野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、先日、データで選ぶ守備のベストナイン“デルタ・フィールディング・アワード2025”を発表しました。ここでは投票を行ったアナリストが具体的にどのような手法で分析を行ったか、またその分析からの感想を紹介しながら、具体的に分析データを見ていきます。今回は中堅手編です。受賞選手一覧はこちらから。

対象中堅手に対するアナリスト6人の採点

中堅手部門は1位票を4票集めた周東佑京(ソフトバンク)が58ポイントを獲得し、トップとなりました。周東は昨季に続き2年連続のトップ。今季も満身創痍の中でのシーズンだったようですが、その俊足を生かした守備が極めて高く評価されています。ただ今季はそれだけでなく、送球などで走者の進塁を防ぐプレーもトップだったとアナリスト市川博久氏は評価しました。

2位は近本光司(阪神)。1位票を2票集め54ポイントを獲得しました。機械学習を用いたアナリスト宮下博志の守備範囲評価では1位だったようです。周東とは対照的にやや進塁抑止の面で後れをとってしまったとのことでした。

3位は五十幡亮汰(日本ハム)。3位票を3票集めるなど43ポイントを獲得しました。スピードがある選手だけに、やはりその守備範囲が高く評価されているようです。一方でアナリスト道作氏からは「守備でこれ以上の実績を残すためには、今以上の出番を確保する必要があり、そのためには打力の向上が必要」と、名手として守備力を発揮するためにも打撃が重要であることを指摘しています。

それぞれのリーグで三井ゴールデングラブ賞を獲得した辰己涼介(楽天)岡林勇希(中日)はなんと、10人中9位、10位。球界では名手としてもはや揺るがぬ評価を得ている2人だけに、衝撃的な結果です。それでもアナリスト辻捷右氏は「辰己は滞空時間の短い打球に対するアプローチは優秀」と、他のアナリストより高い順位をつけました。

    各アナリストの評価手法
  • 岡田:ベーシックなUZR(守備範囲+進塁抑止+失策回避)をやや改良。守備範囲については、打球の滞空時間別に細分化して分析
  • 道作:過去3年間の守備成績から順位付け
  • 佐藤:UZRをベースにした。球場と左右打者別に処理した飛球の着弾点座標と経過時間からアウト期待値を求め、それを評価の補助材料にした。またタッチアップの評価も活用している。
  • 市川:UZRと同様の守備範囲、進塁抑止、失策回避の3項目を考慮。ただし守備範囲についてはUZRとは異なる評価法を採用。定位置付近からの打球方向を6分割し、距離と滞空時間で区分し分析
  • 宮下:守備範囲、進塁抑止評価を機械学習によって算出
  • 辻:守備範囲、失策、進塁抑止の3項目で評価。守備範囲は、打球の滞空時間とゾーンで分割して分析し、滞空時間の短い打球に対しては重みをつけて評価

UZRの評価

各アナリストの採点を見たところで、いま一度、UZR(Ultimate Zone Rating)で行ったベーシックな守備評価を確認しておきましょう。

投票では2位に終わった近本ですが、UZRでみると9.5で1位。しかし2位の周東(9.2)との差はわずか0.3。UZRで見るとほぼ同着と言っていいかもしれません。前述したように守備範囲評価RngRでは近本が勝っていますが、進塁抑止評価ARMで周東が上回るかたちとなりました。

各選手が具体的にどのような打球を得意・不得意としているのか処理状況を確認していきましょう。以降の図の値は、平均的な中堅手と比較してそのゾーンの打球処理でどれだけ失点を防いだかを示します。黄色い円に「定」と書かれた印は、おおよその定位置を表しています。

近本光司(阪神)

近本は1246.2イニングを守り、守備範囲評価は11.5。平均的な中堅手に比べ守備範囲でチームの失点を11.5点防いだという評価です。どういった打球に強かったかを見ると、フィールドは全体的に赤色に染まっています。特定のエリアではなく全体的に多くのエリアで失点を減らすことに成功していたようです。

周東佑京(ソフトバンク)

中堅手部門受賞者の周東は799イニングを守り守備範囲評価が5.2。全体的にフィールドが赤く染まっていた近本と比べると、失点増を意味する青いエリアもやや多くなっています。とはいえかなり優秀です。特に左中間の打球でほかの中堅手との差を作っていた様子がわかります。

