野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、2025年の日本プロ野球での野手の守備による貢献をポジション別に評価し表彰する“デルタ・フィールディング・アワード2025”を発表します。これはデータを用いて各ポジションで優れた守備を見せた選手――いうならば「データ視点での守備のベストナイン」を選出するものです。
“デルタ・フィールディング・アワード”について
“デルタ・フィールディング・アワード”は、米国のデータ分析会社Sports Info Solutionsが実施しているデータを用いた選手の守備評価表彰“THE FIELDING BIBLE AWARDS”に倣ったものです。
“THE FIELDING BIBLE AWARDS”は2006年から行われており、この流れを受け米国ではデータ視点で守備を評価する流れが非常に強くなっています。MLBでは近年、ゴールドグラブ賞の選定にデータを考慮するという方針転換が行われました。データの視点で守備を評価することのプライオリティが高くなっていることは確かなようです。
DELTAでは、日本においてもこうしたデータ分析を通じた守備の評価を定着させるため、2016年よりこうした表彰を行っており、今年が10回目となります。今回は6人のアナリストが参加し、2025年シーズンにおける野手の守備について、それぞれの手法で分析・評価・採点を行いました。
セイバーメトリクスの守備指標というと、UZR(Ultimate Zone Rating)が一般的にも知られるようになってきています。こうした指標がある以上、それぞれのアナリストがまた別に分析をやり直し、投票を行う必要はないのではないかと思われるかもしれません。しかし、UZRは守備による貢献を評価するベーシックな手法の1つに過ぎません。グラウンドでは数多くの出来事が発生しますが、それをどのように拾い上げて守備の評価に用いるか、その手法はいくらでもあります。“デルタ・フィールディング・アワード”では、より多角的な視点による分析を評価に反映させるため、こうした手法をとっています。
昨年からの大きな変更点として、今年度からは既存の野手8ポジションに加え「ユーティリティ部門」を設けました。既存の部門ではカバーしきれない、複数のポジションにまたがって優れた守備を見せた選手を評価するものです。
- 過去のフィールディング・アワードの結果はこちらから
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2016年
2017年
2018年
2019年
2020年
2021年
2022年
2023年
2024年
評価の対象選手
2025年に各ポジションで500イニング以上を守った選手
ユーティリティ部門は全ポジションの合計で500イニング以上を守り、1つのポジションが占める割合が守備イニング全体の70%未満の選手
選出方式
6人のアナリストがそれぞれの評価に基づき、対象選手に1位=10ポイント、2位=9ポイント……10位=1ポイント、11位以下は0ポイントといったかたちで採点し、合計ポイントがポジション内で最も高かった選手を選出。ポイントが並んだ場合、上位票が多かった選手を上位とする。
参加アナリスト
・岡田 友輔(@Deltagraphs)
・道作
・佐藤 文彦(@Student_murmur)
・市川 博久(@89yodan)
・宮下 博志(@saber_metmh)
・辻 捷右
“デルタ・フィールディング・アワード2025”受賞選手
それでは受賞者を発表していきます。
捕手部門では太田光(楽天)が受賞。アナリスト6人中3人の1位票を獲得しました。ここ数年は楽天の正捕手を務める太田ですが、本企画での評価は芳しくなかっただけに、意外な選出となりました。
2018年にDELTA取得の投球データを使ったフレーミング(ストライクコールを呼び込む捕球)が評価対象となって[1]以降、捕手部門はほぼ毎年フレーミングに優れた選手が受賞者となってきました。フレーミングはブロッキングやスローイングと比べて対象となるプレーが多い上、そもそも概念自体があまり知られていなかったことから、捕手自身が意識しているかどうかで大きな差が生まれていたと考えられます。
ところが、近年この状況に変化が見られるようです。アナリスト市川博久氏によれば、トップの太田はフレーミングでは平均レベル。代わりに盗塁阻止で得点を伸ばしました。フレーミングでは坂本誠志郎(阪神)や若月健矢(オリックス)が優れていたものの、これまでほど大きな差はつきませんでした。
