野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、先日、データで選ぶ守備のベストナイン“デルタ・フィールディング・アワード2025”を発表しました。ここでは投票を行ったアナリストが具体的にどのような手法で分析を行ったか、またその分析からの感想を紹介しながら、具体的に分析データを見ていきます。今回は三塁手編です。受賞選手一覧はこちらから。

対象三塁手に対するアナリスト6人の採点

三塁手部門は佐藤輝明(阪神)がアナリスト3人からの1位票を得て54点を獲得。初受賞を果たしました。アナリスト市川博久氏からは守備範囲、失策回避、併殺奪取の評価項目すべてで平均以上の成績を残していたと評価されました。2位は外崎修汰(西武)、3位は昨季受賞者の栗原陵矢(ソフトバンク)と続いていきます。

パ・リーグのゴールデン・グラブ賞を受賞した村林一輝(楽天)は5位に。今季、遊撃からコンバートされましたが、アナリストによる採点では高い評価を得ることはできませんでした。ただ、そんな中アナリスト宮下博志は「対象三塁手の中ではトップの守備範囲」と1位票を投じています。

対象選手では佐藤がトップという評価ですが、アナリスト道作氏は今季の三塁について「優れた守備力を見せた選手が控えに固まっていた」とコメント。アナリスト宮下からも「イニングにこだわらなければ茂木栄五郎(ヤクルト)野村勇(ソフトバンク)のほうが優秀だった」とコメントがありました。彼らが三塁手として対象となるほどの出場機会を得ていれば、フィールディング・アワードの趨勢は大きく変化していたかもしれません。

    各アナリストの評価手法
  • 岡田:打球の滞空時間別に守備範囲を評価。失策割合・併殺奪取、送球の正確性の合計も加味
  • 道作:過去3年間の守備成績から順位付け
  • 佐藤:UZRをベースとした。球場・左右打者別で打球ごとに処理したゾーンと捕球までの時間からアウト期待値を求め、補助の評価材料としている
  • 市川:守備範囲・失策・併殺奪取のUZRと同じ項目で評価。守備範囲は打球の強さとゾーンで区分して得点化。併殺奪取は捕球した守備位置と打球の強さ、打者の左右ごとに区分して得点化を行った
  • 宮下:守備範囲・併殺完成を機械学習によって評価した。ゴロ打球の処理については打者の走力を加味している
  • 辻:基本的にはUZR(守備範囲・失策・併殺完成)で評価。守備範囲については打者の左右で分割することでポジショニングによるズレを是正

UZRの評価

各アナリストの採点を見たところで、いま一度、UZR(Ultimate Zone Rating)で行ったベーシックな守備評価を確認しておきましょう。

1位は佐藤。1013.2イニングを守り、平均的な三塁手と比べて1.7点分の失点を防いだという評価です。2位の外崎は守備範囲RngRで5.1点分の失点を防ぎましたが、失策抑止や併殺完成が振るわず、合計では1.5とわずかに佐藤を下回りました。3位は0.9を記録した栗原、4位は清宮幸太郎(日本ハム)と続いており、上位陣の顔ぶれにアナリストによる採点と大きな差はありません。

全体として見ると、対象選手の中で平均よりも失点を抑止したのは3人だけ。しかもトップの佐藤でも1.7点と、三塁のレギュラークラスが全体的に守備面で振るわなかったシーズンだったようです。ただ、そのような状況においてもやはり上位に入った佐藤、外崎、栗原、清宮は守備範囲RngRが平均以上。下位5人は平均以下となっており、守備範囲の広さがUZRの評価に大きく影響している状況には変わりありません。

そこで、今回は各選手が具体的にどのような打球を得意・不得意としているのか処理状況を確認していきましょう。以降、選手ごとに表示される図はどのゾーンの打球処理を得意・不得意としていたかを表したものです。値は平均的な三塁手と比較してどれだけ失点を防いだかを示します。

佐藤輝明(阪神)

佐藤の守備範囲評価は0.2。わずかながら平均を上回りました。ただ、昨季の-5.7を考えるとかなり改善しています。佐藤は2023年には三遊間寄り、昨季は定位置付近の打球処理を得意としていましたが、今季は三塁線にあたるゾーンCを得意としていました。もしかすると、ここ数年で年々ポジショニングを三塁線寄りに移していっているのかもしれません。

外崎修汰(西武)

外崎の守備範囲評価は5.1。苦手とするゾーンはなく、ほぼ全体で満遍なくプラスを積み上げました。2020-22年には3年連続でフィールディング・アワードを受賞するなど二塁手としてNPBトップクラスの守備力を見せた外崎。若手の台頭もあって三塁にコンバートされましたが、三塁手としてはまだまだトップクラスの守備範囲を誇っています。