五十幡亮汰(日本ハム)

五十幡は680イニングを守り守備範囲評価が6.4。詳しく見るとフェンス際の深い打球でかなり失点を減らしている様子がわかります。このあたりは持ち前のスピードが活きているのでしょう。一方で定位置周辺では意外にも失点を増やしています。

中村奨成(広島)

中村奨成(広島)は536イニングを守り守備範囲評価が5.2。本格的に中堅を守るのは1年目のシーズンですが、見事な成果を残しています。詳しく見ると、五十幡同様フェンス際の打球でかなり違いを作っている様子がわかります。外野手としての経験が多くない選手だけにこうした結果は意外に思えます。もしかすると外野手適性が極めて高いのかもしれません。

西川愛也(西武)

今季チームの主力となった西川は1107イニングを守り守備範囲評価が5.1。1.6だった昨季からさらに数字を伸ばしました。詳しく見ると赤いエリアは定位置前方に広がるかたちに。実はこの前寄りの打球に強い傾向は昨季から一貫しています。

岩田幸宏(ヤクルト)

俊足選手として知られる岩田幸宏(ヤクルト)は813.1イニングを守り守備範囲評価が6.4。かなり優れた守備範囲を見せています。詳しく見ると後方フェンス際の打球でかなり多くの失点を防いでいる様子がわかります。俊足の上に背走技術も優れているのでしょうか。

髙部瑛斗(ロッテ)

髙部瑛斗(ロッテ)は808イニングを守り守備範囲評価が0.0。スピードのある選手ですがハイレベルな中堅手争いの中では平均的な守備範囲評価にとどまりました。詳しく見るとはっきりした傾向は見えてきません。ただ定位置後方に大きく失点を増やしているエリアがあります。ちなみに髙部は昨季も定位置後方のフェンス際に弱点を持っており、苦手な傾向が示唆されています。背走に課題があるのかもしれません。

桑原将志(DeNA)

今オフ西武への移籍が決まった桑原は795イニングを守り守備範囲評価が-2.0。対象中堅手としては最年長ということもあってか、平均を下回る結果となりました。詳しく見るとやや後方の打球を苦手としているでしょうか。桑原の守備というと前方へのダイビングキャッチが印象的ですが、意外にも定位置前方のエリアの数字も伸びていません。これは昨季も同様の傾向です。

岡林勇希(中日)

岡林は1277.1イニングを守り守備範囲評価が-6.5。ゴールデングラブ賞を獲得する名手が平均より失点を増やしてしまっていたという驚きの評価です。岡林は2022年に右翼手としてUZR19.7と突き抜けた数字を残すも、翌年以降に本格転向した中堅では平均前後の守備範囲評価にとどまっています。

詳しく見ると左中間と前方の打球で失点を増やすかたちに。実は昨季は前方の打球を得意としていたので、真逆の傾向が出ています。何か守備位置や意識に大きな変化があったのでしょうか。

辰己涼介(楽天)

辰己は941.1イニングを守り守備範囲評価が-11.6。守備範囲が広い印象がありますが、実はデータでみると振るっていません。詳しく見ると、辰己についてはかなりわかりやすい傾向が出ています。前方に一定の強さを見せる一方、後方フェンス際でそれをはるかに上回る大きなマイナスを作ってしまっています。この傾向は2022年から4年継続しています。辰己は現在フリーエージェント中。契約を検討する球団はこの傾向を把握しておきたいところです。

総評

中堅手部門はゴールデングラブ賞受賞者が下位に沈むなど、印象とのギャップがかなり大きいポジションだったのではないでしょうか。また前方・後方の得意・不得意も他の外野ポジション以上に極端な傾向が出ているように思えます。選手の資質ももちろんありますが、チームの方針も強く影響しているところかもしれません。

情勢としては周東がここ2年故障を抱えながらのシーズンにもかかわらず連続トップ。もしコンディションが整うなら断トツの出来も期待できるかもしれません。一方で周東、近本はともに30歳前後。世代交代の時期が近づいているようにも見えます。


データ視点で選ぶ守備のベストナイン “デルタ・フィールディング・アワード2025”受賞選手発表
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocketに追加

  • 関連記事

  • DELTA編集部の関連記事

  • アーカイブ

執筆者から探す

月別に探す

もっと見る