この変化について、アナリスト道作氏からは選手だけでなく審判も適応し、惑わされにくくなってきていることが要因ではないかという指摘がありました。捕手に限らずNPB全体にフレーミングという概念が定着しつつあることがうかがえます。
- 過去の受賞者(捕手)
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2016年 若月健矢(オリックス)
2018年 小林誠司(読売)
2019年 梅野隆太郎(阪神)
2020年 木下拓哉(中日)
2021年 大城卓三(読売)
2022年 大城卓三(読売)
2023年 坂本誠志郎(阪神)
2024年 中村悠平(ヤクルト)
2025年 太田光(楽天)
一塁は増田陸(読売)が満票を獲得。本企画で初の受賞となりました。今季の増田は岡本和真の離脱もあり、一塁で87試合に出場。元々二遊間を務める選手ということもあり、他球団の一塁手に守備力の差を見せつけました。
2位以下は頓宮裕真(オリックス)、タイラー・ネビン(西武)、中村晃(ソフトバンク)が僅差。増田を除けば上位と下位の差はあまりなく、かなり接戦だったようです。
そんな中、他の選手に差をつけられ最下位に沈んだのが浅村栄斗(楽天)。浅村といえば二塁手のイメージが強いかもしれません。しかしキャリア序盤の2013年には一塁手としてレギュラーに定着。DELTAが算出したUZRでも凄まじい成績を残しました。しかし、そんな浅村が今季は他球団の一塁手に大きな差をつけられてしまっています。かつての名手も30代の後半に差し掛かり、これまでのような優れたパフォーマンスを見せられなくなりつつあるようです。
- 過去の受賞者(一塁)
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2016年 中田翔(日本ハム)
2017年 ホセ・ロペス(DeNA)
2018年 井上晴哉(ロッテ)
2019年 内川聖一(ソフトバンク)
2020年 ダヤン・ビシエド(中日)
2021年 中村晃(ソフトバンク)
2022年 ネフタリ・ソト(DeNA)
2023年 大山悠輔(阪神)
2024年 山川穂高(ソフトバンク)
2025年 増田陸(読売)
二塁は吉川尚輝(読売)がトップとなりました。アナリスト6人中3人から1位票を獲得し、3年連続の受賞です。今年30歳を迎えた吉川ですが、その守備力はまだまだ衰えを感じさせません。複数のアナリストからその優れた守備範囲を称賛する声が聞かれました。
その吉川に次いで多くの1位票を獲得したのが中野拓夢(阪神)。機械学習を用いて守備範囲を算出したアナリスト宮下博志からは「2位以下にダブルスコアをつけた圧倒的な守備範囲」と高い評価を受けました。ほかにもアナリスト佐藤文彦氏も「難易度の高い打球を多くアウトにしていた」と1位票を投じており、分析手法によって評価が分かれたようです。
ほかには4位にランクインした滝澤夏央(西武)も1位票を獲得しました。今季は二塁・遊撃の両方で起用されたため出場イニングが少なく受賞はなりませんでしたが、複数のアナリストから守備範囲の広さはトップクラスとのコメントがありました。来季以降は1つのポジションに専念するのか、それとも引き続き複数のポジションを守るのか、チームの起用が気になる選手です。
- 過去の受賞者(二塁)
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2016年 菊池涼介(広島)
2017年 菊池涼介(広島)
2018年 菊池涼介(広島)
2019年 阿部寿樹(中日)
2020年 外崎修汰(西武)
2021年 外崎修汰(西武)
2022年 外崎修汰(西武)
2023年 吉川尚輝(読売)
2024年 吉川尚輝(読売)
2025年 吉川尚輝(読売)
三塁は佐藤輝明(阪神)が3人から1位票を獲得し初受賞。ただし2位との差はわずか4ポイントと、かなり僅差での受賞となりました。
今季の三塁は対象者のうちUZR最上位となった佐藤ですらUZR1.7。上位と下位の差が比較的小さかったためか、アナリストの分析手法によって採点がバラける傾向にありました。控え選手に優秀な守備力を持った選手が多かったことが影響しているとアナリスト道作氏は指摘しています。
昨季まで2年連続受賞の栗原陵矢(ソフトバンク)は3位。シーズン序盤の故障の影響を引きずっていたのか、打撃だけでなく守備も栗原にしてはやや精彩を欠いたシーズンとなりました。
