• 1.02 Column

日本のバント是非に関してはこれから・・・

岡田 友輔

2016.05.13


先日、 The War on Bunting Is Over: The Nerds Are Victorious というコラムがウォールストリート・ジャーナルのサイトに掲載された。内容は、ここ20年で投手を除いた打者のバントをする割合が大きく下がり、戦術が変わったことについて触れている。今季、野手のバントは342打席に1回の割合まで下がっている。この値は9試合に1度しか野手の犠打が記録されていないことになる。

MLBではBill Jamesをはじめ多くの分析家がバントの有用性を疑問視してきた。この指摘は長らく野球界で採用されることは無かったが、1990年代から各チームがデータ分析を取り入れ、野手のバント機会が減少していく。

バント減少の仕組みはこうだ。

セイバーメトリクスの認知度が上がると同時に、各チームはデータ分析に基づいた編成を進めていく。そういったチームを運用するのに、(統率力があり)数理的なアプローチにも理解のある監督が招聘される。その監督がフロントと共に合理的な選択をしていくという工程だ。このMLBのトレンドは「 Extra2% 」や「 Big Data Baseball 」などからもうかがえる。


NPB野手のバント割合


MLBではバント論争が終結に向かいつつあるが、NPBでバントの選択について過去に変化があったのか見ていきたい。

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1950年以降の野手1犠打あたりの打席数をまとめたのが上のグラフだ。MLBは100打席に1回の割合を下限にして、バントの割合が推移し、1980年以降から徐々にバントの割合が下降し、以後もその傾向が強まり、現在は最も野手のバントが試みられないシーズンとなっている。

一方のNPBだが、1950年を除くと常にMLBより野手のバントが多い状況で推移している。興味深いのはNPB史上最も得点が入らなかった時期(1950年代後半から1970年代中盤まで)よりも、その後の方がバントをする割合が高まっていることだ。この傾向は一部例外を除くが、現代まで受け継がれNPBは野手のバントが50打席に1度の割合で試みられている。

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バントを選択しやすい状況を考えると、得点が入らない環境に置かれた場合がイメージしやすい。統一球が導入されてから2年(2011~2012年)は、犠打を選択する割合が過去最高に達している。

ただ、得点環境と野手のバント割合のグラフを見ると、NPBで最も得点が入らなかった時期よりも、現在は犠打を選択するケースが多くなっている。


打者パフォーマンスの変化


バントの割合が2倍程度に収まっていた期間は、日米の野球スタイルの違いと捉えることも可能だが、バントの割合でここまでの違いが生まれるのは興味深い。

指揮官がバントを選択するのは打力に自信がないと感じているかもしれない。ここで、日米両リーグの打者のパフォーマンスについて考えていこう。

これは優劣を競うものではなく、両リーグでどのようなイベントがどのくらいの頻度で発生したのか確認するものだ。

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最初に、打球がフェンスを越えホームラン(必ず得点が発生する)となったケースだ。前述のとおり、NPBは50年代から極端に得点が入らない期間があり、本塁打の発生頻度も限られたものだった。

しかし、70年代に入るとNPBの方が少ない打席割合で本塁打が記録されるようになり、これが90年代の前半まで続いている。この期間は以前よりもバントを選択するインセンティブが弱まってもおかしくなかったが、逆にバントの発生頻度も高くなっている。

その後は、日米ともに同じような本塁打の発生割合で推移したが、NPBが2011年に統一球を導入し、極端に投手有利な環境となり本塁打の割合で大きな差がつき、それ以降はやや頻度に差がある状況で今日に至る。

次に本塁打以外のインプレー打球について見ていこう。

両リーグともにフィールドに飛んだ打球が安打になる割合(BABIP)は、基本的に同じ傾向といえる。

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1950年代は現在に比べると投打の力関係は投手に傾いていた。恐らく、選手の実力に幅があり、得点(出塁・長打)が生まれにくい環境だったようだ。バットにボールが当たった際に安打になる割合は今よりも低く、投手はインプレーで十分にアウトを見込めた。しかし、10年刻みで推移を見ていくと次第にBABIPが上昇し、投手と打者のバランスが変わっていく。

これは、1950年代に比べ選手層が厚くなりパワーや技術に優れた選手が生まれ、極端に打力が劣る選手の出場機会が少なくなったのが大きいのではないだろうか。さらに、道具(バットやボール)の進歩などもBABIPの上昇を後押ししたと考えられる。

BABIPの推移が示すものは、投手と野手の関係において、バットにボールが当たった際の見返りが年を経る毎に大きくなったことだ。投手にとってバットにボールを当てられることは、リスクが大きくなる。


奪三振能力の向上


投手側から見ると、インプレーでアウトを見込めた打球が安打になると、その損失をどこかで補わなければならない。バットにボールを当てずにアウトを取ることが、投手にとっても最もリスクの少ない方法で、実際に三振(K%)の割合は高まっている。

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1950年代は打席に占める三振の割合が10%程度だったが、およそ60年でMLB野手の三振割合は2倍になっている(NPBでもほぼ倍増)。現在は、失点のリスクを抑えアウトを重ねるには、ある程度の奪三振能力が必要になってきている。

日米の投手がリスクを抑えアウトを取る技量を上げているのは間違いないが、打者側も三振に対して異なるアプローチをしている。2000年代になるとNPB野手の三振割合は横ばいなのに対し、MLB打者は上昇傾向が続いている。

MLBは三振に対してアウトの一種類と割り切っているように見える。実際に凡打と三振のRun Value はほぼ変わらない。(出塁を伴う)長打のコストと割り切った場合、三振はそれほど恐れるイベントでなくなる。

一方、NPBで三振は凡打よりも辛く採点される割合が高い。凡打はアウトになっても走者を進める点などを評価されるからだ。ただ、アウトと進塁のバランスについて、MLBでは古くから分析がなされている。

Productive Outs Are Not Productive (進塁打は生産的ではない)

日本球界ではお叱りを受けそうなタイトルだが、基本的にアウトを供して、走者を進塁させることは、走者を進められなかった場合に比べて、わずかな見返りしかないと指摘している。


まとめ


精神面でも日本人がバントを受け入れやすい気質なのは頷けるし、選手供給でMLBほど人材が集まらないNPBは、極端に打てない選手がラインナップに入り、犠打が増える余地があるのも理解している。

それでも、日米でバントについてこれだけ差があるのは、「アウト」と「進塁」の比重が異なっている点が大きいと考えている。NPBはアウトに対して最低でも何らかの見返り(進塁)を期待するのに対して、MLBはアウトを賭して得点を最大化しようとする戦略だ。

現在のNPBはこのバランスがかなり進塁に偏っている状態だろう。これをどの様に捉え、検証していくかが重要で、得点を多く積み上げるために試行錯誤するのが望まれる。MLBの後を追うだけでなく、NPB独自の作戦選択が生み出されるのかもしれない。

程度の差こそあれ、現在のNPBの戦術はMLBがかつて通ってきた道でもある。日本におけるバント是非の論争はまだ始まってもいない。

The War on Bunting Is Not Over.


参照サイト
The War on Bunting Is Over: The Nerds Are Victorious
http://www.wsj.com/articles/the-war-on-bunting-is-over-the-nerds-are-victorious-1462834309
Fangraphs
http://www.fangraphs.com/leaders.aspx?pos=all&stats=bat&lg=all&qual=0&type=8&season=2016&month=0&season1=1950&ind=0&team=0,ss&rost=0&age=0&filter=&players=0
Productive Outs Are Not Productive
http://cyrilmorong.com/PROD.htm
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