野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、先日、データで選ぶ守備のベストナイン
“デルタ・フィールディング・アワード2025”を発表しました。ここでは投票を行ったアナリストが具体的にどのような手法で分析を行ったか、またその分析からの感想を紹介しながら、具体的に分析データを見ていきます。今回は一塁手編です。受賞選手一覧は
こちらから。
対象一塁手に対する6人のアナリストの採点
一塁手部門は増田陸(読売)が受賞を果たしました。アナリスト6人全員が1位票を投じ、満場一致での選出です。増田は今季こそ岡本和真の離脱により一塁での出場機会が増えましたが、本来は二遊間をこなすだけの守備力を持つ選手。アナリスト辻捷右氏からは「すべての項目で優れた値を記録し、文句なし」だったとのコメントがありました。
2位以下はどの選手もあまり差がなく、団子状態であるというコメントが複数のアナリストから聞かれました。2位以下は頓宮裕真(オリックス)、タイラー・ネビン(西武)、中村晃(ソフトバンク)と続きます。ネビンに対しては、アナリスト佐藤文彦氏から「多くの選手がアウトにできる簡単な打球の処理にやや難がある」というコメントがありました。
今季のセ・リーグでゴールデン・グラブ賞を受賞した大山悠輔(阪神)はまさかの8位。大山は2023年にフィールディングアワードを受賞しましたが、その後2年間はアナリストからあまり高い評価を得られていません。今年の12月で31歳と、まだそこまで衰える年齢ではないだけに少し気がかりなところです。
今季一塁に再コンバートされた浅村栄斗(楽天)は最下位に沈みました。アナリスト市川博久氏は、ほかの対象者に比べてかなり差をつけられての最下位だったとコメントしています。浅村はかつて、一塁手として凄まじい守備力を発揮。その後は二塁にコンバートされ安定した守備を見せていただけに、ここまで低評価に沈んだのはやや驚きです。今季の浅村はファームでの調整を余儀なくされるほどに打撃不振に悩まされましたが、振るわないのは守備面も同様だったようです。
各アナリストの評価手法(一塁手編)
- 岡田:打球の滞空時間別に守備範囲を評価。失策割合・併殺奪取、スクープの合計も加味
- 道作:過去3年間の守備成績から順位付け
- 佐藤:UZRをベースとした。球場・左右打者別で打球ごとに処理したゾーンと捕球までの時間からアウト期待値を求め、補助の評価材料としている
- 市川:守備範囲・失策・併殺奪取のUZRと同じ項目で評価。守備範囲は打球の強さとゾーンで区分して得点化。併殺奪取は捕球した守備位置と打球の強さ、打者の左右ごとに区分して得点化を行った
- 宮下:守備範囲・併殺完成を機械学習によって評価した。ゴロ打球の処理については打者の走力を加味している
- 辻:基本的にはUZR(守備範囲・失策・併殺完成)で評価。守備範囲については打者の左右で分割することでポジショニングによるズレを是正
UZRの評価
各アナリストの採点を見たところで、いま一度、UZR(Ultimate Zone Rating)で行ったベーシックな守備評価を確認しておきましょう。
UZRトップは増田。2位以下は頓宮、中村、ネビンと続いており、多少の前後こそあれどアナリストによる評価と大きな違いは見られません。アナリストの採点でも最下位に沈んだ浅村は、UZRで見ても-8.9で10人中最下位。9位のホセ・オスナ(ヤクルト)の-5.5にもかなり差をつけられてしまいました。
一般的に、プロレベルにおいて一塁手の守備範囲に注目が集まることは多くありません。しかし、こうして見ると一塁でもほかのポジションと同じように守備範囲評価RngRが選手間の差を生んでいます。具体的にどういった打球を得意・不得意としていたのか、各選手の処理状況を確認していきましょう。以降、選手ごとに表示される図はどのゾーンの打球処理を得意・不得意としていたかを表したものです。値は平均的な一塁手と比較してどれだけ失点を防いだかを示します。
増田の守備範囲評価はトップの5.3。定位置付近はもちろん一塁線や一二塁間の打球に対しても満遍なくアウトを増やしており、弱点は見当たりません。本来二遊間を主戦場としている選手なだけに、守備範囲の広さという点でほかの一塁手を圧倒しています。