- 過去の受賞者(三塁)
- 2016年 松田宣浩(ソフトバンク)
2017年 宮﨑敏郎(DeNA)
2018年 松田宣浩(ソフトバンク)
2019年 大山悠輔(阪神)
2020年 岡本和真(読売)
2021年 茂木栄五郎(楽天)
2022年 安田尚憲(ロッテ)
2023年 栗原陵矢(ソフトバンク)
2024年 栗原陵矢(ソフトバンク)
2025年 佐藤輝明(阪神)
遊撃はアナリスト6人中4人からの1位票を得た泉口友汰(読売)が初の受賞となりました。数年前までは源田壮亮(西武)の独擅場だった遊撃ですが、ここ3年は2023年が長岡秀樹(ヤクルト)、2024年が矢野雅哉(広島)、そして泉口と毎年トップが入れ替わる戦国時代の様相を呈しています。
昨季受賞の矢野は4位。昨年圧倒的だった守備範囲があまり振るわず、平均を少し上回る程度に終わったのが響いたようです。アナリスト市川氏からは「もしかするとコンディション不良があったのではないか」という意見がありました。
ゴールデンルーキーとして期待された宗山塁(楽天)は9位。ドラフト時点ではプロでも上位の守備力を持っているとの下馬評も聞かれましたが、アナリストによる採点では下位に沈みました。とはいえ大卒新人として1年間遊撃を守り続けたこと自体は高く評価されるべきでしょう。
- 過去の受賞者(遊撃)
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2016年 安達了一(オリックス)
2017年 源田壮亮(西武)
2018年 源田壮亮(西武)
2019年 源田壮亮(西武)
2020年 源田壮亮(西武)
2021年 源田壮亮(西武)
2022年 源田壮亮(西武)
2023年 長岡秀樹(ヤクルト)
2024年 矢野雅哉(広島)
2025年 泉口友汰(読売)
左翼は西川史礁(ロッテ)が満票で1位に。新人ながら圧倒的な守備力を見せつけました。アナリスト辻捷右氏からは、滞空時間が短い打球に強く、瞬発力に優れているのではないかとの指摘がありました。
2位につけたのは柳町達(ソフトバンク)。打撃だけではなく守備においても優れたパフォーマンスを見せ、近藤健介や柳田悠岐の離脱というチームの危機を救いました。アナリスト道作氏からは27歳という若手とは言えない年齢に差し掛かる中で、昨季に比べて守備を改善させたことを評価するコメントがありました。
左翼は例年、指名打者があるパ・リーグの選手が上位に、セ・リーグが下位に集中する傾向があります。今季も上位には西川、柳町、渡部聖弥(西武)とパ・リーグ勢がずらり。傾向に変化は見られませんでした。ただ、2027年からはセ・リーグにも指名打者が導入予定。来季以降、この傾向に変化が見られるか注目したいところです。
- 過去の受賞者(左翼)
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2016年 西川遥輝(日本ハム)
2017年 中村晃(ソフトバンク)
2018年 島内宏明(楽天)
2019年 金子侑司(西武)
2020年 青木宣親(ヤクルト)
2021年 荻野貴司(ロッテ)
2022年 西川遥輝(楽天)
2023年 近藤健介(ソフトバンク)
2024年 近藤健介(ソフトバンク)
2025年 西川史礁(ロッテ)
中堅は周東佑京(ソフトバンク)が2年連続でトップとなりました。アナリスト6人中4人が1位票を投じ、60ポイント中58ポイントを獲得。ほぼ満票での受賞となりました。周東は昨季、今季と故障に悩まされるシーズンが続いています。今年9月には肋骨を骨折した状態で出場を続けていたことが報道されていました。かなりのコンディション不良を抱えながら守備でこれほどのパフォーマンスを見せたことは脅威的です。
周東に迫る高い評価を受けたのは近本光司(阪神)。今年11月で31歳となりましたが、依然として高い守備力を維持しています。今季の中堅はこの近本と周東が3位以下を大きく引き離すという投票結果になりました。
そんな中、今後この2人の争いに割って入る可能性があるのが3位の五十幡亮汰(日本ハム)です。アナリスト道作氏からは、守備範囲の面で周東を上回っていたというコメントがありました。スピードを生かした中堅守備は疑いようがないだけに、来季以降より多くの出場機会を得ることができれば有力候補となりそうです。
- 過去の受賞者(中堅)
