野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、先日、データで選ぶ守備のベストナイン
“デルタ・フィールディング・アワード2025”を発表しました。ここでは投票を行ったアナリストが具体的にどのような手法で分析を行ったか、またその分析からの感想を紹介しながら、具体的に分析データを見ていきます。今回は遊撃手編です。受賞選手一覧は
こちらから。
対象遊撃手に対するアナリスト6人の採点
遊撃手部門は今季完全にレギュラーに定着した泉口友汰(読売)が受賞となりました。泉口はアナリスト4人から1位票を集め56ポイントを獲得。今季は自身初の三井ゴールデン・グラブ賞を獲得するなど記者からの評価も高かった泉口ですが、データ分析の観点でもそれは同様だったようです。アナリスト辻捷右氏の分析では打者の左右問わず広い守備範囲を発揮していたようです。
2位には友杉篤輝(ロッテ)。1位票こそないものの、どのアナリストからも高い評価を得て50ポイントを獲得しました。友杉は昨季の本企画でも3位と高評価を獲得していますが、三井ゴールデン・グラブ賞では昨季が2票、今季が9票と得票があまり伸びていません。このように評価が乖離するケースとしてかつては安達了一(元オリックス)がいましたが、友杉は現在の代表例と言えるかもしれません。
3位は山本泰寛(中日)。遊撃は高い運動能力が求められるポジションですが、年齢を重ねた32歳のシーズンで上位につけてみせました。後述する源田壮亮(西武)も実は同じ32歳。同世代の選手が成績を落とす中、この上位ランクインは驚異的です。
昨季本企画で1位となった矢野雅哉(広島)は4位。とはいえアナリスト宮下博志からは、「守備範囲は圧倒的でトップ」と昨季から変わらず高評価を得ています。分析にどの要素を取り入れるかで評価が分かれたようです。
2017-22年に本企画で6年連続1位となった源田は5位。今季は故障による欠場があったものの、かつての突き抜けた高評価を考えると寂しく感じる結果です。アナリスト市川博久氏、宮下博志など、多くのアナリストから守備範囲が狭くなっているとの指摘がありました。源田は間違いなく日本プロ野球史に残る指折りの名手。しかしそれほどの名手でもやはり加齢による衰えに抗うのはなかなか難しいようです。
その他には大型新人・宗山塁(楽天)は9位に。2名のアナリストは最下位票を投じるなど、それほど評価が伸びていません。まだ伸びしろの大きい年齢だけに来季以降に期待したいところです。
各アナリストの評価手法
- 岡田:打球の滞空時間別に守備範囲を評価。失策割合・併殺奪取、送球の正確性の合計も加味
- 道作:過去3年間の守備成績から順位付け
- 佐藤:UZRをベースとした。球場・左右打者別で打球ごとに処理したゾーンと捕球までの時間からアウト期待値を求め、補助の評価材料としている
- 市川:守備範囲・失策・併殺奪取のUZRと同じ項目で評価。守備範囲は打球の強さとゾーンで区分して得点化。併殺奪取は捕球した守備位置と打球の強さ、打者の左右ごとに区分して得点化を行った
- 宮下:守備範囲・併殺完成を機械学習によって評価した。ゴロ打球の処理については打者の走力を加味している
- 辻:基本的にはUZR(守備範囲・失策・併殺完成)で評価。守備範囲については打者の左右で分割することでポジショニングによるズレを是正
UZRの評価
各アナリストの採点を見たところで、いま一度、UZR(Ultimate Zone Rating)で行ったベーシックな守備評価を確認しておきましょう。
こちらでもトップは泉口。1148イニングを守り平均的な遊撃手に比べ失点を11.9点防いだという評価です。泉口に限らず上位の遊撃手は守備範囲RngRで差をつくっています。そんな中源田の守備範囲評価は-1.7。2018年には守備範囲評価だけで22.0を記録する圧倒的な打球処理能力を見せましたが、それが今は平均を割るまでに下がってしまっています。
各選手が具体的にどのような打球を得意・不得意としているのか処理状況を確認していきましょう。以降の図の値は、平均的な遊撃手と比較してそのゾーンの打球処理でどれだけ失点を防いだかを示します。
泉口は遊撃を1148イニング守り、守備範囲評価が9.4。三遊間、二遊間問わず、全般的に広い守備範囲を見せていた様子がわかります。読売では昨季、門脇誠が高い守備評価を得ましたが、この泉口もハイレベルな守備力を見せています。
