救援投手が3アウト目を取った次のイニングも登板するいわゆる「イニングまたぎ」は近年稀になりつつある。出場選手登録数、ベンチ入り人数が拡大したことで救援投手のベンチ入り人数が増えていることやイニングまたぎが成績悪化につながるという懸念がその理由だろうか。
しかし、イニングまたぎをすると実際に投手の成績は悪化するのだろうか。十分な分析はされてないように思われるので、2020年から2025年までの救援投手の登板時の起用法による成績の変化を調べてみた。
イニングまたぎの起用は減少している
まずはイニングまたぎの起用が救援起用のどの程度を占めるのかを調べてみた(表1)。
6シーズンで救援登板は32035回あったのに対して、登板したイニングを投げきって次のイニングで投球しない、または登板したイニングの途中で降板する、イニングをまたがない起用が28393回と大半を占めていることが分かる。イニングまたぎは最小の2イニングをまたいだ回数でも3080回(1シーズン1球団平均で約43回)と少なく、3イニング、4イニング以上のイニングまたぎは稀になっている。
6シーズンの間でのイニングまたぎ起用の変遷を見ていく(表2、3)。
2020年の試合数が少なかったこともあるため、救援登板数に占めるイニングまたぎ起用の割合で見ていくと、2020年の時点でイニングまたぎの起用は13%ほどしかなかったが、2025年には10%をわずかに上回る程度まで減少している。3イニングや4イニング以上の割合は、元々かなり少なかったものの、変化はほとんどなく、2イニングをまたぐ起用が徐々に減っていっている。
このように、近年のNPBではイニングまたぎを避けるような起用がますます進んでいることがうかがわれる。
イニングまたぎ時のイニング別成績
それでは、イニングまたぎ時に成績がどのように変化していくかを見ていく。まずは2イニングをまたいだ場合の成績だ(表4)。
1イニング目は被wOBAが.256なのに対して、2イニング目は.320と大きく悪化している。同様にK%、BB%、K-BB%も2イニング目には悪化している。この結果だけを見ると、イニングまたぎをすると成績が悪化しているようにも見える。
続いて、3イニングまたいだ場合の成績を見ていく(表5)。
1イニング目は被wOBAが.290なのに対して、2イニング目は.249と大きく改善し、3イニング目になると.348と1イニング目以上に悪化している。K%、BB%、K-BB%も1イニング目から2イニング目にいったん良くなった後に、3イニング目に大きく悪化している。
単純にイニングまたぎが原因で成績が悪化するならば、1イニング目→2イニング目→3イニング目と徐々に成績が悪化しても良さそうなものだが、解釈が難しい変化が見られる。
最後に4イニング以上またいだ場合の成績の変化を見ていく(表6)。
4イニング以上のイニングまたぎ起用はそもそも数が極めて少ないため注意が必要ではあるものの、1イニング目の成績が最も悪く、2イニング目に改善し、3イニング目、4イニング目以降で再び悪化している。
イニングまたぎの中では最も多い2イニングまたぎの結果からすると、イニングまたぎは投手の成績を悪化させているようにも思えるが、3イニングをまたぐ起用、4イニング以上をまたぐ起用の結果を見ると、イニングまたぎが成績悪化につながるという結論を出すのは躊躇を覚える。
イニングまたぎは本当に成績を悪化させるのか
2イニングまたいだ投手の成績を見て気になることがある。1イニング目の被wOBAが.256となっているが、これはかなり低い値だ。一般的には救援投手がイニングをまたぐことが多いのは、ビハインドの場面や先発が早期に降板した試合、点差が大きく離れた試合が多いだろう。そうなると1イニング限定で起用されることが多い救援投手と比べても、質は劣ることが多いと考えられる。ところが、被wOBA.256という数値は平均よりもかなり低い値だ。起用される救援投手がそこまで優秀ではないと予想されることからすると妙な結果だ。
こうしたことから考えると、2イニングまたいだ投手の1イニング目の成績は登板した投手本来の実力からするとかなり良い成績であり、2イニング目に投手本来の実力に近い成績を残しているにもかかわらず、成績が悪化しているように見えてしまっているだけではないかという疑問も浮かぶ。そこでイニングまたぎをしなかった場合、2イニングまたいだ場合、3イニングまたいだ場合、4イニング以上またいだ場合の1イニング目の成績とそれぞれの場合に登板した投手のシーズン被wOBAの平均(登板した打席数に応じて加重平均している)とを比較してみた。
