• 1.02 Column

新型コロナウイルスの流行を受けて、外国人選手の入国が滞っている。そんな中、12球団は戦力均衡のために、外国人選手のベンチ入り人数に制限を設ける等の対策を議論しているとの報道があった。現時点では、球団ごとに入国済みの外国人選手の人数に差が生じていることは確かである。しかし、このような制限はすでに入国済みの外国人選手にとっては、不利益となることは言うまでもない。仮にこうした制限が課されようとするとき、当の外国人選手達は何も言うことができないのか。検討をしてみた。

前提となる野球協約の規定


まずは前提となる日本プロフェッショナル野球協約(以下、「野球協約」という。)の規定を確認していく。なお、現在、日本プロ野球選手会ホームページで公開されている野球協約、統一契約書は2017年度版が最新であるが、後述のとおり、外国人選手に関する規定には、それ以後に特例が設けられている。これらについては、NPBも日本プロ野球選手会も公開をしていないため、原文に当たることができない。そのため、報道されている情報を前提とせざるを得ない。

野球協約では、82条以下に外国人選手についての規定がある。82条は外国人選手の定義について述べているものである。そして、外国人選手の登録に関する制限は82条の2に定められている。.

第82条の2 (外国人選手数)
球団は、任意の数の外国人選手を支配下選手として保有することができる。ただし、出場選手登録は4名以内に限られ、野手又は投手として同時に登録申請できるのは、それぞれ3名以内とする。

このように外国人選手の支配下登録人数については制限がなく、出場選手登録については4名以内(野手または投手4名を登録することはできない)との制限がある。

なお、この支配下登録人数についての制限は、2020年度のみに適用される特例が設けられ、さらにその特例の一部が改正されて2021年度にも適用されることとなっている。2021年度の特例について報道されているところによれば、外国人選手の出場選手登録数は5名以内、野手または投手として同時に出場選手登録できるのはそれぞれ4名以内と制限が緩和されている(ただし、同時にベンチ入りできる外国人選手数については4名以内であり、野手または投手として同時にベンチ入りできるのはそれぞれ3名以内)。

以上のように、外国人選手にはそれ以外の選手には適用されない制限が存在する。




出場選手登録数制限が外国人選手に与える影響


外国人選手の出場選手登録数の制限が変化することで、外国人選手の出場機会に変化はあるか。抽象的には出場選手登録数が減少すれば、外国人選手の出場機会は減少するとも考えられる。しかし、外国人選手の起用法は球団ごとに異なり一様ではない。出場選手登録数をフル活用して、外国人選手を積極的に起用していた球団もあれば、そうでない球団も存在する。実際に、出場選手登録数の変化が、外国人選手の出場機会にどの程度の影響を与えるか調べてみた結果は以下のとおりである。


表1 NPBにおける外国人選手の年度別打席数
年度 2017 2018 2019 2020
外国人選手 打席数 9158 8713 8590 7839
全打席数
64923 65771 65595 54173
外国人選手
打席割合
14.1% 13.2% 13.1% 14.5%

表2 NPBにおける外国人選手の年度別投球回
年度 2017 2018 2019 2020
外国人選手
投球回数
2655 2/3 2884 1/3 3502 2098 2/3
全投球回数
15313 2/3 15332 1/3 15336 1/3 12682
外国人選手
投球回数割合
17.3% 18.8% 22.8% 16.5%

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2020年は前述した特例により外国人選手の出場選手登録数の制限が緩和されたが、必ずしも外国人選手の出場機会は増加していない。また、2019年以前の3年間も年度によって、外国人選手の出場機会は変化している。特例は2020年のみしか採用されていないため、この結果のみから出場選手登録数の制限が外国人選手の出場機会に影響を与えないと結論づけることはできないが、出場選手登録数が4名以内か5名以内かの違いは、そこまで外国人選手の出場機会に影響を与えず、それ以外の要素による変動の方が大きいといえるであろう。

もっとも、これとは反対に出場選手登録数の制限を当初の想定から減らす場合については、異なる結果となった可能性もある。

外国人選手の出場選手登録数について、単純に人数の制限を2019年以前の4名以内に戻すだけならば、それほど大きな影響はないと思われる。しかし、シーズン開始後に一定期間の外国人選手の出場を禁止するなどの措置を取ったり、出場選手登録数の制限を3名や2名以内まで減少させるような変更を行ったりした場合には、外国人選手の出場機会が当初の想定よりも大きく減少する可能性もある。




外国人選手が制限に対して不服を申し立てることの困難性


仮に多くの球団の外国人選手が入国して出場できるようになるまでの一定期間、すでに入国している外国人選手の出場を制限したり、外国人選手の出場選手登録数を2019年以前よりも少ない人数まで制限したりするような、特例が設けられれば、外国人選手にとっては出場機会が減らされる可能性が生じる。

