ここまでMLBでの傾向を確認したが、ここからはNPBで同じ現象が確認できるか見ていきたい。投球データは、DELTAの目視で行われたデータ入力座標を、ベース幅(43.2cm)を基準にcmに置き換えたものを使用した。
NPBでも同様の傾向。だが効果はやや薄い
まずさきほどと同じように、空振り率(図11)、見逃しストライク割合(図12)を見てみる。基本的にはMLBと同様に、高めで空振りを奪いやすく、低めでは見逃しストライクを奪いやすい傾向が表れている。
ただし、MLBではストライクゾーン高め近辺での空振り率は17.5%を超えるほどに高かったが(図2)、NPBでは最も率の高いところでも12.5%に届いていない。NPBは強振する打者が少ないためか、MLBよりもコンタクト率が高い環境だ。2018年、ストレートのコンタクト率はMLBが79.4%であったのに対し、NPBでは85.7%と6%以上も高かった。こうした環境の違いが高めでもそれほど空振り率が上がらないことにつながっているのだろう。そしてMLBほどはっきりした傾向を示さなかったのは空振り率だけではない。
打球が発生した場合どの程度得点につながったかを示すwOBAcon(※1)では高めの方が安全だ(図13)。これはMLBと同じ傾向である。
しかしストライクゾーン高めのカウントアップ率(図14)はMLB(図6)と比較して低い。MLBではゾーン内であれば高めギリギリであっても40%以上の確率でカウントアップに成功していたが、NPBでは30%ほどになっている。
これはNPBではよりストレートがバットに当てられやすく、ストライクカウントが増加する前に打球を前に飛ばされているためと考えられる。カウント球としては、MLBほど高めのストレートが有効ではないようだ。
ここまではMLBほど有効ではないという話だが、2ストライク時にはMLBとははっきり異なる傾向が表れている。2ストライク時のwOBAを見ると、NPBでは高めよりも低めの方が安全な結果になりやすいようだ(図15)。
Put Away%(図16)で見ても、高めは若干ストライクゾーンを外れても投手有利という点でMLBと共通しているが、ゾーン内では高めの効果が薄い。ウイニングショットとして高めだけでなく低めも有効に機能している様子が伺える。
ただ2ストライク時という条件を外し、カウント球も含めてwOBAで評価した場合(図17)、真ん中やや低めに打者有利なコースが存在するため、安全なコースが地続きになっている高めの方が投手有利な結果になりやすいといえる。
MLBとやや異なる傾向もあったものの、NPBにおいても高めのストレートは有効であることがわかった。
空振りを奪えるストレートかどうかで分けて考える
ここでNPBとMLBの差についてもう少し踏み込んでみたい。NPBでMLBと若干異なる傾向が表れたのは、コンタクト率が高い環境に起因すると考えられる。それではコンタクト率が低い=ストレートで空振りを奪える投手の場合は、MLBに近い傾向が表れると考えられないだろうか。
2018年にストレートを500球以上投げた投手を対象に、ストレートのコンタクト率の中央値86%を下回る投手を「コンタクト率低」グループ、上回る投手を「コンタクト率高」グループに分類し、これまでと同様にストレートの高さ別傾向を確認してみよう。まずは空振り率からだ(図18)。
どの高さにおいてもコンタクト率の低い投手が高い投手を上回っている。しかし2つの折れ線間の差は、低めでは2~3%であるのに対し、高めでは5~6%とより広がっている。コンタクト率が低い、つまり空振りを奪えるストレートは高めへの投球で差を付けやすいようだ。
2ストライク時の投球がどれだけ三振になったかを表すPut Away%も見てみよう(図19)。2ストライク時でも差が出やすいのは高めである。特にゾーン中心付近やゾーン上限よりやや高いボールゾーンで差が顕著だ。
「コンタクト率低」グループはボール気味でも三振を奪えるため、wOBAで評価すると高めのゾーン上限付近が非常に有効なコースとなっている(図20、21)。逆に、「コンタクト率高」グループは高めのボールゾーンで勝負しにくいため、ゾーンを外さない緻密な制球力が必要とされる。
以上の結果から、推定通りNPBでもストレートのコンタクト率の低い、つまり空振りの奪えるストレートを投げる投手はMLBと同様に高めを有効に活用しやすいことがわかった。
高めのストレートは有効だが、条件によって効果は異なる
近年MLBで再評価されている高めのストレートだが、効果を発揮するのは一定以上の空振りを奪える環境が前提となっているようだ。NPBにおいても高めの有効性を確認できるが、環境の違いからMLBと同等の威力は発揮できていない。
今回の分析では、リーグの環境や選手のタイプ、カウントによって、同じ投球コースのストレートでも威力、得点への影響が変化する事が判明した。ストレートは高めに投げることが効果的とされているからといって、やみくもに飛びつくのは早計だ。高めのストレートはじめ投球コースの選択は、用法を守って適切に活用したい。
今回はそれぞれのリーグの平均から、高めのストレートが与える効果の全体的な傾向を読み取ったが、今後はどういった投手でより有効になるか、個人のレベルにまで踏み込んだ分析を行っていく予定である。
(※1)NPBでは打球や打席の危険度を測るにあたり、MLB編で使用した「xwOBAcon」、「xwOBA」にかわり、「x」がついていない「wOBAcon」、「wOBA」を使用している。打球速度や角度などのデータが公開されていないNPBでは、打球の細かい危険度推定が困難であるため、実際にそのどのような結果(凡打、二塁打、併殺打など)に終わったかから得点への影響度を測った。
(※2)今回使用したMLBのデータはすべてMLB Advanced Mediaが運営するBaseball Savantから取得している。(最終閲覧日2019年7月3日)
宮下 博志@saber_metmh
学生時代に数理物理を専攻。野球の数理的分析に没頭する。 近年は物理的なトラッキングデータの分析にも着手。