山本は586.1イニングを守り守備範囲評価が7.4。少ないイニングながら多くの失点を防いでいます。具体的にどんな打球に強いかを見ると、全般的に強かった泉口と比べ強み・弱みがはっきり。二遊間でやや弱さを見せる一方、三遊間の打球処理で抜群の成果を残しました。三遊間は一塁への送球にも距離も遠く、よりフレッシュな運動能力が求められるようにも感じますが、山本の処理状況は年齢を感じさせません。
友杉は834.2イニングを守り守備範囲評価が7.9。打球処理の傾向を見ると、どちらかというと定位置から遠く離れたあたりで大きな差を作っています。ちなみにこれは昨季も同様の傾向。移動距離の長い、難易度の高い打球処理が友杉の見せ場です。
矢野は781.2イニングを守り守備範囲評価が3.5。昨季も見せた三遊間への強さは健在です。一方で昨季はゾーンGで2.1点、三塁手に極めて近いゾーンFでも1.4点を防いでいましたが、今季はそれらゾーンでの出来が平均レベル。今季の守備範囲の広さが昨季ほど注目されなかったのはこのあたりに表れているのかもしれません。
源田は822イニングを守り守備範囲評価が-1.7。処理傾向を見ると、例年通り三遊間よりも二遊間に強い傾向が出ています。ただ以前に比べると、三遊間の弱点はより大きく、二遊間の強みは小さく、全体的に押し下がっているようです。ポジショニングの傾向などではなくシンプルに処理できる範囲が狭まっている様子が、数年を通して見ることで理解できます。
紅林弘太郎(オリックス)は975.2イニングを守り、守備範囲評価は-2.7。2022年以降は-9.2→-6.3→-9.4と毎年大きなマイナスを生んでいましたが、今季はそれがやや和らいでいます。処理状況を見ると二遊間に強い一方、三遊間へ弱い傾向が出ています。紅林のこの傾向は2023年から継続しており、ポジショニングがやや二塁寄りにある様子が想像できます。
小幡竜平(阪神)は681イニングを守り守備範囲評価が-0.8。ほぼ平均レベルのパフォーマンスだったようです。内訳を見ると、三遊間の打球処理は抜群。このあたりは持ち前の強肩が生かされているのでしょうか。一方で二遊間方向の打球処理に難があったようです。ひとつランクが上の紅林とは対照的な結果に終わっています。
宗山は969.1イニングを守り守備範囲評価は-0.6。プロ入り前は守備面でも極めて高い評価を得ていた選手ですが、プロ1年目で最上位クラスとはなりませんでした。それでも大卒1年目で平均レベルの打球処理は十分なパフォーマンスです。
内訳を見ると二遊間方向に強い一方、三遊間に弱い傾向が顕著。三遊間深くの打球をどれだけ捌けるかは、来季宗山の成長具合を見る上でのバロメータとなるかもしれません。
長岡秀樹(ヤクルト)は527.2イニングを守り守備範囲評価が-2.9。今季は靭帯損傷により出場機会が減少。ただその少ない出場の中でもパフォーマンスが優れていたわけではなかったようです。長岡は本企画遊撃手部門の2023年受賞者。昨季から2年連続低迷していますがまだ24歳と衰える年齢ではありません。巻き返しに期待したいところです。
水野達稀(日本ハム)は765.1イニングを守り守備範囲評価が-1.3。処理傾向としては極端ではありませんが、得意ゾーンがやや二遊間寄りに偏っています。水野の場合失策が13個と多く、この守備範囲評価とは別枠の失策抑止評価が-3.9と振るっていません。これがUZR低迷の大きな要因となりました。確実性の向上が求められます。
野村勇(ソフトバンク)は576イニングを守り守備範囲評価が-6.1。少ないイニングにもかかわらず、対象遊撃手の中で、一人やや劣る結果に終わってしまいました。ですが野村の場合、シーズン終了後の報道で靭帯を損傷したうえでプレーを続けていたことがわかっています。守備力はコンディションの影響を受けやすく、このデータもほぼ間違いなく故障の影響を受けていると思われます。今季の結果をもって遊撃手としては厳しいと判断すべきではないかもしれません。
総評
遊撃部門は2017-22年まで“源田時代”が続き、その後は長岡、矢野、そして今季の泉口と、トップが毎年入れ替わるシーズンが続いています。アナリスト道作氏からは「源田の衰えとともに代表的名手がいなくなり、現在は入れ替わりの時期。1000イニング以上を守った選手が1人しかいなかったことにもそれは象徴されている」と指摘されています。今季は泉口がトップとなりましたが、来季以降も混戦となる見込みが高そうです。頭一つ抜きん出る名手は登場するのでしょうか。「ポスト源田」の台頭に期待です。
データ視点で選ぶ守備のベストナイン “デルタ・フィールディング・アワード2025”受賞選手発表