先日発表したデルタ・フィールディング・アワード2025では、ユーティリティ部門が初めて設けられた。そもそもユーティリティとは何なのか、どのように選ぶべきなのか、アナリスト道作氏に採点にあたっての考え方を執筆してもらった。

ユーティリティには二通りの解釈がある

今般、フィールディングアワードでもユーティリティを顕彰する運びとなった。MLBではロスター中に占める投手の割合が年々肥大し、野手及び捕手は今や半数の13人程度で賄わなければならない。こうなると多くのポジションを守ることのできる選手が混じらなければチーム運営が成り立たないのは明らかであり、多数の選手がユーティリティとして活躍することとなった。このような趨勢が続いた結果、2022年にゴールドグラブのユーティリティ枠が創設されている。

そもそもユーティリティプレイヤーとは、球団の要請に合わせて両立の難しい多くのポジションを守ってチームを支える存在。多くのポジションを守れるほど価値が高いものであったはずである。例えば右翼と左翼の2ポジションだけを守った選手をユーティリティと呼んでいいものなのだろうか?

MLBのゴールドグラブ投票にあたってはこのことについて、現時点では特に定義や明確な基準といったものが定まっていないように見える。

「複数ポジションで活躍したなど、名手でありながらポジション別の顕彰では拾うことのできない選手」と、「内外野にまたがって数多くのポジションについて優れた守備を見せた選手」の二通りの解釈が併存しており、受賞者の属性も二通りに割れているようだ。

今回のデルタ・フィールディング・アワードにおけるユーティリティ枠創設にあたって、双方のタイプで代表的な選手が現れているのは面白い。内容については後述する。

最初に守備スタッツと候補者の顔ぶれを一見して選ばれるべきは滝澤夏央(西武)と考えた。理由は滝澤の守備指標が優れているからである。たとえばUZRは二塁で7.4、遊撃で7.3を記録した。守備イニングが2つに散ったためどちらもトップには及ばないながら、合計は14.7に上り、この数字は遊撃手専業で最多の泉口友汰11.9と、二塁手専業で最多の吉川尚輝9.9を大きく上回る。ある意味内野手としてNPB最大の守備力を示したわけで、ポジション各1人の選考では拾えない名手という意味ではこれほど典型的な選手はいないであろう。

これに近い例として山本泰寛(中日)があり、遊撃・二塁・三塁の合計で12.6を記録している。

ちなみに1000イニングあたりUZRでは、以下のように双方とも滝澤が1位となっている。

なお、「二塁手として投票したのでユーティリティ枠では除外する」あるいは「ユーティリティとして順位をつけたので遊撃手としては順位付けをしない」というような扱いを多くの選者がしてしまった場合、1人の選手に得点の入るポジションが割れることによって最大の名手が受賞漏れするなど、想定された趣旨とは異なる投票結果が現れかねない。このため私は二塁の滝澤、遊撃の山本にも順位点を投じておいた。結果として1人の選手が複数ポジションで選考されるとしてもそれはそれと考える。

全く別のアプローチとして、多くのポジションを守った選手にフォーカスするという、元来の意味でのユーティリティの中から選ぶ考え方もある。この考え方からすると捕手・内野手・外野手として守備についた郡司裕也(日本ハム)や、バッテリーを除く7ポジションを守った赤羽由紘(ヤクルト)あたりが候補となってくる。これらの多数ポジションを守った選手のうち、5ポジション以上を守ってUZRのトータルがプラスを計上したのは郡司一人である。郡司はマイナスを計上したポジションが捕手だけで、しかもフレーミングではプラスを計上しており、狭義のユーティリティとしてはアワードに最もふさわしいと考える。


ユーティリティ部門をどのように順位付けしたか

このように、全く異なる二通りの投票行動が考えられるところだが、今回は初回であることもあり、多数の守備位置を守る困難を試案として反映させてみたいと考える。まず各ポジションの負担に関してfWARを参考として守備位置得点を定める。

これらの数字は必ずしもすべて守備負担のせいというわけではないが、守ることの困難さが反映されているものと乱暴ではあるが仮定して、守ったポジション、イニング数に従い各選手に割り振る。この際、演算の都合から最もマイナスの大きい一塁をゼロとして各ポジションをプラスの数字で表す。

さらに、ポジションごとの難易度の他に掛け持ちすることの難易度を考えてみよう。 10年ほど前の数字だが、13年間にわたって守備位置の変更を調査した研究がある。

それによれば最も多く見られたのが「右翼と左翼」で、以下「中堅と左翼」「中堅と右翼」の外野同士の変更がトップ3。続いて「二塁と遊撃」「二塁と三塁」「遊撃と三塁」「一塁と三塁」のように内野同士の変更が7位までを占める。続いて「左翼と一塁」「右翼と一塁」が来て、このあたりまでが日常的に見られる頻度に達している。普段見ている試合の印象からは順当な結果と感じる。独自性の強い捕手がらみの移動は上位20番目までに出てこない。「外野の中で守備位置を変える」「控えが二塁と遊撃を守る」といったようなことは昔から日常的に行われており、ユーティリティの概念がなくとも普通に行われてきたことである。実際の変更例を見ても、垣根なく守備位置をある程度行き来できるのは「内野」「外野」のブロック内部でのことである。この視点からユーティリティ的視点からの守備位置変更は「内野」「外野」「捕手」の3つのカテゴリーに分けられると考えられる。

そこで、日常的には発生しないブロックを越えての掛け持ちは、特に異種の守りの技術的な困難と負担を克服したものとして双方の守備位置得点を合算することとした。最も多く守った守備位置を基本的な守備位置とし、ブロックを越えた掛け持ちの守備位置得点をダブルカウントするわけである。どの守備位置からでも流入の容易な一塁手はこの操作の対象外とした。

もし基本が三塁で、400イニングが三塁手、300イニングが遊撃手、200イニングが中堅手だったとすると、162試合を1458イニングとして 15×400/1458 + 20×300/1458 + (15+15)×200/1458で12.35が守備位置得点となる。このようにして得られた守備位置得点に各守備位置で得られたUZRの数字を加算して得られた上位メンバーは以下のとおり。

首位はやはり滝澤ということになった。内野手全体で最大のUZRをマークした選手が素直に1位となってなぜかホッとしている。郡司と山本に関してはイニング数不足のため、わずかにトップに届かなかったものの、同程度のイニングならトップを脅かしていたことになり、非常に優れた守備を見せたことになる。

なお中島については私的に考えるユーティリティとは異なる起用のため、ここでは積極的に推さなかったが、UZRの数字が大きく、隠れた名手を拾うという目的の方では滝澤・山本に次ぐ存在である。三井ゴールデングラブ賞のレギュレーションである「外野手を3人」であれば受賞の有力候補となり得るが、しかしその場合は中堅専業で小さめの守備的利得を計上した選手との優先順位が難しくなる点が問題であろう。

今回使用したのは守備の貢献や負担を反映すべく作った試案であるが、ブロック内部でのポジション移動など改善の余地はあるため、今後も検討したいものである。また、投票対象についてもそれぞれの考え方で見解が分かれる選考になりそうなので、アナリスト諸氏の票がどう割れるのかも興味深い。


道作
1980年代後半より分析活動に取り組む日本でのセイバーメトリクス分析の草分け的存在。2005年にウェブサイト『日本プロ野球記録統計解析試案「Total Baseballのすすめ」』を立ち上げ、自身の分析結果を発表。セイバーメトリクスに関する様々な話題を提供している。
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