しかし、仮にそのような不利益な措置が執られたとしても、外国人選手がこれらに対して不服を申し立てることは、以下の理由から困難と考えられる。


1.統一契約上、出場機会の保障が球団の義務とされていない

1つ目の問題は、統一契約上は外国人選手に限らずすべての選手について、出場機会の保障を行うことが球団の義務とされていない点である。

球団と選手との間で取り交わされている統一契約書は次のように規定している。

第2条 (目的)
選手がプロフェッショナル野球選手として特殊技能による稼働を球団のために行うことを、本契約の目的として球団は契約を申し込み、選手はこの申し込みを承諾する。

第3条 (参稼報酬)
球団は選手にたいし、選手の2月1日から11月30日までの間の稼働にたいする参稼報酬として金・・・・・・円(消費税及び地方消費税別途)を次の方法で支払う。 契約が2月1日以後に締結された場合、2月1日から契約締結の前日まで1日につき前項の参稼報酬の300分の1に消費税及び地方消費税を加算した金額を減額する。

第4条 (野球活動)
選手は・・・・・・年度の球団のトレーニング、非公式試合、年度連盟選手権試合ならびに球団が指定する試合に参稼し、年度連盟選手権試合に選手権を獲得したときは日本選手権シリーズ試合に参稼し、また選手がオールスター試合に選抜されたときはこれに参稼することを承諾する。

このように球団と選手との契約は、選手が球団のために選手として野球活動を行う義務を負い、これに対して球団が参稼報酬(年俸)を支払う義務を負うものとなっている。裏を返せば、球団の義務は参稼報酬の支払いであり、選手のために出場機会を保障することまで、球団に義務があるとは考えがたい。

選手側から契約を解除できる場合としては次のような規定がある。

第25条 (選手による契約解除)
選手は次の場合解約通知書をもって、本契約を解除することができる。
(1)本契約による参稼報酬、その他の支払いが約定日から14日を超えて履行されない場合。
(2)球団が選手の所属するチームを正当な理由なく、年度連盟選手権試合に引き続き6試合以上出場させることができなかった場合。

球団からの報酬支払いが一定期間されない場合には、選手側に契約の解除が認められている一方、選手が試合に出場できなかったとしても選手側からの契約解除は認められていない。

なお、25条2号は、チームそのものが年度連盟選手権試合(ペナントレース及びクライマックスシリーズ)に引き続き6試合以上出場できなかった場合についての規定であり、チームはペナントレースに出場しつつ、そのうちの特定の選手だけが出場できない場合の規定ではない。そのため、仮に何らかの制限が課された結果、外国人選手が試合に出場できなかったとしても、この規定を根拠にして選手側から契約解除を求めることはできない。

したがって、統一契約書の規定からは、球団が報酬を支払う限りは、外国人選手が出場機会の保障がされないことを理由として、契約の解除を求めることはできないと考えられる。


2.野球協約の改正に原則として関与できない

次に問題となるのは、選手が野球協約の改正に原則として関与できない点である。

また、外国人選手に対する出場選手登録数の制限は、野球協約で規定されているが、野球協約(あるいはそれに付随する規約、アグリーメント等)の改正には、協約上、特別委員会の議決を経ることとされている「選手契約に関係ある事項」を除いては、選手が関与することができない(野球協約12条3項⑴号)。

これについて、外国人選手の出場選手登録数に関する規定が、「選手契約に関係ある事項」に該当するかが問題となるが、2020年の外国人選手に関する特例はNPBの実行委員会で決定されており、特別委員会の設置はされていないようである[1]。このため、少なくとも外国人選手の出場選手登録数に関する規定は、「選手契約に関係ある事項」に該当しないと考えられる。

このように、外国人選手にかかわらず、選手には野球協約等の改正に関与することはほとんどできず、選手にとって不利益なルール変更であったとしても、その変更を止めたり、異議を申し立てたりする権利が制度上十分に保障されていない。


3 外国人選手は選手会に加入しておらず、加入している選手と利益が相反する

さらに、外国人選手が選手会に加入していないことから、統一契約書や野球協約に規定がない事項について、労使交渉により解決を図ることも難しいという問題点もある。

現状、外国人選手はプロ野球選手会に加入しておらず、過去においても一部の例外を除いては、外国人選手が選手会に加入することはなかった。

これまでに、統一契約書や野球協約の問題から、選手は不利益なルール変更であったとしても、その変更に異議を申し立てたり、関与をしたりする権利が保障されていないと述べてきたが、実際にはNPBあるいは球団側と選手会とで折衝がされたり、選手会が問題と考える事態に対してNPBや球団に申し入れを行うこともあった。NPBあるいは球団と選手会とのやりとりは、明らかにされていない部分も多いため詳細は不明ながら、こうした選手会の対応によって、選手にとって不利益なルール変更に一定の歯止めがかかっていた可能性もある。

