このオフ、ホワイトソックスに入団した村上宗隆のMLBデビューが近づいてきました。ただ村上のMLB挑戦については懸念点もいくつか指摘されています。その1つがスピードボールへの対応です[1]。村上は日本時代に速球への対応力に問題がある点が指摘されており、日本よりも球速が速いMLBにおいてその弱点がより強調されるのではという懸念です。今回はこの村上の速球への対応能力について考えていきたいと思います。

NPBとMLBの球速の差

一般に、MLB ではNPBよりも球速が速いといわれています。村上のデータを見る前に現状を確認しておきたいと思います。以下の表1-1(左投手)と表1-2(右投手)に、NPBとMLBの球種ごとに150km/h以上の投球の割合を示します。MLBの球速はBaseball Savantを参照しています。

NPBは2021年以降、MLBは2025年のデータを示しています。データを見ると、NPBでは150km/h以上の投球の割合が増加傾向ではありますが、まだMLBの水準には届いていないことがわかります。

村上のスピードボールへの対応力

それでは村上の速球に対するデータを見て行きたいと思います。以下の表2に150km/h以上のストレートに対する打撃成績を示します。

各種成績を表示していますが、一番右のOPSについては、左側がOPSの値で、右側はパーセンタイルでOPSの順位を表しています。100%に近いほど上位、0%に近づくほど下位になります。

データを見ると、2021年と2022年のOPSはトップクラスといえますが、2023年以降は低下し、特に2025年は下位の成績といって良いと思います。

表2のデータを見れば、村上の速球への対応にはやはり問題があるといえそうですが、考慮しなければいけない点もあります。

1つは、サンプルサイズの問題です。表2の打席数を見ると十分なサンプルサイズとはいえません。特に、2025年は欠場期間もあって該当の打席数が24しかなく、この成績で村上の速球への対応能力を判断するのは見誤るリスクが大きいと思います。

もう1つは、150km/h以上のスピードボールには及ばないやや遅い球速帯の速球への対応能力との関係です。150km/h以上のスピードボールへの対応能力を疑問視するという指摘には、この能力がやや遅い球速帯への対応能力とは別物であるという前提があるように思います。

しかし、スピードボールへの対応能力があれば、やや遅い球速帯への対応が可能であるという可能性も考えられないでしょうか。この考えが正しければ、やや遅い球速帯の速球への対応能力を、150km/h以上の速球への対応能力の補助的な材料と考えることができます。表2のようなサンプルの不足しがちな速球での打撃成績のデータを補うこともできるでしょう。

スピードボールとやや遅い速球への成績の関係

まずはこの関係について検証してみましょう。

スピードボールとやや遅い球速帯の速球への打撃成績の関係を検証するために、スピードボールについては150km/h以上、やや遅い速球は140~149km/hと定義し、それぞれストレートのOPSの関係を以下の図1-1に集計しました。

このデータは2021年から2025年までのNPBにおけるシーズンごと(単年)のOPSの関係を示しています。相関係数は0.31で、相関があるというには低い値です。このデータからは、150km/h以上の速球とやや遅い速球の打撃成績に関係は認められないといえます。

しかし、シーズンごと(単年)ではなく、2021年から2025年の成績を累積させたOPSの関係は以下の図1-2のようになります。

こちらの相関係数は0.52で正の相関関係が認められます。つまりやや遅い速球へのOPSが高ければ、150km/h以上の速球へのOPSも高いということになります。単年では認められなかった相関が、累積した成績で認められるようになったということは、短期的には関係がないように見えても、長い目で見れば速球へのOPSが高い打者は準速球へのOPSも高くなるという関係にあるといえます。

この結果は、やや遅い速球帯への打撃成績も、ある程度はスピードボールへの対応能力の指標となりうることを示すものです。

村上のやや遅い速球への対応力

それでは、村上の準速球への打撃成績を確認してみたいと思います。以下の表3に140~149km/hのストレートに対する打撃成績を示します。

OPSのパーセンタイルを見ると、2023年を除いて、この球速帯ではトップクラスの成績であることを確認できます。

この表3の140-149km/hでの成績と、表2の150km/h以上の成績のサンプルの小ささを考慮すれば、村上の速球への対応能力についてそこまで悲観する必要はないようにも思えます。