頓宮の守備範囲評価は2.7。頓宮は以前フィールディングアワードの対象選手となった2023年にも優れた守備範囲を誇っていました。ゾーン別に見ると、一二塁間の打球で平均よりもアウトを増やしている一方、一塁線にあたるゾーンXは-0.6。一塁線の打球をやや苦手としていたようです。
中村の守備範囲評価は2.2で、平均を上回りました。以前フィールディングアワードの評価対象となった2023年には-6.8と平均を大きく下回っていましたが、今季は大きく回復しています。
ゾーン別に見ると、定位置から一塁線にかけての打球を得意とする一方、一二塁間の打球を苦手としており、こちらも2023年と同様の傾向です。もしかするとポジショニングが一般的な定位置よりも一塁線寄りなのかもしれません。
ネビンの守備範囲評価は2.7。特に一二塁間の打球に対してかなり強みを発揮する一方、苦手なゾーンは見当たりません。今季は打撃面で素晴らしい活躍を見せ、チームの浮上に一役買ったネビン。打撃ほどのインパクトはありませんが、守備面での貢献も見逃せません。
ソトの守備範囲評価は0.5で、ほぼ平均レベル。昨季の-6.7からは大幅に改善しました。ゾーン別に見ると、一塁線の打球に強い一方、一二塁間には弱い傾向にあります。この傾向はDeNA時代の2023年には見られず、2024年のロッテ移籍以降見られるようになりました。加齢による影響もあるかもしれませんが、もしかすると、ロッテのチーム方針として一塁線寄りにポジショニングしているのかもしれません。
モンテロの守備範囲評価は0.9と、わずかに平均を上回りました。守備範囲自体は狭いものの、ゾーンXで3.3点分の失点を防いでおり一塁線の打球に強さを見せています。ソトや中村同様、一塁線寄りにポジショニングしているのかもしれません。
ボスラーの守備範囲評価は-1.8で、やや平均を下回りました。全体として見ると大きな強みも弱みもないようです。今季打撃面でまずまずの活躍を見せ、一塁のレギュラーに定着したボスラー。守備の面でも一塁を無難にこなしていたようです。
大山の守備範囲評価は-3.9。一塁線の打球に対しては強みを発揮したものの、一二塁間は弱点に。特に定位置から少し離れたゾーンUでは-3.8と、他の選手にかなり差をつけられてしまいました。かつては広い守備範囲を武器に優れた守備で他球団の一塁手に差をつけていた大山ですが、ここ2年間は振るいません。もしかすると、コンディションが悪いまま出場し続けているのかもしれません。
オスナの守備範囲は-6.1。守備範囲の狭さで失点を増やしてしまう傾向は例年と変わりありません。ただ、ゾーン別の傾向は少し異なります。
2023年までのオスナは一二塁間の打球に強い一方、一塁線の打球を苦手とする傾向がありました。ところが昨季は一塁線の打球が平均レベルに回復する一方、一二塁間の打球に対しては大幅なマイナスに。そして今季は定位置付近こそ平均以上ですが、少しでも左右にズレた打球はかなりアウトをとれなかったようです。毎年のように傾向が変化するあたり、ポジショニングを試行錯誤しているのかもしれません。ただポジショニングの工夫では補いきれないほど、オスナ自身の守備範囲が狭くなっているのは間違いないように見えます。
浅村の守備範囲評価は-6.3。評価対象の10人の中ではワーストになってしまいました。ほぼすべてのゾーンで他の一塁手に差をつけられてしまっています。現在35歳という年齢を考えると今後大幅な改善は望みにくく、来季以降は指名打者での起用をメインに考えたほうがよいのかもしれません。
総評
今季は増田がアナリストから圧倒的な支持を集め、受賞を果たしました。ただ、増田の一塁起用はあくまでも岡本が離脱したことによる暫定的なものと見るべきでしょう。来季以降も増田が一塁のレギュラーを務める可能性は高くありません。2位以下が混戦となっていることを考えると、来季の一塁も誰が受賞するか不透明な状況が続きそうです。
データ視点で選ぶ守備のベストナイン “デルタ・フィールディング・アワード2025”受賞選手発表