野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、先日、データで選ぶ守備のベストナイン“デルタ・フィールディング・アワード2025”を発表しました。ここでは投票を行ったアナリストが具体的にどのような手法で分析を行ったか、またその分析からの感想を紹介しながら、具体的に分析データを見ていきます。今回はユーティリティ編です。受賞選手一覧はこちらから。

対象選手に対するアナリスト6人の採点

ユーティリティ部門は滝澤夏央(西武)が1位に。アナリスト6人中4人から1位票を獲得し、初代受賞者となりました。滝澤は二塁手部門でもアナリストから1位票を1票獲得するなど高い評価を受けていた選手。優れた守備力を持った選手が集まる二塁・遊撃の両方で高い守備力を見せたことが受賞の決め手となったようです。

2位には山本泰寛(中日)が入りました。山本は遊撃手として優れた守備力を見せ、アナリスト道作氏からは「シーズンを通して遊撃で起用されていればトップだった」と高く評価されていました。1位票を投じたアナリスト市川博久氏からは、遊撃に加え、二塁や三塁でも優れた守備力を発揮したユーティリティぶりが高評価の要因として挙げられました。

3位の中島大輔(楽天)も1位票を1票獲得しました。中島は今季主に左翼と右翼を務め、アナリスト宮下博志からは守備範囲の広さという点ではトップだったとの評価を受けています。

ただ、左翼と右翼は守備の競争力は高くないポジション。同じポジション内では優秀でも、内野などの他ポジションと比較する際には守備力を少し割り引く必要があると考えたアナリストが多かったようです。左翼と右翼は守備での動きも似ているため、ユーティリティ性という面で評価を下げたという声もありました。

逆にユーティリティ性で高い評価を受けたのが郡司裕也(日本ハム)。多くの対象選手が内野や外野というくくりの中で複数ポジションを守るのみにとどまっていたのに対し、郡司は捕手、内野、外野のすべてをこなしました。この点を高く評価したアナリストが多かったようです。

今回が初めての試みということもあり、どのアナリストも分析手法は手探りな部分が多かったようです。そもそもユーティリティとは何か、どのようにユーティリティについて考えるべきかといった定義の部分から、アナリストごとの個性が出る結果となりました。具体的な考え方の例として、アナリスト道作氏による論考を後日公開する予定です。

    各アナリストの評価手法(ユーティリティ編)
  • 岡田:合計の守備得点、担当ポジションの難易度・多様性から評価した
  • 道作:守ったポジションの数および掛け持ちすることの難易度から守備位置得点を算出。これとUZRを合計した得点で評価した
  • 佐藤:UZRとポジション補正値をベースとした。守備位置の難易度、守ったポジションの数も加味している
  • 市川:それぞれの守備位置での守備得点の合計に守備位置補正を加えた値で順位付けを行った
  • 宮下:各ポジションの守備力に加え、控えレベルとの比較による補正を行った。また性質が似たポジションをグループ化し、より多くのグループを守った選手には追加補正を行った
  • 辻:UZR/1000の平均値をベースとし、守ったポジションの数を加味して評価した

UZRの評価

各アナリストの採点を見たところで、いま一度、UZR(Ultimate Zone Rating)で行ったベーシックな守備評価を確認しておきましょう。表では各ポジションにおける失点抑止を示すUZRに、守備位置補正を加えたものを守備得点として算出しています。

UZRで見ても1位は滝澤となりました。滝澤はUZRで見ると15.0で2位ですが、主戦場とする二遊間は競争力が高いポジション。そのため守備位置補正が4.7点分上乗せされ、守備得点は19.7となっています。2位以下は山本、中島と続いており、全体的にアナリストの採点と大きな違いはありません。

UZRで見るとトップだったのは20.7を記録した中島。ただ、主に守備についた左翼と右翼は守備面での競争力の低さから守備位置補正で4.8点分減算され、守備得点は15.8で3位となっています。

今季の中島は左翼で375.1イニング、右翼で470.1イニングの出場にとどまり、各ポジションでの採点対象となる500イニングにはわずかに届かず。もしどちらかの出場機会がもう少し多ければ、左翼、もしくは右翼でフィールディング・アワードの有力候補になっていたのは間違いないでしょう。

アナリストの採点と比べて大きく順位を落としたのが郡司。アナリストの採点では4位でしたが、守備得点で見ると8位でした。捕手、内野、外野のすべてをこなしたユーティリティ性はUZRと守備位置補正の評価では加味されないため、その差が出たと言えるかもしれません。

対象者の中で最も多くのポジションをこなしたのは赤羽由紘(ヤクルト)。最多の二塁(197イニング)を中心に、捕手以外の7ポジションをこなしました。今季のヤクルトは主力に故障者が続出。その穴を埋めるため、様々なポジションで起用された結果と言えそうです。

下位には佐野恵太(DeNA)中川圭太(オリックス)廣岡大志(オリックス)ら打撃型の選手が並びました。ユーティリティというと守備力を買われての起用を想像しがちですが、彼らはそうではありません。どちらかといえば、打力を期待され、より多くの打席を与えるために様々なポジションで出場していたと見るべきでしょうか。

総評

今回トップ3に入った滝澤、山本、中島は内野か外野のどちらかで優れた守備力を見せた選手。MLBのゴールドグラブ賞では内外野にわたって多くのポジションを守った選手の受賞が多いことを考えるとやや異なる傾向です。MLBに比べてNPBは選手登録の入れ替えが容易なため、1人の選手に様々なポジションを守らせる必要性が薄いことが影響していると見るべきでしょうか。

来季以降の展望は不透明です。というのも、この部門は選手個人の能力だけでなく、チームの起用にも大きく影響されるからです。今オフにおける各チームの動き次第で来季は上位陣の名前がガラリと入れ替わる可能性は十分にあります。ほかの部門に比べて、メンバーの入れ替わりが激しい部門になるのではないでしょうか。


データ視点で選ぶ守備のベストナイン “デルタ・フィールディング・アワード2025”受賞選手発表
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