にもかかわらず外崎がUZRでトップになれなかった要因は失策の多さ。慣れないポジションの影響もあってか三塁手としては今季リーグ最多となる8つの捕球ミスを喫してしまいました。外崎ほどのユーティリティプレーヤーであっても、新しいポジションでいきなり優れた守備を見せることは簡単ではないようです。

栗原陵矢(ソフトバンク)

栗原の守備範囲評価は0.1。昨季は12.5と圧倒的な守備範囲を見せつけましたが、今季は振るわず、3年連続での受賞はなりませんでした。栗原はシーズン序盤に右脇腹の負傷で長期離脱。シーズン終了後にも腰の手術を受けるなど、故障を抱えた状態でシーズンを戦っていました。今季の守備力低下はこの故障が関係しているのかもしれません。

ゾーン別に見ると、昨季大きな強みとなっていた三塁線の打球処理が-2.8と大きな穴になっていました。万全であればフィールディング・アワードの最有力候補であることは間違いないだけに、シーズンオフの期間で故障を完治させることを優先してほしいところです。

清宮幸太郎(日本ハム)

清宮の守備範囲評価は2.2で、外崎に次ぐ対象者中2位の数字を残しました。失策が多かったためUZRは伸びませんでしたが、守備範囲はまずまず優れているようです。ゾーン別に見ると、やや三遊間寄りの打球を得意としていました。この傾向は前回評価対象となった2023年とほぼ同様です。

ちなみに、清宮はYoutubeにおける杉谷拳士氏との対談動画で、自身のUZRについて詳しく語っていました。現場においてもUZRによる守備評価が浸透していることを示す一例と言えるのではないでしょうか。

宗佑磨(オリックス)

宗の守備範囲評価は-3.1。2021-23年にかけてゴールデン・グラブ賞を3年連続で受賞するなど守備面で高い評価を受けてきた宗ですが、守備範囲評価は2022年以降一貫して平均を下回ってしまっています。ゾーン別に見ると、三塁線への打球を苦手とする傾向は2022年から今季に至るまで変わっていません。

村林一輝(楽天)

村林の守備範囲評価は-2.6。遊撃からのコンバート1年目はリーグ平均を下回ってしまいました。ゾーン別に見ると、三塁線にあたるゾーンCを得意としていた一方、やや三遊間寄りの打球をかなり苦手としていたようです。村林は昨季まで遊撃手としてまずまずの守備力を見せていた選手。守備範囲の狭さが運動能力によるものとは思えません。もしかすると、三塁特有の打球に対して十分に適応できていないのかもしれません。

小園海斗(広島)

小園は549.1イニングで三塁を守り、守備範囲で5.9点分失点を増やしたという評価になりました。昨季は1048イニングで-12.2でしたので、ペースとしてはあまり変わりません。三塁にコンバートされて今季が2年目ですが、依然として守備範囲には課題を抱えています。ゾーン別に見ると、三塁線や定位置付近は悪くない一方、三遊間方向への打球を苦手としており、これは昨季と同様の傾向です。

守備範囲は狭い一方、失策抑止は2.0で対象者中トップ。失策をしないという点では優れていたようです。

宮﨑敏郎(DeNA)

宮﨑は678イニングを守り、守備範囲で3.6点分の失点を増やしてしまったという評価でした。昨季は911イニングで-10.0でしたので、やや改善しています。この12月で37歳を迎えることを考えると、かなり健闘していると言っていいのではないでしょうか。

今季の宮﨑は故障の影響もあり、2017年以降では最小の出場機会に終わりました。報道によると、DeNAは来季度会隆輝を三塁で起用するプランを検討しているとのこと。長年にわたりDeNAの三塁を務めてきた宮﨑ですが、来季以降はその出番が減少していくことになるかもしれません。

安田尚憲(ロッテ)

安田の守備範囲評価は-9.9。対象者の中では最も悪い数字となりました。ほぼすべてのゾーンでかなり失点を増やしてしまっています。安田は2022年のフィールディング・アワード受賞者。まだ26歳と、守備力を大きく落とすほどの年齢でもありません。それだけにここまで振るわなかったのは驚きです。今季は350打席で本塁打0に終わるなど、シーズンを通して打撃不振に悩まされた安田。苦しんでいたのは守備も同様だったようです。

総評

結果的には佐藤が受賞を果たしましたが、ポイントの差はわずか。大本命だった栗原が振るわなかったこともあり、上位の誰が受賞してもおかしくない拮抗した展開でした。今季は評価対象外だったものの優れた守備力を見せた選手が複数存在することを考えると、各チームの起用次第では来季上位がガラリと入れ替わる可能性も十分に考えられます。


データ視点で選ぶ守備のベストナイン “デルタ・フィールディング・アワード2025”受賞選手発表
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