球団との契約が可能である(※4)。このため、FA権を行使すること自体にさほど意味がないばかりか(※5)、仮に補償を必要としたとしても、自由契約となった後に他球団と契約すれば、補償を回避することができてしまう。

このように現在のNPBにおける外国人選手との契約慣行からすれば、外国人選手の移籍の場合にも補償が発生し得るようにFA規約を改正しても無意味である。以上の理由から、外国人選手がFA権を行使して移籍した場合に補償が発生しないことは妥当であると考える。



(※1)協約82条⑷号には「この組織が定めるフリーエージェント資格を取得した者」とのみ書かれており、国内FA資格とは書かれていないが、FA規約は国内FA資格と海外FA資格の双方をFA資格としている【FA規約2条2項】ため、資格取得までの期間が短い国内FA資格を取得した段階で外国人選手に対する出場選手登録の制限から外れる。

(※2)ただし、協約に関して言えば、11章以外には「外国人選手」という文言は存在しない。

(※3)なお、FA規約10条2項柱書きにある「なお……」以下の部分は存在しなかったとしても、結論に変わりはない。先に述べたとおり、外国人選手はFA資格を取得したとしても、出場選手登録の制限に関して外国人選手でないと見做されるだけで、他の規定の適用に関しては外国人選手でないとは見做されないためである。

(※4)過去及び現在の外国人選手との契約からするとこのように考えられるが、翌年度の契約更改について、協約は外国人選手と外国人選手以外の選手で差をつけていないため、少なくとも協約上はこのような取り扱いの差異についての根拠が確認できない。

(※5)あるとすれば、自由契約となるのを待たずに他球団と交渉ができることくらいである。契約期間中は他球団と契約に関する交渉はできない【協約68条2項】が、FA権を行使すれば、契約期間中でも他球団との交渉が可能となる。

参考文献等
日本プロフェッショナル野球協約2017
http://jpbpa.net/up_pdf/1523253145-022870.pdf
フリーエージェント規約
http://jpbpa.net/up_pdf/1284364512-578244.pdf

市川 博久(いちかわ・ひろひさ)/弁護士 @89yodan
学生時代、知人が書いていた野球の戦術に関する学術論文を読み、分析に興味を持つ。 その後『マネー・ボール』やDELTAアナリストらが執筆したリポートを参考に自らも様々な考察を開始。『デルタ・ベースボール・リポート3』にも寄稿。
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