ただし、このデータを持って、村上が速球への対応は問題ない。MLBに行っても速球をバンバン打ってくれるだろうといえるほど強いデータではないのも事実です。もう少し村上のデータを掘り下げてみたいと思います。

スピードボーラーとの対戦から考える

これまで見てきたのはストレートに対する打撃成績でした。しかし、150km/h以上のストレートの中で変化球をいかに攻略するかということも広義の速球への対応ともいえます。

そこで、打席内での最高速に注目し、最高速が150km/h以上の打席と次点として最高速が145~149km/hの打席をピックアップして、村上のOPSをそれぞれ算出しました。対左投手の成績を以下の図2-1、対右投手の成績を以下の図2-2に示します。

図中の実線が村上の成績を、破線が村上と同じ左打者の成績を表しています。赤の線は最高速が150km/h以上の打席でのOPS、青の線は最高速が145~149km/hの打席のOPSを表しています。

図2-1の対左投手のOPSを見ると概ね左打者全体の成績を上回っていますが、図2-2の対右投手を見ると、2023年以降、150km/h以上の打席でのOPSが左打者全体と差のないものとなっています。つまり、ストレートの成績に限らず、150km/h以上の球を投げてくる右投手に苦戦しているといえます。

次に、対右投手の投球コースごとの長打率を以下の図3に示します。

図の中央の太い枠線がストライクゾーンを表しています。また、この図は投手目線からの投球コースになるため、左打者の村上はストライクゾーンの左側に立っていることになります。長打率の高いコースには色を付けています。これまで見てきたOPSではなく長打率を選んだのは、OPSの四球による成績の上昇分を除くためです。

図は3つあり、左から2021年と2022年の合計、2023年から2025年の合計、2025年の単年の成績になります。2021年と2022年は図2-2で見たOPSの高い時期で、2023年から2025年はOPSの低下した時期、2025年は直近の成績を抽出した形です。

データを見ると左側の2021年と2022年の合計では、図の左寄り、村上にとってのインコースの長打率が高いことがわかります。中央の2023年から2025年の合計ではこの強みは消えており、右の2025年ではアウトコースの長打率が高くなっています。

続いて、2025年の結果について、球種ごとに打席の結果をプロットしたものを以下の図4に示します。図中の破線がストライクゾーンになり、このゾーンの左側に村上が立つのは図3と同じです。

データを見ると、左図のストレートでインコースに×(凡退)が多いことがわかります。基本的にはストレートが最高速となるケースが多いと考えられるので、2025年は150km/h以上のインコースへのストレートを凡退した打席が多いといえます。

まとめ

以上のデータより、スピードボールへの対応能力が疑問視されていた村上ですが、やや遅い球速帯のストレートへの打撃成績を見れば、そこまで悲観する必要はないのかもしれません。

ただし、最高速が150km/h以上の打席において、2021~2022年ではインコースへの投球を打つことができていましたが、2023年以降は打てなくなったのも事実です。これは単に150km/h以上の速球に弱いというよりは、2022年に56本の本塁打を打って以降、村上への対策が確立された結果というふうに考えられるかもしれません。

MLBに移籍することでこの対策がリセットされるかわかりませんが、活躍すれば遅かれ早かれ対策を講じられることは間違いありません。これをどう乗り越えていくのか、心配半分、楽しみ半分で開幕を待ちたいところです。


佐藤 文彦(Student) @Student_murmur
個人サイトにて分析・執筆活動を行うほか、DELTAが配信するメールマガジンで記事を執筆。 BABIP関連、また打球情報を用いた分析などを展開。2017年3月に[プロ野球でわかる!]はじめての統計学 を出版。

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