しかし、外国人選手は選手会に加入していないため、こうした労使間の交渉によって、不利益なルール変更を阻止することも期待できない。特に外国人選手の出場選手登録数やベンチ入り人数、出場制限に関する問題については、選手会に加入している選手との利益が相反する。プロ野球選手であれば、外国人選手であろうが、それ以外の選手であろうが、不利益なルール変更であれば、両者の利害は共通であろうが、外国人選手の出場選手登録数等に関するルール変更については、外国人選手にとっては不利益であったとしても、それ以外の選手にとっては不利益ではなく、むしろ利益になるとすらいえる[2]

このため、この問題については、選手会が積極的に関与して是正する動機に乏しく、選手会の関与によって、外国人選手の救済がなされる可能性は低い。

このように、外国人選手の出場選手登録数等が制限されるとしても、これに対して、外国人選手が不服を申し立てることは困難といえる。




それでもこのような制限がされることは好ましくない


以上述べたように、仮にNPBが外国人選手の出場について、制限を課すことを強行した場合には、これを防ぐことは外国人選手には難しい。

とはいえ、このような制限がされることは好ましくないと考える。

確かに、統一契約上は出場機会の保障まで球団に求められてはいない。出場機会が減らされたとしても、参稼報酬さえ支払われれば、選手に不利益はないとも考えられる。

もっとも、それはやや形式的に過ぎるとも思われる。選手にとって、試合に出場して活躍できるか否かは、翌年以降の契約内容に大きく関わってくる。試合に出場することは、選手にとって義務であることはもちろんであるが、それによって自身の価値を向上させることでもある。契約期間が原則として1年間(より厳密には10か月)であり、毎年、契約内容が見直されるプロ野球選手は、他の職業と比べても、ある年の成果が翌年の報酬に反映されやすい。こうしたプロ野球選手の契約の特性からすれば、就労の機会の重要性は他の職業と比べても高いといえる。報酬が支払われる限りは、不利益はない。あるいはあったとしても小さいと言い切れるかは疑問である。

実力で出場できないならばともかく、自身が責めを負ういわれのない事情で出場できないことは望ましいとはいえない。

また、戦力均衡が重要な目的であるとしても、その目的達成のためにはいかなる手段であっても許容されるというものではない。契約した外国人選手の入国が制限されることによって、想定していた戦力が揃わない可能性がある球団の不利益と、すでに入国しているにもかかわらず、出場が制限される可能性がある外国人選手の不利益のいずれを優先するか考えてみる。

まず球団側の事情を検討すると、外国人選手の入国が制限されることを予測することができなかった球団もあるかもしれない。しかし、こうした事態をも想定してか新規に外国人選手と契約するよりは、すでにNPBでプレーしていた外国人選手と契約をすることを選択した球団も存在する。そうすると、外国人選手の入国制限は、球団にとっては、予測が不可能とまではいえなかった事態であり、対策が取り得た(あるいは新規に契約した外国人選手の入国が遅れるか不可能となる危険性を事前に予見し得た)といえる。

これに対して、すでに入国していて出場が可能な外国人選手にとっては、出場機会が制限される可能性のある協約等の変更は、自身の行動とはまったく無関係な事情によるものであり、想定外の不利益といえる。また、早期に入国していたかあるいは帰国せず日本にとどまった外国人選手も存在することからすれば、このような選手の努力を否定するものでもある。

こうした球団側と外国人選手側双方の事情を考慮すると、外国人選手に不測の不利益を及ぼしてまで、球団側の救済を図る必要性はないと思われる。

現状では、具体的な制限が決定してはいないが、外国人選手に対する不当な制限をすることは相当でないと考える。

[1] 日本野球機構「2020年シーズンの特例事項について」(参照2021-2-22)
[2] もっとも、このように外国人選手とそれ以外の選手とで利益が相反することは、外国人選手が選手会に入会していたとしても同様である。外国人選手とそれ以外の選手とで、契約に関するルール・慣行が実質的に異なるために、利益が相反する場面が相当あるということを考えれば、同じ労働組合に加入していないこともやむを得ないとも考えられる。

なお、外国人選手とそれ以外の選手とで、契約に関するルール・慣行が実質的に異なることについては、「外国人枠撤廃の前に乗り越えなければならない障壁」で述べたとおりである。

市川 博久/弁護士 @89yodan
DELTAデータアナリストを務める弁護士。学生時代、知人が書いていた野球の戦術に関する学術論文を読み、分析に興味を持つ。 その後『マネー・ボール』やDELTAアナリストらが執筆したリポートを参考に自らも様々な考察を開始。『デルタ・ベースボール・リポート3』などリポートシリーズにも寄稿。動画配信サービスDAZNの「野球ラボ」への出演やパシフィックリーグマーケティング株式会社主催の「パ・リーグ×パーソル ベースボール データハッカソン」などへのゲスト出演歴も。球界の法制度に対しても数多くのコラムで意見を発信している。

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