野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、先日、データで選ぶ守備のベストナイン“デルタ・フィールディング・アワード2025”を発表しました。ここでは投票を行ったアナリストが具体的にどのような手法で分析を行ったか、またその分析からの感想を紹介しながら、具体的に分析データを見ていきます。今回は左翼手編です。受賞選手一覧はこちらから。

対象左翼手に対するアナリスト6人の採点

左翼手部門は新人王を獲得した西川史礁(ロッテ)が、アナリスト6名全員から1位票を獲得しトップとなりました。打撃型の選手と見られがちですが、若さを生かした守備力で高い貢献度をみせたようです。アナリスト市川博久氏からは前方の打球、辻捷右氏からは滞空時間の短い打球について守備範囲の広さを指摘する声がありました。

昨年まで2年連続で左翼手部門トップだった近藤健介(ソフトバンク)は、故障による出場機会減少により、今季は対象外。代わりに左翼を守った柳町達も健闘しましたが、52ポイントで2位に終わりました。

左翼は例年、指名打者があるパ・リーグの選手が上位に、セ・リーグの選手が下位に集中する傾向があります。セ・リーグにはDH制がなく、打力は高いが守備力が低い選手をDHに逃がすことができないためです。今季も上位は西川史、柳町、渡部聖弥(西武)とパ・リーグ勢がずらり。下位には細川成也(中日)佐野恵太(DeNA)とセ・リーグ勢。今季もこの傾向に変わりはありませんでした。

    各アナリストの評価手法
  • 岡田:ベーシックなUZR(守備範囲+進塁抑止+失策回避)をやや改良。守備範囲については、打球の滞空時間別に細分化して分析
  • 道作:過去3年間の守備成績から順位付け
  • 佐藤:UZRをベースにした。球場と左右打者別に処理した飛球の着弾点座標と経過時間からアウト期待値を求め、それを評価の補助材料にした。またタッチアップの評価も活用している。
  • 市川:UZRと同様の守備範囲、進塁抑止、失策回避の3項目を考慮。ただし守備範囲についてはUZRとは異なる評価法を採用。定位置付近からの打球方向を6分割し、距離と滞空時間で区分し分析
  • 宮下:守備範囲、進塁抑止評価を機械学習によって算出
  • 辻:守備範囲、失策、進塁抑止の3項目で評価。守備範囲は、打球の滞空時間とゾーンで分割して分析し、滞空時間の短い打球に対しては重みをつけて評価

UZRの評価

各アナリストの採点を見たところで、いま一度、UZR(Ultimate Zone Rating)で行ったベーシックな守備評価を確認しておきましょう。

ここでもトップは西川史。851イニングでUZRが10.1と頭一つ抜けた守備力を発揮しています。平均より上の値を残しているのは柳町、渡部まで。打撃型の選手をスタメン起用し、試合途中に守備固めを投入するチームも多く、中島大輔(楽天)など、500イニング未満の選手がUZRを稼ぐケースも少なくありませんでした。

各選手が具体的にどのような打球を得意・不得意としているのか処理状況を確認していきましょう。以降の図の値は、平均的な左翼手と比較してそのゾーンの打球処理でどれだけ失点を防いだかを示します。黄色い円に「定」と書かれた印は、おおよその定位置を表しています。

西川史礁(ロッテ)

西川史は今季左翼を851イニング守り守備範囲評価が9.6。平均的な左翼手に比べ飛球の処理で9.6点チームの失点を防いだという評価です。2位の柳町でも2.8であるためこれは突き抜けた数字です。

具体的にどこで失点を防いでいたかを見ると、フェンス際の打球でやや失点を増やしていますが、全般的にかなり広い守備範囲を見せています。中堅と守備範囲がかぶるような左中間の飛球も多く処理し、失点を防いでいたようです。

柳町達(ソフトバンク)

柳町の守備範囲評価は2.8。平均をやや上回る程度ですが、過去2年に比べると改善しています。具体的にどういった打球に強かったかを見ると、はっきりした傾向は見られません。ただどちらかというと定位置から前方の打球で多く失点を防いでいたようです。

渡部聖弥(西武)

渡部は907.1イニングを守り守備範囲評価が2.8。具体的にどのような打球に強かったかを見ると、定位置周辺よりも定位置から離れた打球で多く失点を防いでいる様子がわかります。特に定位置から左右に大きく動いた打球での失点抑止が大きかったようです。渡部は特別俊足が評価される選手ではありませんが、このあたりは若さゆえの運動能力が活きたところでしょうか。

サンドロ・ファビアン(広島)

サンドロ・ファビアン(広島)は1076.1イニングを守り守備範囲評価は2.1。マップを見ると、どちらかというと前方の打球で多く失点を防いでいる様子がわかります。特に左中間寄りの打球については他の左翼手に大きな差をつけました。一方で後方の飛球処理はややマイナスが大きいゾーンが見られます。

内山壮真(ヤクルト)

今季本職ではない左翼を守った内山。762.1イニングを守り守備範囲評価は-2.3という結果でした。上位の西川史、渡部と同じ23歳の学年の若い選手ですが、不慣れなポジションということもあってか、やや落ちる結果に終わってしまいました。得意・不得意については、はっきりした傾向はつかみとれません。

西川龍馬(オリックス)

西川龍馬(オリックス)は564.1イニングを守り守備範囲評価が-2.7。マップを見ると左中間方向で失点を増やしてしまっています。ちなみにこの傾向は過去数年を見ても同様。2024年には11盗塁を記録するなど鈍重な選手というわけではありませんが、守備ではそれを活かしきれてはいないように見えます。

佐野恵太(DeNA)

佐野は630.2イニングを守り守備範囲評価が-10.6。これは対象左翼手のうち最も低い値でした。今季に限らず毎シーズンこの守備範囲評価で大きなマイナスを受けています。具体的には左中間方向に強みを見せる一方、後方に弱点を持っています。これは例年と同様の傾向です。ちなみに佐野はここ数年守ることが増えている一塁では平均レベルの守備力を発揮しています。一塁も左翼も守備の競争力が高くないという点では同様。チーム全体の編成を無視して考えるならば、佐野単体では左翼よりも一塁に適性があるのかもしれません。

細川成也(中日)

細川は649.1イニングを守り守備範囲評価が-8.4。まだ27歳と大きく運動能力が落ちる年齢ではありませんが、昨季に続き大きなマイナスを生み出しています。詳しく見ると後方の打球への処理が十分ではないようです。特に左中間の飛球処理ではっきり他選手に後れをとっている様子がわかります。打力が圧倒的な選手だけに、チームとしてはこの弱点がなるべく目立たないような運用が求められます。

総評

今季もパ・リーグが上位、セ・リーグが下位に分かれる傾向は変わりませんでした。しかし2027年からはセ・リーグでもDH導入が決定。これが導入されると守備力が低い選手をDHに逃がせるようになり、左翼守備のセパ格差も解消されるのではないでしょうか。右翼と同じように、左翼も守備力の高い選手の競争になる日も遠くはないのかもしれません。


データ視点で選ぶ守備のベストナイン “デルタ・フィールディング・アワード2025”受賞選手発表
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