こうしてみると2イニングまたいだ場合の1イニング目の被wOBAがそれ以外の場合と比べてかなり低いことが分かる。また、登板した投手の平均被wOBAを比べてみると、イニングをまたがない救援投手の平均被wOBAが.296と最も優秀で、またぐイニングの数が増えるほどに登板した投手の平均被wOBAが高くなっていることが分かる。
続いてK-BB%についても同様に比較してみる(表8)。
2イニングまたいだ場合の1イニング目のK-BB%が最も優秀な結果となっている。登板した投手の平均K-BB%を見てもイニングをまたがない投手の数値が最も優秀でまたぐイニングの数が増えるほどに登板した投手の平均K-BB%が低くなっている。被wOBA、K-BB%いずれの指標からも、優秀な救援投手はイニングをまたがない起用となることが多く、イニングをまたいだ起用が多いのはそれらの投手よりも劣る投手だということが分かる。
ただ、イニングをまたがなかった場合は、被wOBA、K-BB%のいずれも登板した投手の平均よりも悪い結果となっている。つまり、本来の実力からするとわずかながら成績が良くない傾向が見られるということだ。一方で2イニングまたいだ場合と3イニングまたいだ場合では、これとは逆に本来の実力からすると成績が良くなる傾向が見られる。これはなぜだろうか?
「イニングをまたぐ」という時系列的には後の事象が、救援登板1イニング目の成績を良化させるということは考えられない。考えられるとすれば、イニングをまたいだから1イニング目の成績が良くなるのではなく、1イニング目の成績が良かったからイニングをまたがせたという可能性だ。あなたが監督だとして、6回に救援登板させた投手が四球を出した後に連打を浴びて失点した場合に、その投手を7回も続投させるだろうか。点差が開いて試合が決まってしまったためにできるだけ投手を温存したいのでもなければ、別の投手に交代させることの方が多いのではないだろうか。イニングまたぎをしなかった場合の成績が、本来の実力よりも良くないことはこのような監督の起用によるバイアスで説明がつく。
一方でイニングまたぎをさせる場合は1イニング目にしっかりと打者を打ち取った場合が多いだろう。ただ、1イニング目に好成績を残したとしても、その好成績が続く保証はなく、2イニング目はその投手本来の成績に近い結果となることの方が多いだろう(平均への回帰)。このため、普段どおりの投球をしているにもかかわらず、イニングまたぎをしたがために成績が悪化したかのように見えてしまうということも考えられる。
救援投手の側からもイニングまたぎにあまり良いイメージがないことも次のように考えれば不思議ではない。1イニング目に好投した場合には次のイニングも続投、1イニング目に打ち込まれた場合には降板という起用がされている場合、1イニング目に打ち込まれたが2イニング目に好投するという経験はできない。こうなると、2イニング目の成績は1イニング目よりも悪くなるか、良くても同等、当然イニングまたぎに良いイメージは持たなくなるだろう。
実際には2イニングまたいだ投手の2イニング目の成績を見ても、登板した投手の平均とほとんど変わらない成績となっている(表9、10)。
被wOBAこそ登板した投手の平均よりも.002とわずかに高い結果だが、K-BB%は登板した投手の平均よりも0.4%高い結果となっており、ほぼ実力通りの結果が出せているといえる。3イニングまたいだ投手の3イニング目の成績に関しては登板した投手の平均よりもいずれも悪い結果とはなっている。この結果からすると、イニングまたぎが3イニングに達すると成績が悪化する可能性は否定できないが、少なくとも2イニングまたがせる程度では救援投手の成績は悪化しないと考えられる。
市川 博久/弁護士 @89yodan
DELTAデータアナリストを務める弁護士。学生時代、知人が書いていた野球の戦術に関する学術論文を読み、分析に興味を持つ。 その後『マネー・ボール』やDELTAアナリストらが執筆したリポートを参考に自らも様々な考察を開始。
『デルタ・ベースボール・リポート7』などリポートシリーズにも寄稿。動画配信サービスDAZNの「野球ラボ」への出演やパシフィックリーグマーケティング株式会社主催の「パ・リーグ×パーソル ベースボール データハッカソン」などへのゲスト出演歴も。球界の法制度に対しても数多くのコラムで意見を発信している。