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2016年 丸佳浩(広島)
2017年 丸佳浩(広島)
2018年 桑原将志(DeNA)
2019年 神里和毅(DeNA)
2020年 近本光司(阪神)
2021年 辰己涼介(楽天)
2022年 塩見泰隆(ヤクルト)
2023年 近本光司(阪神)
2024年 周東佑京(ソフトバンク)
2025年 周東佑京(ソフトバンク)
右翼は万波中正(日本ハム)が3年連続の受賞。アナリスト6人中5人から1位投票を受け、ほぼ満票での受賞となりました。万波の守備といえばあの強肩ですが、複数のアナリストから今季は送球面が振るわなかったとの指摘がありました。ただ、その分は広い守備範囲でカバーしています。
その万波に迫る2位につけたのが森下翔太(阪神)。唯一1位票を投じたアナリスト宮下からは、送球による進塁阻止能力を高く評価するコメントがありました。万波の57ポイントに3ポイント差まで迫る54ポイントを獲得しており、来季は牙城を崩せるかに注目です。
3位以降は上林誠知(中日)、長谷川信哉(西武)、蝦名達夫(DeNA)と続きます。このうち長谷川と蝦名は対象者となること自体が初めて。かなり選手の入れ替わりが見られたシーズンとなりました。
- 過去の受賞者(右翼)
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2016年 鈴木誠也(広島)
2017年 上林誠知(ソフトバンク)
2018年 上林誠知(ソフトバンク)
2019年 平田良介(中日)
2020年 大田泰示(日本ハム)
2021年 岡島豪郎(楽天)
2022年 岡林勇希(中日)
2023年 万波中正(日本ハム)
2024年 万波中正(日本ハム)
2025年 万波中正(日本ハム)
今回が初めての実施となったユーティリティ部門。初代受賞者は滝澤夏央(西武)となりました。6人中4人からの1位票を得るなど60ポイント中58ポイントを獲得し、ほぼ満票での受賞です。二塁・遊撃というハイレベルな守備力の選手が集うポジションで、ともに優れた守備力を見せたことが高評価につながったようです。
初めて実施された部門ということもあり、どのような点を重視して評価するかという点で、アナリストの考え方はかなり分かれました。たとえばアナリスト道作氏はポジションの数だけでなく「内野と外野」や「捕手と他ポジション」といった、プロレベルの守備力を両立することが難しいポジションに着目。掛け持ちしたポジションの組み合わせを加味して評価を行ったようです。
滝澤に続く2位につけたのは山本泰寛(中日)。滝澤同様二遊間で優れた守備力を見せたことで高評価となりました。3位の中島大輔(楽天)は、「守備範囲の広さという点ではトップ」(アナリスト宮下)でした。ただ、中島が主に務めたのは、左翼と右翼という、両立が比較的容易なポジション。前述の道作氏はじめ複数のアナリストがユーティリティという観点ではそれほど価値が高くないと考えたようです。
- 過去の受賞者(ユーティリティ)
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2025年 滝澤夏央(西武)
なお、アナリストの採点、各ポジションについての批評は、後日別記事で公開いたします。どうぞ楽しみにお待ちください。
- “デルタ・フィールディング・アワード2025”受賞者
- 捕手 太田光(楽天)
- 一塁 増田陸(読売)
- 二塁 吉川尚輝(読売)
- 三塁 佐藤輝明(阪神)
- 遊撃 泉口友汰(読売)
- 左翼 西川史礁(ロッテ)
- 中堅 周東佑京(ソフトバンク)
- 右翼 万波中正(日本ハム)
- ユーティリティ 滝澤夏央(西武)
- 過去のフィールディング・アワードの結果はこちらから
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2016年
2017年
2018年
2019年
2020年
2021年
2022年
2023年
2024年
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[1]DELTA取得の投球データは目視により入力されたものであり、機械的に取得したデータと比べた際には精度の部分で課題を抱えています。そんな中でも、データ入力におけるルールの厳格化、分析時のデータの扱いにおいて注意を払うことを徹底したうえで、フレーミング評価を解禁しています。